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アーチャー”が”憑依

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二十二話

 夜も深く辺りが静寂に包まれる中、ここ、麻帆良郊外の森では人知れず激しい戦いが繰り広げられていた。人数は五。一人の小柄な影に、残りの四人が襲いかかる構図だ。
 この戦い、普通ならば数が多い方が有利と見るだろう。数とは、単純にして絶対的な力だからだ。だが、その絶対を覆す例外が居ることもまた事実。そして、この小柄な影の正体も、この場においてはその一人だった。

「ぐっ!」

 振り下ろされた剣が男の体を吹き飛ばす。既に、共に戦っていた他の三人は意識を失っている。男も今は何とか持ちこたえているものの、敗れるのは時間の問題だろう。
 だが、男は諦めるわけにはいかなかった。ここ、麻帆良学園を守る魔法使いとして、得体のしれない侵入者を放っておくわけにはいかないのだ。

「行く、ぞぉ!」

 全身に魔力を滾らせ、声を出すことで自分を叱咤する。これが、最後の一撃。男の全身全霊を持って放たれた最後の一発。だが……

「見事な攻撃でした」

 その攻撃は侵入者が装備していた顔を覆うヘルムを破壊するにとどまる。ああ、駄目だったか、と男が己の無力を嘆き気を失っていく中、最後に残ったものは、申し訳なさそうに男を見つめる翡翠の瞳と、すみません、と言う謝罪の声だった。





「さて、皆集まったの」

 麻帆良学園学園長室。今ここに、主要な魔法先生が全て集められていた。その中にはネギの姿もある。綺麗に整列する魔法先生は皆一様に何事かと眉をひそめている。最も、何人かは既に事情を知っているのか表情を動かさないが。

「ここ最近、とある侵入者が学園の魔法使いを次々と襲っておる。どうやら敵は相当の腕前の様で、既に魔法生徒が三人。魔法先生が四人やられておる」

 学園長の言葉で魔法先生達の間でざわつきが起こる。だが、そのざわつきも学園長のわざとらしい咳払いでピタリと止む。

「幸い、やられた者は命に別状は無い。それに、今のところ一般人に被害が出ておることもない様じゃ。そして、犯人についてじゃが、胸部をのみを守る簡素な鎧に顔を隠すヘルム。輝く金砂の髪に翡翠の瞳を持つ年の頃十代半ばと思われる少女だそうじゃ」

 金砂の髪に翡翠の瞳。そう学園長が行った時、ネギの表情が僅かに変わったのを気付いた者は果たしていただろうか? いや、いないだろう。それは本人すら自覚していないほどのものだったし、周りは学園長の話を聞くのに夢中だ。
 ネギはその後の学園長の話をそこそこに聞き流し、頭に浮かんだかつてのパートナーを想うのだった。





「んー、筋肉痛がとれへん」

「私も……」

「私、もです」

 所変わって麻帆良にある商店街ではこのか、明日菜、のどかが仲良く足を揃えて歩いていた。ここ最近はネギ、エヴァンジェリンによるダブルタッグでの裏の知識に関しての授業。そして生き残るための土台として体力造りや筋力トレーニングをちょっとシャレにならないレベルでこなしているのだ。運動が得意な明日菜でも酷い筋肉痛に見舞われていることが、その苛酷さを物語っている。
 話変わって何故彼女達がここにいるかと言うと、答えは簡単。服を買いに来たのだ。服とは言っても外行き用の可愛らしいものなどではなく、修行中に着るトレーニングウェアの類だ。すぐに、ではないがこれから厳しくなっていくだろう修行を想像し、彼女達は専用に服を用意することを決めたのだ。

「っと、確かスポーツ用品店はこっちだっけ?」

「確かそうやったはずや」

「私は余り行かないので……」

 余り利用したことのないスポーツ用品店へと向かう一行は、不確かな記憶を頼りに何とか目的地を目指して歩く。だが、そんな三人に聞きなれない一つの声がかけられた。

「あの、すみません」

 落ち着いた雰囲気の女性の声だ。だが、やはり三人には聞き覚えが無い。だが、無視するわけにもいかないと三人は同時に振りかえる。そして、三人は思わず声の主である少女に見惚れてしまった。
 いいんちょとはまた違った金色の髪に翡翠の瞳凛々しく整った顔立ちはまるで人形の様だと三人は思った。

「道を聞きたいのですが、構いませんか」

「あ、はい! いいですよ」

 少女に見惚れてしまっていたため反応が遅れたことに僅かに顔を赤らめながら明日菜は応答する。
 そんな様子をこれまた少女は見惚れてしまう様な笑みを浮かべた。そして……

「感謝します。私の名前はアルトリアといいます」

 彼女は静かに己の名を明かした。







「なるほど、運動用の服をですか」

「そーなのよ。今はまだ筋トレ程度だからいいんだけどこれからはもっと色々なことをやるだろうしね」

 麻帆良内にあるスポーツ用品店。明日菜達三人は先ほど知り合ったアルトリアを伴いここを訪れていた。当初はアルトリアを先に道案内する予定だったのだが、彼女が急いでいるわけではないこととこれも何かの縁だということで同伴を望んでのことだった。

