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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  二十八話 第七十四層攻略中

 次の日、俺は九時頃に何時ものように現在の最前線。
第七十四層の転移門広場へと降り立った。のだが、そこに珍しく一人でただ突っ立っている黒衣が一名。

「ふあぁぁぁぁぁぁ……」
「……ねむそうだな、キリト」
「おぉ兄貴か、おはよう」
「おはよ。ってアスナ待ちか?お前は」
 恐らく、昨日のメッセの通り、二人で迷宮区へと出かけるのだろう。
聞いてみると、案の定キリトは首を縦に振り、眠たそうな目の上で眉をひそめながら事情を話しだす。
 曰く、呼び出された時間に来たは良いものの、提案した本人がまだ来ておらずしかも何故か昨日の夜は寝無かったため、寝不足で眠い。段々待つのもつらくなってきた。つうか帰っていいか。

「いや、最後のは駄目だろ一応確認取らなきゃ」
「だってなぁ……メッセ送っても返事来ないんだぜ?」
「それこそおかしいだろ?あの委員長タイプが連絡無しで約束の時間に遅刻なんて」
「はぁ、それもそうなんだよなぁ……」
 以前なら彼女は会議等に少々遅刻しただけでも散々怒っていたのだ。
あの性格は恐らく根本から来るものであり、今は丸くなって俺の遅刻にもそこまで厳しくは無くなったが、それでも自分が何かしらの定刻に遅れることなど、少なくとも俺やキリトは見た事が無い。

 俺の後ろからその声が聞こえたのは、その時だ。

「きゃあああああぁぁ!?よ、避けて!?」
「んお?おっと」
「な、うわああああ!?」
 簡単に説明しよう。
後ろから何だか必死な声が聞こえたので、反射的にその場を右に退いた所、その場所を突如跳んできた白い何か……もとい誰かが通過。
俺が避けた結果その進路上に断つ事となったキリトに激突。白い誰かがキリトに覆いかぶさるようにして二人とも転倒。
 まぁこれは俺の推測だが、俺の後ろに有るのは転移門で、この白い誰か……て言うかアスナはいきなり後ろから吹っ飛んできたから……様は転移門に跳び込みながら転移したのだろう。
 中々アクティブな女だ。

 さて、そんなこんなしてるうちにいきなり押し倒されて目を回したキリトに意識が戻ったらしく、自身の上に居るアスナを(キリトは誰だか分かって無いだろうが)どかそうと腕を伸ばす……ってその位置を押すのはちょっと不味いんじゃ……

「おいキリト待っ「や、や────っ!」ありゃりゃ……」
 一歩遅かったようだ。
確認なしにキリトが腕を伸ばした先に有ったのは、アスナの胸であった。
当然、状況が状況でも女性なら誰だっていきなり胸を触られたら反射的に自己防衛に走る。
アスナもその例に漏れず、キリトの身体を地面に叩きつけて(と言うかむしろ頭も叩きつけてたが)その反動を利用して起き上がりつつ座り込む。
 続き、覚醒したらしいキリトも上半身を起こし……アスナと目があった。

「や、やぁ……おはようアスナ」
『その前に言うべき事があんだろ阿呆……』
 呆れながらひきつった笑いを浮かべたキリトを一瞥した後アスナに視線を向けると、目に墳怒及び羞恥と……ちょっと殺意も交じっている。
ちなみに、ちょうど二人の中間に居る俺にキリトが助けを求める視線を向けているのは無視だ。

 アスナが軽く武器すら抜きそうだったのでそうなったら止めるかな。とか思っていると、再びアスナの後ろの転移門が青く光り始めた。
途端に、アスナはキリトの後ろへと身を隠す。なんだなんだ?

