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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  十九話 鍛冶屋失踪!?

 突然だが、俺は武器の手入れは結構まめにする方だ。
自分で出来るメンテナンスはほとんど毎日やってるし、鍛冶屋に行ってメンテナンスも月一くらいでやってる。
武器は自分の半身、大事にしなきゃ罰が当たるってもんだ。

で、そのポリシーにのっとり、俺は約一ヶ月ぶりに《リンダース》へと向かった訳だが……

「ん~んんん~ん~ん~、ってありゃ?」
 なんだか分からんが、《リズベット武具店》の扉の前に誰かが突っ立っているようだ。
時間的には今は攻略組の連中も今日の冒険を終えて続々と帰ってくるころだし、もしかして混んでるのだろうか?
だとすると待ち時間がだるいんだが……

 そんな事を思う内にも店は近付き、徐々に店の前の人物の輪郭が見えて来る。
白を基調とし、赤いラインの入った騎士風の服に、白いレイピアと栗色の長い髪……って

「あれ?アスナじゃん」
 そう。店の前に居たのは、この店の常連にして俺に此処を紹介した張本人でもある、アスナだった。

「あ、リョウコウさん」
「だからリョウでいいってのに……それとさん付けやめい」
 どうにも此奴、この間とある事件で俺の事をこう呼ぶようになってから友人として交流し始めてからもこの呼び方だ。そのたびに訂正するのだが、いい加減覚えてくれ。

「あははは……ゴメン、一回呼ぶと慣れちゃって」
「はぁ……まぁいいが、で?扉の前で立ち往生って事は副団長さんも待たされ客か?」
「あー、そうじゃないんだけど……これ」
 はて?どうやら人気が出過ぎて店に入りきらなくなったとかじゃないらしい。
いや、まぁ日によってはホントに行列もできるらしいが。
アスナに促された俺は、アスナの後ろにある店の扉を見る。
扉には、[CLOSED]と書かれた木札が架かっている。

「閉まってるのか……つーかやけに早いな?」
「そうなんだよね……だから今からメッセージ送ろうと思って」
「マップ追跡は?」
「駄目、反応なし。リョウより前に居た常連さんにも聞いたんだけど……」
 無言で首を振るアスナに、俺は腕を組む

「成程な……んじゃついでに休日返上で俺の武器見るように言ってくれ」
「えー、流石に相手がリズじゃ受けないんじゃないかなー……え」
「意地でも受けてもらうって……どした?」
 みるとアスナは青ざめた表情で自身のメニューウィンドウが表示されているであろう場所を凝視している。
なんだなんだ。

「リズ……?」
「おい?」
 少々心配になってアスナの顔を覗き込むと震える声で、アスナは発言した

「リストに、連絡不能って……」
「なっ!?」

連絡不能
 SAOにおけるフレンドリストの中で、何らかの理由によりメッセージが届かない状況にある相手は、リスト上の文字が灰色《グレー》で表示される。
この状態にある相手には此方からメッセージを送ろうとしても届く事は無い上、相手方から此方にメッセージを送ることも出来ない。
 理由に関しては数個あるが、最もスタンダードなのはこの世界にそもそもその人物が現在居ない。
つまり、通常のオンラインゲームにおけるいわゆるログアウト状態であり、このゲームでいえば既に死亡している事である。
当然、この状況を見たプレイヤーは相手の身を非常に案じる訳だが……
しかしだからと言って、すぐに死んでいると決めつけられる訳ではない。
特に、相手が攻略組だったりすると……

「いや、ダンジョンに居るとか、色々可能性はまだあるな。そこまで心配する必要はねぇんじゃねぇか?」
 そう、フィールド上に大小点在する、ダンジョン内に置いてもメッセージは使用不能になる。
どちらかと言うと、現在ではこの可能性の方が高いし、当然リズもこの状況である可能性はある訳で、推測できる可能瀬としては十分な訳だが……

「リズが一人で……?」
「ぬ……」
 こう言われるとキツイ。
リズは鍛冶屋だ。あまりダンジョンまで出かけることは少ない。
仮に出かけていたとしても、正直、徐々に夜も近付いて来るこの時間までダンジョンから出てこないと言うのはどう考えても不自然だ。

「リズ……」
「ぬう……ええい面倒だ!黒鉄宮行くぞ!」
「へ?」
「いちいち此処で止まってんのは性にあわん。ほら行くぞ、さっさと無事だって確認しねぇとまた寝れなくなりそうだしなお前」
「う……はい」
 ほんと、そう言う顔してるからな。さっさと行って戻ってこよう。


