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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  三十九話 九死一生

「はぁ……もう段々昼飯時だなぁ」
 コーブ本部の階段を降りつつ俺はそんな事を呟く。
結局、ヒースクリフとの会談をしているうちに、時刻は昼ごろになっていた。しかも面倒臭い相手と話してたおかげでいつもより余計に腹が減っているように感じる。

「テンテケテケテケテンテンテン♪テンテケテケテケテンテンテン♪」
 少し古いがテンポの良い音楽に懐かしさを覚えつつ、階段を降りきり、門番のコーブメンバーに一礼してから建物をでる。
堅苦しい空気でこった身体を大きく伸ばし、周囲をなんとなしに見渡す……と。

「お?」
 3時方向、5m地点に、紅白おめでたカラーの騎士風服を纏った栗色で長い髪の少女の後ろ姿。
どうやらメニュー操作に随分と集中しているらしく、全くこちらに目を向けない。

 そのまま気付かれないようにゆっくりと後ろから近付いて……

「う゛ら゛め゛じや゛ー」
「ひゃああああああああああ!!」
 真後ろで囁いてやると少女は面白いように飛び上がった。

「っはっはっは!!んな昼間なんだからお化けなんざでねぇぞ?アスナ」
「ッ〜〜ッ〜〜〜!」
 爆笑しながら俺はそう言うものの、ホラーの類が大の苦手で、なおかつ後ろからいきなりおかしな声を掛けられたアスナは、その場にしゃがみこんで意味不明な声を上げてしまう。

「あららら、ちょいと脅かし過ぎたか?」
 腕組みをして、取りあえず復活するのを待つことにする。しかし、それが間違いだった。

「り……り……」
「ん?治ったか?副団長殿」
 その判断のせいで俺は……

「リョウーーーーーーーーッ!!」
「ぬおああああああああ!?」
 暴走したアスナに、散々(保護コードが発動しない絶妙な力加減で)ボコられましたとさ。

――――

「あつつ……ひでぇ……」
 結局、リョウは散々アスナに拳を打ち込まれた後、蹴りまで貰ってやっと謝罪した。

「何もあそこまで「リョウが悪い」おっしゃる通り」
 非難を漏らそうとするも、ギロリと鬼のような眼で睨まれれば、閉口せざるをえない。
機嫌の悪いアスナを相手取るのは分が悪いと判断したリョウは、仕方なく話題を変える事にする。

「そ、そういやキリトはどうしたよ?お前今日からあいつの攻略パートナーやるんだろ?」
「む……」
 そう言うとアスナは今度は拗ねたような顔になった。
不機嫌を隠そうともせずに、再びメニュー画面を開きながら話し出す。

「ギルドのフォワード指揮をしてるゴドフリーって人がね、一度実力を見ておきたいから。って言って、キリト君の事訓練に連れ出しちゃったの。……まったく、何が「ユニークスキル使いでも使えるかどうかはまた別」よ!キリト君の実力知って腰抜かしても知らないんだから!」
 ぶぅ〜。と文句を言い募るアスナに、俺は苦笑しながら返す。

「ははは、成る程な。確かにそりゃ面白くねぇだろうが……ま、一応前衛の指揮官なら言い分は最もだしな。そこはたった1日。副団長殿として、あちらさんの立場も組んでやれ」
 まあ彼女も分かってはいるのだろう。少々唇を尖らせてはいるものの、小さな声で返答。

「わかってるわ……だからこうやって待ってるんじゃない」
「そりゃそうか。うん。偉いぞ。お嬢ちゃん」
「からかわないで」
 なんかこのやりとりも定着してきたな。

「でも、少し別の心配もあるんだよね……」
「あ?」
 再び俯き、今度は純粋に心配そうな顔でアスナは呟く。

「キリト君のパーティをさっきからずっとモニターしてるんだけど……パーティにクラディールがいるのよ」
「はぁ!?あの油髪がか!?」
「うん…………」
 なに考えてんだ……そんな事を言っている内に、アスナがウィンドウを操作し、アスナのメニューに表示されている物が、俺にも見えるようになった。
そこには、見覚えのある地形を映した地図と、その中心に四つの光点が映し出されている。

