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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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双葉時代・対峙編<前編>

 徐々に異なる一族同士で任務をこなす様になって来たある日の事。
 私は一族の長として、戦場に立っていた。

「頭領! 西の戦場は全て我々が制圧しました!」
「同じく、東も制圧完了です!」
「わかった。ならば負傷者は離脱させつつ、扉間を始めとする小隊はオレと共に中央への応援へ向かうぞ!」
「はっ!!」

 一族の中でも選りすぐりの忍び達を引き連れて、未だに戦闘続行中の最後の戦場へと向かう。
 途中、自分達の進行を防ごうと飛び出て来た敵方の忍び達を、問答無用で木遁で身動きを封じさせて頂く。

「見えました! あそこです!!」

 一緒に並走していた千手の忍びの一人が声を張り上げる。
 身を隠す事の出来ない草原のあちこちで、千手の忍び達が必死に応戦している姿が見えた。

「……可笑しくないか?」
「あね、兄上の言う通りです。どうも、一族の者達が戦っている相手は先程の奴らとは違うようです」

 戦っている相手方を観察してみれば、鎧の作りからして種類が異なる。
 それまで戦っていた敵方の忍びの一族の増援かと考えたが、どうにも味方に対する扱いではない。

「――敵方の雇い主に新たに雇われた一族じゃろう。そうであれば、同じ雇い主に従ってはいても、あやつらを仲間として遇していない事にも納得がいく」

 一行の中でも最年長な千手の大先輩の忍びがそう呟く。

 成る程、確かに。

 他の一族と連携を取れる様になって来た忍び連合の者でもない限り、他所の一族と手を組むと言う発想はないだろう。

「木遁の樹海降誕を使う。扉間、目くらましが欲しい。霧隠れの術を頼む」
「わかりました」
「他の者達は相手に隙が出来た瞬間、奇襲を仕掛けてくれ。ただし、深追いはしない事。なんにせよ、一族の者達をここまで追い込む手練の連中の様だからな」

 扉間と同時に印を組む。
 大きく息を吐いた扉間の口から発生した白い霧が草原を覆った。

「――木遁・樹海降誕!」

 土中より一斉に生じた木の根が雪崩の様に相手方の忍び達へと襲いかかる。
 扉間の視界を鈍らせる霧隠れの術と併用されてのこの攻撃方法は、相手の意表をつき身動きを防げる上に、最高の目くらましを兼ねている。

「今だ、いくぞ!」

 霧を掻き分けて一族の者達が雄叫びを上げながら、突進していく。
 視界のはっきりしない霧の中のあちこちで、敵方の忍び達がどよめいている。

 その動揺を利用しない手は無い。

 一族の者達と一緒に襲いかかってくる者達を薙ぎ倒しながら進んでいた私は、不意に感じた強烈な殺気に、手にした刀を前へと構えた。

 それが正解だったのは、直ぐさま判明した。
 唸りを上げて振り下ろされたもう一本の太刀、それが私の構える刀と火花を打ち鳴らした。

「――っく!」

 重いっ!
 何とか防いだものの、相手の尋常でない膂力に肝が冷える。
 まず間違いなく防がなければ、鎧を裁って私の身を切り裂いていただろう。

「っと、これで、どうだ!」

 大きく吠えながら、交差したままの相手の太刀を上手く受け流して、体勢を崩させる。
 そこに蹴りの一発を加えてみたのだが、交差した両手にガードされてしまう。
 だが、そうする事で相手は手にしていた太刀を手から落とさずにはいられない。

「木遁・大樹林の術!」

 片腕を巨木に変化させて、そのまま高速で相手を追撃する。
 この奥深い霧の中ではこの攻撃を躱せまい。そう思っての一撃だったのだが、相手は私の術をこの不明瞭な視界の中で容易く交わしてみせた。
 相手はこの霧の中で攻撃を躱すだけの能力を持っている。――となれば、戦いが長引くと困るのは私だ。

