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少女1人>リリカルマジカル

作者:アスカ
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第一話 幼児期①



 俺のじいちゃんはよく放浪していた。

 ちなみにじいちゃんの名誉のために言っておくと、決して痴呆だったわけではないし、夢遊病を患っていたわけでもない。文字通り様々な場所や、見知らぬ土地をふらふらすることがとにかく好きだったらしい。なんか本能的なものだと昔聞いたことがある。

 だからもし、じいちゃんの職業をあげるとするならば、世間一般的には「放浪家」ということになるのだろう。

 しかし、じいちゃんはその名称に納得しなかった。別に放浪家であることに否定はしていない。ただ響きの問題らしい。流浪人とか冒険家とかなんかこう……もっとかっこよかったり、ロマン溢れる名称がいいとよく駄々をこねていた。まぁ、結局家族の誰からも、そんな風に扱われたことはなかったと記憶しているけど。


 さて、『じいちゃん=放浪家』という方程式ができてしまったのは、もはや覆しようがない真理だった。だが、俺にはまだそんな方程式はたてられていない。じいちゃんの血が覚醒し出して、ふらふらするようになった俺は必死に考えた。

 そう将来の夢は決まっている。だからこそ先手を打つことにしたのだ。じいちゃんの失敗を糧に孫は成長した。つまりは知名度というものを先に手に入れさえすればいいのだ。将来俺が、放浪家と冒険家のどっちで呼ばれるかはわからない。それならば、自ら最初に名乗ってしまえばいいのだと気付いた。

 だからこそ俺はここに宣言する。これだけの人に囲まれているのだ。これだけの人が俺に注目しているのだ。必ず浸透する。順番に己の夢を熱く語れるこの機会。絶好の舞台であることは間違いない。

 ついに自分の名前が呼ばれたため、俺は静かに椅子から立ち上がり、小さく息を吐いた。そしてそのまま手に持つ原稿を開く。俺の将来へのスタートは、ここから始まるのだ。全ては……ロマンある呼び名のために!


 俺は小学校の授業参観のために書いた、『将来の夢』という作文を元気よく朗読した。


「俺は将来、冒険家になりたい!」

 母にマジ泣きされました。



******



「いやぁ、懐かしい。さすがにあれは予想外だった」
「お兄ちゃん?」

 俺のことを呼ぶ声にふと意識が戻る。どうやらつい思い出に浸りすぎていたようだ。妹が不思議そうにこちらを見ている。

「ごめんごめん、何でもない。ただ母さんを泣かせるのはまずいよなーって思っただけ」
「むー。お兄ちゃん、お母さんを泣かせちゃだめだよ」
「はは、そうだな。家族を泣かせちゃだめだよな」

 妹の言葉に俺は笑みを向けながら、彼女の頭をそっと撫でた。実際その後に、「安定した職を探します」って言って、本気で宥めたからな。そんでちゃんと就職して安心させてあげた。心残りはあったけど、冒険家にならなくても放浪ができない訳ではなかったから。当時は俺も、家族にお祝いの言葉をもらえたのは素直に嬉しかったからな。……本当に。


「……というか、話が脱線していることに気付いた」
「だっせん?」
「お話の方がふらふらしちゃっていたってこと。だがいいか、妹よ。俺たちは、放浪はしている。それでもお兄ちゃんたちは冒険家なんだ」
「ほーろうかじゃないの?」
「牛乳とコーヒー牛乳ぐらい違う」

 コーヒー牛乳は好きだけど、牛乳は苦手な妹にはなんとなく違いが通じたみたいでした。


「さて、妹の誤解も解けたようですし、今日もさっそくふらふらするか」
「する! 今日はどこに行くの?」
「ちょっと冷えてきたしな…。温泉にでも行って、足をちゃぷちゃぷしてみたい気分だ」
「おんせん!」

 俺の提案に、嬉しそうに妹が声をあげた。母さんが今の仕事を始める前までは、時々家族で温泉に行ったりしていたからな。温泉入った後にマッサージチェアに座って、温泉卵食べて、最後にフルーツ・オレで締めるのがたまらなかった。それを見ていた妹も真似しようとしたけど、母さんが必死に止めていたっけ。なんでだろう。


「とりあえず、前に母さんの同僚の人から借りた、このパンフレットからチョイスするぞ!」
「うん。でもどんなおんせんがあるの?」

 たぶん美肌効果のある温泉とか、イケメンが出没しそうな温泉だと思う。このパンフレットをもらった時、同僚さんかなりキていたからな。


『最近お肌が荒れてきたわ…、温泉にでも行きたい。でも上層部はいつも無茶ばっかり言うし。休みも寝る時間もない。それにお出かけもできないからイケメンとの出会いもない、…………フ、フフフ、フフフフフフ』

 ……徹夜明けだったからテンションがやばかった。あれは絶対何か降臨してた。でもそのおかげで、このパンフレットがあったら暗黒面に落ちそうだから、ってことで貰えたけど。妹にはお肌にいい温泉があるとだけ伝えておこう。

「お母さんもお肌気にしているのかな?」
「どうだろ。母さんって三十代なのに見た目若いしな。どうせなら、うるおい成分たっぷりの温泉卵でもお土産にしよっか」
「そうしよ! お母さん喜んでくれるかな」

 間違いなく喜ぶに一票。むしろ狂喜乱舞して、「愛してるわー!」とさらに抱擁してきそうだ。というか、こっちの方が可能性として高い。母さんって子ども好きだからな、暴走レベルが振り切れているかもしれない。同僚さんと同じシフトだったはずなので、テンションに関しては目をつぶっておこう。

