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八条学園怪異譚

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第十一話 池の怪その六


「帝国海軍の厳しさをそのまま叩き込む場所だったんですね」
「何かことある事にぶん殴られていたんですよね」
 愛実も言う。
「歯を食いしばって姿勢を正せと言われて」
「経理学校でもそうした制裁はあったがな」
 このことは海軍経理学校でもあったが、というのだ。
「兵学校はより凄かった」
「殴られて殴られてだったんですね」
「上級生徒が厳しかった。自衛隊は殴られないが」
 しかし海軍の伝統は残り厳しい、それでだというのだ。
「幹事付という目付けがいてかなり厳しい」
「だから監獄なんですか」
「今もそんな感じなんですね」
「だから思い出の場所になるが二度行きたいという者はいない」  
 その厳しさ故にだというのだ。
「私は教官としていたがな」
「やっぱり何かとですか」
「厳しかったんですか」
「教官は何も言わないが幹事付がいるからだ」
 その彼等が厳しい指導を行うというのだ。
「だから今もそう言われている」
「ううん、日本にまだそうした場所があるんですね」
 愛実は日下部の話をここまで聞いて少し俯き腕を組んでこう言った。
「そうなんですね」
「あることにはあるのだ」
「この学園凄く平和ですけれど」
「平和を守る為の者もいる」
 日下部の言葉は遠くを見ているものだった。
「その平和を守る為にだ」
「厳しい訓練を経ているんですね」
「規律を守って」
「戦前からそうした者がいることは覚えておいてくれ」
 このことが日下部の言いたいことだった。そうした話をしながら池に向かっていた。校舎から校庭に出るが彼はここでこう二人に話した。
「君達はもうある程度調べているのか」
「まあ。お水にまつわる妖怪のことは」
「図書館で調べました」
 二人は図書館でそうしたことを話した。
「結構種類が多いんですね」
「そして怖い妖怪も多いんですね」
「水は火よりも恐ろしい」 
 日下部は知らない者が聞くと首を傾げる言葉を出した。
「火は少し見れば明らかに危険だとわかるな」
「はい、近付くと熱いですし」
「燃えますから」
「そうだ。火は見ただけで恐ろしい」
 火をそうだと言いそして水のことも話す。火と水を比べると水は穏やかで優しく見えるがそれはどうかというのだ。
「しかし水は溺れる」
「溺死、ですか」
「古来より水で溺れ死ぬ者は多い」
「確かに」
 聖花が日下部の今の言葉に頷く。
「お水って油断したら落ちたりして溺れますから」
「実は水は火と同じだけかそれ以上に恐ろしいものだ」
 溺れるからに他ならない。
「そうなる」
「水は怖い」
「実はですか」
「気付かれにくいものだがな」
 それでもだというのだ。
「それは妖怪も同じだ」
「水の妖怪もですね」
「実際のところは」
「もっとも水の妖怪はあからさまに恐ろしいものが多いがな」  
 日下部もそうした妖怪のことは知っていて言う。
「特に海坊主に船幽霊だ」
「あといくちって妖怪もいますね」
「物凄い大きさの」
「あの妖怪も出ると厄介だ」
 船の上を通り過ぎるだけだがそれが何日にも及びしかもその身体から夥しい油を流しその流れ落ちる油で船を沈めてしまうのだ。
「悪気がないだけにな」
「それじゃないですよね、お池に出るのは」
「どう見ても大きいですから」
「あれは海にしか出ない」
 日下部もこのことは保障する。 
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