「なん……?」
「あぁ?」
「…………」
 俺達三人が見つめる中、転移門の中から姿を現したのは赤と白のユニフォームに身を包んだ見覚えのある油髪の男。
昨日アスナの護衛をしていた。クラディールと言う男だった。

 クラディールさんは出て来て早々、キリトとその後ろに隠れるアスナの姿を見止め、目の中に墳怒と憎悪を一斉に宿らせる。
まぁ、美人だからなこいつは。
そして……

「ア……アスナ様、勝手なことをされては困ります……!」
 成人男性にしては、おおよそ高いと言えるだろう声でそんな事を言い始めた。
聞きようによっては、興奮してヒステリックになっているように聞こえなくも無い。

「さあ、アスナ様、ギルド本部まで戻りましょう」
 昨日も感じたんだが、何も上官だからって「様」付けせんでも……結構熱狂的なファンなのだろうか?

「嫌よ、今日は活動日じゃないでしょ?……そもそもアンタ、なんで朝から家の前に張り込んでるのよ!?」
 どうやら怒っているのはクラディールさんだけでは無くアスナもらしい。キリトの後ろから結構な剣幕でクラディールさんにまくしたてている。
……ていうかお前らキリトを挟んで口げんかしてやるな。本人が精神的にきつそうだ。

「ふふ、どうせこんなこともあろうと思いまして、私一ヶ月前からずっとセムルブルグで早朝より監視の任務についておりました」
 って、それ護衛っつーか……いや、もしかしてそうしなきゃいけない理由があったのか?
それでクラディールさんはわざわざそんなアレ紛いの事を?

「それ、団長の指示じゃないわよね……?」
 アスナが固くなった意識を無理矢理弛緩させようとするかのように声を絞り出すが、クラディールさんは得意げにこう答える。

「私の任務はアスナ様の護衛です!それには当然ご自宅の監視も……」
「ふ、含まれる訳ないでしょバカ!」
 アスナが台詞をさえぎってそう言った瞬間、クラディールさんはより一層目の中の墳怒を濃くしたが、正直な所それは流石に逆ギレと言うやつだろう。

 話を聞くに、ようはクラディールさん……もとい、この油髪のおっさんは必要も無いのに護衛の任務を口実にして本人の許可も得ず勝手にアスナの家の前に張り込み、アスナのことを監視していたわけだ。
前言撤回。このおっさん、どうやら唯のストーカーらしい。

 そんな事を思っている内に、アスナはクラディールによって無理矢理連れて行かれそうになる。
が、今回に関しては俺はのんびりと傍観していられる。
なぜなら……

「悪いな、お前さんトコの副団長は、今日は俺の貸切りなんだ」
 今の騎士姫《ヒロイン》さんには、俺の知る限りでもトップレベルの剣士《ヒーロー》君が付いているからだ。

 言いつつ、キリトはアスナを掴んでいるクラディールの右手首を自身の右手で掴む。
これまで眼中にも入れずに無視していた相手に邪魔されたのが気にくわなかったのだろう。
クラディールは掴まれた腕を無理矢理に振りほどくと、より一層の憎悪と墳怒を宿した眼でキリトを睨みつける。

 それをさらりと受け流し、キリトは更に言葉を続けていく。

「別に今日はボスやろうてわけじゃないんだ。アスナの安全は俺が責任もって保証するさ。本部戻るならおひとりで行ってくれおっさ……クラディールさん」
『おい、今俺の台詞っぽいのが聴こえたんだが……』
 どうも我が義弟は最近俺の言葉を真似するようになったらしい。
後で注意しておこう。

「ふ、ふざけるな!貴様の様な“雑魚”プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるかぁ!わ……私は栄光ある血盟騎士団の……」
 “雑魚”の部分を妙に協調して行ったクラディールだったが、相手の実力をよく知りもせずにそう言う事はあまり言うべきでは無いと思うぞ。
それに……

「「あんたよりはマトモに務まるよ(だろ)」」
 思わず本音がボソリと漏れてしまったが、聴こえなかったようだ。
しかしながらキリトは真正面から言ったため、クラディールはついにキレて、キリトに決闘《デュエル》を申しこんでしまった。

 結果は、言うまでも無くキリトの勝利だ。
しかも、武器をぶつけ合うと稀に発生する武器破壊《アームブラスト》を狙ってやると言う、中々に派手な勝利である。
ちなみに言っておくと、実はこれ、キリトの得意技だったりする。

