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八条学園怪異譚

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プレリュードその十六


「そんなこと言わないでよ」
「駄目?」
「恥ずかしいから」
 だからだとだ。確かにかなりの可愛さ、ただしよく見なくても愛実に非常によく似たその顔をはにかめさせて言うのだった。妹、そして彼女の友達に対して。
「だから言わないで」
「そうなの」
「あまり人に奇麗とか可愛いとか言わないの」
「けれど本当のことだから」
「愛実ちゃんがそう思ってもね」
 だがそれでもだというのだ。
「言葉に出しては言わないの」
「そうしたら駄目なの」
「そう。そうしてくれたらお姉ちゃん嬉しいから」
「ううん。だったら」 
 その大好きな姉に言われてはだ。愛実もだった。
 素直に頷く。そうしてこう姉に答えた。
「じゃあ言わないね」
「そうしてね」
「そうするね。じゃあね」
 愛実は姉の言葉に頷いてからだ。あらためてだった。
 聖花に顔を向けてだ。明るい笑顔でこう言ったのだった。
「続けよう。百人一首」
「うん。じゃあね」
「何か百人一首って凄い奥が深いんだって」
「かるたがなの」
「うん。かるた自体がね」
 奥が深いというのだ。
「そうなんだって」
「遊びとかじゃなくて?」
「遊びだけれど凄く奥が深いって」
「そうなんだ」
「だからやればやる程いいんだって」
 姉の朗読を聴いて手を動かしながらの言葉だった。
「お姉ちゃんに言われたの」
「ええ、そうよ」
 その姉を見ながらだ。愛実は答える。
「お姉ちゃん言ってるの。何でもね」
「何でも?」
「努力すればいいって」
 やはり姉を見ながら話すのだった。
「そう言っての。いつもね」
「そうよ。何でもね」
 その愛子もだ。微笑んで二人に答える。
「努力するべきなのよ」
「努力ですか」
「そう。努力しないと何もよくならないし」
 それでだというのだ。
「駄目なままなのよ」
「じゃあ何でも努力すれば」
「いいのよ。毎日少しずつでも続けていけばいいのよ」
 聖花にもだ。愛子は笑顔で話す。
「聖花ちゃんも努力してね」
「はい、そうします」
 目を輝かせてだ。聖花も愛子に答える。
「私これからもそうします」
「そうしてね。それでね」
 聖花に告げた後は妹に顔を向ける。そうして言うことは。
「愛実ちゃんもよ」
「お勉強とかも?」
「愛実ちゃんお勉強の方はどうなの?」
「それは」
 小学生であっても学生の本分である。だが、だった。
 実は愛実は成績はそれ程よくはない。悪くはないがあくまで程々といったところだ。聖花がクラスでトップクラスであることと比べれば見劣りする。
 だからだ。聖花と比べて口ごもってしまったのである。
「一応はだけれど」
「一応は?」
「やってるけれど」
「恥ずかしくない点数は、なのね」
「それ位の勉強はしてるから」
「だったらいいけれどね」
「うん、けれど」
 聖花をちらりと見てだ。また姉に話す。
「やっぱり。私って」
「とにかく努力するのよ」
 愛子は弱った感じになった妹を気遣ってここではこう告げた。
「いいわね」
「うん。そうすればいいのね」
「努力するってことは前を向くことだから」
「だからいいの?」
「そうよ。後ろを振り向いたら駄目なのよ」
 今は歌を詠まずにだ。愛子は愛実、そして聖花に話していく。
「妬んだりしたらね」
「お父さんにも言われたけれど」
「そうでしょ。そうして後ろを振り向いても何にもならないの」
「前を向かないと駄目なのね」
「前を向かないと前に歩けないじゃない」
 このこともだ。姉は妹に話した。
「だからよ。わかったわね」
「ううん。前なのね」
「人は前を歩く生き物よ」
 前を向いてだ。そうだというのだ。
「だからいいわね」
「わかったわ」
「そうして信じないといけないの」
 愛子は今は二人の間を見ていた。妹から視線を外して。
 そのうえで今度はこう言ったがだ。この言葉は聖花に届いた。
「信じるって決めたらね」
「それも前に進むってことですか?」
「聖花ちゃんは一旦握ってもらった手を離されたらどう思うかしら」
 その時はどうかとだ。愛子は聖花に尋ねた。
「それで勝手に前に行かれたら」
「寂しいです」
 そうなった場合、そうする相手の顔や姿は想像できなかった。だが小さい自分がそうされた場合を想像してだ。聖花は愛子に答えた。
「それに悲しいです」
「一人何処かに置いててぼりにされたらね」
「それに怖いです」
「だからよ。人を信じるってことはその人の手を握るのと同じでね」
「信じたら絶対にですか」
「そうしたら最後まで信じないと駄目なのよ」
 愛子は聖花にはこう告げた。
「そういうことなのよ」
「そうなんですか」
「そう。じゃあね」
 聖花に告げてだ・それからもだった。
 二人は愛子が詠む百人一首を続けた。それはこの日だけでなくずっと続けた。小学校の間も中学校の間も。続けていったのである。


プロローグ   完


                        2012・6・20 
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