 親友の安否を心配し始めると、ともに居たリョウにより、殆ど強引に黒鉄宮に行くになってしまった。

黒鉄宮
 第一階層《始まりの街》に存在する巨大な鋼鉄製の建造物であり、正式サービス以前には、HPをゼロにした者のリスタート地点となる《蘇生者の間》という場所であった。
が、現在は役目変わり、巨大な金属製の碑が設置されている。
この碑、表面にゲーム参加者全員の名前が書かれており、死亡した者の名前の上には横線と、横に死亡日時と原因が刻まれると言うシステムだ。

 まあ心配なのは事実だし、どちらにせよ一人でも行く羽目になっていただろうから構わないのだが……
ただ、稀にあの場所へ行く時は毎回毎回どうしようもなく胸中が不安で満たされる。もしも確認した友人や仲間の名前の上に横線が刻まれていたら……そう考えるだけで背筋に冷たい物が走る。
特に今回はこの世界でも無二の親友である人物なのだ。正直、確認しに行きたくない様な気持もある。

 そんな事を考えていると、前を歩いていたリョウが不意に横に並んで此方を向いた此方を向いた。

「そういや、昨日キリトとデートだったって?」
「────!!!??」
 驚いたアスナは出店で買った飲み物(アイスティーっぽい何か)を噴き出しそうになる。
というか、以前にもこんなことがあった様な気がするのだが。

「な、またいきなりそう言う事聞く!?」
「質問なんて何時もいきなりだろ。内容は場合によるがな。で?どうだった?」
「ど、どうって……なによ?」
 明らかに楽しそうな顔で聞いて来るリョウに、なんだか昨日のリズを相手にしているような気分になって来た。

「なんだ?何処まで進展したか聞いたんだが?」
「進展って……」
 そう言う言い方は無いんじゃないだろうか?と少々文句を言いたくなったが、言うより先にリョウが口を開いた。

「個人的にも、義弟絡みのこういう話題には興味があるからな。おっと、今は一方通行か?」
「むぅーーーー!」
「はっはっは!すまんな、今のは失礼だった」
 リョウには始めから知られているので最早隠す事も無い。
と言うか、こういう話題にはあまり興味の薄い人間だと、フレ登録する前は思っていたのだが、意外にもアスナの恋路に多大な興味を示すとともに……偶にサポートしてくれたりもする。
正直、協力の代償にからかわれている感じだ。

 気を取り直して。

「まぁ、普通に買い物に付き合ってもらったり、お茶飲みながら攻略の相談して、それくらい」
「ほぉ、ほんと普通だな」
「なにをきたいしてるのかしらないけど、変な噂立てないでよ?」
「まさか、自分の楽しみを他人にばらすような勿体ない事は……「ちょっと!」おっと失礼」
 まったく、偶に何を考えているのか読めないこの男である。
正直、面白がられて良い気分とは言い難いのだが。特に何をするでもなく、傍観しながら偶に協力をしてくれる程度なので、さして目くじらを立てる様な必要も無いのが実状だ。

「そうこう言ってる間に、転移門か」
「え?あ……」
いつの間にか目の前には、淡い光を放つ転移門があった。
複数のプレイヤーが、出たり入ったりを繰り返し、今日も通常運転中の様だ。
中に入り、それぞれ目的地の名を言い放つ。

「「転移!始まりの街!」」
青い光と共に、二人は一気に第一層へと移動した。

────

第一層《始まりの街》

 リョウとアスナはその後、一言も話す事無く黒鉄宮に到着した。
上層まではある程度雑談も交えながら歩く余裕はあったが、流石にすぐ近くに多くの戦死者達の名が刻まれる場所があり、しかもこれからそこへ行く目的を考えれば、此処からは話をする気にはならなかった。

黒鉄宮の下部
旧《蘇生者の間》
今、二人の目の前には巨大な鋼鉄製の碑が存在している。その表面にはABC順に無数の名前が刻まれており、その中には所々名前の上に横線が刻まれているものもある。
それが意味するのは、その名前の主の存在の否定。即ち……死

 胸中にどうしようもない不安と恐怖を抱えながら、ゆっくりと二人はRの名前が表示される部分へと向かう。
足が重く、歩みも遅くなるが、それでも此処まで来て確認しない訳にはいかない。


ゆっくりと、碑に近付き、上から名前を一つ一つ確認してゆき……そして、一つの名前の上でその視線が制止する。
プレイヤー名は──[Lisbeth]


 名前の上に横線は無く、それは、この二人の友人が未だその命を保ち続けている事を示していた。


「よかった……!」
「ああ、流石に心臓に悪いな、これは」
 本当に、心臓に悪かったとアスナは思う。此処でリズベットの名前の上に横線が刻まれていれば、自分はどうなっていたか分かった者ではない。
そんな事を思いつつ、糸が切れたようにアスナはその場でへたり込んでしまった。
隣に居たリョウが心配したように声をかける。

「おいおい、大丈夫か?」
「うん、大丈夫……ごめん、安心したら気が抜けちゃって」
「さよか……」
 アスナの返答に対し、そう言って少し微笑んだリョウはふと、思いついたようにアスナの後ろで頭の後ろに両手を組みながらこんな事を言った。

