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レンズ越しのセイレーン

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Mission
Mission6 パンドラ
  (2) ニ・アケリア村 キジル海瀑側通用門(分史)

 
前書き
 彼はあなたの王子様。あなたは彼のお姫様? 

 
 ユリウスとユティが離れて話している間、アルヴィンはルドガーたちの誰かと連絡がつかないか試していた。

 ルドガー、ジュード、レイア、エリーゼ、全員がGHSを持っている。せめて一人でも連絡がつけば合流のめどが立つのだが。

「どうですかな」
「だめだ。エリーゼも出ねえ。山ん中の秘境だし、電波状況よくねえみてえだ」
「全滅でしたか。となると、村人の方々から目撃情報がないかを聞いてみるしかありませんね」
「ああ。ニ・アケリアじゃねえどっかに落ちたとかじゃない限り、それで大まかな位置は掴めるだろ」

 アルヴィンはGHSを畳んで背広のポケットにしまった。
 すると、エルが足元からズボンを引っ張ってきた。

「このままルドガーたちと会えないなんてないよね? ちゃんと見つかるよね?」

 不安をいっぱいに湛えた翠の瞳には、歳よりずっと大人びた潤みが含まれていた。

(ルドガーたち、じゃなくて、ルドガーに、の間違いだなこりゃ。お子ちゃまでも女ってことか)

 内心のにやつきを隠し、アルヴィンはしゃがんでエルの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「やーめーてーっ」
「心配すんなって。ジュードたちも一緒だし、滅多なことにゃならんって」
「きっとルドガーさんもエルさんを心配して、今頃あちこち探し回っていますよ」

 ローエンも紳士らしく笑んで屈んで加勢してくれた。

 そこでこちらに近づいてくる足音が二人分聞こえた。
 立ち上がると、ユティとユリウスが戻ってきているところだった。ユティはアルヴィンと目が合うや、小走りに先駆けてきた。

「ただいま」
「お疲れさん。何話してたんだ?」
「ユリウスお兄ちゃんに弟くんの報告会。あとは向こうが列車テロの日以降どうしてたか」

 正直に話したように錯覚させて、肝心の内容は一切明かさない話術。アルヴィンにも覚えがある。

(隠し事をされた側はこういう気分になるのか。以後気をつけねえと)

 ふと、ユティが背伸びして内緒話の姿勢を取った。アルヴィンも応じて耳を近づける。

「アルフレド。ユリウス、覚えてた。アルフレドのこと」
「マジか?」

 アルヴィンの目はつい、たった今到着したユリウスに向いた。ユリウスに首を傾げて見返され、アルヴィンはバツが悪くなって頭を掻いて顔を逸らした。

「……あー、久しぶり、でいいのかね、ここは」

 ユリウスはふっ、とまとう雰囲気を和らげた。

「そうだな。あの泣き虫アル坊やがずいぶんでかくなったもんだ」
「ちょ、そこまで覚えてんのかよ!」
「そりゃあなかなかに忘れがたい思い出ばかりだからな。お前やバランといた時期は特に。周りの女の子より背が低いとバランにからかわれて泣いてたとか」
「ちょっとでも再会を喜んだ俺が馬鹿だったわ……」

 アルヴィンはがっくりと肩を落とした。この分だとバラン以上にアルヴィンの恥ずかしい過去を仲間に暴露されかねない。

「そうか? 俺は嬉しいぞ」

 ユリウスは大切なものへのまなざしをアルヴィンに注いでいる。

「生きてエレンピオスに帰って来てくれてよかった。――おかえり、アルフレド」
「っ!!」

 危うく涙腺が決壊するところだったのを、アルヴィンは寸での所で食い止めた。

(『おかえり』は反則だろ、ユリ兄)

 これが初めて聞く「おかえり」ではないのに、どうしてこうもダイレクトに胸を揺さぶったのか。
 決まっている。ユリウスがアルヴィンの帰郷を心から祝福し、口にしているからだ。

