機動戦士ガンダムSEED DESTINY -白き翼-
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PHASE-01 ―再生―
世界で最初に聞こえたのは、規則正しい電子音だった。
――ピッ……
――ピッ……
――ピッ……
まるで心臓の鼓動を数えるような、小さく一定のリズム。それは静かな水底から聞こえてくるようにも思えた。
(……ここは?)
意識だけが、ゆっくりと浮かび上がっていく。
身体は鉛のように重い。
指一本動かせない。
瞼を開こうとしても、まるで何かに押さえつけられているようだった。
やがて、ぼんやりと光が差し込む。
白い。
どこまでも白い光だった。
少女――マユ・アスカは何度か瞬きを繰り返し、ようやく焦点を合わせる。
目の前には白く清潔な天井。
その表面には無数の照明が埋め込まれ、柔らかな光を降り注がせている。
(……病院?)
そう思った瞬間だった。
胸の奥で、何かが強く締め付けられる様な感覚。
フラッシュバックする光景。
爆発。
炎。
兄の手。
――お兄ちゃん!
反射的に身体を起こそうとした。
だが。
「っ……!」
全身に激痛が走る。
胸が、
肩が、
背中が、
足が、
身体中が悲鳴を上げているような気がした。
「起きないで」
穏やかな女性の声。
白衣を着た看護師が、そっと肩へ手を添えた。
「あなたの身体は、――特にその右腕はまだ神経接続が安定していないの」
「……お兄……ちゃん……」
自分の声とは思えない程に掠れた声だった。
喉は乾き切り、まともに言葉にならない。
「……お父さん」
「……お母さん」
看護師は答えなかった。
その沈黙だけで、マユは何かを悟ってしまう。
「……嫌」
小さく首を振る。
「嫌……」
思い出したくない。
思い出せば、それは現実になってしまう。
しかし記憶は容赦なく蘇る。
街を焼く炎。
爆風。
私の為に携帯を取りに行く、と言って離れていく兄の手。
直後の爆発で吹き飛ばされる自分。
そして――
寸断された自分の右腕。
「いやああっ!」
叫びながら反射的に右手を見てしまう。
その瞬間だった。
視界の端に、自分の右腕が映る。
――あった。
そこに自らの腕は、あった。
白い包帯に覆われてはいるが、肩から先までちゃんと繋がっている。
「……え?」
混乱する。
その腕は確かに、瓦礫が切断したはずだ。
恐る恐る右手を動かそうとする。
指先がぴくりと震える。
「私の……腕?」
しかし、その感触は違った。
皮膚ではない。
筋肉でもない。
何か別のものが、自分の意思に応えて動いている。
左手で右腕へ触れる。
包帯越しに伝わる感触は、わずかに硬かった。
生身とは違う。
何かが違う。
「先生を呼んできます」
看護師は静かに部屋を出ていった。
一人になった病室で、マユは包帯に覆われた右腕を見つめ続ける。
自分の身体ではない。
直感的に悟った。
だが……不思議と違和感もない。
それは、ただそこに確かに存在していた。
その時だった。
視界の右側に、小さな違和感が生まれる。
視線を動かす。
世界は見えている。
なのに、色彩がほんのわずかに違う。
左目で見る世界は柔らかい。
右目で見る世界は、少しだけ輪郭が鋭い。
白い壁。
心電図モニター。
天井の照明。
右眼に写るその全ては妙に鮮明だった。
「……?」
無意識に瞬きをする。
その瞬間。
右目の奥で、淡い金色の光が一瞬だけ走った。
同時に、視界の隅へ文字が浮かぶ。
«SYSTEM CHECK...
VISUAL LINK...
LIMITER ACTIVE...
ALL FUNCTIONS LOCKED.»
「……なに……これ?」
驚いたマユが右目を押さえると、文字はすぐに消えた。
まるで幻だったかのように。
しかし、それは幻ではなかった。
「その右眼は、モルゲンレーテの最高技術を結集して造られた人工視覚器官だよ。とは言っても、まだ機能のほとんどは封印されているのだがね」
静かな声とともに、初老の医師が病室へ入ってくる。
その胸には、モルゲンレーテ医療研究部の認証バッジが輝いていた。
医師はベッドの脇まで歩み寄り、穏やかに微笑む。
「おはよう、マユ・アスカさん。」
マユはその顔を見つめた。
どこかで見たような気がする。
夢の中で、何度も聞いた声。
「あなたは……」
「私は、この施設であなたの治療を担当している医師です。」
医師は一度だけ深く息を吐いた。
その表情には安堵と、そして言葉にできない重さが滲んでいた。
「まず伝えなければならないことがあります。」
マユは小さく頷く。
その胸は、不安でいっぱいだった。
医師は椅子へ腰を下ろし、少女の目をまっすぐ見つめる。
「あなたは三か月間もの間、眠っていました。」
その一言が、静かな病室へ落ちる。
マユは驚きのあまり言葉を失った。
三日ではない。
三週間でもない。
三か月。
その間、自分の時間は止まっていたのだ。
だが、それ以上に彼女の運命を変える事実が、まだ告げられていなかった。
医師は一瞬だけ目を閉じ、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「そして……私達は、あなたの身体に生きる為に必要な治療を施しました」
その続きは、少女の人生を根底から変えることになる。
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