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八条学園怪異譚

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第八話 屋上の騒ぎその四


「そして夏の水もな」
「はい、最高にいいですよね」
「どっちも」
「しかし私は。幽霊はな」
「そうしたたのしみもですね」
「味わえないんですね」
「食べないということは味わえないということだ」
 こうなることだった。それは即ち。
「そして暑さ寒さもだ」
「お風呂やプールもですか」
「そういうことが味わえないんですね」
「ううん、いいことばかりじゃないですね」
「結構寂しいものがあるんですね」
「寂しい。そうだな」
 日下部は聖花の言葉に頷いた。
「そうした楽しみがないからな」
「特にお風呂は」
「それが楽しめないのは」
 愛実と聖花には辛いことだった。実は二人は風呂好きで一緒に入ることも多い。身体を洗うことも湯舟に浸かることも好きだ。
 それでだ。こう言うのだった。
「人生の喜びの何割かが消えますよ」
「美味しいものも味わえないですし」
「だから寂しいと言うのだな」
 このことを日下部も言う。
「幽霊でいるということは」
「いいことばかりじゃないですね、本当に」
「寂しいものがあるんですね」
「そういうことだな。私もそう思う」
 日下部はその寂しさを込めて述べた。それからだった。 
 愛実と聖花にあらためて顔を向けてそうしてこう言ったのである。
「では私の話はこれ位にしてだ」
「はい、それでいよいよ」
「工業科の屋上にですね」
「行こうか」
 こう二人に言ったのである。
「今からな」
「はい、それじゃあ」
「行きましょう」
「中々面白い連中だ」
 日下部はその屋上にいる彼等のことについても言及する。
「陽気で屈託がない」
「そう言うと何か妖精みたいですね」
「グリム童話に出て来る」
「近いな」
 妖怪と妖精は近い、そうだというのだ。
「どちらも」
「あっ、近いんですか」
「前にもこうしたお話しましたけれど」
「そうだ。どちらも精霊になるからな」
 日下部はここから民俗学めいた話をはじめた。
「近いのも道理だ」
「むしろ言い方が違うだけとか」
「そんなのですか?」
「そう言っていいだろうか」
 日下部は考える顔で二人に答えた。
「彼等はな」
「そうですか。妖怪と妖精って一緒ですか」
「言葉が違うだけなんですね」
「イギリスや東欧の話だが」
 どちらの妖精の話が多い地域である。
「いい妖精と悪い妖精がいる」
「両方ですね」
「どちらもいるんですね」
「そういえば妖怪もですよね」
「いい妖怪と悪い妖怪がいますね」
「この学園には悪質な妖怪はいないがな」
 そうした悪い妖怪はいないというのだ。
「ただ。子泣き爺には気をつけてくれ」
「あっ、昔の漫画に出て来た」
「あの子供みたいな姿のお爺ちゃんの妖怪ですね」
 二人もこの妖怪のことは知っていた。とある有名な漫画に出て来た妖怪だからだ。妖怪はそうしたものからも広く知られていくのだ。 
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