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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  五十一話 双刃と滅炎

「キリトー、お前あれ解析できるかー?」
「悪い。無理だわ……」
「やっぱし……」
 問うて置いて、リョウはキリトの言葉に落胆する。
キリトの識別スキルのスキル値はほぼMAXである。レベル90を超えるキリトの識別スキルで、データが見れないと言う事は……

「アスナ、下がれ」
「え……?」
 神妙な顔で行ったキリトに、細剣を構えていたアスナが怪訝そうな表情をする。

「此奴、強さ的には90層クラス有る……」
「!?」
 言われて、先程の会話の意味に気が付いたのだろう。アスナは顔を強張らせて半歩引く。

「安全エリアの三人を連れて、脱出しろ、俺達で時間を稼ぐから……早く!」
「き、キリト君達も一緒に……!」
「心配すんなよ。お前の旦那は俺がしっかり送り届けてやるさ」
「おーい、俺はおもりが必要なほど信用ないのか?」
 此方を見ずに、後ろ手にサムズアップをするリョウの姿を見て、アスナは少しだけ緊張が解ける気がした。

 きっと、見えないあの背中の向こうに有る顔は、何時ものようにニヤリと笑っているのだろう。そう思うと、心配しなくても良いとそう思えて来る。だから……アスナは一気に身をひるがえし……

「気を付けて!」
「おうっ!」
「あぁ!」
『絶対……無事で戻って……!』
 胸の中で強く、二人の男達に祈った。

────

「さて、カッコつけた訳だし……ぜってぇ戻らなきゃだよな?キリト?」
「え?何それ、俺がかっこつけた事になるの?」
「遠ざかって行く夫の背中を、彼女はどうしても忘れられなかった……」
「死亡フラグ!?しかも俺だけ!?」
「そりゃあ……っと、馬鹿言ってる場合じゃなさそうだ!」
 意味の分からない会話をしている二人イラついたのか、死神が手に持った鎌を大きく振りかぶり……振り下ろす!

「おっとぉ!」
「ふっ!」
 キリト、リョウ、二人が全く同じタイミングのバックステップでそれを避け、死神と間が空く。

「行くぜぇ、兄弟!」
「あぁ!」
 言うが早いが、今度は薙ぐように鎌を腰だめに構えた死神の前に、リョウが割り込む。
位置取りはちょうど、安全エリアに遠い順から、「死神・リョウ・キリト・アスナ・ユイ達」の図である。

「…………!」
「羅ァァァァッ!」
 死神の鎌に朱色。リョウの冷裂に蒼いライトエフェクトを纏って、それぞれの武器が振われる。
水平に振われた死神の鎌に対して、リョウの冷裂は右下から左上へと、浅い角度ですくい上げるように振われた。同時に振われた刃は有る一点で見事に激突しそして……力のベクトルに対し斜めに命中した冷裂が、死神の鎌を弾き上げた。
しかも、リョウの技はこれだけでは終わらず、もう一歩踏み込んだかと思うと両手を返して再び刃を死神に向け、そのまま体勢を崩した奴を追撃する。
更に、そこへ走り込む黒い影。
死神の直前で跳ね上がったその影は、リョウが彼の真下で真一文字に冷裂を振り切るのと同時に、手に持った二本の剣を振るった。

「破ァッ!」
「セァッ!」
薙刀 二連撃技 返波《かえしば》
二刀流 突撃技 ダブルサーキュラー

 二人の攻撃が、死神の腹部と胸部に、三本の傷を作った。
と同時に、リョウが動いた。
接近し、懐に入ったまま右に振り切った冷裂から左手を離し、駆けあがるようにして左足を死神腹上部に押しつけて……

「打ぁ!」
 右足で、バック宙の要領で死神を顎を蹴り抜く。

足技 単発技 昇転脚《しょうてんきゃく》

 いわゆる《サマーソルト》。これをして、逆さになった足の裏に……空中に居たキリトが、その勢いを保持したままのリョウの靴裏に自分の靴裏を当て……

「よっと」
それに蹴られて距離をとり、リョウもそのまま手足四本で着地すると、硬直が解け次第更にバックステップ。気がつけば、初めと同じく最も理想的な陣形に二人と一体の位置取りは戻っていた。しかも、先程よりも二人の位置は安全エリアに近くなっている。
こうして、少しずつリョウとキリトは後退して行くつもりだった
と……

「さぁ、来いやァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
「どうにかなんないのかそれ……」
 リョウがいきなり凄まじい大声で叫んだ。
ビリビリと空気を震わせるそれに対して、キリトは辛そうに顔をしかめ、何時もの事で慣れているアスナは振り向かず、ユリエールとシンカーは眼をむく。

システム外スキル 戦闘咆哮《ハウリング・ウォー》
 とにかく大声を上げて叫ぶ事で、自身のテンションを跳ね上げ、戦闘意欲を上昇させる、所謂《鬨の声》である。
 テンションが上がれば、戦闘能力も上がる。実際、リョウはこれによってテンションを上げている時かなり身体が軽いし、直感もいつも以上に鋭くなる。
まぁ、リョウ以外にこのスキルの恩恵を受けている者など、本人すら見た事も聞いた事も無かったが。

「ァァァ!!……そんなうるさいか?」
「そりゃもう……って兄貴!前!前!」
「うわっと!?」
 再び死神が接近。今度は突進だ。死神が接近と共に、一気に鎌をリョウとキリトの頭に落とす。対し、リョウが冷裂を構えそれを正面から受け止める。