『んじゃ、邪魔者は消えるとしますかね……?』
 無事に二人で攻略に出る事となったキリトとアスナがか会話を交わす姿を見つつ、俺はその場から立ち去り迷宮区へ向けて歩き始める。
これでまたあの二人の距離も縮まり、俺により一層の楽しみを与えてくれるだろう。

 しかし……そんな楽しみな事を思いつつも、俺の中では何故か妙な不安が靄となって渦を巻き続けていた。

『貴様……殺す……絶対に殺すぞ……』
 デュエル終了直後、クラディールがその言葉と共にキリトに向かって放った殺意に満ちた眼光。
それが、まるで網膜に焼き付いたように、迷宮区に行くまでの間の俺の脳からはなれなかったのだ──

────

七十四層 迷宮区

「グルルル……」
 リョウは今、背中の毛並みをオレンジ色の炎によってと燃え上がらせた、赤い毛並みでサーベルタイガーの様な獣。
固有名《インフェルン・ファング》と向き合っている。
防御に置いてはこの階層ではさほどの物ではないが、獣型特有の素早さに加え、高い攻撃力を持った、集まると少々厄介な相手である。
実際、数日前に五体で取り囲まれた時は流石に肝を冷やしたものだ。

 しかしながら、現在俺の前に居るのは此奴一体。
初めは三体居たのだが、既に内二体は冷裂の凶刃の前に沈んだからだ。
そして先程言ったように、確かにこのモンスターは複数集まれば厄介だが、逆にいえば複数集まらなければ極端に注意すべき相手でも無い。

「ガルアァ!!」
「ふっ!」
 得意の俊敏さを活かしてリョウの懐に飛び込もうと跳びかかって来た猫(虎?)に対し、リョウは迎撃のため冷裂を突きだす。
が、何の捻りも無く馬鹿正直に放った突きなど、そうそう当るものでも無い。当然のようにそれは空を突き、突きを右に避けたファングはその勢いのまま一気にリョウの右肩に喰らい付こうとする。
……が、

「慣れたんだよ、その動きは」
 そう言いながら、接近してくるファングに二段目の迎撃として用意しておいた右足の下段蹴りを一発。
足技 初級単発技 下蹴《かげ》

「ギャフッ!?」
 武器攻撃より攻撃力の低い体術系のスキルとは言え、異常な筋力値にから放たれたそれは、ファングの赤い体を易々と蹴り飛ばす。
足技の、それも基本技と言う非常に技後硬直の短いスキルを使ったリョウの身体は即座に硬直から回復。
蹴られ、冷裂の射程距離内ギリギリの位置に身体を叩き付けたファングに向かって狙いを定め、蹴りを放った時振り上げて置いた冷裂に力を込める。
赤黒いライトエフェクト──

「割れろ、猫科動物」
本日八回目の戦闘が、終わりを告げた。

────

「ふぅ、付いたー付いたー」
 いったん迷宮区の上層の方へと登ってから、休憩のため再び中間層あたりに位置するこの迷宮区の安全エリアへと戻ってきたリョウは、昼食が少々遅くなった事も含めて、小さくため息をつく。

 それと言うのも、何故か上層からの帰り道に限ってモンスターとのエンカウント率が高く、この安地に戻って来るだけでなんと四回もモンスターと遭遇してしまったのだ。

『そろそろ、この迷宮のボスも他の連中に見つかっておかしくない時期か……』
 そんな事を思いつつ、休憩のため座るスペースを確保しようと、安全エリアこと殺風景な広間の左端の壁へと近寄づいて行く。と、

「うわあああああああ!!」
「きゃあああああああ!!」
「何ぞ!?」
 ものすごい悲鳴を上げて、一組の男女が安地へと飛び込んできた。
片方は白、もう片方は黒。誰だかは、確認するまでも無い。

「おいおい……なんだ幽霊でも見たのか?お前ら」
「リョ、リョウ……」
「近い、かもな……」
「はぁ?」
 疲弊した様子で苦笑を浮かべる二人に、リョウは眉をひそめて事情を尋ねた。

