『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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鴉鑑賞会
日本武道館の八角形ドームは、試合当日の熱気で満ちていた。中央の10m×10mの畳試合場は白い線が輝き、その周囲には安全地帯が広がる。準決勝からは、1試合ずつ行うからだ。
約1万4千人を収容出来る三層の観客席は、大体7割ほど埋まっているだろうか。その天井の近くには、巨大な日本国旗が掲げら荘厳な雰囲気を醸し出している。
空気は畳と汗の匂いが混じり、低く抑えられた観客のざわめきが響く。
そんな中、会場の中央で対峙する2人の男……
1人は、ミリタリー服を着たガタイの良い大男。その身長は、2メートルに達するだろう。緊張はしているが、全身に力がみなぎり闘志に満ちあふれていた。
そして、方や両手をズボンのポッケに入れたまま涼しい……と言うより冷ややかな顔で佇む、黒いコートにマスクをしたもう1人は………
「逃げないで来たのは、褒めてやってもいいが…開始早々にギブアップでもする気か?」
「……そ、そんなことはないんジャ!」
「お前……今まで通りで私を何とか出来るなんて、本気で思ってるのか?」
「それは………いずれわかるんジャぁ!!」
「……期待しよう」
大男……ステルスの決意めいた顔にポケットから手を出すも、あくまで余裕の表情を崩さないマスク………
□□□
“あれが、《鴉》って野郎か。如何にもヤバそうだな”
“あいつ…何で、マスクなんかしてるんだ?”
“でも、割とイケメン……?”
“何か、目つきが知的な感じ♪”
“そう?どちらかと言うと、嫌味系なイケメンって感じじゃない?”
“嫌味でも、知的でもいいけど、ピート君の方が上に決まってんでしょ!”
“でも、あいつが海岸でピートを氷漬けにした奴なんだよなぁ?”
“ちょっと!そんな言い方……”
“構いませんよ。僕は、こいつにやられました。本当にあの態度……何回見ても腹の立つ奴だ!!”
…………おいおい。
あんなやり取り無かっただろ?ステルス…お前、何勝手に事実を捏造してんだ?しかも、周りは周りで何か勝手な事(特にピート)ほざいてるし。それに “知的” って何? “恥的” ……??
ここは、愛子の作り出す異空間(要は机の中)。
そこにステルスの精神感応で、半年くらい前のGS試験の試合風景を流していて、それを全員が思い思いの姿勢で鑑賞している最中だった。
感じとしては、大体10メートルくらい先で当時の俺達が対峙している。
そんな光景を席でスナックを摘みながら気怠そうにしていると、近くに居た愛子が話し掛けて来る。こいつだって、ステルスの精神感応手伝ってるはずだけど、余裕だな。
「どう、思う?」
「なんとも言えん……」
そんな愛子へ、仏頂面で返す俺………と言うか、アレ俺じゃねぇだろ?
……いや、何か俺くさいけど、明らかに美形度がアップしてる。こっちにもステルス補正が加わってやがるぞ(お陰でバレなくて済むけど……)。何で??
「俺なんかより、お前は実物を見たんだろ?アレで合ってるのか?」
「結構遠くからだけどね。でも、こんな感じの人だったわよ」
「そうか……」
………そこは否定してくれよ。
なんか、俺の目の前でクラスメイトの《鴉》像がどんどん変な方向に向かってないか(余計カミングアウト出来なくなってく……)?
「でも、ピート君も良く平気でいられるわね。因縁の相手なら、大っぴらにしたがらないと思いけど……」
「それだけ、決意が固いって事だろ?」
「そうなの?」
「何となくだけどな……」
今回のこれは、別に連中がリクエストした訳じゃない。話の流れが、たまたまこの前の海の※一件に飛んだ時にピートの方からステルスに見せるよう促したんだ
※『卒業記念旅行編』参照
クラスメイトに自分のターゲットを認知させる事で、後戻り出来ないよう追い込むつもりだろう。こっちとしては、面倒くせぇことこの上ねぇけど……
そんな感じで、愛子と話してる内にも俺とステルスの試合は、着々と進行して行くが………
□□□
「うおおおぉぉぉぉーーーっ!」
ドゴォッ! バギィッ!
「まだまだぁーーっ!!」
ドバキッ! ボコォッ!
