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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  二十六話 罪は誰に?

 殺人ギルド笑う棺桶(ラフィン・コフィン)との戦闘は、かなりの作戦変更及び混乱はあったものの、最終的に我が討伐部隊の勝利により終結。
それぞれの被害は以下の通りである。

討伐隊

死者 三名(DDA二名)(ソロ一名)
精神的負担により今後暫く戦闘続行不可となった者 二名

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)

捕縛者 十三名
死者 二十名
逃走者 一名

 尚、逃走者は[笑う棺桶]リーダーであるPoHであり、引き続き対象者の捜索、及び警戒に全力を尽くす物とする。

追記
 この戦闘に置いてオレンジ殺しの《ジン》と目されるプレイヤーが発見されており、本戦闘に置いては彼一人で十八名の敵オレンジプレイヤーを殺害している。
 本戦闘報告は対象への警戒が必要であると判断するが、当人は現時点でオレンジ以外のプレイヤーへの攻撃を行っていないことから、極端な行動の制限は不必要と判断するとともに、今後の攻略作戦に関して、対象の戦闘能力の有効利用を検討する事を同時に提案する。


ギルド 血盟騎士団 《Knights of the Blood》
殺人ギルド 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐作戦戦闘報告書より抜粋

────

第五十五層 主街区 グランザム
 鍛冶や彫金の盛んな街でもあり、その街の殆どの建造物が鈍く光る黒鉄によって作られているがために、別名《鉄の街》とも呼ばれるその街の一角。
街で最も高い鋼鉄の塔に、白地に赤の十字をあしらった旗をはためかせた建物の下。
攻略組最強と言われる、ギルド血盟騎士団の本部はそこにあった。

────

「君にしては珍しく、個人を保護する内容の報告書だね。アスナくん」
「……《ジン》が人格破綻者で無いことは事実です。個人的感情に関してはあまり含まないよう考慮したつもりではあります」
「そこに、君とジンが交わしたと言う「契約」を果たせなかった事に関する関係性はないと?」
「ッ……断言は、出来ません」
 ギルド内の一部屋。
 今、アスナの目の前には一人の人物が鎮座している。
 細い長身に纏うローブは、全体的に血盟騎士団の通常ユニフォームとは逆。
赤を中心に所々白い装飾が成された物を着ており、シャープな輪郭をした顔立ちは、大学の専門家だと言われてもあまり違和感の無い顔をしていると思う。
その表情は穏やかだが、しかしながらその瞳は全てを見通すような光を纏っているためか、見つめられるとどうにも落ち着かない。

聖騎士 ヒースクリフ
 KoB団長にして、アインクラッド最強のプレイヤーの一人とされる男。

 副団長と言う立場上、彼と相対するのに本来ならば精神的重圧は無い。
 しかしながら、今日に限っては別だった。
友人たる青年の、その処遇が自分の双肩にかかっていると言っても良い状況である以上、それは仕方がない事なのだけれども、やはり背中を流れる汗が不快である事に変わり無いように、裁判の結果を待つようなこの緊張もまた、心地よい物とは到底言えない。

「良いだろう。この報告書については私の方で今後の方針として幹部陣にも推奨しよう。私は彼と言う人物を知らないが、君の必死さを見る限り信用に足る人物の様だからね。退出してもらって構わない」
「!……有難うございます!」
 十二分に良い判断を告げられ、アスナは満面の笑みを浮かべて自身の上司に深い礼をする。
 そのまま身体を百八十度回転させ、部屋の扉に手をかけようとした所で、再び背中から声が投げかけられた。

「ちなみに、参考までにだが……何が君をそこまで必死にさせたのかな?」
 純粋な興味として投げかけられたその問いに、アスナは緊張しながらも振り向かず答えた。

「一度約束を破った以上、二度目は無いと思ったからです」
「……そうか。引き止めてすまなかったね。」
「いえ。……失礼します」
 扉を開き、外へ出る。
ゆっくりと扉を閉め、階段を下り、自身の個室に入ってから、アスナは扉に背中を預けてズルズルと床に座り込む。

