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髑髏天使

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第十話 権天その十八


「変わってるって言えば変わってるわね」
「自覚はしている」
 だが気にしてはいないことがわかる返答だった。
「それはな」
「そういうのも昔からね」
「そうか」
「そうよ。まあ私は馴れているからいいけれど」
 若奈はここで彼にこうも言うのだった。
「けれどそんなんだと客商売は無理よ」
「それをするつもりはない」
 こう返すだけの牧村だった。
「自分でも向かないのはわかっている」
「それについて努力するつもりはないのね」
「ない」
 一言であった。
「無理なことも適性がないこともわかっているしな」
「このことはあっさりと諦めるのね」
「しかし作ることはできる」
 不意にという感じでこうも言ってきた。
「それはな」
「ああ、作るのはね」
「そうだ。料理はな」
 料理についても言うのだった。
「それはできる」
「牧村君ってお料理もできるの」
「何なら作ってみせるが」
「ケーキも?」
「勿論だ。ケーキを作るのも好きだ」
「ふうん、それなら一度見てみたいわね」
 若奈は彼のその言葉に興味を抱いて言うのだった。
「是非ね」
「今度見せようか」
「ええ、それで御願いするわ」
 そしてその言葉に頷きもするのだ。
「一体どんなものか食べてみたいわ」
「わかった。では今度作ってくる」
「それでどんなケーキなの?」
「何がいい?」 
 コーヒーを右手に持ちつつその目を若奈に向けて問うた言葉であった。
「それで。どうしたケーキが」
「とりあえずケーキなら何でもいいけれど」
 視線を上にやり考える顔で牧村に述べた。
「そうね。やっぱりここは」
「ここは?」
「タルトがいいわ」
 彼女の注文はタルトであった。
「今牧村君が食べているさくらんぼのタルトね」
「これか」
「そう、これ。これなら今食べてるし比べ易いじゃない」
「俺のが美味いかそうかだな」
「その通りよ。それでいいかしら」
「ああ」
 そして牧村も若奈のその言葉に対して頷くのだった。
「ならそれでいい。さくらんぼのタルトか」
「それね。タルトも作られるのよね」
「それもな。作ることができる」
 表情は変わらないが声は真剣なものであった。
「何なら豆腐でケーキを作ることもできる」
「最近噂になっているあれね」
「豆乳は意外とよく合う」
 ここまで知っているのだった。豆腐は淡白な為何に対しても合うのだ。思えばかなり凄い食べ物である。
「だからだ。それでもな」
「実はお母さんも最近そっちも調べているのよね」
「そうなのか」
「そうよ。だからそちらも期待しているわね」
「今度な。まずはさくらんぼのタルトだな」
「ええ、まずはそれを御願い」
 話はそれで決まりだった。
「それをね。いいわね」
「わかった。そういうことでな」
「ええ。コーヒーは淹れられるかしら」
「コーヒーはな」
 ここでは言葉が少し濁ったのだった。 
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