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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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双葉時代・共闘編<前編>

 私の放った手裏剣は、巨大な団扇によって防がれる。
 暴風の余韻も消えないうちに、次いで放たれるのは火遁の炎。
 追い風の影響も有り、更に強力な物へと変化した火球に敢えて水遁で対抗して、水蒸気による写輪眼封じを狙う。
 しかし、それも相手には読まれていた様で直ぐさま視界を覆っていた水蒸気は吹き払われた。
 私の刀と、相手の武具がかち合って火花を飛ばす。

 その一瞬後、私達は大きく背後に飛んで距離を取った。

「――木遁・樹海降誕!」
「――火遁・豪火滅失!」

 互いに印を組み、殆ど怒鳴る様にしてそれぞれの忍術を告げる。
 私の生み出した小規模な森を、マダラの呼び出した業火が焼き尽くしていく。

 それにしても、段々とこいつの火遁の威力が上がって来たな。未だに私の方が優勢とはいえ、樹海が焼き尽くされる領域が拡大しつつある。

 最も、だからといって負ける気はしないが……!
 
「木遁・樹海降誕! 正面ばかりと思うなよ!」
「――っ!」

 普段は押し寄せる波の様に、敵を覆い尽くすために使用している樹海降誕だが、それを敢えて遠隔操作でマダラの足下に生み出してみる。
 始めての実践での試みだったが、上手く相手の虚を突けた様だ。
 足場が不安定になり、無造作かつ無尽蔵に発生する樹木から逃れようとしてマダラが体勢を崩す。

 ――その隙を見逃さない。

 背負っていた巻物を勢い良く開き、そのまま片手を巻物へと押し当て、チャクラを流し込んだ。

「――武具口寄せの術!」

 召還に答えて、それぞれ人の身の丈を超える巨大な武器の数々が私の前へと並ぶ。 
 戦場初披露になる武具の数々に、マダラが警戒した様に団扇を構える。さすが、いい判断力だ。
 
「何をするつもりかは知らないが、そのような武具を貴様が持てるとは思えんがな」
「これでも“千の手を持つ一族”って言うのは伊達じゃなくてね! ――行けっ!!」

 至極マトモなマダラのツッコミだが、何も私がこんな重そうな武器を持って戦うとは限らないんだよ!
 掛け声と同時に私の足下より生えて来た巨木が、並べてあった武具の一つ一つをその太い幹で絡みとって、波濤の勢いでマダラを目指す。
 四方八方から来る一撃必殺の攻撃に、マダラの方も万華鏡の能力を全開にして、時に躱し、時に打ち払って回避するしか無い。
 それでも尚、隙あらばこちらへと襲いかかろうとする気構えを感じられ、殺るか殺られるかの紙一重の感覚にゾクゾクする。

 今までに色々な相手と手合わせを含めて死闘と呼ばれる物までこなして来たが、その中でもマダラと戦っている時が一番興奮する。

 ……まあ、時々相手の不死身(というか打たれ強さ)具合や万華鏡のチート設定に物申したい時もあるが、それでも同じ力量を持つ相手と戦うと言うのは楽しい物だ。血が騒ぐと言うか、心が浮き立つと言うか。

 こうして追い込めば相手がどのように対処するのだろうか、と想像したり、相手の使う術を如何に利用して優位な方向へと持ち込めばいいのか、という戦術を練ったり。

 認めたくないが、マダラと戦うのは面白いし楽しい。
 そのせいで思う存分に力を振るっては、千手に帰る途中で物凄い自己嫌悪に襲われる事も多々あるんだけどね。

 それでも今こうして戦っている事は正直――心が躍る。

「何を笑っている! 余裕だな、柱間!」
「いや、楽しいなって思ってね!」

 片手に握った刀を横に薙ぎ払う。
 鈍い銀の軌跡を背後に下がる事で躱したマダラの追撃のために地を蹴る。そのまま至近距離で掌中で構え直したクナイを相手の喉元へと突き刺そうとするが、瞬時にマダラの周囲を覆った紫の炎にクナイが砕かれた。

「あー、悔しいな。争いなんて正直嫌いだったのに、こうしてお前と戦うのが楽しくなって来ただなんて」

 振るわれた鬼の腕を避けて、先程生やした樹海降誕時の巨木の方へと大きく跳躍する。 
 乱れる髪が鬱陶しい。左手で乱暴に髪を梳けば、驚いた様に目を見張っているマダラと目が合った。

