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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  三十七話 いずれ訪れる日へ

 結局、キリトはアスナにケイタが自殺をしたことまでは話した。
思い出すことすら苦痛であろうその記憶を此奴がそこまで話す事が出来たのは、それだけでも評価に値する事なのだが……それだけの整理が此奴の中でも付いたと言うことなのだろうか?

「あの時、俺がレベルをみんなに隠すような真似さえしていなければ、あの罠の危険性は納得させられるはずだったんだ。だから……ケイタや、みんなを殺したのは……俺だ」
「…………」
 おれもアスナも、一言も言葉を発しない。
 アスナが何を考えて居るのかは正直分からないが、リョウに関して言えば、彼はこの件に関して一切キリトを擁護するつもりもなければ、逆に責めるつもりもなかった。
というか、出来ないのだ。

 キリトがレベルを隠していなければ、恐らくは黒猫団の壊滅は容易く回避できただろう。それは事実であり、擁護などしようも無い間違いなくキリトの罪だ。
 だが同時に、あの時それをみんなに告げることによって起こる自分への被害を恐れたキリトを責める事もリョウには出来ないのだ。
誰だって懐疑的な視線で見られる事など願い下げに決まっているし、ましてキリトは他人との繋がりに対してとびきり臆病な部分のある人間である。
それを知っていて、しかも自分にも責任が有るのだから、責めることなど出来るわけがない。

 そして部屋の中に、重い沈黙が降りる……キリトは頭を垂れて、まるで判決を待つ被告人のように押し黙ったままだ。

 おそらくは、アスナがキリトを責める事は無いのだろう。
彼女は今のキリトを心から信頼しているし、キリトが優しい上に、臆病すぎる人間だと言う事も恐らくは理解している。
しかしそれを踏まえたうえでも、唯の慰めの言葉では、恐らくキリトの芯までは届かない。例え今のアスナが、どれほどキリトの心と言う部分に近いとしても、それだけではだめなのだ。
しかし同時に何が必要なのかも、リョウには解らなかった。

 そうして三十秒位が過ぎた頃……不意に、アスナが座っていた椅子から立ち上がり、二歩程前へと進み出て、キリトの頬を包み込んで少し上げさせたかと思うと……自分の顔をその眼の前へと持って行った。
視線が交錯する中、アスナの口が開かれる。

「わたしは死なないよ」
 囁くような声だが、それはキリトの耳に、そして何よりも心に、しっかりと響いた事だろう。
続く言葉は……

「だって、わたしは……」
 リョウが想像もする事が出来なかった言葉だった。

「わたしは、君を守るほうだもん」
 そう言って、アスナはその胸のなかにキリトの事をそっと包み込む。それはさながら、我が子を慰める母親の様に……

『まったく……人の眼が有るのに大胆っつーか……』
 軽く呆れながら、リョウはそんな事を考える。
前から思ってはいたが、なかなかこの少女はアクティブな所が有るようだ。

『っま、これも女性特有の母性本能ってやつかねぇ?』
 今こんな事言うとちいと別な意味になっちまいそうだが……
そんな事を思いながら、リョウは偶然にも二人の視界に入らない位置にあったソファに腰掛け、腕を組んでニヤリと笑うのだった。

────

 夕日が沈みゆくアルゲード、その転移門へと俺とアスナは歩いていた。

「んじゃまぁ、またな。」
「う、うん……」
 あの後、ようやくと言った様子で俺の存在に気が付いた二人は顔を真っ赤にして慌てて離れ、爆笑する俺にひとしきり冷やかされた後、エギルに報告しようとする俺を大慌てで止めて何とか阻止。
で、それぞれ帰宅する事となって今に至る。

「あの、今日の事」
「分かってるって、誰にも言いやしねぇよあんなレアシーン」
「か ら か わ な い で!!」
 真っ赤な顔で再び主張するアスナに、おれはまたしても爆笑する。
アスナは拗ねたように前を向き、俺より幾分か速いスピードですたすたと歩き出してしまった。

「悪かった悪かった!そんな怒りなさんな、副団長殿」
「むぅ……」
 小走りで追い付き再び追いついてはみた物の、やはりこちらを向く気は無い様だ。
そんな事をしている内、転移門に入れる位置まで来た。
先に進み出る気で俺は若干前へと出ながら、アスナにかろうじて聞こえる程度の音量で呟く。

「でもまぁ……ありがとな。……あいつの事、よろしく頼むよ」
「え……」
「では!また会おう、騎士姫さん!」
「ちょ、リョウ!」
 最後まで聞かずにコマンドを発声。
転移する直前、アスナが驚いた顔をするのが見えたが、取りあえず無視しといた。

────

「帰ったぜ―」
「あ、おかえり」
 既に日も暮れて空が暗くなった頃、俺は我が家へっと辿り着いた。
台所には何時ものように黒髪を肩まで垂らした少女が、料理を作っている。

 我が家に帰りついた時、家の中に誰かがいるのと居ないので此処まで暖かさが違うのだと、この世界に来てから良く思い知らされる。

「?どうしたの?何か嬉しい事でもあった?」
「お、わかるか?」
 気が付けばそんな会話をしていた。多分、無意識のうちに微笑んでいたのだろう。

「んー、まぁ、飯食いながら話すさ。さてさて、今日のご飯は何ですかーっと」
「ふふふ……今日はね、ついに新しい調味料が完成したんだよ」
「何!?まさかお前……」
「えへへ、見てのお楽しみ」
 楽しそうに笑って台所へと向き直る少女……サチの背中を見ながら、俺は今日のアスナとキリトを思い出す。

 キリトの前でこんな光景が見られるその日も、そう遠くない。
そんな気がした。



Sub story 《少女の想いへ救済を》 完 
 

 
後書き
こちらで初めてこの作品を読んだ方々へ、一応宣言しておこうと思います。

ここまでまったくメインヒロインの影が見えなかったと思いますが、もうお分かりのことと思います。

このSAO──戦士達の物語のメインヒロインは……サチです。

ご意見ご指摘など心よりお待ちしております!
ではっ! 
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