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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第3話 親子のカタチ

 こんばんは。ギルバートです。私の目の前に警戒心バリバリの父上と、今にも泣きそうな母上がいます。しかもテーブルに着くだけで、ドキドキものでした。何故かと言うと、椅子が高かったからです。一発で、座れたのは幸運でした。本当に1歳と8カ月には、現在進行形で辛い状況です。

「さて、いろいろと聞きたい事もあるでしょうが、まずは自己紹介をしましょう」

 その言葉に父上の目がスッと細まります。そこにあるのは、歴戦の戦士が持つ威圧感。私はこんな人を説き伏せなければならないのですか? 何時ものちょっと間抜けで愛らしい父上は、一体何処へ行ってしまったのでしょうか?

「私の名は、ギルバート・アストレア・ド・ドリュアス。貴方達の息子です」

 父上は顔色を一切変えませんでした。表情もピクリともしません。しかし表情とは逆に、思いきり拳を握ったのが分かりました。母上は少しずつですが、落ち着きを取り戻して来ている様です。

「そして、もう一つの名は“マギ”と言います」

 父上は未だ無言。こちらを、ただひたすら観察しています。 

「まず誤解して欲しくないのは、私はあなた方の敵ではありません」

「それを、如何信じろと?」

 ここでやっと父上が発言しました。真直ぐにこちらの目を見ています。当然、こちらも視線を外す訳には行きません。

「まあ、そうですね。いきなり目の前に現れた正体不明の存在を、信じろと言うのは無理な話です」 

 父上と母上は無言のままです。

「しかし、今まで一緒にいた息子は信じられませんか? まあ、振り返っていただければ、不自然な点がいくらでも出てくると思いますが」

 父上の眉間に皺が寄りました。一方で母上は、完全にフラットな表情になります。

「私が此処に居るのは、1年と8か月前からです。そして目覚めたのは半年前です」

 父上の眉間の皺が深くなりました。母上は相変わらずフラットな表情です。

「1年と8カ月前に、何が有ったか説明しても良いですか?」

 父上と母上は、微動だにしません。

「1年と8カ月まえ、何が有ったか説明しても良いですか?」

 もう一度同じ事を聞きます。先に父上が頷き、しぶしぶといった感じで母上が頷きました。

「覚悟は有りますか?」

 母上の表情が引き攣ます。すぐに父上が母上の手を取り、二人は目線を合わせ頷きあいました。

(アツアツじゃないですか)

「ではまず、予備知識から説明します」

 そこで魂と輪廻について説明します。父上と母上は難しい顔をしていました。

 そして一呼吸置いてから、いよいよ本題に入ります。

 二人目の子供が、一度死んだ事。 

 魂が消滅しかけた僕と俺が出会い私になった事。

 その時、繋がりが残っていたこの身体に入った事。

 今は、もう私しか存在しない事。

 マギとは、俺の知識でしかない事。

 そして、大いなる意思の事。

 ……流石に、原作知識の事は話せませんでした。

 一言一言に、誠心誠意気持ちを込めて説明しました。……そして。

「残念ながら、純粋な意味での貴方達の子供であるギルバートは、もう存在しません」

 最後に残酷に言い切りました。

 この時、私には覚悟が有りました。

 殴られる覚悟。

 追い出される覚悟。

 泣かれる覚悟。

 流石に、殺される覚悟は有りませんでしたが。

 父上が母上を、抱き寄せました。その表情は沈痛そのものです。母上の顔は、父上の胸に隠れていて、見てとる事が出来ませんでした。しかしその肩が、震えているのだけは分かりました。

「……一晩。シルフィアと話し合いたい」

「分かりました」

 私は椅子から降りて、部屋から出て行こうとします。

「待て」

 父上の声に私は動きを止めましが、振り返る事は出来ませんでした。

「私達が外に出る。今日は此処で寝ろ」

 そう言って二人は、寝室を出て行きました。

 ……ベットに戻り横になりましたが、とても眠れる様な精神状態ではありません。私は拒否される事への不安と、もっと良い伝え方があったのではないか? と言う想いが、頭から離れませんでした。

(父上と母上を信じるしかありません。それに全て正直に話したのは、私自身ができる最大の誠意だからです)