「ゴドフリーって気はいい人なんだけど、少し抜けた所もあるから……たぶん、同じギルドになったんだから仲良くしろーとか、そう言う事だと思うんだけど……」
 言いたい事は分からないでもないが、そうそう簡単にあの二人の関係が改善されるとも思えない。
いや、キリトはともかく、あのクラディールと言う男はキリトと和解しようなどとは考えないだろう。
むしろ毒とか盛ってきそうな感じがする。
まぁ、勘だが。

「んー確かに心配だが……なぁ?こいつら今フィールドだが、戦闘にしちゃ全然動かなくねぇか?」
「あ、これは多分小休憩だよ。もうお昼だし」
「あー、思い出したら腹減って来た……」
 アスナに、「食べてないの?」と聞かれ、「お前んとこの団長の呼び出しでな」と答える。そのままふとアスナの前に表示されるマップ画面に目を凝らすと、四つの光点の内ゴドフリーとクラディールを示す光点がかなり近くに並んでいる事が分かった。
これだけならば、特に問題も無く俺達は無視しただろう。

 クラディールの前にあった、ゴドフリーの光点が消えさえしなければ。

 次の瞬間、俺は一瞬何が起きたか分からなかった。
いや、突然ゴドフリーの表示が消えた事もその原因の一つではある。それは間違いない。
ただそれ以上に驚いたのは、俺の視界に確かにあったはずのアスナのメニューウィンドウが、いきなりブレておれの視界から姿を消したからである。アスナの姿と共に。

「へ?って早っ!?」
 周囲を見渡すと、既に百メートル近く遠くに点となって行くアスナの姿が見えた。向かう先に有るのは恐らく街の西門。
さしずめ「彼氏の危機!」ってところか……

「っと、こうしてる場合じゃねぇな」
 噂をすればなんとやらとも言うが、まさか本当にクラディールはやったのだろうか?
そう思い、俺も西門の方へと向かうためそこいらの建物の屋根の上へと跳躍しつつメニューを呼び出してキリトの現在ステータスを確認する。するとそこには、HPバーの周りが普段ならば存在しないはずの緑色に点滅する枠で覆われているキリトのステータスが表示されていた。

「麻痺か!」
 成程道理で全く動かない訳だ。
HPバーに対する緑色の枠は麻痺を意味しており、その効果は一部を除いて一切の行動が不可能になると言うSAOに置いてはこれ以上無いほどに恐ろしい異常状態だ。
これまでも多くの犯罪者プレイヤーが利用し、人命を奪ってきた犯罪《ヤツら》の常套手段でもある。
 とにかく、急がなければならない。
キリトのHPが消滅するのが先か、俺とアスナ(と言うかアスナ)が辿り着くのが先か。
時間との勝負が始まった。

────

「ったくあの娘は何でこうも先行するか……ね!」
 五十五層のフィールド。荒野の中を、再び地面を蹴って跳躍する。
アスナの姿は、荒野の向こうへと消えてとっくに見えやしない位置まで行っている。
二人の位置から状況を確認したいが、メニューを操作する時間も惜しい。

 元々、跳躍移動は大して長距離の移動に適していると言う訳ではない。
早いのはどちらかと言えば跳躍した瞬間だけで、長距離移動のために少し高くまで上がってしまえば下降時はろくにスピードも出ない、唯の重力任せになってしまう。
まぁ、それでも俺が地べたを走るよりはよっぽど早いのだが。

 また、兄弟結晶も使いたいところだが今は使えない。
実はあの結晶、一度使用するとその後ピッタリ二十日間の待機時間が課せられていて、俺はあのグリームアイズ討伐日の数日前にキリトに呼び出されて移動が億劫だったと言う凄まじく下らない理由で使用してしまい。現在待機期間なのだ。
最近これに関して自分の浅はかさを呪う事が多い気がする。

「ああもう!頼むから間に合ってくれよ!」
 頼むって誰にだ?誰かにだ。

────

 結論から言おう。
リョウは間に合わなかった。

 あの後、リョウはで跳躍を続けたものの、かなり遠くまで行っていたキリト達には中々追いつく事が出来ず、追いつき、丘を越えて見える位置まで来た時には全てがおわる瞬間だった。

