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FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-

作者:joker@k
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第十三話 若き聖十大魔道ジークレイン&ウルティアの思惑


 同年度に二人のS級魔導士が誕生するのは極めて異例なことらしい。そんな異例の年の合格者は俺とラクサスだった。S級魔導士に必要な要素は何も戦闘力だけではない。観察力や経験、その場の状況判断能力など必要な要素は多岐にわたる。

 そのため俺はギルドに入り一年でS級レベルの戦闘力は何とかギリギリ兼ね備えていたものの、経験不足が否めないという理由で十五歳まで試験を受けることができなかった。といってもギルド加入二年目でS級というのも異例の速さだったらしく、マカロフの様々な感情を通り越して行き着いたであろう呆れた顔で俺を見ていたのはかなり印象的だった。 マカロフの中では俺の印象は戦闘狂ということで落ち着いたらしい。


 そんなS級の討伐系依頼は当然苦戦した。能力性質的には俺が圧倒しているはずだが、基本的な能力面で押し負けることが多かったから。能力性質や種類がこちらが優位でも、質や放出量、身体能力は敵が優位なことが多々あった。

 例えば敵の豪火球と俺の暗黒物質(ブラックゼニス)を作り出し物体を消滅させるDBを比較すると能力性質は俺の方が圧倒的有利にも関わらず火球の放出量と質が俺より格段に高いため相殺されると言った具合に中々苦戦したものだ。

 まぁそのおかげでS級の依頼に慣れるまで一年を費やしたが、俺の戦闘力は格段に上がったと言っても良いだろう。S級クエストに慣れたときには質も放出量も身体能力も敵に負けない程の強さになっていたのだから。


 そんな俺が十七歳になったときにはSS級の依頼にも手を出し始めた頃だった。この年のS級魔導士に認定されたのはエルザ・スカーレット。この時エルザは十五歳、俺と同じ年齢でS級に昇格した。マカロフの表情はまたも呆れたような表情をしていた。俺が言うのも難だが気持ちはわかる。本来S級魔導士はこんな低年齢でなれるものではないのだ。20代、30代の連中が苦労してなるものなのだから。ボソッと「デタラメじゃろ」と呟いた言葉は何となく耳に残っている。

 ナツとグレイはエルザに先を越されたのが悔しいらしく、その鬱憤を晴らすためか二人でじゃれあっていた。その隣には羽の生えたネコの様な生き物のハッピーもいる。ドラゴンの卵だ!と騒いで生まれた結果がこの謎の生物だった。しかも喋る。……前作でいうプルーみたいなものか。エリーならこれを虫だと言い張るだろうな。


 エルザの初依頼はとある街の近隣の森を酷く荒らしているモンスターの討伐依頼だった。エルザからの頼みで俺もそのS級初依頼に同行することになったのだが、この依頼が実にややこしい依頼となっていた。

 この森を荒らしているモンスターは本来であればこの地方に生息していないはずの凶悪モンスターだった。では何故この凶悪モンスターがここに存在しているのかといえば、闇ギルドの仕業であることがわかった。

 理由までは分からないが捕獲し脱走したモンスターらしい。そして闇ギルドからしてみればせっかく捕らえたそのモンスターを討伐されたくはなく、結果的に俺達に襲い掛かってきた。元々討伐の依頼はエルザ単独で行う予定だったので俺はその闇ギルドを相手取った。さすがのエルザもS級で依頼されたモンスターと闇ギルドの両者を相手にするのは厳しいだろう。


 俺は襲い掛かってくる闇ギルドの連中をDBを使用せず一網打尽にした。……弱い。弱すぎる。あの凶悪モンスターを捕まえられたとは到底思えないほどの弱さだった。もしかするとこいつらは下っ端なのかもしれない。より強い奴が周囲に隠れ潜んでいる可能性もあったので透視DBで周囲を見渡したが誰も居ない。……誰もいないが何か見られているような気配がした。まだ何か裏がありそうだが、今はエルザを見守るとしよう。

 十メートルはありそうな巨大な生物相手に引けをとらない戦闘をしているがまだ時間が掛かりそうだと思い、椅子とテーブルとワインを最上級DB【ワープロード】によって取り出す。これは瞬間移動のDBでかなり便利なDBだが、最上級だけあって昔は多様するとDBPがすぐに底を尽きてしまったものだが、今はそれほど影響がなくなってきている。DBは使えば使うほど熟練度が増し使用効果が上がりDBPの消費も抑えられる。


 脚を組みながらワイングラス片手にするにはあまりに不釣合いな場所であり場面であろうが、俺は気にせず飲み続けた。エルザはあらゆる鎧と武器を駆使して、まるで御伽噺に登場する主人公のようにそのモンスターに立ち向かっている。モンスターはもうすでにボロボロの状態であり、エルザは掠り傷はあるものの圧倒的だ。

