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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  二十話 音ならざる言葉

 カランカランと、涼しげな音がドアに掛けられたチャイムから鳴り響く……より先に、《OPEN》木札を見た瞬間にアスナが力いっぱいドアを開けたバーン!と言う音が響くのを聴きながら、俺とアスナは店の中に入り、工房に(またしてもバーン!と言う音と共に)入って即座にこの店の店主であるリズの姿を見止める……より前に、やっぱりアスナがリズに向かって駆け出していた。

「リズ!!心配したよー!!」
 そう言いつつ、最早ハグと言うより体当たりじゃないのか?と言うような勢いでリズに抱きつくアスナを苦笑しながら見ながら、俺も入店してドアを閉める。

「あ、アスナ……リョウも……」
 驚いたようにこちらを見ているリズに、片手を振って相手をしてやれ、の意を示す
と、アスナの背中斜め後ろに所在なさそうに突っ立っている黒衣の片手剣士を見つけた。ありゃ?

「あ、兄貴」
 よっ、と片手を上げて挨拶してくるキリトに、俺は何やらリズに向かってワーワー喚いているアスナを無視して同じ動作で返す。

「なんだ、キリト。お前リズと一緒だったのか?」
「ああ、ちょっと武器作るのに金属《インゴット》取りにさ、色々あって足止め食ったんだ」
「成程、それd「き、キリト君!?」はぁ……」
 どうも今日は、騎士姫さんが賑やかな日らしい。
まぁ、いきなり片思いの相手が居たんだから普通ビビる……のか?

 どうやらリズもまた、キリトとアスナが知り合いである事に驚いているようだ。アスナと並んで完全に棒立ちになっている・
まぁ、俺の方は後で適当に説明するとしよう。

 さて、呼ばれたキリトはしばしやりずらそうにしたが、軽く咳払い後右手を少し上げて言う。

「や、アスナ、久しぶり……でもないか、二日ぶり」
「う、うん。……びっくりした。そっか、早速来たんだ。言ってくれれば私も一緒したのに」
 言いつつアスナは頬をわずかに桜色に染め、はにかむように笑いつつ腕を後ろに組んだ姿勢を取って、ブーツの踵で床をトントンと叩く。
おーおー、乙女だねぇ……

 少々オヤジ臭いがそんな事を思いつつアスナとキリトの事を微笑ましく見ていると、ふと、視線の端にリズの姿を捉える。
どうやってアスナをからかうかリズとこっそり相談でもしようか、と俺が黒い事を考えたその時、二人の姿を見つめるリズの瞳の中に、俺は奇妙な光が宿っているのが見えた。

それは驚きと、そして……困惑《パニック》

 それを見た瞬間、それまで楽しんで暖かくなっていた俺の脳が一気に冷える。

──おいおい……?

 仮に、もし今俺の立ている予想が的を得た物ならば、よく分からないがこの状況は不味いんじゃ無いのか?
落ち着きつつも少々焦り始めた俺の耳に、リズに向き直ったアスナの屈託のない声が響く。

「この人、リズに失礼な事言わなかったー?どうせあれこれ無茶な注文したんでしょ」
 それは紛れも無く、気兼ねなく話せる友人へと向ける普通の話し方だ。
だが話しかけられながら、段々とリズの持つ眼の光の中のパニックの部分が強くなって行くのを見て俺の嫌な予感は革新へと変わっていく……
不味い。
今のリズにその態度は多分だが不味い!

「あれ……でも、ってことは、昨夜はキリト君と一緒だったの?」
『しまった、そういうことか!』
 それで大体の事は察した。つーかそもそも──

「あ……あのね……」
 そこまで俺が考えた所で、突然リズはアスナの右手を掴み、工房のドアを押しあけてわずかにキリトの方を向き、──ただし明らかに“意図的に”キリトの顔は見ないようにして早口で

「少し待ってて下さいね。すぐ帰ってきますから……」
「おい待っ──」
 と言うと、足早に店内から出て行ってしまった。止める暇も無かった……

「はぁ……」
「リズの奴……てか兄貴どうしたんだ?」
「……なんでもない」
 全くこの義弟は……まさかこんな才能があったとはうかつだった。この数カ月に二人に惚れられるとは!
この間のシリカの時も俺が依頼受けなかったらシリカにもフラグが立っていたかもしれん……