…………

「はあ~、悪魔型ボス、ねぇ」
「あぁ。基本的には二足歩行の人型っぽかったけど……頭の部分が山羊だった」
 神妙な顔で言うキリト。

「ふむ、そういやどっか聞いたこと有るな。悪魔は山羊の姿だとか何とか……なんだっけ?あれ」
「あー、どこかで聞いたこと有るけど……ごめん。思い出せないわ」
 アスナに問うが、彼女も思い出せなかったようだ。
再びキリトの方に向き直りリョウは少しでもボスの情報を得るため疑問を投げかける。

「で?武装とかは?見たんだろ?」
「ああ、見た限りはでっかい両手剣が一本だったけど……たぶんそれだけじゃないだろうな」
「特殊攻撃有りってわけか。何して来るんだろうな……?一撃必殺で魂とられるとか?」
「冗談じゃないわよそんなの……」
 ため息を突きながらアスナが呟く。まぁもしそんなんだったらゲームバランスが根底からひっくり返りかねないので、たぶんあり得ないのだが。
そんな神妙な話の雰囲気をブチ壊そうとするかのように、リョウが口角をにやりと釣り上げる

「っにしても……さっきのお前らの必死さは面白かったぜぇ?」
「うぐっ」
「う……」
 勿論、目の前の二人をからかうために、だ
しかし……

「そ、それより!もう三時だし、お昼にしましょう!」
「えー「そうだな!そうしよう!腹ペコだ!!」……っち」
 アスナの咄嗟の提案により、阻止されてしまった。
小さく舌打ちをしはしたものの、食事はリョウとしても望むところだったので、特に文句を言わず従い、床に座り込む。

「そういやお前らの飯なんなの?」
「なんなのって?」
「いや、だってせっかく料理スキル上げてる奴が一緒に居るのに、いつもの黒パンで済ます気かと思ってな?」
 言ってみた途端、キリトがはっとしたようにアスナの方を向く。
そこには、得意げな様子で胸を張りながら笑う職人《コック》の姿

「ま、まさか手作り……?」
「と、言ってる腹ペコ剣士がいるが、どうなんだ?」
「……(ポチッ)」
 尚も無言を貫きつつ、アスナはメニューウィンドウを操作して手に付けていた白い手袋をはずすと、代わりとばかりに手の中に小さめのバスケットを取り出した
リョウがちらりとキリトの方を窺うと、その眼には大きく歓喜の色と、ついでに少々打算っぽい光が宿っていた。

『何考えてんだか……』
「……なんか考えてるでしょ」
 考えたのとほぼ同時にアスナがそう発したためリョウは心を読まれたのかと相当に驚いたのだが、それがキリトに向けられた言葉なのだと理解し少々安堵する。

「い、いや、そんなことは……「嘘つけ」兄貴!」
 否定の言葉をさえぎると、結構な目で睨まれた。
もはや眼を読まずとも、キリトが何を言いたいかは分かる。「余計な事を言うな」と。
それよりも早く食おう早く食おうと、キリトが急かすのを見てかアスナは苦笑しながらバスケットを開く。

「へぇ……」
「おおぉ……」
 リョウとキリト(特にキリト)は感嘆の声を漏らす。
中に入っていたのは、丸いパンに焼いた肉やレタス(っぽい)等の野菜を挟んだサンドウィッチだった。
胡椒に近い感じのスパイスの香りが鼻腔を擽り食欲を増進させる。

 見ていると、いきなりキリトがそれを手に取り喰らい付いた。

「“いただきます”くらい言わんか阿呆」
「(ばくっ)(もぐもぐ)減ったから(ばくっ)」
「あー分かった分かった、呑み込んでから話せ。……それよか四つあるんだな。一個くれよ」
「図々しいって言うか……そこで“一口”って言わないのがリョウだよね……いいわ、私一個で良いから。何時でも作れるし」
「サンキュー。んじゃ、いただきます」
 自身で言った通りにしっかり挨拶してから、一口大きくかぶりつく。
咀嚼……嚥下……