「土遁・土中潜航!」

 とにかく、自分の周りに敵がいるのは分かっているのだ。だとすればその動きを止めてしまえばいい。
 乱戦状況である現状、再度の樹海降誕を始めとする派手な技は同時に味方を傷つけてしまう恐れがあるので使えない。しかし、私は確かに木遁使いではあるが、木遁忍術の他にも使える忍術はあるのだ。

 思った通り。
 私が木遁以外の忍術を使うと予想していなかったのだろう。相手が微かに動揺する気配が感じ取れた。
 土中潜航は自分の周囲を泥沼化する事で相手の動きを止め、逆に使用者の高速移動を可能とする術だ。案の定、相手は液状化した泥に足を取られたようである。

 同時に、何かが鋭く空を切る音が聞こえて来た。

 それが意味する事に気付いた私は、低く腰を落とした。
 今のは扉間が一族の者達をこの場から退散させた事を示す合図だ。――となれば遠慮は無用。

「悪いが、一気に片を付けさせて貰おう!」

 この謎の敵の正体を確かめたい気持ちもあったが、戦場でそのような私情を挟む訳にはいかない。
 初めて感じる名残惜しさを自分でも意外に思いながら、高速で印を組む。

 使うのは先程の樹海降誕の更に上の段階の秘術。あまりに繊細なチャクラコントロールを必須とし、自身のチャクラを生命の源として、大規模な森林を地上に出現させる技。

「――木遁・樹界降誕!」

 地面が勢い良く隆起し、先程とは比較に成らない量の木の根が無数に群生していく。
 しかし、それすらも本当に一瞬の出来事。ただの草原だった地表を巨木が埋め尽くし、その場に巨大な森を作り上げる。
 自分の足下より生えて来た木々の一本に飛び移り、そのまま勢いに任せて伸びていく木に乗った状態で、私は眼下の戦場を見下ろした。

「……取り敢えず、決着は付いた様だな」
「――安堵するには早すぎるのではないか?」

 殺気と同時に、放たれた鋭い剣戟。
 油断した訳ではないが、それでも反応が遅れた事は正直否めない。
 鎧の胸元に、深々とした大きな跡が出来る。

「ようやく、貴様と同じ舞台に立てたな」
「お前……!」

 私と同じ様に樹界降誕時に出来た巨木に足を乗せた青年の姿に、目を見張る。

 使用者でありこの森を操る私ならば、無数かつ無造作に生み出される木々の攻撃から身を守る事は容易いが、目の前の青年は己の持つ能力だけでそれを避けてみせたのか。
 そんな事が出来る忍びは今までに存在しなかっただけに、彼の行った事は驚愕に値する。

 背に瓢箪型の巨大な団扇を背負った、長い黒髪に赤い目の、見覚えのある青年。
 背負った団扇を軽々と片手で握りしめ、青年は三つの巴紋が浮かんだ瞳で私を見やる。

「――………うちは一族が頭領、うちはマダラ」

 尋常でない気迫を纏った青年が、朗々と自身の名を宣言する。
 成る程ね。前に私に向かって言ってのけた様に、とうとう此処まで昇って来たのか。

 初めて出会う今までに無い種類の敵の出現に、柄にも無く胸が高鳴る。
 青年の、否、マダラの赤い目から視線を逸らす事無く、刀を鋭く一閃して私も口を開いた。

「千手の木遁使いにして、千手一族の頭領・千手柱間だ」

 愉しくって、愉快な気分だ。
 それまでこの青年に感じていた思いやわだかまりが、マダラの口上に答えた事で一息に押し流されていく。
 それは最強の忍びと呼ばれ恐れられている自分に対して、真正面からぶつかって来る敵が本当に久しぶりであるせいだろうか。

 ――だから失望させるなよ?

 そう意味を込めた視線を向けると、マダラが高速で印を組む。
 轟々と燃え盛る巨大な火球が、私に向かって勢い良く放たれた。 
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