「さて……そういややっぱ二本目作ったんだな?」
「え?あ、ああ。良い剣作って貰えたよ……」
「ほぉ……」
 実はこの義弟。とある事状により、通常一本だけの片手剣を二本作らなければならない理由があったのだ。
まぁそれは後々語るとして……

「リズには見せたのか?」
「なんで、そう思う?」
「勘だ!」
「もうそれ超能力でいいです……まぁ、見せたけどさ」
 作って貰った本人だしな。と言いながら苦笑して頬を掻く義弟を見ながら、俺は驚いて言う。

「ほぉ……んじゃほんとに二人だけで行ったのか?」
「あぁ……って、嘘だと思ってたのかよ?」
「だってなぁ……どういう風の吹きまわしだ?」
「う……」
「別に一人って選択肢が無かった訳じゃあるまい?」
 此奴は……キリトは、ある時からパーティを組む所か、自分から他人に近付く事が極端に少なくなった。
俺と組むこともたまにはあるが、それも本当に稀の稀だ。
そのキリトが初対面でいきなりパーティを組んでダンジョンに赴くなど……殆ど、いや、まったくと言っていいほどこれまでは無かった。

 故に、これは俺の心からの疑問だ。
何故キリトの堅いガードの一つが、リズには解けたのか。
だが……

「……分からないんだ……自分でも、何でいきなりリズとパーティーが組めたのか」
「……そうか」
 聴きたかった答えとは違ったが、案外とそう言う物なのかもと思い、此処は納得しておこうと思う。
だが、

「でも、リズと組んで一つ、分かった気がする」
「ほお、それは何ぞや?」
 その答えを聞いた時、俺は自分自身の口角が上がるのを抑えられなかった。
やはり、俺の知りたかった答えとは違ったが、その言葉は俺を歓喜させるには十分な物だったのだ。

「なぁ、剣見せてくれよ」
「え?……あぁ」
 突然話題が変わったことに驚いたような表情を浮かべたキリトだったが、すぐにメニュー画面からオブジェクト化した純白の片手直剣を、俺の方に差し出す。
予想道理というか、程良く重い。
キリト好みだろうと分かる。良い剣だ。
本当に、この剣をリズはキリトの事を思いながら打ったのだろう。
自慢の勘だけでは無い。それは、剣の固有名を見ても十二分に分かる事だった。

「《ダークリパルサー》、《暗闇を払うもの》か。いい名だ」
 ほんとうに、最高の名だろう。
此奴《キリト》に持たせるにはピッタリだ。

「なぁ、お礼。ちゃんと言ったのか?」
「え?」
「だからお礼だよ。お、れ、い」
 普通に聞いたなら、これは制作に対する礼だ。だが……

「……まだ、だな。」
「そうか、なら──」
 俺は純白の片手剣を持ち主に再び差し出しながら言う

「ちゃんと言ってこなきゃな?」
 コクリ、と頷きながら剣を受け取ったキリトに、俺は微笑んで「よし!」と告げた。
途端、キリトが弾かれたように店の外へと走り出す。後ろ姿に、「ありがとう」の言葉を残して。

────

 俺は今、リンダースの最も高い建造物──ゲート広場に面した教会の尖塔の上──に居る。
策敵スキルを起動させズームした視線の向こうでは、リズとキリトがなにごとかを話しているが、此処からでは声は聞こえない。
まぁ、かといって、わざわざ接近して話を聞きに行くほど俺は野暮じゃないが。

「まったく、何時の間に女を惚れさせる才能なんか身に付けたんだか……」
 だがまぁこれから少しずつ、アスナやリズの手によってキリトが少しずつ明るくなってくれれば、俺自身非常にそれは嬉しい。
これからの事を想像し、軽くに微笑みながら俺は美しい街の情景と共に、キリト達二人を見つめる。

「こりゃ、今日は帰りますかね?」
どうやら、冷裂のメンテナンスはまた明日になってしまったようだ。残念。
そう思いつつ、俺は尖塔の上から教会の二階へと飛び降りたのだった。


Forth story 《裏側であった話》完
 
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