 何度も同じ自問自答を繰り返します。そうしている内に、窓の外は白み始めていました。



 朝起きるには少し早い時間に、父上と母上は戻って来ました。父上と母上は酷い顔をしています。

「おい、酷い顔をしているぞ」

 父上の第一声がそれでした。

「それはお互い様かと」

 父上に言い返します。母上は父上の影に隠れてよく見えません。

「……確かに。だが、お前の顔はもっと酷い」

(余計なお世話です)

「そんなに、拒絶されるのが怖かったか?」

 この一言に、私は動揺を隠す事が出来ませんでした。ビクッと私の意思に反し体が反応します。あとで思い返してみれば、震え目が泳いでいたでしょう。取り乱さなかったのが不思議な位です。

「結論を出した。続きだ。テーブルに着け」

 私はのそのそと、昨晩と同じ椅子に座ろうとします。ですが上手く椅子に座れず、椅子ごと倒れてしまいました。ハッキリ言って、情けなかったです。感情が抑えきれず、目から涙が溢れてきました。

 そんな私を、助け起こしてくれる人がいました。

「は はう え?」

 つい、そう呼んでしまいました。涙を拭うと、すぐ隣に父上もいます。

「まったく情けない。それでも私の息子か?」

「……えっ?」

 そこにあったのは、私が願い続けた答えでした。しかし、直ぐに反応することができません。これは夢なのではないか? とさえ思えてきます。

 そして母上が、私を黙って抱きしめてくれます。その感触は、これが夢ではないと私に教えてくれました。私は母上にすがりつき年相応に、泣きだしてしまいました。



 父上と母上に、ようやく話す事が出来ました。しかしまだ全部ではありません。何故この時期に態々話したのか、ある意味においてここからが本題です。

 しかし母上が、かなり辛そうにしています。出産からアナスタシアの世話まで、碌に眠る事も出来なかったでしょう。そこに追い打ちをかける様に起きた今回の一件です。恐らく乳母がいなければ、倒れていたでしょう。

(……なんか、物凄く罪悪感を感じるのですが)

 私よりも早く、その事に気付いていたのでしょう。父上は母上に少し眠るように促しました。最初母上は首を横に振っていましたが、父上が言い聞かせるとしぶしぶベッドに入ります。

「シルフィアが少し眠るから、続きは別の部屋で話そうか」

 流石は父上です。まだ話が終わっていない事に気づいていました。私は頷くと、父上の後に続きました。

 父上は一旦アナスタシアの居る部屋に行き、母上が疲れて寝ている事を伝えます。

 目的地は母上が出産する時に、父上に話を聞かされた部屋でした。父上がサイレントを使えるか不安に思っていると、その心配を見越したのか父上が口を開きました。

執務室(ここ)と寝室には、聞き耳防止用のマジックアイテムがある。……今起動する」

 私の心配は杞憂だったようです。

「あれ? それなら、あの時なんで母上にサイレントを使ったのですか?」

 わざわざ動揺している母上に、サイレントを使わせる必要は無かったのではないでしょうか?

「あれはあの状態でも、魔法を使えると思わせるブラフだ。実際は、同じマジックアイテムを起動させただけだ。それとギルバートが、力の流れが見えるか確認したかった」

(ここまでできる人が、簡単に騙されるとは思えませんね)

 先程まで真っ黒だった疑惑は、どんどん白くなって行きます。

「申し訳ありません。父上。どうやら、杞憂の可能性が高そうです」

「とにかく言ってみろ」

 正直に言うと背筋(せすじ)が寒くなる想いだったのですが、答える事にしました。まずは隠し持っていた、秘薬の小瓶を取り出し父上に渡します。

「そうか、ギルバートが持っていたのか。探していたんだ。で、これが如何したんだ?」

「父上。先程まで私はこの薬が原因で、姉上と僕が死んだ可能性が高い。と、考えていました」

 その可能性は、今は限りなく低くなっています。

「確かにあの時の話だけ聞けば、そう思うかもしれん。しかし私がこの秘薬を購入したのは、王宮の中だ。当然、秘薬搬入を厳しくチェックする監査役が居るし、仕入れ・搬入の伝票も確り残っている。また王宮に出入りするには、一定以上の地位を持つ貴族の紹介状が複数必要だ。問題が起これば、その貴族の顔を潰す事になる」