「よかっ……たぁ……」
 《ジン》……リョウへの対応が厳しい物とならなかった事に心の底から安堵する。
一度目の約束は、結果的に自分達の力不足で破る事になってしまった。二度目の約束は……これで、何とかひと山越えた事になるだろう。
それでもまだまだ先は長いが……

 そんな事を思いつつ、アスナは小さくこぶしを握ってガッツポーズをし、ふと、約束したその時の事を思い出す……

────

 その時も、アスナは座り込んでいた。
戦闘が終結し、その後の被害状況の確認等が各ギルド、ソロプレイヤー間で終了。
現地解散により戦闘に参加した各プレイヤーたちが己々自身の本拠地へと散っていく中、疲れ果て、座り込んでいたアスナだったが……ふと、洞窟の入口へと歩いてゆく人影の中に、何人かの哀しみをあらわにした者達が目に留まる。
報告では、此方にも死者が三名出た。
彼らはきっと、その内の誰かの友人達なのだろう。

 しかし、本来あの状況では、この程度の犠牲で済まずともおかしくは無かった。
もしあの状況で、リョウが前へ出、敵の戦線を崩してくれていなかったら。そう考えるだけで、背筋に冷たい物が走る。

 しかし、本当ならばあの状況にだけはしてはいけなかったのだ。
まして、自分はキリトにまで……少しだけ、泣きだしそうになりながら俯いていると、不意に背中から声がした。

「よぉ、一応戦勝したってのに浮かねぇ顔してんな。騎士姫さんよ」
「……アスナ……」
 両方とも、聞き覚えのある声。
 出来れば聞きたく無かった声。
 だけど心のどこかで求めてしまっていた声。

 二つの声の主は、互いに自分の左右に座り込み、アスナの顔を覗き込む。
まだ涙を流してはいないが、それでも地面を見つめたままの自分の顔は恐らく泣きそうなものになっていた事だろう。
途端、キリトは困ったな表情をし、リョウにいたっては慌てて跳び退く。

「う……き、キリト、何とかしろ!お前にまかす!」
「はぁ!?ちょ、兄貴おい待っ……!」
 止める間もなくリョウはアスナ達から少し離れた場所へと移動し、無限ポットから直接何かを飲み始める。

「ったく……アスナ、大丈夫か?」
「ぅ、ん。大丈夫だよ。ごめんね、何か……心配かけちゃって」
「ん、いゃ、まぁ……」
 そこで会話が止まる。

 無言──互いの間の静寂によって出来上がる空気が刺すように痛い。
その内に、キリトは居心地悪そうに頬を掻き始めた時、不意に、アスナの口が本人の意思とは無関係に言葉を紡いだ。

「ごめんね……」
 再び先程と同じ言葉を繰り返したアスナに、キリトは焦った様に言葉を返す。

「い、いや、ほんと勝手に心配しただけだし、アスナがそこまで気に病む必要は……」
「違うの」
「へ?」
「違う。私、結局駄目だった。リョウとの約束は守れないし、私のせいでキリト君には人殺しをさせちゃうし、本当に駄目。どうしようもない位……どっちとも、絶対、絶対嫌だったのに……」
「アスナ……」
 徐々に語気が強まっていくアスナの言葉を、キリトは沈痛な表情を浮かべながら黙って聞いている。

「奴らが反撃してくるかもしれない事は予想出来てたし、もしかしたら迎撃の態勢を整えられてる事だって可能性として充分に考えておくべきだった……そうすれば……そうすればリョウとの約束も破らずに済んだ……彼に自分の事を更に殺人鬼だと思わせずに済んだ。私があの時迷わず剣を突けていれば、君に殺人の罪悪感を背負わせる事も無かった!私が……私……が……!」
 その先は掠れて声にならなかった。
 自分がもっと強ければ、迷いがなければ、しっかりしていれば、責任を自分に求めれば、それはキリが無いほど沢山出て来た。
 後悔ばかりが募り、段々と前が見えなくなってゆく。