「う……うまい……」
「こりゃ、うまいな」
 サンドウィッチからは、明らかに現実世界の某ハンバーガーチェーンの物とほぼ同じ味がした。
これは、流石に驚かざるを得ない……

 そんな事を思って思わず口から言葉が出るのを自覚しつつアスナの方を見てみると、キリトの方を見つめるその顔には歓喜と少々の安堵が浮かんでいる。おーおー可愛らしい事で。

 その後も、アスナが醤油やマヨネーズなんかを開発していた事に驚いたり、俺が同居人の特製ガトーショコラを振るまい、今度製作者に会わせてほしいとアスナが真剣な顔で言ったりするのをききながら、少し遅めのランチタイムは過ぎて行くのだった……
────

 アスナとキリトの会話を聞きつつ、これまたアスナの調合だと言う冷たいお茶を飲んでいると、ガチャガチャと鎧が動く時特有のやかましい金属音を響かせながらプレイヤーの一団が安地に入って来た。
反射的に顔を確認して、それが顔見知りである事に気が付く。

「おーっすクライン、元気かー?」
 入ってきたのは、俺+キリトの親友兼、攻略組小規模ギルド[風林火山]リーダー。カタナ使いのクラインだった。

「おぉ、リョウ、キリト!暫くだな」
「まだ生きてたか、クライン」
 ニヤリとしながらそう言ったキリトに、クラインは苦笑で返す。
なんだかんだいって、此奴とも長い付き合いだ。
俺達二人はソロとして、此奴はギルドリーダーとして、今も立派に日々攻略に励んでいる。

「あいっ変わらず愛層の無ぇ野郎だな、今日は珍しく二人か?」
「よく見ろ。三人だ。正確には二人と一人」
 俺がそう言うと、クラインはちょうど俺の影となって顔が見え辛くなっていたアスナの方へと目を凝らす。

「ほぉ、そりゃほんとに珍しい……な……?」
 瞬間、クラインのデータが……もとい思考が完全にフリーズした。
ちなみに言っておくが、このフリーズに関してナーヴギアやその他のデジタル的なことは一切関係ない。
 そんなことを思っている内、キリトが仲介となってクラインとアスナの紹介を始めた。
それに対し、アスナはちこりと頭を下げたが、未だにフリーズしたままであるクラインは全く反応なし。
キリトがイラついたように肘で脇腹をつつく。

「おい、何とか言え、ラグってんのか?」
 この「ラグってんのか?」と言うのは、此処がオンライゲームであると言う特徴から来る皮肉である。

 ナーヴギア以前のネット回線を使用するオンラインゲームには、一つのエリアに対しプレイヤーが集中する等の事態により、サーバー側の処理速度が追いつかず他のプレイヤーに比べて入力したコマンドが発動するのが遅くなったり、チャットの表示が遅くなる「ラグ」。またはサーバーから強制的に落ちてしまう「サバ落ち」等の不具合が発生する事があった。
 しかしながら、ナーヴギアや高性能エラーチェック&ゲームバランス調整システムである「カーディナルシステム」使用したSAOにはこの手のトラブルは殆ど無い。即ち、「起こらないはずのラグを起こしているのか?」と聞くのがこの皮肉なのである。

閑話休題

 聞かれたクラインはと言うと、突然頭地面に打ち付ける気なのかと思われるような勢いでお辞儀をする。

「こ、コンニチハ!クライントイウモノデス!二十四歳独s「余計な事言わんでよろしい」」
 訳のわからん事を口走ろうとした阿呆の台詞を途中で遮る、途端に風林火山メンバーも我先にと自己紹介を始めた。
えーい、むさ苦しい……
そう思い、苦笑しながらふとキリトの方を見ると、少々瞳に暗いものが見えたので声をかける。

「おい、キリト」
「あ、あぁ……まぁ、リーダの顔は別として、悪い連中じゃない事は保証──痛って!?」
 そこまで行った所でクラインに足を踏みつけられキリトは右足を跳ね上げた。
アスナは面白そうにクスクス笑い始め、俺はため息を突きながらまた苦笑する。