 確かに可能性は、限りなく低いです。だからこそ思ったのです。可能性は低いですが、決して0では無いのです。父上は軍人です。物事を“素早く効率良く”片づけなければならない立場の人間です。当然、可能性の高いものに執着するでしょう。しかし今欲しいのは、0か100かの断定です。

「父上。可能性は確かに低いです。しかし、今欲しいのは“クロならクロ”“シロならシロ”という断定です」

 父上は少し考えてから、口を開きました。

「……分かった。秘薬の成分を鑑定しよう。ただし、秘薬の事は私とシルフィアでは分からん。信用おける者……そうだな、モンモランシ伯にでもお願いするとしよう」

「ありがとうございます。……それからマギの知識は、ゲルマニアよりもかなり進んだ知識が多数含まれています。この領地の為、ぜひ活用したいと考えています。しかし異端審問が怖いので、マギの事はロバ・アル・カリイエ出身で私の恩師にして、父上か母上の知人と言う事にしてください。その上で適当な所で、故人としていただければ良いかと思います」

 父上が「他には?」と聞いてきたので、いいえと返事を返しました。父上はマジックアイテムの解除をする為、私に背中を向けました。

「今回は残念ながら、空振りの可能性が高い。だが私達を慮って、勇気を出して告白してくれた事嬉しく思う」

「あ……。ハイ!!」

 父上の言葉は、私にとって本当に嬉しい物でした。本当に、全て話せて良かったです。今回伝えるべき事は、全て伝える事が出来ました。

 だからでしょう。緊張の糸が、プツリと切れました。同時に私の意識は、暗転したのです。 



 目が覚めると目に飛び込んできたのは、見慣れた天井でした。父上が運んでくれたのでしょうか? 私は周りを確認する為、首を動かしました。

 布が擦れる音で、私が目覚めたのに気付いたのでしょう。父上が、こちらに来ます。

「目が覚めたか? 私も少し仮眠をとって、今はお茶を楽しんでいた所だ」

 見るとテーブルの上に、お菓子と紅茶が出てます。そう言えば、お腹がすいたな。……あれ? 母上は如何したんだろう? 使用人が居るから喋れないですね。

「母さんはアナスタシアの所に行っているぞ」

 私が目線をさまよわせると、先回りするかのように父上が答えてくれます。

「それより、腹は減っていないか?」

 私は素直に頷きました。父上が声をかけると、少ししてから麦粥を使用人が持って来てくれました。年相応の振りをする為、大人しくミーアに食べさせられました。

「父さんはこれから、モンモランシ伯の所へ行かねばならない。おとなしく留守番してるんだぞ」

「あい」

 とりあえず、年相応っぽく返事をしてみます。

 食事が終わり、使用人達が後片付けの為退室しました。

「ギルバート。これをお前に預ける」

 二人だけになると、父上が鍵を渡してくれました。

「これは書庫の鍵だ。蔵書量はハッキリ言って少ないが、今のお前には十分な量だろう」

「ありがとうございます」

 この後父上は、直ぐに出かけて行きました。見送りの際、グリフォンに騎乗した父上は凄く格好良かったです。

 私は早速書庫に来ました。確かに蔵書量は少なく、全部で50冊前後くらいでしょうか? 種類は、初級魔法入門から上級魔法書・ルーン文字大全等の魔法関連の書籍。亜人幻獣図鑑などの辞典。また、イーヴァルディの勇者等の物語小説もありました。

 正直に言うと、どこから読もうか迷ってしまいます。そこで別の棚の方に目を向けると、地図などの資料が収められている棚が有りました。資料はラベル付のトレイに小分けにされ、よく整理されていました。そのラベルの中に、こう書いあるトレイあったのです。

 ……魔の森 と。

 気になったので、見てみる事にしました。幸い棚の下方の段に置かれていたので、私でも十分届く高さでした。一枚一枚、手書きで書かれた資料をめくって行きます。結果分かった事は、原作で名前が出てこないのが、不思議だという事でした。分かりやすく、まとめてみましょう。