「はあぁぁぁ〜っっ!!」
バコォッ! バギィッ! ボグァッ!!
□□□
“おいおい、ヤベぇだろ……?”
“酷い……”
“うわっ!また、殴られた…痛そう……”
“タイガー。ずっと殴られてばっかじゃねぇか”
“なんて奴だ!一発で決められる癖にっ……!!”
□□□
また、勝手に盛り上がりやがって(特にピート!)……
「何なの……?これ、本当に殴られてばかりじゃない!?」
「………………」
………そうだね。
当事者が言うのもなんだけど、概ね前半はこんな感じだったな。どうやら、あの野郎ここは捏造しなかったらしい……いや、そこはお前寄りに捏造しろよ。
これじゃ、ただのリンチじゃねぇか(ますます、俺のイメージが悪くなる)!?
予定では、この後※ステルス化して反撃が始まるわけだが、この流れだと……
※暴獣化です。
□□□
「ワッシは “虎” になるっ!!虎になるんジャーーーーっっ!!!!」
□□□
“うおぉぉ!ここに来て遂にタイガーの反撃か?”
“頑張って、タイガー君!”
“目にもの見せてやれっ!!”
“行け!タイガー……君の力をみせてやるんだ!”
マジか……結果がわかりきってんのに、何故そんな感情移入出来る?
「ガウッ……ガウッ……ガウッ……ガウッ……ガウッガウッガウッガウッガウッガウッガウッガウッガウッガウッガウッガウッ………グアァァァァーーーッッ!!」
…………度重なる咆哮によって、最高潮にまで達するステルスのボルテージ。その瞬間と同時に暗転する空間。
そして……
□□□
“あれ……?”
“元に戻った??”
“試合どうなったんだよ??”
“どうしたんだい?タイガー……”
武道館から急に愛子の教室に戻って皆が戸惑う中、ステルスが頭を掻きながらバツの悪そうに呟く。
「………申し訳ありません。ワッシの記憶は、ここで途切れてしまいまして……この後、気付いたらベッドの上に寝ておったんです」
………その一言によって、訪れる一瞬の静寂。
ただ、それはいきなり逆さにしたコップの水が重力に従うまでのモラトリアムに過ぎなかった。
「はぁっ!お前、ここまで引っ張ってそれかよ!?」
「何も覚えてないの?」
「じゃあ、私達タイガー君が殴られる所を見せられただけ!?」
「思い出したんじゃなかったのかい?タイガー!?」
「そ、そんなぁ!?ワッシは、皆さんが鴉さんを見たいと言うから……」
やっぱりな……
と言うかお前、馬鹿か?(見たいと)言われたからって、あんなもん馬鹿正直に見せてどうすんだ?見せんなら、せめて内容告知してから、見せろ。
…………と、言えない自分がもどかしい。ただ、知らぬ存ぜぬを通すには、ひたすらノータッチで行くしかない。
だが、俺がそんなジレンマにモヤついてる間にもその場の空気は、更におかしな方向に流れて行く。
「……でも、凄かったけど余り霊能者っぽくなかったわね」
「確かに。あれじゃ、ただの殴り合いの喧嘩だもんな」
「殴られたのタイガーだけだけどな……」
「うぅ……」←ステルス
「ピート君の時も、あんな感じだったの?」
「いえ……でも、奴はもっと危険ですよ」
「タイガー。あいつの他の試合は無いのか?」
「ん〜……では、ワッシが一番印象に残ってた奴を……」
まだ、やるの……?大丈夫か??
◇◇◇
グボォアッ!
「ぐあぁぁっっ!!お!お前、一体何をっ!!?」
閃光と爆音。それによって爆発する男の右腕。だが、それでは終わらない。鴉はすれ違い様に今度は男の左腕を……
バガアァンッッ!!
「ぐああぁぁぁっっっ!!」
□□□
「「「「……………………」」」」
全っ然、大丈夫じゃなかった………テメェ、糞虎。連中になんてもん見せてくれんだ。あれは、一番ヤベぇ初戦じゃねぇか……!!
※『GS試験編』参照
“い、いやぁっ!”
“何何何!何が起きたぁ??”
“凄いヤケド……”
“う、腕が爆発した……?”
“触っただけでぇ!?”