「そういや何て言うかお前、柔らかくなったな」
「?、何突然?」
「いやまぁ、リズは友達だから当然かもだけど、全体的に雰囲気っていうか、纏う空気が変わったっつーか」
 リョウが「確信は無いけど」と言ってアスナの顔を見ていると、その顔は渋いお茶飲んだようになっている。

「……それ、リズにも言われた」
「おっと、マジか?」
「うん。昨日の朝店に行った時、春先から妙に明るくなって来たって……」
「はっはっはっ!さすがリズだな、年頃の女子の眼ってのはやっぱ侮れんか!」
「んむー。私ってそんなに分かりやすいのかな?」
 恥ずかしいのか少々頬を赤らめながら言うアスナにリョウは破顔しながら言葉を続ける。

「まぁ何もお前に限った事じゃあるまい。聞いた限りじゃ、恋をしてる乙女の顔ってのはすぐ分かる物らしいぞ?」
ちなみにこれは、リョウのかつてのクラスメイトが殆どノリで言った言葉であるからして、あまり信憑性は高くは無い。

「もう!からかわないで!!」
「まあまあ、そう怒るな」
 言いつつ未だに笑っているリョウを相手に、アスナはますます顔を赤くして喰って掛かるのだった。


「あぁ、そうだ。ちっと墓参りしていいか?」
「お墓参り?」
「あぁ。まだ現実に戻れないしな、たまには墓参りだ。」
「あ、うん」
 一瞬、意味が分からなかったのだが、すぐに察して了承する。
リョウはこの碑を墓石と見立てているのだろう。故に、墓参りなのだ。

「で?誰のお墓参りなの?」
「ん?俺の大切な友達二人だ」
「そう……なんだ……」
 聴いてからではもう遅いと知りつつも、少々聴かなければよかったと言う思いが湧いてきた。
軽々しく相手についての質問などをした、自分が恨めしい。が、

「んな暗い顔すんなよ。別に気にもしてねぇからさ」
「え、あ、あの、その」
「アスナさーん?貴女日本人ですよねー?」
「なっ!だからからかわないでってば!!」
 一瞬どもったアスナの様子を見逃さずに遊びにかかって来るリョウにまた噛みつく。
そんな風にしてるうち、リョウはSの欄の前で立ち止まり、直立して眼を閉じ、手を合わせる。

「……………」
 どうやら、リョウの友人と言うのはSから始まる名前らしい。
名前が気になったが、横線が刻まれている名は沢山あり、どれがその人物の名なのかは分からなかった。
が、リョウに習い、アスナも手を合わせて眼を閉じる。
彼女にとっては、友人の友人。もしかしたら、自分の友人にもなっていたかもしれない人だったのだ。
出来れば一度、会ってみたかった。そんな思いも含めて、今はもうこの世界から消えてしまった、もしもの友人達の安らかな眠りを祈った。

────

「やっとついたかぁ……」
 それから一時間少し、リョウは既に暗くなっている世界を背に自身の自宅の敷居をまたいだ。
あれから、もう日も暮れるのでリズの行方探しは明日と言う事にして、二人とも帰路へと付いたのである。
玄関からすぐのリビングに入ると、台所で一人の女性プレイヤーが立っているのが眼に入った。

「あ、お帰り」
「おうただいま。わりぃな、遅くなった」
「良いよ別に。でも珍しいね、リョウが素直に遅くなった事謝るの」
「いやいや、お前が頭に角を生やして玄関に仁王立ちしてやしないかとヒヤヒヤしながら帰って来たもんで」
「なによ、人を鬼みたいに言って」
「前にメッセ(メッセージの略)無しで遅くなったらお前本気で怒鳴ったじゃん」
「あれは!余りにもリョウが遅すぎるから心配になっただけ!あんまりそう言う事言うとご飯抜きだよ!?」
「すいませんでしたもう言いませんから飯抜きは勘弁して下さい」
 まるで夫婦の様な会話をしてるがこの二人、決して(システム上でも)結婚はしていない。単なる同居人である。

「お風呂はー?ご飯出来るまで後五分くらいあるよ?」
「あー、んじゃシャワーだけ浴びて来るわ」
「いってらっしゃーい」
 …………重ねて言うが、決して夫婦ではない。
あくまでも“ただの同居人”である。

 その後、取りあえずリョウは夕食を済ませて普通に就寝した。
リズの事は気がかりではあったが、それで寝れなくなって体調に異常をきたしたりしたらお話にならない。

 そして翌日、アスナからメッセージで、リズが戻ってきた事を知らされたリョウはリンダースへと向かう。
途中ゲート前でアスナと合流し、鍛冶屋自体には二人で行く事となったのだが、その後、リョウは自らも知らなかった意外な事実を知る事となるのである。
 
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