 見えたのは、何故かアスナがへたり込み、左腕を無くしたキリトとクラディールがその眼前で身体を密着させていると言う奇妙な光景。
良く見ると、クラディールの懐に入り込む様な形で身体を近づけているキリトの右腕は、その相手の腹を貫通しており、五指をそろえた手が、クラディールの背中から見えていた。

『エンブレイザーか!』
 体術スキルの一つで、効果は今見えている通り、いわゆる「抜き手」と言うやつである。
比較的体術スキルの低い奴でも使える技で、殆どノーモーションで繰り出せるため、咄嗟の攻撃には向いている。

 リョウがそこまで理解した所で、クラディールはポリゴンの破砕音と共に砕け散った。
ポリゴンに圧されるように仰向けに倒れたキリトが心配になり、もう一発跳躍。キリトとアスナの間に着地する。

「無事か!?」
 駆け寄ると、空を見上げていたキリトは首だけを動かしてリョウの方を見る。

「兄、貴……?」
「ああ……すまねぇ。間に合わなかったみてぇだな」
 無事な姿を見て安心したのもつかの間。リョウは表情を曇らせる。
なるべくなら、義弟や友人にはなるべく殺しをさせたくは無かった。そのため、どうしてもこうなる前にかけつけられなかった事に罪悪感を感じずには居られない。
しかし当のキリトはと言うと、即座に首をぶんぶんと横に振った。

「何で兄貴が謝るんだよ。むしろごめん。また心配かけたよな……」
「いやまぁそれは毎度のことだから」
「うぐっ……」
 さっきまでのシリアスな空気はなんだったんだよ……
とか何とか呟くキリトに、ようやくリョウは笑顔をこぼす。このままだとまた無用な悲観を義弟に感じさせる事になる事に気付いたのもあるし、何よりまだ罪悪感が消えたわけではないにしろ、取りあえずは義弟が無事であったのが嬉しい。

『おっと、そうそう……』
 笑いながらリョウはこの場に居る今回一番の功労者へ礼を言っていない事に気が付く。今回ばかりはリョウも頭を下げなければならないだろう。
何しろ彼女がいなければ、今頃キリトはポリゴン片だっただろうし。
その彼女……アスナに礼を言おうと、リョウはキリトから目を外し振り返る。
しかしながら、栗色の長い髪を持つ少女は、自分の方を向いたリョウと目が合ったとたんに、顔を俯かせてしまった。

『アスナ……?』
予想外の反応にリョウは少なからず驚く。しかし直ぐに、その原因に気が付いた。

────

『あぁ、自己責モードか』
 推測だが、彼女の弱点。
やたらと自分への責任を重く感じてしまう所の暴走が、また始まったのだろうと俺は予想する。
確かにクラディールとキリトのトラブルの中心にアスナがいるのは確かだろうが……

「はぁ……」
「兄貴?」
 思わずため息をついてしまう。
まったくもって不毛だ。此処からアスナがまたしても責任を感じた所で、一体何になると言うのか。
自身に責任をともめるその精神を、俺は決して否定するつもりは無い。反省は絶対に必要なことだ。しかし過剰な反省は前進する事の妨げにしかならない。

『ったく……これじゃラフコフの時と同じじゃねぇか……』
 状況的にはあの時と極近い。
違うのは……

「キリト」
「え?」
 此奴だ。

「先帰る。それとな……」
 別になんかアドバイスができる訳じゃないんだが……鈍いからなぁ、此奴。

「なんつーか、まぁがんばれ」
「……はぁ?」
「じゃな」
 会話の終わり方が不完全燃焼な感じがしたが、恋愛経験等皆無の俺にこれ以上何を言えと言うのか。
知ってる人がいたら教えてくれ。10……いや、20コル出そう。

「あ、ちょ……」
「転移、コリニア」
 一瞬で取り出した転移結晶に命じ、俺は今日の昼飯を食べるべく、75層へと跳んだ。
 
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