1.魔の森とは、多種多様な幻獣・魔獣・亜人の住処である。
2.最近は、落ち着いてきたが今も拡大を続けている。
3.切り開こうとすると、亜人が襲いかかってくる。
4.森に火を放ったり大きな音を出すと、幻獣・魔獣が集まって来る。(当然その後に戦闘になる)
5.幻獣・魔獣が、森外で暴れると便乗して亜人が出てくる。
6.亜人が森の外で暴れると、そこから木が生えてきて森が一気に広がる。
7.永い時間をかけて、非常に広大な広さになっている。

 なんですか? このとんでもない森は。国も下手に手が出せず、これ以上広がらないよう防備を固めているだけですか? ……しかし、これだけではいまいち広さが伝わらないですね。

 トリステイン王国、ほぼ中央に位置する王都トリスタニア。トリスタニアの南、ガリア国境とのほぼ中間に位置するラ・ロシェール。ラ・ロシェール南西に、位置するドリュアス領。東端は、このドリュアス領の直ぐ南まで伸びています。西は海に達していて、北はドリュアス領やや北の緯度まで伸びて居ます。ドリュアス領と、そのすぐ西にあるクールーズ領が、魔の森に食い込む形ですね。南はガリア国境まで広がっています。それ以上広がらないのは、ラグドリアン湖西部国境沿いの、ブレス火山とテール山脈に阻まれて居るからですね。広さだけなら、トリステイン王国の約20分の1に達しています。

 ご理解いただけただろうか? とてつもなく、広いのです。

 幸い下手に森に手を出さなければ、大きな被害が出る事は無い様です。が、馬鹿な貴族は何処にでもいます。非常に心配ですね。

「さて、魔の森についてはこんなものですか?」

 おっと、いつの間にか、かなり時間が経っていた様です。今日は此処までにしましょう。資料を元に戻し、さっさと寝室に帰ります。すると書庫の入り口に、誰か立っている事に気付きました。

 ……ん? ミーア? 何時からそこに居たのですか?

 服を引っ張っても、反応が無いので放っておく事にしました。

 その日、何故かミーアはメイド長に叱られてました。



 次の日の夕方、父上がモンモランシ領から帰って来ました。母上と一緒に、父上を迎えます。早速結果を聞く為に、執務室へ移動します。今回は母上も回復しているので、一緒に話を聞けます。

 先程から少し気になって居るのですが、父上は何かイライラしているようです。もしかして、当たりだったのでしょうか?

「結果から言おう。やはり空振りだった」

 しかし父上から出てきた言葉は、私の期待を裏切るものでした。

「それにしては、何かイライラしている様ですが?」

 私の言葉に母上が頷いて居ます。ひょっとして、何かあったのでしょうか?

「原因はこの秘薬だ。この秘薬自体は、何処にでもある物だった。それを、あんな法外な値段で売りつけるとは、馬鹿にしているとしか思えん。本来この秘薬は、1エキューでお釣りがくる程度の価値しか無いのだ。それを、半額で40エキューだと? ふざけるな!! しかも、本来の用途が儀式後の魔法陣など、魔力を含むインクを落とす為の洗剤だ」

