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機動戦士ガンダムSEED DESTINY -白き翼-

作者:BLADE
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PHASE-02 ―失われた五年―

病室には、機械が発する微かな駆動音だけが響いていた。
医師はマユの表情を静かに見つめる。

怯える様に問いかける少女。
その瞳には同年代の子どもにはない疲れが宿っていた。

「……生きるための、治療?」

マユは恐る恐る尋ねた。

医師は小さく頷く。

「まず、一つずつ説明しましょう」

ベッド脇のモニターに数枚の画像が映し出される。
オーブ戦で搬送された直後の医療記録だった。

マユは思わず息を呑む。

そこに映っていたのは、自分だった。
全身は煤と血で汚れ、右肩から先は失われている。
右眼は包帯で覆われ、顔には火傷の痕が痛々しく残っていた。

「……やめて」

思わず目を逸らす。

「見たく……ない……」

医師はすぐに映像を切り替えた。

「すみません。ですが、あなた自身には知ってもらう必要があります。」

マユは布団を握り締める。
震える指先を見つめながら、小さく頷いた。

「……はい」


「あなたは右腕を失いました」

その言葉は、思っていた以上に重かった。
頭では分かっていた。
夢ではないことも。

それでも、誰かの口からはっきり告げられると、胸の奥が締め付けられる。

「右眼も完全に失われました。」

医師は続ける。

「現在、あなたの右腕と右眼は、モルゲンレーテ製の医療用サイバネティクスによって補われています」

マユはゆっくりと右腕へ視線を落とした。
包帯越しに、そっと指を曲げる。
右手も、それに応えるように動く。

「これ……が?」

「あなた自身の意思で動いています」
「でも……」

「それらは神経と接続されています」
医師は優しく説明する。
「決して『機械を操作している』のではありません。」

「もはや、あなたの身体の一部なんです」

マユは何度も右手を開いては閉じた。

ぎこちない。
少し遅れる。
けれど、ちゃんと動く。
そのことが、逆に怖かった。

「……私、人間じゃなくなっちゃったの?」
突拍子がない質問だとは少女にも分かっていた。
だが、自分の身体が自分でないものに変わってしまった。
その感覚が、自分から人間性を失わせているように少女には感じられた。
その問いに、医師は少しだけ考え込む。
そして首を横へ振った。

「違います」
「あなたは人間です。」
「例え身体を失っても、人であることは変わりません」

その言葉は優しかった。
だが、マユの胸に空いた穴を埋めることはできなかった。

「でも……」

右腕を見る。

「これ、お兄ちゃんが触ったら……冷たいのかな。」

ぽつりと漏れた一言。
医師は返事ができなかった。

病室には長い沈黙が流れた

「もう一つ、大切なお話があります」

医師は慎重に切り出した。
マユの表情が強張る。

「これ以上……?」
右腕を上げながらマユは問いかける。

「はい」
医師はモニターを操作した。
そこには現在の身体データが映し出される。

「あなたは三か月間、治療ポッドの中で眠っていました。」

「うん……」

「その間、失われた組織の再生と、義眼や義手との神経接続を行いました」

医師は一度言葉を切る。

「しかし、そのままのあなたの身体では治療に耐える事が出来なかったのです」

マユは意味が分からず首を傾げる。

「……?」

「十歳だったその身体には、治療の負荷があまりにも大きすぎた」

静かな説明。
だが、その先の言葉だけは重かった。

「ですから、私たちはあなたの成長を促進しました。いや、そうするしか無かった」

マユは瞬きを繰り返す。

「……成長?」

「はい」

「身体年齢を、およそ十五歳相当まで」

その瞬間。
時間が止まった。

「……え?」

聞き間違いだと思った。

「十五歳……?」

「はい」

「そんな事……」

あり得ない。
あり得るはずがない。

医師はベッドの横に置かれていた鏡へ静かに手を伸ばした。

「今はまだ無理に見る必要はありません……」
「ですが、いずれ受け入れなければならない現実です。」

マユは恐る恐る鏡へ目を向ける。
そこに映っていた少女を見て、息を止めた。

――知らない人だった。

肩まで伸びた栗色の髪。
少し大人びた輪郭。
以前よりも高い背丈。
細く長い手足。

だが、その瞳だけは変わらない。
泣き虫で、兄を追いかけていた十歳のマユのままだった。

「……誰?」

鏡の中の少女が、同じように呟く。

「……これ」

頬へ左手を伸ばす。
鏡の中の少女も頬へ触れる。

「……私?」

その一言とともに、涙が溢れた。

「いや……」

鏡から目を逸らす。

「いやだ……」

ベッドの上で膝を抱え、小さく身体を震わせる。

「返して……」

その声はかすれていた。

「私の身体……返して……」

泣き崩れる少女に、医師は何も言えなかった。
助けるためだった。
その選択に後悔はない。

だが、助かった代償として、この子は「普通に成長する未来」を失った。
その事実だけは、誰にも変えられなかった。
病室の窓からは柔らかな朝日が差し込む。

その光は優しかった。

けれどマユの心には、まだ届かなかった。 
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