「しかし、やけに沢山買うのですね」

「確かにそうなんやけど、やっぱり数が必要になりそうでなぁ」

「場合によっては一日に数着使うこともありそうですので~」

「なるほど。しかし、一体何の運動を?」

 アルトリアは彼女達の目的を運動用の服を買うためとしか聞いていない。これほどの量を買う必要がある運動とは一体どんなものなのか気になったようだ。

「んー、なんて言うのかな?」

「説明しずらいですね」

「ええ例えがうかばへん」

 歯切れの悪い返答にアルトリアは首を傾げるものの、彼女はそれ以上追及することはなかった。



「今日はありがとうございました」

 明日菜達の買い物が済んだ後、一行はアルトリアの目的地へと赴き、そこでも時間を共にした。アルトリアの目的は明日菜達の買い物とは違い、特定の場所の把握と探索といったものであったため明日菜達は散歩気分で楽しむことが出来た。

「こっちも楽しかったわ。もしよかったら、また会いましょう」

「これ、ウチらの連絡先や。時間がある時に連絡してや」

「次の機会を、楽しみにしてますね」

 それぞれのアドレスと番号がかかれた紙を受け取り、アルトリアはそれを大事そうに懐にしまう。そして、別れの言葉をかけて立ち去ろうとしたその時、思いだしたかの様にして別の言葉を口にした。

「最後に一つ尋ねたいのですが、ネギ・スプリングフィールドという人物を知っていますか?」

 一体何故その名がアルトリアの口から出てくるのか。三人は不思議そうに顔を見合せながらも首を縦に振った。







「金色の髪に翡翠の瞳を持つ少女の侵入者ねぇ」

 ネギから侵入者の話を聞いたエヴァだが、さして驚いた様子は見せなかった。彼女はこの学園に張られている侵入者探知の結界とパスが繋がっている。とっくにその情報は得ていたのだろう。それにしてもこの幼女すごくいい笑みを浮かべている。

「なぁエミヤ。何か思うところがあるんじゃないか?」

「………………」

 ネギは一切の反応を見せず、静かに茶々丸がいれた紅茶を口に運ぶ。反応を見せればエヴァンジェリンが楽しむだけだと分かっているからだ。最も、この沈黙すらも相手は面白がっているとネギは自覚していたが。

「ククク、侵入者が見つかった時が楽しみだ」

 自分からしたことではあったが、やはり過去を知られているというのは厄介なものだとネギは内心ため息をつく。だが、エヴァンジェリンの言うことも事実。一度想い浮かべてしまった以上やはり意識してしまう。確かに、彼女自身に会う可能性は0といっていい。だが、別の可能性があるにはあるのだ。彼女ではないが、彼女である。そんな可能性が。

「………………」

 果たして、侵入者がそうであった時自分はそうするのだろうか。何も感じないのか、自分ですら思い浮かばない様な行動に出るのか。それは分からない。だが、やはり会って見たいとネギは想うのだった。







 暗闇の中、銀閃が縦横無尽に閃く。二つの銀閃はキンキンと乾いた音を立てながらせめぎ合う。片や空気をも切り裂く鋭い技をもって。片や空気をひねりつぶす様な剛力をもって、互いを喰らわんとする。その実力は正に互角。両者は一切引くことなく互いの刃を振り続ける。

 ――――神鳴流、斬岩剣!

 一転して技の銀閃を繰り広げていた側が剣の質を相手方と同じものに切り替える。それを望むところだと言わんばかりに今まで以上の力を持って迎え撃つ。二人の中心で刃がぶつかり合い、周囲に初撃波をまきちらす。

「その年でこの実力。見事です」

 眼鏡をかけたスーツ姿の女性。手に野太刀を持ちて技の剣を振っていた葛葉刀子は対峙する少女に惜しみない賞賛を送る。それほどまでに少女の剣腕は素晴らしかった。刀子はこの少女と同じくらいの年頃の子を指導している。そちらの子も才能に溢れ、年にしてはかなりの実力を有しているが、この少女はそれを凌駕している。

「そちらこそ、見事な腕だ。神鳴流、といったか。その剣技、思わず見惚れる所であった」

「光栄ですね。一剣士として、貴方と長く戦ってみたい所ですがそうもいきません」

 何せ貴方は多くの同僚を倒した侵入者ですから、と刀子は続ける。そして、全身に気を漲らせ大技を放つ体勢に移行する。それを見て、少女も剣を構え直す。

「いきます」

 刀子は一度目を閉じ、それを見開くと同時に技を放つ。

 ――――神鳴流、極大雷鳴剣!

 雷へとその姿を変えた気が斬撃に乗せて放たれる。殲滅攻撃としても用いられるこの技は、とてもではないが先ほどの少女の立ち位置でかわしきれるものではない。仕留めた。そう刀子は確信した。だが……

「な、んですって!」

 雷の斬撃、その真っ只中を突っ切って来る少女を目にし彼女は茫然としてしまった。そして、斬撃を抜けた少女の剣の柄による一撃をみぞおちに無防備に受けてしまう。

「な、ぜ……」

 意識が段々と薄れていく中、刀子は問いかけた。先の一撃、まともに受ければあのタカミチでさえも無傷ではいられない威力だったはずだ。だが、少女は服が所々焦げてボロボロになっているものの無傷だ。

「私は生来より、魔力や気に対する抵抗力が高い。それも人並み外れて」

 少女の返答を聞き届けると同時に、刀子は気を完全に失った。

「ネギ・スプリングフィールド……」

 少女は呟く。己が目的の人物。彼と対峙するのは何時になるのか。思いをはせながら。 
 

 
後書き
ことみーの人気に嫉妬の作者です。
遅ればせながら新話更新です。
このあと、私はリハビリがてら新作の試し書きをしようと思います。 
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