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機動戦士ガンダムSEED DESTINY -白き翼-

作者:BLADE
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PHASE-03 ―その手でもう一度―

泣き疲れた少女の嗚咽だけが、静かな病室に響いていた。
医師も、看護師も。
誰一人として言葉を挟まなかった。
慰めの言葉では届かないことを知っていたからだ。

「……返して」

マユは膝を抱えたまま、小さく呟く。
「お父さんも……」
涙が止まらない。
「お母さんも……」
肩が震える。
「お兄ちゃんも……。」
そして、包帯に覆われた右腕を見つめる。
「皆を……返して……」
その声は、十歳の少女のものだった。
どれほど外見が成長していても。
どれほど落ち着いた口調になっていても。
今この瞬間だけは、家族を求めて泣く子どもだった。

医師は静かに椅子から立ち上がった。

「今日はこれ以上、説明はしません」
そう言って部屋を出ようとした、その時。

「先生……」
か細い声が背中を止めた。
「……私は」
医師は振り返る。
マユは涙で濡れた顔を上げた。

「どうして……助かったの?」

その問いは、医師の胸へ深く突き刺さった。
「みんな死んじゃったのに」
「どうして私だけ」
「どうして……」

言葉にならない。
医師はしばらく沈黙し、ゆっくりと口を開いた。

「私にも、その答えは分かりません」

それは正直な答えだった。

「ですが」
一歩だけベッドへ近付く。
「助かった命には、意味があります」
「意味なんて……」
マユは首を横へ振る。

「私は、お兄ちゃんもいなくなった」
「お父さんも」
「お母さんも」
ただただ、涙を流すしか出来なかった。
「私は何もできなかった」
その一言一言が、自分自身を責める刃になっていた。

病室の外。
ガラス越しに、その様子を見守る人たちがいた。
白衣を着た研究員。
義肢開発チームの技術者。
リハビリ担当の理学療法士。

皆、一様に無言だった。
若い女性研究員が小さく呟く。
「まだ十歳なのに…」
隣の男性技術者が目を伏せる
「戦争は、子どもから子どもでいる時間まで奪う」

誰も反論しなかった。

戦時下のこの時代、モルゲンレーテでも負傷兵を見ることは珍しくない。

――だが。

十歳の少女が、自分だけ生き残ったことを責め続ける姿を見るのは、あまりにも辛かった。



数日後。

マユは初めて病室の外へ出ることになった。
車椅子に座り、ゆっくりと長い廊下を進む。
ガラス張りの通路。
白く磨かれた床。
研究施設特有の静かな空気。
歩く人々は皆、忙しそうだった。
だが、マユの姿を見ると足を止める。
「おはよう」

誰かが優しく声を掛ける。
マユは少し驚き、小さく頭を下げた。
「……おはようございます」
「今日は調子はどう?」
「……少しだけ」

それ以上、会話は続かない。

けれど、その「おはよう」はどこか温かかった。


リハビリ室。

広い部屋には歩行訓練用のバーや医療機器が並んでいる。
理学療法士の女性が微笑んだ。
「初めまして」
優しい笑顔だった。
「私は今日からあなたのリハビリを担当します」
マユは静かに会釈する。
「よろしくお願いします。」
その落ち着いた受け答えに、療法士は少しだけ目を見開いた。
「……本当に十歳なの?」
思わず口をついて出た言葉だった。
しまった、と思った時には遅い。

マユは一瞬だけ困ったように笑う。

「私も……よく分からないんです。」
その笑顔には、年齢相応の無邪気さはなかった。
「鏡を見ると十五歳で」
「でも本当の私は十歳で……、自分が自分でないように思っちゃうんで」

療法士は胸が締め付けられる思いだった。
「そう……だよね」
それしか言えなかった。
「それじゃあ今日は」
療法士は話題を変えるように少女の右腕を見る。
「少しだけ動かしてみましょう」
マユは頷く。
「はい」
右腕へ意識を向ける。

開く。
閉じる。
肘を曲げる。

全てがぎこちない。
ほんの僅かに遅れる。
だが確実に動いている。

「すごい……」
思わず自分でも呟く。
「動く」
療法士は笑顔になる。
「これはあなたが頑張った証拠よ」
「私が?」
「三か月間、ずっと神経接続を続けてきたの」
マユは右手を見つめた。
「でも、私はただ眠っていただけ……」
「それでも、……ありがとう」

誰へ向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
身体へか。
医師へか。
それとも。
まだ見えない未来へか。
その時だった。

右眼の奥で、ほんの一瞬だけ淡い金色の光が走る。
視界の端へ小さな表示が現れた。

«MOTOR CONTROL:74%
NERVE LINK:STABLE
ADAPTATION:CONTINUING»

すぐに表示は消える。
マユは誰にも気付かれないよう、そっと右眼へ触れた。

(……私の中で)
(何かが生きてる)

それは恐怖だった。
だが、同時に小さな希望でもあった。

失ったものは戻らない。

それでも、この身体で生きていかなければならない。
少女はまだ、その覚悟を持てずにいた。
だが、その日初めて。

ほんの少しだけ。

「生きたい」

という想いが、胸の奥で静かに芽吹き始めていた。
 
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