 父上が、まくしたてる様に言いました。相当、頭に来ているようですね。母上も笑顔ですが、雰囲気がやたらと怖いです。 

 父上と母上が、怒るのも良く分かります。しかし、このまま聞き流す事は出来ない事実があります。

「待ってください。母上この秘薬を飲んだ時、体調が回復したんですよね?」

 母上はキョトンとしながらも、すぐに返事をしてくれました。

「ええ。確かに薬を飲んだ後、体調が回復したわ」

「何故だ? この秘薬は人間には、毒にも薬にもならないと聞いたのだが」

 暫く3人で、うんうん唸ってみました。

 そして私に、引っかかるものがありました。そこから理論を、組み立てて行きます。

「父上。母上。あくまで仮説なのですが、聞いていただけますか?」

 二人が頷くのを確認してから、私は口を開きました。

「魂と輪廻転生の話は、以前したと思います。この話は、更にその先を推論したものです」

 そう言って、私は話し始めます。まだ推論が完璧では無いので、説明もつっかえつっかえでした。

 話を要約すると、母親が子供を身ごもった時、魂を輪廻の環からどうやって引っ張ってくるのか? と言う物です。

 父上と母上も、難しい顔になりました。

 それを踏まえた上で、秘密は母体にあるのではと推論しました。ここまでは、父上と母上の理解を得られたようです。二人とも頷いてくれました。

 そして母体は一種の魂召喚の為の、魔法陣のような役目を追うのではないか? と、続けます。その前提でこの秘薬により、母上の体調が回復した理由を推論してみました。

「魔力とは、精神力であり生命力です。この秘薬を飲む事により、魂召喚の為の魔法陣作成に使われていた生命力が解放されたから、母上の体調が回復したのではないでしょうか?」

 ここで母上の表情が消えました。……怖いです。滅茶苦茶怖いです。その表情止めてください。父上も、もの凄く怒ってます。しかし此処で言葉を止める事は出来ません。この推論が正しい場合、如何なるかを口に出して答えました。

「この秘薬により、魂の召喚が不完全になります。そこで、無理やり召喚された魂は、欠けてしまい消滅します。魂の無い赤子は、衰弱し産声も上げる事無く死んでしまうのではないでしょうか?」

 推論の結果を、一気に言い切りました。……ん? 母上が何か呟いてる?

「ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!ペドロ殺す!!…………………………………………」

 これには私と父上も、流石に引きます。勘弁してください。ここから先の話が、出来ないじゃないですか。とりあえず、現実逃避した私は母上を無視して話を続けました。

 この秘薬の効果は、立証されていません。母体には薬になり、胎児には致死の毒となる。こんな、秘薬の効果を立証するには、それこそ人体実験しかありません。それは始祖ブリミルの名において、否定されるでしょう。また、何処にでもある秘薬です。証拠を見つけるのは、ほぼ不可能と言って良いでしょう。

「さらに、先程の推論を誰かに話せばどうなるか?」

「……異端 か」

 父上が重々しく呟きます。この時母上の呟きは、聞こえなくなっていました。

「感情的になってペドロを襲撃すれば、こちらが犯罪者ですね」

「くそっ……!! 我が子の敵も取れんとは何たる屈辱」

 父上は本当に悔しそうです。

 ここで母上が、突然立ち上がりました。顔は笑顔です。ですが威圧感は、明らかに上がっていました。これが伝説の、コ・ロ・ス笑みか? 流石に不味いと思ったのか、父上が母上を気絶させました。

 杖を取り上げ、手を背中で縛りつけベットに転がします。ついでに、足も縛りました。

「父上もやる時はやりますね」

「これ位できなければ、シルフィアとは付き合えんよ」

 父上が遠い目をします。

(父上が普段鈍いのは、母上の性格が激しいからなのでは?)

 一瞬だけ頭に浮かんだ感情を、直ぐに追い払います。

「シルフィアが目を覚ましたら、どうやって落ち着かせよう?」

 私には無理です。父上。助けを求めるように、こちらを見ないでください。

「あの……、がんばってください」

 そう言って、私は寝室から逃げ出しました。なぜか、父上は追いかけて来ませんでした。

(あっ……。父上に今後の危険について、話すのを忘れていました。まあ、後でも良いでしょう)

 そんな事を考えていると、突然身体が浮かび上がります。

 原因はミーアに拘束された事でした。

「また脱走して。駄目ですよ」

 ……脱走じゃありません。安全な所に退避しているだけです。

 そんな抗議をする訳にも行かず、結局私は寝室に連れ戻されました。扉を開くと同時に、父上の悲鳴が聞こえました。

 ミーアは、二人の状態(手足を縛られている母上と、母上に噛みつき攻撃くらう父上)を確認すると、速攻で私を引き渡し逃げて行きました。

(……おぼえてろ)

 この戦いは、母上が力尽きるまで続きました。






 この後、縛られたままの母上を、父上と二人がかりで理詰めにして説得しました。

「この件は、必ず黒幕がいます。末端だけで、黒幕は見逃しても良いのですか?」

 特に、この言葉が効いたようです。

 そして、母上は何時暴走するか分からないので、父上が説得して軍を引退させました。敵を打つ時に復帰するのが条件でした。 
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