「――ん? どうした?」
「まさか……戦嫌いで有名な千手柱間からそのような言葉が聞けるとは……思ってもいなくてな」

 うん。これは私にとっても予想外だったよ、本当に。
 混戦の最中だって言うのに、苦笑が漏れた。

*****

「……」
「……」

 普段は人を人とも思わない態度を取る事が多いうちはマダラのどこか呆然とした表情に、言い出しっぺの私の方が居心地が悪くなって、頬を掻いて視線を逸らす。
 なんか変な事言ったのかね、自分。
 それにしてもなんなの、この何とも例え様のない感覚。むず痒くて仕様がない。
 普段の不敵に無敵が代名詞の傲岸不遜なうちはマダラは何処に行った……! と突っ込みたくなるが、我慢する。
 酔っぱらった志村の旦那が踊り出した時だって、こんな居心地の悪さは感じなかったぞ。

 にしても気まずい。誰かこの雰囲気を変えて下さい、切実にお願いします。

 そんな事を天に願っていた矢先。
 いつもだったら巻き添えを恐れて私とマダラとの戦いの最中に近寄らない千手の忍びの一人が、私の背後に瞬身の術を使って現れた。

「頭領! 急ぎお耳に入れなければいけない事が……!」

 千手の忍びが現れた事で、マダラの方も普段通りの様子を取り戻す。
 やれやれ、あの状態が続いていたらどうなっていたのやら。

「聞こう。よっぽどの非常時なんだろ?」
「は、はい!」

 印を組み始めたマダラから視線を離さず、こちらも迎撃のために印を組む。
 緊迫した雰囲気に身を固くした千手の忍びが、潜めた声で私へと囁きかけた。

「先程、千手の感知系忍者達から報告がありました。この戦場に向かって、強大なチャクラを持つ何かが接近中だそうです。――如何なされますか、頭領?」
「強大なチャクラ、だと? それってまさか……!」

 脳裏に九本の尾を持つ朱金色の獣の姿が浮かび上がる。
 まさか、戦場の熱気に当てられてやって来たんじゃあるまいな?
 強敵と戦っているせいか普段よりも研ぎ澄まされた感覚が、警鐘を鳴らした。

「――――扉間、聞こえるか!?」
「何のつもりだ、柱間!!」

 急に大声を出した私に対して、マダラの方も怒声を上げる。
 それを無視し、側に居た千手の忍びの腕を掴んで、マダラから大きく距離を取る。
 切羽詰まった私の呼声に気付いて瞬身の術を使用して現れた弟の水遁とマダラの火遁がぶつかりあった。

「――お呼びですか、兄上!」
「今すぐミトを呼んで欲しい。――頼めるか?」
「ミトを、ですか? 何のために?」

 訳が分からないとばかりに不審な表情を浮かべる扉間。
 その間に、マダラの攻撃を巨木に絡めた大剣で防御させる。報告に来た千手の忍びにかかった火の粉を、右手で払い落とした。

「とにかく火急の用件なんだ! それから、この場にいる全員に直ちにここから離れる様に伝えろ!!」
「は、はいっ!」

 前半は扉間に、後半は報告に来た千手の忍びに。
 それから私はマダラの太刀の攻撃を敢えて受け止め、マダラの赤い目を見据えた。

「話は聞いたろ? 今すぐうちはの忍び達も引かせてくれ」
「――敵の言う事を鵜呑みに出来ると?」

 マダラの言う事も最もだが、今回ばかりは急を要する。
 額に流れる汗は嫌な予感のせいだと思いたい。

「……悪いが、オレは一族の長だからな。皆を守らなくてはいけないんでね」
「どういう意味だ――柱間っ!?」

 火花を鳴らしていた刀を握る手からわざと力を抜き、押される勢いに任せて一気にマダラから距離を取る。
 初めて取る行動にマダラが驚いた顔をしていたが、それどころではない。
 そのまま一気に、千手とうちはの者達が争っている場所へと瞬身で移動する。

「頭領!?」
「千手柱間が、何故……!」

 両一族共に驚いた声を上げ、突然現れた私に目を向ける。
 戦場で鍛えられた腹筋を使って、全員に聞こえ渡る様に声を張り上げた。

「千手とうちは両一族の者達に告げる! 今すぐここから離れるんだ!!」
「何を馬鹿な事を……!」
「柱間様? 何故そのような事を!?」

 あちこちで不審そうな声に、訝し気な声が上がるが、余り時間がない。
 ただでさえ高速で移動していた気配が、徐々に接近してくるのを第六感で感じ取る。

「いいから早く! 今は人間同士で争ってる場合じゃないんだ!」

 多分、焦りで自分は凄い表情を浮かべていたと思う。
 敵対している筈のうちはの忍びまでもが、私の方を見て驚いた顔をする。
 千手の忍び達の方は私の異常に気付いて少しずつ撤退を始めているが、うちははそうもいかない。
 相手が攻撃をするかしないかを悩んでいるのを感じ取りながら、私は急いで戦場を見渡す。そうしてから見知った顔を発見して、一気に跳躍した。

「弟君!」
「――……千手柱間?」

 返り血を浴びたのか、頬に赤い液体が付いている。
 揺らめく炎をそのまま移し取った様な写輪眼は兄と変わらない。数度だけ相見えた事のある少年の面影を残す青年に向かって、私は必死に呼びかけた。

