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八条学園怪異譚

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第十話 大学の博士その十四


「博士は毎日それを飲んでおられるので」
「長生きじゃろうな」
「やっぱり普通の人じゃないわよね」
「絶対にね」 
 二人は博士を普通の人間ではないと確信した。そうした話を聞いてそうだと思うことは二人には無理だった。
 それで博士をこうした存在だと考えたのである。
「仙人よね」
「若しくは近いかね」
「不老不死かどうかはわからないけれど」
「そうした人よね」
「ほっほっほ、丹薬は正しいものを飲めば長生きできるのじゃ」
「ただし。中には間違えた製造法のものもありまして」
 ここでまた注釈を入れるろく子だった。
「中には水銀を入れているものもあります」
「それ絶対にまずいですよね」
「飲んだら大変ですよね」
「秦の始皇帝もそれで死んでいます」
 始皇帝の死因は丹薬の中の水銀による中毒症だったと言われている。連日の激務による過労とそれが影響したらしい。
「他にも中国の皇帝や権力者の多くが丹薬で死んでます」
「そりゃ水銀なんか飲んだら」
「死にますよ」
 二人も水銀の恐ろしさは知っていた。学校で習ったがこのことはそこで習う前から既に知っていたのである。
「あれ毒ですから」
「しかも猛毒ですよ」
「そんなの飲んだらそれこそ」
「死ななくてもかなり危険な中毒症になりますから」
「だからそうしたものはわしは使わぬ」
 危険性を知っていてそれで使うことはしないというんだ。
「わしの方もな」
「それはまあ当然ですよ」
「あんなの飲んだら百三十歳どころかすぐに天国ですよ」
 二人はかなり真剣な、強張った顔で博士に答える。
「けれど実際にそうしたお薬飲んでるんですね」
「それで長生きなんですか」
「その通りじゃ。とにかく君達ならばじゃ」
 博士はまたあらためて二人に話す。
「そうした妖怪達が出入りするものが本当にこの学園にあるならじゃ」
「それを見つけられるかも知れない」
「そうなんですね」
「とにかくこの学園はそうした話が多過ぎる」
 学校にそうした怪談の類は付きものにしてもそれでもだというのだ。
「その秘密を知りたいと思うならじゃ」
「私達がそれを探す」
「そうしろっていうんですね」
「うむ。どうじゃ」
 博士は二人のその目を見て問うた。
「やってみるか」
「それでその秘密を探し出して」
「それで一体」
「謎を見つけ出すこと自体がじゃ」
 それでどうするかという二人に博士はこう返した。
「意義があるのじゃが」
「原因とかを探し出すことがですか」
「それ自体が」
「学者は謎を謎として放置することはせぬ」
 それを嫌うのが学者だ。学者は本能的に知ることを求めるものであり謎もその過程で解き明かしていくものだからだ。
 だから博士もこう言うのである。
「だからじゃ」
「見つけること自体がってなるんですね」
「成程、そうなんですか」
「そういうことじゃ。では頼めるか」
「私達にしてもね」
「そうよね」
 二人は博士の話に顔を見合わせてそれぞれで頷いた。
「特に何も困らないし」
「そういうの見つけるのものね」
「冒険っていうか面白そうだし」
「悪い話じゃないわよね」
 これが二人の考えだった。 
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