 換装と呼ばれる魔法を使っているのだが、従来の換装とは違いエルザは武器だけではなく鎧や衣服まで別次元から取り出すことができる。装備によっては優雅に舞い、時には怒涛の追撃をするためその様は芸術だと思う。……俺とは正反対だ。俺は圧倒的な火力で全てを破壊しつくしてしまう。少しは見習うべきか? いや、無理だろうな。俺には出来ない戦闘の仕方だ。

 そんなことを考えていたらあっという間にエルザはそのモンスターを倒していた。さすがだと思う。S級にしては弱い部類のモンスターだがそれでも十分強い。こいつもまさか十五歳の女の子に負けるとは思っても見なかっただろうなとその死骸を見ながら思う。一瞬の油断が命取りだ……今更学んでも遅いけどな。油断と余裕を履き違えるとこうなるという良い見本だ。

「よくやったなエルザ。まさかここまで強くなってるとは思わなかった」

「ルシアに追いつこうと努力しているからな。これぐらいは当然だ。いつかはルシアの隣に立って後ろを任せてもらえるよう強くなるさ」

 今でも十分な強さだとは思うが、高みを目指すことは良いことだ。……それにしても最近のエルザは何というか、その女らしさが増してきた。今の言葉の後の微笑みも少しドキッとしてしまったぐらいに。今でも俺の部屋で共に寝るのだが発育が良いせいか本当にいろいろと困る。特に早朝は……な。まぁエルザだけに限った話ではないんだが。




 マグノリアから近場の街だったこともありギルドに戻ったのは割と速かった。さて、一息つこうかとしたところで奴らはやってきた。まったく面倒な奴らだ。少しは気を利かせて翌日に訪れればいいものを。もちろん評議院の使者だ。恐らく、というより十中八九闇ギルドとの抗争について呼び出しをくらう羽目になりそうだ。正当防衛のため、処罰は無いとは思うが色々と質疑応答が面倒だ。何か回避する良い方法はないものかと考えていたら強制的に馬車に連行されていた。何故か連行されるとき使者の護衛であろう兵隊達が俺を見て怯えていたが、俺は何もしてないぞ。

 闇ギルドの連中をボロクソにしたのは俺だがエルザもその場にいたということで一緒に連れて行かれるようだ。しかし何故評議院はこれほど早く俺達が闇ギルドと争ったことを知ることができたのだろか。公の場で争ったわけではなくあの森は凶悪モンスターが出現してから危険区域として誰も入れなかったはずだ。様々な予想を立てるも想像の域でないため考えることを止めた。


 行き着いた先は昔俺も訪れたことのある魔導裁判所だった。……裁判所に来たと言うことは何かしらの罪に問われるのかもしれない。今回は正々堂々と正当防衛を主張すれば無罪判決は勝ち取れると思うが、どうだろう。

 エルザは初めて来たらしく辺りを興味深そうに見回しながら廊下を歩いている。すると突然先導していた者が足を止め跪いた。何故という疑問はすぐに解消された……極めて良くない形で。目の前に居たのは見覚えのある青い髪に顔面に刺青を入れた男と長い黒髪が特徴的な女性だった。

「初めまして、かな。ルシア・レアグローブとエルザ・スカーレット」

「貴様ッッ!!」

 襲い掛かろうとするエルザをすぐに押さえ込んだ。この男は笑顔を浮かべているが、作り笑いであることはすぐに見抜いた。前世の時から今までで培われてきた勘がそう告げている。エルザはかなり混乱状態になっているため、磁気のDBでエルザの身動きを一時的に封じた、と言ってもエルザ程の実力者ならこのDBではすぐ拘束が解けてしまうが。

 それにこの先導していた者がこいつに跪いたということは何かしらの高い地位にいる者ということが予測できる。さすがに堂々と実力行使に出るのはまずいだろう。

「初めまして? 俺達はお前に見覚えがあるんだが……それとも忘れたとでも言うつもりか? 三下野郎」

「こ、コラッ! 貴様ジークレイン様に何という物言いを! この方は若くして聖十大魔道に認定され評議院にも席を置くジークレイン様だぞっ!」

 跪いていた奴が慌てて俺達に注意をしてきた。急に会話に入ってくるなよ、驚くだろ。それにしても聖十大魔道って確か大陸で特に優れた10人の魔導士のことを指す称号だったな。マカロフもこの称号保持者だが……この年若い男がマカロフレベルとは到底考えられない。ピンキリってやつか?DBでこのジークレインという男を調べようとしても思念体のためかまったく情報が掴めない。

