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八条学園怪異譚

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第十二話 首なし馬その七


「それが一番いいでしょ」
「そうね。それじゃあね」
 愛実もここで頷いた。
「マスカットと牛乳でね」
「うん、いいデザートね」
「それじゃあ今からね」
「ええ、私のお部屋でね」 
 話をすることになった。愛実の部屋での話はとりとめもないクラスや部活の普通の学園生活でのことだった。だが。
 博士の研究室での話は違っていた。その話はというと。
「ああ、夜行さんじゃな」
「あっ、御存知なんですか」
「博士も」
「うむ、知っておる」
 妖怪の話だ。博士はすぐに二人に答えた。
「首なし馬に乗っていつも夜の学園を走っておるな」
「今まで会ったことなかったですけれど」
「いるんですね、やっぱり」
「いるも何もじゃ」
 ここで博士は笑って二人にこう言った。
「ここにおるわ」
「えっ、今ここに!?」
「この研究室にですか」
「うむ、おるぞ」 
 まさに今この部屋にいるというのだ。
「そうじゃぞ」
「ええと。それじゃあ」
「どの人ですか?」
「呼んだか」
 妖怪達の中から頭に二本の角が生え一つ目小僧そのままの大きな一つ目が顔にある全身毛だらけの鬼が出て来た。服は日本の昔の農夫の服だ。
 その鬼が二人にこう言ってきた。
「わしがその夜行さんだ」
「そういえば最初からここにいたけれど」
「貴方が夜行さんだったんですか」
「その通り」
 夜行さんは髭だらけの顔で二人に言ってくる。
「阿波の方から来た」
「あっ、四国の」
「あそこから」
「わしは元々四国の生まれなのだ」
「案外近いですね」
「瀬戸内海を挟んですぐですから」
 二人のいる神戸から見てはそうなる。
「じゃあ海を渡ってここに来られたんですね」
「船で」
「いや、馬に乗って渡ってきた」
 夜行さんはこう二人に答える。
「そうした」
「馬って。その首のない」
「そのお馬さんにですか」
「その通り、あの馬は特別でな」
 それでだというのだ。
「水の上も進めるのだ」
「何か便利な馬ですね」
「海も普通に渡れるなんて」
「妖怪だからな。普通の馬とは違う」
 ただ首がないだけではないというのだ。そうしたことも出来るやはり特別な馬だというのである。
「かなり便利な馬だ」
「というか乗りたいですけれど」
「私も」
 愛実も聖花も夜行さんの話を聞いて素直にこう思った。そうした馬に乗ることができれば移動が極めて楽であることが用意に想像できるからだ。
「馬には乗れないですけれど」
「それでも」
「ははは、あの馬はわし以外には乗れん」
 夜行さんは笑ってその二人にこう述べた。
「残念だがな」
「やっぱり妖怪だからですか」
「それでなんですね」
「そうだ。あの馬は自分だけで走ることも出来るが」
 それでもだというのだ。 
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