“あれが、あいつの能力です。本当にえげつない……”
□□□
「あぁ……あぁぁ………」
「さて…次は、どこを吹き飛ばそうか?足か?腹か?それとも、頭か?」
「あぁ…止めろぉ。止めてくれぇ……」
「早くしろ。全部飛ばしてやるが、順番くらいなら選ばせてやる」
「悪かった。俺が悪かったぁ………!」
「………時間切れだ。そろそろ死ぬか?」
「ひぃっ……!!」
「最後に…私の支配するその精神的物体を、お前にも分かりやすく具現化してやる」
キュイィィィン………
□□□
“おお……”
“嘘……あ、あれって”
“ダイナマイト!!?”
“鴉……!”
…………うん。
また、なんか微妙に台詞が違うね。
と言うか………怯えきったチンピラの顔も凄ぇけど、俺の方も嗜虐心に満ちたいい表情してんなぁ。あの時は、脅す意味を込めて(ハゲにムカついて)敢えてああにしたんだけど、傍から見たらあんなヤベぇ顔してたんだな……って、んな場合じゃねぇな。
□□□
「 “爆弾” だ……!」
「ギ…ギブアップ!ギブアップするぅ!!!」
「そこまで!勝者か__えっ!?ちょっ…まっ__」
□□□
“いやぁっ!!”
“おいおいおい!!?”
“駄目ぇっ……!!”
………駄目だ。もう、これ以上だんまり決め込めねぇ。
「止めろっ!ステルス!!」
「ワッシは、影のうっすい虎ジャないんジャいっ!!!………あ」
影の薄い虎の虚しい雄叫びと共に、元へ戻る異空間。やれやれだ……
「あぁ……教室に戻った」
「あ、あの後…どうなったの?」
「あいつ…審判の制止を無視して……」
「横島さん。何で止めんたんジャ?」
「馬鹿野郎。全員、ドン引きしてんじゃねぇか」
それに、あのまま閃光弾破裂させたら全員の網膜が……いや、脳内がバグっちまうわ。あの時は、広い会場だから良かったけど至近距離でやるんじゃねぇよ。
「あ……」
周りを見渡して絶句するステルス。連中の青ざめた顔を見て、ようやく自分のやらかしを悟ったらしい。
そんな馬鹿虎を俺は、ジト目で見ながら口を開く。
「何故、あれをチョイスした……?」
「い…いえ、一番分かりやすいかなと……」
「分かり易すぎるわ……!もっと、他に無かったのか?」
あれじゃ、ただのイカれたサディストだろうが。
「あん人の試合は、どれも簡単に終わってしまったもんで……いや、実を言うとワッシも刺激が強すぎるんジャないかなぁ、と思うとったんですが………」
「じゃ、出すなよ」
もしくは、せめてモザイクでも掛けろ!要らん、捏造ばっかしやがって!!
そんな不毛とも取れるやり取りだったが、幸いにもそれで周りの雰囲気は和んだ(?)らしい。他の連中からも、質問が飛ぶ。
「……でも、結局あの人どうなったの?」
「死んじゃったとか?」
「いえいえ!審判の人も、選手の人も無事でした」
「じゃあ、あの爆弾は投げなかったの?」
「いや、投げて破裂しました。でも、凄い光っただけジャッたんです。ただ、あん時は皆度肝を抜かれてしまいました」
「閃光爆弾だったのか。どこまでも、悪趣味な奴だ」
「霊能力者って、爆弾も作れるの?」
「まさか…あんな事が出来るのは、あの変態くらいですよ」
うるせぇピート。テメェには、いずれ本物ブツけてやるからな。
…………と、そんな感じで、良くわからないままスタートした《鴉》鑑賞会(?)は、良くわからない微妙な空気のまま終わった。流石にこれ以上見たいとは、誰も思わなかったらしい。
……ったく、文化祭の打ち上げでやるもんじゃねぇだろ。とにかく、これで完全に鴉=俺ってカミングアウト出来なくなったわ(ピートを氷漬けにした時点で、ほぼ不可能だったけど……)。
そうやって微妙な空気に浸っていると、愛子がボソッと呟く。
「遠くからで分からなかったけど……あんな事、言ってたのね」
だから、言ってねぇ!!概ね合ってるけど “死ね” までは、言ってない!
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