「君達が言っているのは弟のことだろうね。実は俺も探していてね。もし見つかったら教えてくれよ……誰にも言わずに、ね」

「弟だとッ!? そんなもの信じられるかっ!」

 俺のDBの効果をエルザは力任せに破り、ジークレインに襲い掛かるが思念体のためすり抜けてしまった。思念体とわかって俺もエルザを再度抑えることは止めた。それにエルザの言う通りさすがにそう簡単に信じるわけにはいかない……がこれ以上考えていても仕方の無いことだと思い、エルザとジークレインが何やら会話している間にさっきから俺を見て驚いた表情をしている女性に話かける。

「俺の顔に見覚えでもあるのか? 驚いた顔をしているが」

「い、いえ、あの有名な金髪の悪魔と恐れられている者がこれほど若いとは思いませんでしたので」

「お前も十分若いと思うがな。あの男と共にいるんだ、それなりの立場なんだろ?」


 えぇ、と微笑みながらも先程と変わらず俺を観察し続けている。美人に見つめられるのは悪い気はしないが判らないことだらけでイラついてきた。それにあの有名なって何だ。俺はいつの間にかギルド内だけで言われていた金髪の悪魔が大陸に浸透したとでも言うつもりか……あの連行されたときに怯えていた兵士達を思うと、言うつもりなんだろうな。しかも極めて物騒な逸話つきに違いない。尾ひれがどこまで付いてるのかは知らんが。

 俺はこのままでは埒が明かないと思い睨みあっているというよりエルザが一方的に睨んでいるだけだが、そのエルザの手を強引に取りそのまま面倒な裁判が行われる部屋へと向かった。……睨みを利かせていた時もそれはそれで良かったが今の顔を赤らめているエルザのほうが良いなと平和な思考をしながらその場を離れた。勿論エルザには気がつかれないよう最後に思いっきりの殺気を置き土産に。






side out

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







 ジークレインとウルティアと呼ばれる女性はその場から離れていった二人の男女が完全にいなくなったことを確認した後、まるで密談でもするかのように会話をしていた。その時先程の笑顔はもう無いが。

「闇ギルドを利用して彼の実力を見ようと思ったが、力の一端すら見れなかったな」

「弱すぎたのよ。いや、彼が強すぎたのかもしれないけどね。どちらにしろこんな結果になるなんて分かりきったことじゃない」

 そう、あの闇ギルドにモンスターを渡したのはこの二人の仕業だった。エルザがS級に昇格したと聞きつけS級のそれも討伐系の依頼料の良いものをフェアリーテイルだけに幾つか依頼書を出していた。エルザのS級初依頼をルシアが同行するであろうことは予め予測はついていたし、それも討伐系ならより受けてくれることは過去の彼の実績から見れば簡単に予想できた。

 そしてあの時ルシアが感じた気配はジークレインたちの魔法による監視の視線だったのだ。ただエルザが単独であのモンスターを倒せるほどの実力があったのは誤算だったみたいだが。


「しかしあれが金髪の悪魔か。いざ目の前にすると凄まじい闇の力だな。……正直何故フェアリーテイルに所属してるのか分からん」

「……それについては同感ね、あそこに闇は似合わない。それに最後に放った殺気も身震いがしたわ。金髪の悪魔ね…言い得て妙じゃない。ピッタリな二つ名」

「しかし、だからこそあのお方の隣に立つに相応しい人物だとは思わないか? あれほどの闇の力とカリスマ性だ。闇を束ねるのに十分すぎる素質だろう。あの塔にいた死にぞこないが言ってたのは本当のことだったな。……ルシア・レアグローブか、素晴らしいお方だ」

 そこに浮かぶ表情はあの日、ルシアに殺されかけ恐怖しながらも崇拝していた黒魔導士と似た表情をジークレインは浮かべていた。打ち震えるほどの歓喜。闇に染まった者の歓喜の表情など禍々しいものだ。

 隣にいたウルティアも先程の殺気に恐怖しながらもジークレインと同じように打ち震え、頬を染めてルシアが去った方向を見つめていた。しかしそれは仕方のないことだろう。闇に染まった者がルシアの闇の大きさと闇の者にだけ分かるカリスマ性を間近で見ることが出来たのだから。

 それほどルシアの闇は凄まじいものがある。闇とは負の力であり、それに飲み込まれることは絶対である。それを制御するなど本来ありえないことなのだ。ただ一点、そればかりに目を置いてしまうためこの二人は気がつかなかった。


 ルシアの闇がまったく邪悪ではないことを。この二人がそれに気づいたのは一筋の光が彼らを正しい道へと導いたときであった。 
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