しかし──

「おい、何でもかんでも勝手に自分のせいですモードにしてんじゃねぇよ。」
 イラついたような、そんな声が洞窟に響く。
 隣に居るキリトからではなく、正面から響いたその声に顔を上げると、そこには見慣れた浴衣姿の男がいた。

「自分の責任を反省して次に生かすのは悪い事だとは思わん。だがな、勝手に全部自分のせいにしてネガティブモードに入られてもこっちは対応に困るんだよ。キリトだって困ってんだろうが」
「ちょ、俺に振るのか!?」
「例えだよ。取りあえず、任せるって言った後すぐで悪いが……お前少し向こう行っててくれ」
「え、あ、あぁ……」
 言われたキリトはアスナ達から離れてまだ残っていた友人らしき赤髪の男たちの方へと歩いて行く。

「さてと……あのなぁ、そもそも俺もキリトも勝手に選択して、勝手に人殺したんだ。キリトに関しては仲間守るためだから仕方ねぇとしても、俺に至っては下がってろって言われて、それでも勝手に前に出たんだからな。これに関してお前がそこまで責任感じるのか?」
「そんな「はい、人の発表中に喋らないでください」はい…………」
 声を出そうとしたアスナの台詞をさえぎって、リョウは学校の先生の様な口調で注意したため、アスナはつい現実に居たころの癖でそれに従ってしまう。
 リョウがニヤリと笑ったのが見えたが、まさか分かっていてやったのだろうか?

「別にお前に全く責任が無いと言ってる訳じゃねぇぞ?確かに向こうの反撃を予想しきって無かったのはお前のミスだし、あの時焦って隙を作ったのもお前だ。だがな、お前とオレンジの間に割って入る事を選択したのはキリトだし、ラフコフの連中とバトる事を選択したのも俺だ。まして周りの連中の殺人への忌避感なんてお前個人の力でどうにかできる事なんざ始めから期待して無い」
 確かにその通りではある。
 キリトやリョウの選択する事柄をアスナが決める事は出来ないし、その選択をしたのが彼らである以上、アスナに責任は無い。
無いが……しかし

「だけど……そうせざるを得なくなるような状況を作ったのは私でしょ!?確かにそうしない選択肢も貴方達にはあったかもしれない。だけどあなた達が目の前で死にそうになってる人を見捨てられるような人じゃない事くらいちゃんと知ってる!」
 あの状況をそもそも作らなければ、こうなる事も無かったはずだ。
 それがそもそもの根本である以上、責任は全て自分に有る。そう感じているアスナは、強くなった怒気を緩めることなくリョウにまくしたてる。いつの間にか岩から立ち上がっていたが、それはさほど問題では無い。

「お前からそう言う評価をされていた事は素直に喜んどくとして……先ず一つ。キリトについては、あれは彼奴の選択ミスだ。熱くなって周りが見えなくなる。そう言う性質が、もろに出ちまったからああいう結果になっただけだ。まぁそれでも、理由が理由だからキリトの事もあまり攻める必要は無いからな。どっちも悪くない。はい、終了」
 感情的には納得できないが、言っている事はある意味で道理だ。
終わらない口論を続けるよりは、収まりの付く意見だろう。
 しかしそれでも、もう一つの議題にアスナは自身を納得させる解決策が見つからなかった。

「じゃあ、リョウは?」
「俺は……別にいいさ。言ったろ?気にすんなよ俺も気にしてねぇし」
「そんな事……出来る訳ないでしょう!?」
 そうだ、出来るわけが無い。
 約束したのだ。この青年にこれ以上の人殺しはさせないと。それなのに……それなのに……プレイヤーで構成されたギルドの大規模部隊による討伐と言う事例の少ない作戦だったとはいえ、自身の認識や読みの甘さがこの結果を生んだ以上、アスナは生半可な事で引くつもりは無かった。

