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髑髏天使

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第五話 襲来その十一


「それでも縁は縁じゃがな」
「ではその縁をこれからも頼りにさせてもらう」
「酒を付き合うのならもっとよくさせてもらうぞ」
「酒か」
 酒と聞いて少し微妙な顔になった牧村であった。
「それは少しな」
「それは駄目なのか?」
「サイドカーに乗っている」
 これを話に出してきた。
「しかもいつもな。これで飲んでいれば」
「危ないのう」
「流石にこれで捕まっては話にならない」
 飲酒運転ということだった。当然ながらこれは犯罪である。今ではその責任はかなり重いものとなっている。牧村はこのことを言うのだった。
「それにだ。俺は少し飲めばそれで終わりだ」
「終わりなのか」
「どうも酒には弱い」
 ここでわかった牧村の意外な一面だった。
「甘いものは好きだがな」
「ではサイダーはどうじゃ?」
 博士はそれを聞いて酒とは違うものを出してきた。
「サイダーは好きか?」
「ああ」
 今度ははっきりと答えてきた。
「それはな。いける」
「そうか。ならそれでな」
「あとコーラも好きだな」
「炭酸飲料派か」
「意外か?」
「顔を見ればな」
 牧村の顔を見ながら述べてきた。
「そう思えるのう、確かに」
「とにかく酒以外ならいける」
「酒以外はか」
「基本的には甘党だが辛いのも好きだ」
「そうか。ではケーキでも用意しておこう」
「それは有り難い」
 こうは答えるがそれでもあまり嬉しくはなさそうにも聞こえるのはやはり彼の無愛想さ故だった。少なくとも初対面の相手にはそう思えるものだった。
「では今度来る時は楽しみにしておく」
「それでどのケーキが好きなのじゃ?」
 博士が今度尋ねるのはこれだった。
「ケーキといっても色々じゃが」
「ケーキなら何でもいい」
 牧村は率直に述べた。
「何でもな」
「そうか。ではチョコレートケーキはどうじゃ?」
「かなり好きだ」
 やはり大好物であるらしい。言葉が微かに動いたことからそれを読み取る博士だった。
「とはいっても他にもな」
「ふむ、わかった」
 ここまで聞いたうえであらためて頷くのだった。
「それでは一通り揃えておくとしよう」
「スライスしたセットをだな」
「デコレーションもいいがあれもよい」
 何気にケーキにも詳しいようである。
「それぞれの味が楽しめるからな」
「そうだな。ケーキの味わい方は一つじゃない」
「その通りじゃ。それではだ」
「ああ」
「勝って来るのじゃよ」
 戦いに対しての言葉だった。
「ケーキの為にな」
「そうさせてもらう。それではな」
「うむ。またな」
 最後にこの言葉を交えさせて博士と別れた。そうして約束の日に橋の場所に来ると。そこにはもうあの男があの場所に立っていた。
「やあ、時間通りだったよ」
「もう来ていたのか」
「丁度暇だったしね」
 牧村を見下ろして笑っていた。鉄筋の橋の上に腕を組んで脚を閉じて立っている。
「だからもう来ていたんだよ」
「暇だったのか」
「うん、ゲームもクリアしたしね」
「ゲームをか」
「それにこのゲームの方が面白いみたいだし」 
 口の両端を吊り上げて笑ってきた。
「だからね。余計にね」
「そうか。ではゲームを」
「はじめる?もう」
「その為に来た」
 烏男を見上げつつ言葉をかえした。
「その為にな」
「いいねえ。その言葉」
 烏男は己の背に太陽の光を感じつつ述べた。それは夕陽であり赤い太陽が輝いている。赤い太陽にはもう熱はなくただ彼を背中から照らしているだけである。長い影が青いアスファルトの上に描かれている。それは牧村の影もまた同じであった。橋の鉄筋の影もそこにある。 
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