 その内、クラインが「どう言う事だ!?」といった様子で此方を睨んだので、面倒事が嫌な俺はキリトを指差して、

「あ、事情ならキリトに聞いてくれ。俺は知らん」
「ちょと、兄貴!?」
「キリト!どぉう言う事だぁ!?」
「おいクラインちょっと待て!兄貴!」
「自分で処理したまえ~少年~」
「ハッハッハッ」と笑う俺にキリトは裏切り者ぉ!とか叫んでいたが、知らん。

 そこにアスナが助け船を出す気なのか、進み出る。

「こんにちは。しばらくこの人とパーティ組むので、よろしく」
 前言撤回
火に油注ぎやがったよこの娘。……というか。

「結局今後も組むのか?」
「……そう進めたのはリョウでしょ」
 彼らに聞こえないようにボソリと聞いた俺に、同じく小声で答えたアスナ。
そう、実を言うと、今の提案を進めたのは俺である。……というか、昨日来たメッセージに、俺はそれぞれこう返したのだ。

To Kirito
Main いいじゃん。一人より二人だ。たまには組んでみろよ、騎士姫さんなら心配無いだろ。

To ASUNA
Main どうせならそのままの勢いで今後の攻略パートナーにでもなってみれば?

 まぁ、つまりは今の状況にもろに関係有るわけだが……どうなるかなぞ知った事ではない。

 そうこうしている間にも、キリトはクライン及び風林火山メンバーに詰め寄られ、たじたじになる……が、そんな和やかな時間は、新たなプレイヤーの一団の訪れによって終わりを迎えた。

『ん?』
 遠くから、やけにそろった足音が聞こえて来た近付いて来ているが……周り連中はまだ気が付いていない。
ちなみにこれは、《聞き耳》の熟練度が高い事によるスキル効果だ。聴力が上がり、隙理を使用しなくても有る程度通常よりも遠くの音を聞き取ることができる。
策敵を発動させてマップサーチをすると、十二個の光点が綺麗な二列縦隊を組んで此方に接近してきている。
これは…………

『軍、か?』
 そう思った所で、アスナも気が付いたらしく、キリトに注意を飛ばす。
軍の連中は、ちょうど入口から入って来る所だ。
 入ってきた軍の面々は相当に疲弊しているようだった。
身に纏った黒鉄色の鎧が重いと主張するように肩を落としている上に、足取りも重いし、剣士らしき六人のうちの五人は、腕に付けた城の紋章が描かれた盾を持つのが辛そうだ。

 俺達とは反対側の壁に停止した軍の連中は、他の十一人とは明らかにレベルの違う装備を付けた指揮官らしき男に、「休め」と言われると崩れ落ちるようにその場にへたり込んだ。
男は部下達の状態を情けなく思ったのか、睨みつける様な視線を送った後此方に向かって歩いて来て、俺達の前でヘルメットを外した。

 長身の身体の上に乗っていた顔は、短髪に、少々型物っぽい感じの厳しい表情をしていた。
歳は……二十代後半といった所ではなかろうか?いや、もしかしたら三十路に入っているかもしれない。
此方をじろりと一通り見まわした後、男は口を開いた

「私は、アインクラッド解放軍所属、コ―バッツ中佐だ」
 ……「軍」というのは通称だと思っていたのだが、どうやら正式名称になっていたらしい。
しかも中佐とは、佐官と言う事は軍の中でもそれなりの実力の持ち主なのだろう。という事も考えないではないのだが、それ以前に階級付けまでしているとは、意外と凝っているのだろうか?