「せめてうちはの忍び達をここから離れた所に行く様に言ってくれ! もう時間がない!」
「何を言って……? ――兄さん!!」
「人との勝負を投げ出しておいて、何をしようとしている。……イズナ、怪我は無いか?」

 弟思いなのもいいけど、その半分を私に対して使ってくれ。
 どうでもいい事を脳内で考えてしまうのは、現実逃避だろうか。それにしてもマジでやばいぞ、この状況。

「自分が無茶を言っているのは分かってるさ! けど、それどころじゃないんだ! 今すぐこの場から――って、遅かったか!」
「兄さん、あれを!」

 ああもう! こんな事している場合じゃなかった。さっさと木遁でも使って、追い払えば良かったんだ!
 私達が戦っていた草原を囲む森の向こうに、巨大かつ長大な影が落とされる。
 うちはの忍び達があちこちで息を飲む音がした。

「おいおい、あれって……!」
「まさか、嘘だろ!?」

 圧倒的な姿に、勇猛で知られるうちはの忍び達の間から悲鳴が上がった。
 そう、それが人として当然の感覚だろう。山の向こうから姿を現した巨体に、私は額の汗を拭う。

 これが出てくる前に、何とかして全員を離れさせたかったのだけど……!

「尾が七本……! 七尾の尾獣なのか!?」
「まずいぞこんなの。このままじゃ、全員全滅だ」

 騒然としだしたうちはの忍び達。
 一瞬で状況を把握したらしいマダラが、ざわめくうちはの忍び達を一喝した。

「――静まれ! 我らも直ちにこの場から離れるぞ! ――イズナ、お前がオレの代わりを務めろ」
「けど! だったら、兄さんはどうするの?」
「オレは頭領だ。一族を守るに決まっているだろう?」

 基本的に戦場では一対一でマダラと向かい合う事が多かったから、彼の頭領としての姿を見たのはこれが始めてかもしれない。混乱状態に陥っていた一族の者を、一言で元の状態に戻してしまったのは流石だ。

「いいや、マダラ。お前も弟君と一緒にうちはの人達を守るんだ。あの尾獣の相手はオレがする」
「柱間!?」
「千手の頭領が何を言っているんだ?」

 いやあ、皆様仰っている事は尤もで。
 でも、あんまり心ないことを言わないで、あとそんな目で見ないで下さい。こう見えても心は繊細なんです。

「今逃げ出した所で、七尾がオレ達を見逃してくれるとは思えないからな。誰かがアイツの相手をして、他の者達に注意が向かない様にしなければいけない。そしてそれにはオレが最適だ」
「巫山戯るな! 何故千手の貴様が……!?」
「今はそんな事言い合っている場合じゃないだろ。それに、お前はうちはの頭領だ。だったら皆を守れ」

 憤るマダラの肩を軽く押して、一族の人達の方へと向かわせる。
 一歩前に出て、うちはの忍び達を背に私は呼気を整えた。

「元々そのつもりだったんだよ。そら、オレの術が大掛かりな事を知ってるだろ? あいつと戦うのであれば嫌でも大技を使わなきゃいけない。巻き込まれない様に、早くこの場から離脱してくれ――それが最善だ」

 懐に収めていた巾着から兵糧丸を一個取り出す。
 これ、一時的に体力を回復はしてくれるんだけど、物凄く不味いんだよなぁ……。
 奥歯で噛み砕く様に飲み込めば、苦味と同時に全身に活力が湧いてくる。一種のドーピングだ。

「千手の頭領の言う通りだよ、兄さん。急ごう、このままここにいても邪魔になるだけだ」
「イズナ! ――っく」

 弟君にやんわりとだが断固とした口調で諭されて、マダラが悔しそうな声を上げた様な気がした。
 背後では小隊を組んだうちはの忍び達が速やかにこの場から退散してくのが分かる。

 ――けれども、上空に到達した七尾の方は人間達が逃げていくのを待ってはくれない様だ。

 一見、羽の様にも見える翡翠色の尾を無造作に動かして、そのまま叩き潰そうとしてくる。
 そうはさせるもんか……!

「土遁・土流壁の術! ――木遁・樹界降誕!」

 空を飛ぶ相手に届く様に、天高くまで伸ばした土の壁を七尾の前後に発生させる。
 その土壁に樹界降誕で発生させた木遁に寄る巨木を這わせ、そのまま七尾の体へと絡み付かせる。

「悪いが他所に目移りさせる様な真似は出来ないんでね! 気が済むまでオレに付き合ってもらおうか!」

 七尾が苛立った様に咆哮を上げる。
 さて、最強のチャクラを持つ尾獣という存在に、今の私の力はどれだけ通じるのだろうか?
 
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