「よかったですね、アルヴィンさん」
「ばんざーい」
「はは。ありがとよ、じーさん。あとユティ、祝ってくれんのは嬉しいが、せめて作り笑いでいいから笑顔で」
「ばんざーい?」
「それ笑顔じゃなくて寝顔。立ったまま寝るとかおたく器用ね」
「……なんか話がどんどんダッセンしてる気がする」

 エルは半眼でおバカな会話をくり広げる大人たちを見上げている。一番歳が若い幼女がこの場で一番冷静だった。

「ではエルさんにもご指摘いただきましたので、改めてこれからの方針を考えましょうか。アルヴィンさんもユリウスさんもよろしいですかな?」
「あいよ。感動の再会はまたいつでもできるしな」
「エル、ルドガーたち探しに行ったほうがいいと思う!」

 はい! と、教室の学童よろしく元気に手を挙げてエルが言った。

「探しにって、どこに?」
「こことか、山の中とか」

 するとユティががっちりとエルの両肩を掴んだ。目が据わっている。

「あのー、ユティさん?」
「山をなめないで。素人が何の装備もなく人探しに山に入るなんてただの自殺行為。二次遭難して飢えて渇いて、動く力もなくなったとこを魔物にじーーーっくり、食べられるのがオチ」
「じ、じっくり!?」

 急に飛び出した山ガール的脅迫にエルはたじたじだ。子供ならではの豊かな想像力で「じーーーっくり」食べられるシーンを想像してしまったのかもしれない。

「で、でもっ。早くむかえにいってあげないと…迷って、こまって…みんな…泣いてる、かも…」
「エルは優しいひと」

 ユティはエルのほっぺを両手で包んだ。

「だからこそ、待ちましょう。いたずらに動いてエルが傷つけば、ルドガーは悲しむ。プリンセスを迎えにくるのはナイトの役目」
「……エルがコドモだからごまかそうとしてるでしょ」
「そんなわけ」

 エルはユティの手をふりほどいて仁王立ちした。

「エルはオヒメサマきらいっ。だって、おとぎばなしのオヒメサマって、待ってるだけで自分からはなーんにもしないんだもん。エルだったら、ガラスのクツ持ってお城の王子様に会いにいくし、高い塔だって自分でとびおりる。ほんでもって、エルはルドガーを待つだけなんてヤなの!」

 困り果てたユティがアルヴィンたちを見上げてきた。

「……どうしよう。エルがユティの予想を上回る勇者様だった」

 男たちは揃って少女たちからふいっと顔を背けた。頑是ない幼女を説得するなど、この顔触れには不可能に近い。一番弁の立つローエンでさえ、今まで相手どった経験のある子供はエリーゼという内気な少女だけなのだ。

 どうする――3人ともがそう思案しているのがありありと見て取れた。しかも、互いに自分以外がエルの説得に乗り出さないかを窺っている。

 何だこの「先に動いたほうが負け」的空気は。

「ルドガー!!」

 妙な空気をエルの弾けるような声が破った。
 
 

 
後書き
 どうも中だるみの空気が漂っているのをPV数と感想板から感じる今日この頃……

 ユリウスは意外とルドガー以外も大事にしてると思います。アルヴィンEP4の分史ではアルヴィンとの付き合いがありましたし、そもそもバランとも友達ですし(バランはユリウスの好物知ってたから付き合いは深いと見た)。多少ご都合主義ですがエレンピオス幼なじみ3人組を本作はプッシュします。

 エルの「お姫様嫌い」発言はちとやり過ぎかと思いましたが、本作のエルはこんな感じで行きたいです。エルはただ守られるだけのヒロインじゃない的なことを攻略本で中の人がおっしゃっていたので、それにインスピを受けました。それでいてエルに乙女心がないわけじゃないのはアルヴィンのご指摘通り。この先、エルがルドガーにとって「どんな存在」であろうかも、物語を少しずつ変えるファクターになっていきますので。 
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