「ぐおおぉぉぉぉ!!!」
『重いな……!が!』
 リョウが受け止めたその瞬間に感じた感想はそれだった。
流石に九十層レベルの強さを誇るだけの事は有って、これまでの敵と比べても圧倒的に一撃に重さが有る。さしものリョウですら、武器その物の重さは相手に上回るはずであるにも関わらず、弾き《パリィ》出来ずに筋力の差で押し止めきれずに押される程だ。
だが……

「オォ!!」
『生憎と、こっちは二人だ!』
 後ろから駆けつけたキリトが、持ちこたえていたリョウの冷裂に自身の双剣を十字に重ね、総合筋力値をブーストする。結果……

「「オッッリャァァァァァッ!!」」
「……!」
 総合の筋力値があちらの筋力値を上回り、死神の鎌を押し返す……だけでは止まらずに、弾き返す。
大きく自身の得物を弾かれた死神は体勢を崩し、硬直。
そこをこの兄弟が見逃すはずも無く……

「割れろぉ……」
「セイィィ……」
 リョウは冷裂を振り上げ、キリトは弓を引くように右腕を引き絞り、左腕を正面に真っ直ぐに伸ばして……

「死神野郎!!」
「ラアァァ!!」
薙刀 重単発攻撃技 剛断
片手剣 重単発攻撃技 ヴォ―パルストライク

 振り下ろし、突き出した。

 二人の重単発を受け、眼に見えて死神のHPバーが減る。まだまだ倒すに至るには絶望的な量だが、それでも十分。
その隙に、リョウとキリトは更に後退して行く。

『この調子なら何とか逃げられっか……』
 そうリョウが言った時だった。突然、キリトの「止まってくれ!」コールがと轟き、再びあの隊形で二人が動きを止める。
少しだけ振り向くと、視界端にアスナと、ユイの姿が映る。
今だに、安全エリアに入っていない!

「アスナッ!早くしろっ!」
 呼びかけるものの、返事が返ってこない。何やら戸惑った様な声が聞こえるだけで……
その時だった。

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォォォ!!!」
 突然、眼前で動きを止めていた死神が声を叫び上げたのだ。
その声は、あらゆる音程の合わない音を滅茶苦茶にかき混ぜた様な不快な音で、否応なしに、キリトとリョウの背中に鳥肌が立つ。と……

「オイオイ……」
 と、リョウが言う。

 眼前の死神が……

「嘘だろ……」
 と、キリトが呟く。

 二人に増えていた。

 新たに表れた死神に眼を向けると、カーソルの名称には《幻影の鎌(The phantom-scythe)》と表示されており、その姿は上から下までオリジナルの《The Fatal-scythe》と、まったく同じだ。

『冗談じゃねー……』
 名称が変わっている所を見るに、あれ自体も一つの実体であると考えた方が良い。
簡単に見敗れてしまったら幻影の意味が無いからだ。
唯一希望が持てるのは、新たに表れた《The phantom-scythe》の方がオリジナルに比べステータスが劣化している事だが、そもそもそのオリジナルを相手にしながらとなると、正直な所、これはリョウにとっても抑えつけられる限度を超えている……

「キリト、走れ」
「え?」
「抑える。行け。俺後から行くわ」
「な……けど……「早くしろっ……!」く……」
 そこまで言っても、まだ迷っているキリトにイラつきながらもう一度怒鳴ろうとする。
既に二体の死神は突進の体勢に入っている。時間が無い!

「さっさと……「ユイちゃん!」……は?」
 キリトの方を向いたリョウの視界の前を、何か、黒く小さい者が横切った。それがユイだと理解した時には再びアスナの声が後ろから聴こえていた。

「ユイちゃん!駄目ぇっ!」
「アスナっ……!ユイ!戻れっ!」
 振り向いた所には、ユイを追いかけて前に出ようとするアスナをキリトが必死の形相で引き止めていると言う図が有った。
その間にも、ユイはトコトコとまるで眼前の者が何であるか分かっていない子供の様な足取りで、二体の死神に接近して行く……

『くそっ……たれがぁ!』
 止むなく、前方に向き直ったリョウが前傾形になって足に力を込め、自身の身体を弾丸の如く打ち出そうとした、その瞬間、信じられない事が起こった。

「大丈夫だよ、みんな」
「な……!?」
 とんっ……と、地面を蹴ったユイの身体が、空中に浮いたのだ。
ジャンプでは無い。浮かび上がったユイの身体は、空中二mくらいの地点で完全に静止している。本当の意味で、“飛んだ”のである。

『有り得ない』
 そう。有り得ない。プレイヤーのアバターが、飛行能力など持つはずがない!

『いや……』
 と、此処で、急激に冷静さを取り戻したリョウの脳が、一気に自身の中にあった一つの仮説を引き出す。
死神が鎌を振り上げ、ユイがその軌道上に当たるであろう位置に右手を掲げる光景を、リョウは黙って見つめる。
後ろでキリトやアスナが何かを叫んでいるが、そんな物は碌に耳に入らない。どの道もう間に合わないし、リョウの仮説が正しければ……

 ユイの右手に直撃する寸前の死神の鎌が、紫色の電子の障壁に大音響と共に弾き返される。
ユイの右手の前には、やはりというか……紫色システムタグが出現し、[Immortal Object]と言う文字を、間違いなく、虚空に表示させていた。
それは即ち、ユイがプレイヤーでは無いと言う証明。


 仮説は、確信となった。

「……また、当っちまった……な」
 立ちつくし、そう呟いたリョウの眼前で、二体の死神がユイの取り出した巨大な焔剣によって焔と共に消し飛ばされた。
 
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