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八条学園怪異譚

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第九話 職員室前の鏡その十二


「神様っていっても多いよね」
「仏様もいるから」
「神道や仏教だけではない」
 日下部は他の宗教のことも話した。
「他に多くあるな」
「そうですね。世の中物凄く沢山の宗教がありますよね」
「それこそ数えきれない位」
「私のお母さんよく天理教の教会行きますけれど」
「あっ、私のお母さんも」
 この宗教の名前も出て来た。
「八条分教会っていうところに」
「よく行くわ」
「っていうか私のお母さんと聖花ちゃんのお母さんそこで一緒になるのね」
「そうみたいね」
 意外な接点だった。二人の親はそこでも一緒になるのだ。
 そして日下部も天理教のその教会の名前を聞いてこう言う。
「あの教会なら私も知っている」
「あっ、そうなんですか」
「日下部さんも御存知なんですか」
「何度か邪魔をしている」
「ううん、結構色々な人が出入りする教会ですけれど」
「日下部さんもだったんですか」
「戦前からあった」
 日下部は彼の若き日からも話す。
「確か創立して百二十年か」
「あっ、古いですね」
「それだけになるんですか」
「あの教会の上部教会は奥華大教会だがな」
 日下部はその八条分教会の上の教会のことも知っていた。天理教の教会は仏教の寺に似て教会の上に理の親と言われる上位の教会がありそして一番上に大教会がある、大教会の上は天理教の本部だ。
 そして日下部はそのことを知っていて二人に話したのだ。
「あの大教会ができて数年経って神戸のこの町にできたのだ」
「それが百二十年前ですか」
「丁度その辺りだったんですね」
「そうだ。とはいっても百二十年前のことは私も知らない」
 その目で見てはだというのだ。
「流石にな」
「ですよね。百二十年前になると」
「日下部さん生まれてないですから」
「そうだ。知らない」
 そういうものだった。どうしてもだ。
 こうした話をしながら二人はまた鏡を見た。やはりそこにはそれぞれの祖母達そっくりの老婆が二人いるだけだ。
 その姿を見て愛実は少し照れ臭そうな笑顔で聖花に言った。
「何か私じゃなくてお祖母ちゃん見てるみたい」
「そうよね。私もね」
 それは聖花もだった。愛実と同じ微笑みで返す。
「何かね」
「そうよね。私達じゃないみたい」
「お祖母ちゃんにそっくりだから」
「うん、お祖母ちゃん凄く優しいけれど」
「私のお祖母ちゃんもよ」
 この点も同じである二人だった。
「凄く優しいよね」
「うん、誰も対してもね」
「それはどうかというとだ」
 ここで二人にまた言う日下部だった。その言う言葉は。
「君達はそれぞれの祖母殿に似ていい人生を送れるということだ」
「そうなるんですか」
「私達は」
「このままいけばな」
 こうした限定の言葉はついた。
「そうなる」
「誰に対しても優しく、ですか」
「そうした生き方ができるんですね」
「君達は私の見たところ欲はない」 
 これはその通りだった。確かに二人はこれといって欲はない。
 そしてそれに加えて二人にはこうした美点も備わった、それはというと。
「嫉妬からも解放された」
「あれですよね」
「妬む気持ちも」
「それもなくなった」
 余計にだというのだ。 
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