「私が……!「待て待て待て!!分かった!分かったからそれ以上怒鳴るな!」ぅ……」
 絶妙なタイミングで言葉を刺しこまれ、再び黙らざるを得なくなる。

 実を言うとこの時、リョウは半泣きの顔で怒鳴ろうとするアスナの目尻からついに涙が零れそうになるのを見て、慌てて止めたのだが……そんなことはアスナは知る由も無い。。

 言ってからリョウはどうするべきかを考えだしたらしく、うーむと唸る。アスナはそれを真剣な表情で見つめる……

「なら、こうしよう」
 ようやく考えるのをやめたリョウが、アスナの眼を正面から見据えながら提案する。

「俺、今回の戦闘で噂の正体ばれちまったし、もしかしたら、大規模なギルド辺りから警戒されて身動き取れなくなったりとかしそうじゃん?ソロの連中からもどう思われるか分かったもんじゃないし……だからよ、難しいかもしれんけど、それを全部どうにかすんの手伝ってくれ。それ二つ目の約束にして、守ったらちゃらって事で。どうだ?」
 提案して来たその内容は、確かに難しい事だった。しかし同時に、それはアスナには適任でもある。
 最強ギルドたるKoBのサブリーダーであるアスナなら、確かに各ギルドとのコミュ二ケーションも取り易いし、攻略組の実質の攻略作戦責任者でもあるため、ソロプレイヤーとリョウとの間の折り合いをつけることも、ある程度は可能かもしれない。

「……わかった、今度こそ必ず果たすわ。約束する」
「いやぁ、いやそんなに気張り過ぎ無くても……(ギロッ)おう!しっかり頼むぜ!約束だ!」
 睨まれ、焦った様な顔をするリョウを見るうち、次にすべき事を見つけたからだろうか?
何となく先程まで重かった身体が軽くなって気がして、アスナはふっと顔を綻ばせる。

「?何だよ急に笑ったりして」
「ううん、リョウもそんな顔するんだなーって」
「お忘れの様ですが俺だって一応人間ですぜ」
「うん。知ってる」
 そう言って、何となくとことこと数歩歩く。夜が明けようとしているのが此処からでも分かる。

「人間か……」
「え?」
 後ろで何事かを呟いたリョウの言葉が上手く聞き取れなかったアスナは、聞き返したが、リョウは即座に首を横に振ると、再び口を開く。

「何でもねぇ……そういや、あの時キリトを援護に回したのってアスナだったって?」
 いきなり話題が激変した事にアスナは少々戸惑ったが、すぐに気を取り直し、リョウがオレンジの群れに跳び込んだ後の説明をし始める。

「え?あ、うん。何か……とにかく何かしなくちゃと思って、キリト君には前に出てもらって、私は部隊の立て直しする事にして動いたの」
「そうか……キリト言ってたぜ?『あの時アスナに激励されなきゃ俺はあの場に座り込んだままになってたかもしれない』ってな。ありがとよ」
「あ、うん」
「で、結婚は何時頃になりそうですかな?」
「ッ!?」
 またしてもいきなりの質問にアスナはつんのめり、転びそうになった所を根性で耐えてリョウと向かい合う
ただし先程までとはだいぶ違う意味で顔が真っ赤だ。

「何でいきなりそうなるのよ!?」
「あれ?最終目標そこじゃねェの?」
「それは……そうだけど此処で話す話題じゃないでしょ!?」
「おやおや、急に元気が爆発したようですな、騎士姫さん?」
「その呼び方やめろーー!」


差し込み始めた朝日が洞窟内を照らし、地獄のごとき夜の終わりを告げていた…………


Fifth story 《ある一夜の殺刃劇》 完 
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