 キリトも、礼儀程度に自身の名前と身分を明かす。
軽く頷くと、コ―バッツ中佐殿は突然こんな事を聞いてきた。

「君らはもうこの先も攻略しているのか?」
「……ああ、ボス部屋の手前まではマッピングしてある」
 言い方が横柄な時点で既にこの人物にあまりいい印象を抱けなくなった俺だったが、この後続いた言葉は、俺にさらに悪い印象を与えた。

「うむ。ではそのマップデータを提供してもらいたい」
「…………」
 何と言うか、流石に横柄過ぎやしないかと思う。
SAOの世界に置いて、情報は最大の武器だ。
まして未踏破層のマップデータともなれば、売る所に売ればかなりの金にすらなるものである。
それをさも当然だと言うがごとく「譲れ」とは……当然、納得のいかな言い草にクラインが反応し怒鳴る。が、
突然コ―バッツ中佐は顎を継いだしたかと思うと、演説の様な大声でしゃべりだした。

「我々は、君ら一般プレイヤーのために戦っている!」
 「ために」とか言われても頼んだ覚えは無いし、倒したボスの数もマッピングしたマップの距離も俺達の方がずっと多いし長い。
そもそも軍が未踏破層に出て来たこと自体一年ぶりくらいなのだが……しかもまだ続けるらしい。

って言うか……

「諸君らが協力するのは当然の「うるせぇ。耳に響く」な……」
 ギャーギャーとうるさいコ―バッツ中佐の言葉をさえぎって、俺は思わず声を上げてしまっていた。
言われたコ―バッツ中佐は一瞬呆けた様な顔をしたが直ぐに気分を害したように俺の事を睨みつける。だが、俺はそれをさらりと受け流してコ―バッ中佐が何か言うより先に喋り出す。

「中佐殿が何を言いたいかはよく分かった。マップデータはくれてやるからさっさとどっか行ってくれ。声が五月蠅くてかなわん。」
 実を言うと俺は昨日ボス部屋の前まではたどり着いており、そこまでのマップデータはちゃんと持っている。
部屋を覗くと言う暴挙は犯していないが。

「貴様……「ほら、送ったぞ。早く受け取ったらどうだ」ぐ……」
有無も言わさずに俺はマップデータをコ―バッツ中佐に送信し、その後は片手をひらひらと振る。
それでもまだ何か言おうとするコ―バッツに、俺は駄目押しの一言を放った。

「それと中佐殿。勘違いしないでほしいんだが、此処は何時もあんたらがご立派な精神で他のプレイヤーを護って下さってる中間層じゃねぇ。此処にいる一人一人が、この最上層で自分の身を守れる程度には強いって事だけは分かっててくれよ」
「く……失礼する!」
 コ―バッツ中佐は不快そうなな表情を隠そうともせずに乱暴に体をひるがえし、ボスはやめておけと言うキリトの忠告にもろくに耳を貸そうとしないで、乱暴な足取りで部下を引き連れ上層へと向かって行った。

「ったく……なにもあんな挑発じみた事言わなくても良いだろ?兄貴らしくも無い」
「そうか?……気付かない内に俺も最近ストレス溜まってんのかもな」
「会社員みたいね……」
「うるさいぞ、そこの白服」
 そんな事を、足音が聞こえなくなってから話し始めると、クラインが少々心配そうな声で、一言。

「……つーか、大丈夫なのかよあの連中……」
 すると、皆一様に真剣な表情をして黙ってしまう。
これは噂だが、どうやら軍の連中が上層階の攻略を再開するらしい、という話が、ここ最近広まり始めている。
先程のキリトとの話の態度から察するにも、どうやら彼らはそのためにわざわざこの上層階へやって来たのだろう。

「ふむ……しゃあねぇ、いっちょ様子でも見に行くか」
「……良いのか?兄貴」
「これで死なれてもなぁ……あ、お前らは先帰っても「そんなわけないでしょ」さいで……」
 アスナに言葉をさえぎられてしまった。
後ろに居るクラインや風林火山のメンバー達も首肯する。キリトの方を向くと……

「まぁ、これで帰って後でなんかあってもな」
と俺と同じような事を言って肩をすくめた。

 途中、出発前に、クラインがアスナにキリトのことをよろしくと言ったり、キリトがそれにギャーギャー言ったりなどの、面白い事もありつつ、俺達は第七十四層のボス部屋を目指し走り出した。
 
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