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髑髏天使

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第五話 襲来その九


「ろく子君」
「何でしょうか博士」
「君は本当にズボンが好きじゃな」
 博士はそのろくろ首をこう呼んでしかも服の嗜好にまで言及していた。
「スカートを穿いておるのを見たことないぞ」
「動き易いからです」
 そのろくろ首はにこりと笑って博士に答えた。
「いざという時にも」
「そうか」
「スカートはそうはいきません」
 ろくろ首はどうやらスカートが嫌いであるらしい。牧村は横で話を聞いていて心の中でそう思った。しかしそれを口に出すことはない。
「それに殿方の視線を集めてしまいますし」
「それがいいのではないのか?」
「私は好みません」
 丁寧だがいささか事務的な感じの言葉であった。
「ですから」
「ふむ、色気がないのう」
「色気よりも動き易さです」
 あくまでこれにこだわるろくろ首であった。
「私はあくまで教授の秘書ですのね」
「まあよいか。わしもそろそろ百歳じゃ」
「八十ではなかったのか?」
「年齢はまあ大した問題ではない」
 牧村の問いに平気な顔で返す。
「それはな」
「そうなのか」
「実際のところわしはあまり女性というものには興味がないのじゃよ」
 ぱらぱらと文献をめくりながら牧村に述べる。
「あまりのう」
「興味がないのか」
「ずっと学問一筋じゃった」
 それは風貌からも察することができる。少なくとも博士の風貌は学者以外には見えないものである。そこに異様という単語がつくにしろだ。
「子供の頃からのう。色々勉強したものじゃよ」
「色々とか」
「うむ。学んでもう百年か」
「そろそろ百歳じゃなかったのか?」
 また博士の言葉に突っ込みを入れる。
「確か。今さっきは」
「だからじゃ。年齢のことはあまり関係がないのじゃ」
 こう言って話を強引に進める博士であった。
「それはな。まあ長い間勉強し続けておるのは事実じゃよ」
「そうか」
「今もな」
 話は現在進行形であった。確かに今も文献を見ている。この言葉は嘘ではなかった。
「そうじゃよ。一生勉強じゃよ」
「家族はいないのか」
「おるよ」
 素っ気無く牧村に返してきた。
「ちゃんとな。おるぞ」
「いるのか」
「かみさんが一人じゃ」
 やはり素っ気無い言葉だ。
「もう寄り添って七十年は超えとるかのう」
「博士ってね。これでも愛妻家なんだよ」
「そうそう、何だかんだで家にいる時はずっと二人だからね」
「これこれ」
 横で言う妖怪達を窘める。
「そんなことを言うでない。プライベートじゃよ」
「そのプライベートが面白いのに」
「博士のケチ」
「少なくとも家族はおるぞ。子供や孫もな。曾孫、玄孫までおるわ」
「博士に家族がいたのか」
 牧村は今度は驚きを顔に見せていた。魔物達と見る時よりもそれは強かった。
「何と・・・・・・」
「わしだって人間じゃぞ」
 あまりそうは思えない言葉だった。
「ちゃんとおるわ」
「ううむ」
「しかも恋愛結婚でね」
「あの時は凄かったよね」
「あまり女に興味がなかったのじゃなかったのか?」
「だから。あまりじゃよ」
 言い訳じみた言葉になっていた。 
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