 なによりも母さんが喜んでくれるのならいいか、と自然と俺の頬が緩んだ。


「それじゃあ、さっそく卵を持って温泉に行くぞ」
「たまごも持っていくの?」
「俺たち4歳児。無一文」

 そう言って、家の冷蔵庫から卵を3つ拝借する。俺と双子である妹ももう4歳だし、大丈夫だろうと卵を1つ持たせる。妹は卵の丸みが気に入ったのか、両手で楽しそうに転がしている。

「あれ? でもお金ないとおんせん入れないよ?」
「幼児は無料で入れるから問題ない。こういう特権は使える時にフル活用するべし。はい、ここテストに出るから覚えておくように!」
「はーい!」

 それはなんでもない、元気よく返事をする素直な妹と、明らかに余計な知識を吹き込む兄との日常の一コマだろう。


「どこのおんせんに行くの?」
「今回はミッドチルダの北部にある温泉旅館だ。別の次元世界の温泉でもいいけど、あんまり遠いと母さん心配させちゃうからな」

 俺達の住む世界の名は、『ミッドチルダ』。数多ある次元世界の1つであり、俺達兄妹が産まれ、育った世界の名前である。魔法という文化が最も発達している世界であり、また科学とも共存することを選んだ大きな世界。ここは、魔法や不思議な力を使えることが認められている、そんな世界であった。

「んじゃあ、早速温泉に行きますか。しっかり手を繋いでいろよ」
「私もお兄ちゃんみたいに、『転移』使いたいなー」
「お兄ちゃんのはレアスキルだからな…。でも確か魔法には、転移魔法があったはずだから、頑張ればきっと使えると思う」
「ほんとっ!」

 妹の言葉に、俺は自分の知識……いや、記憶から引っ張ってきて答える。うろ覚えだけど、確かに転移魔法を彼女は使っていた。それに彼らも本のページを集めるために、次元世界を転移魔法で渡っていたはずだ。転移魔法の難易度はわからないけど、難しいのだろうか。帰ったら魔導師である母さんに聞いてみよう。

「お兄ちゃん早く行こうよ」
「おっ、そうだったな。いやぁ、考え事をしているとついそれに集中してしまう、僕の悪い癖です」
「そうなの?」

 まぁうん、そうなの。ネタが通じなかったことにちょっと寂しさを覚えた。


 とりあえず俺は、妹の手を握りこみ、意識を集中させる。大体のイメージを頭の中に思い浮かべながら、俺は転移を発動した。

 相変わらずの便利仕様に助かる。ある程度のイメージが必要だが、それでとんでいくことができるのでそこまで難しくない。母さんも最初はその性能に驚いていたけど、レアスキルと聞いて、そんなものかと納得してくれた。レアスキルって言葉すげぇ。確か未来予知ができるレアスキルもあったはずだし、『レアスキル=理不尽』という方程式でもあるのかもしれないなー。と、準備完了。

「それじゃあ行くぞ、転移!」

 次の瞬間、俺たちは家から忽然と姿を消した。



******



 《新暦36年 秋 NO.1》


 『魔法少女リリカルなのは』

 俺がこの物語を初めて見たのは、大学生の時にネット小説を読んだことが始まりだった。最初は題名の感じや原作を知らなかったため読んでいなかったが、面白いと評判があった二次小説を読みに行ったのがきっかけだった。

 次元世界という様々な世界があり、題名通り魔法もある。それにストーリーも登場人物もすごくよかった。というか、魔法少女という名前の概念を木端微塵にされた気がする。主人公が悪魔とか魔王って…。

 そんなこんながあったが、それ以来俺は二次小説や漫画を漁り、画像や動画を時々見ていた。アニメは時間が取れた時にでも、全部見ようかなと思っていた。大体の話の内容はわかっているから後でもいいか、と思ってしまっていたからだ。


 だから、俺自身がこのリリカル物語に実際に転生するまでは、ここまで困ることになるとは考えてもいなかった。


 転生した理由はちょっとした手違いというか、不運だったというか、まぁ色々あったが細かいことについては、今はいいだろう。とにかく問題は転生する世界ではなく、転生した先が問題だった。

 転生する世界は最初から提示されていたが、正直俺はこの世界なら転生してもいいと思った。前世では冒険家になる夢を諦めたが、せっかくの第2の人生なら冒険家になりたいと考えたからだ。というか、ぶっちゃけ放浪してみたい。

 次元世界なのだからたくさん世界があるのだろう。初めて見る生き物や地球では考えられない様な景色が見られるかもしれないんだ。原作介入するより、俺にはそっちの方が魅力的だった。

 故に、俺はうろ覚えの原作知識しかない世界の転生を選んだ。確か原作は、「地球」がメインだったはずなので、管理世界、要は魔法が使える世界での転生を望んだ。時空管理局という物語のメイン組織に就職する気もない。こうすれば俺がいたことで、原作に影響やバタフライ効果もないと思った。

 半端な知識が、逆に危ないのだ。それこそ俺が下手に介入したせいで、世界滅亡とか俺死亡とかなる危険性があるぐらいなら、登場人物たちに全部お任せすることにしたのだ。


「というわけで、生まれは管理世界で、魔法の素質は高めがいい。やっぱり魔法使ってみたいし。親は魔導師でやさしい人がいいな。将来冒険家になっても「いいよ」って言ってくれる人ね。……さすがに母親に泣かれるのは、もう嫌だからさ。そんでレアスキルとして『瞬間転移』が欲しい。魔力は使わず、いつでもどんな時でも好きな場所、世界に転移できるとなおいい。あ、もちろん転生しても男。できたら前は一人っ子だったし、兄弟とかも欲しいな」
「……なにが、というわけなんだ。あと内容はすごく現実的で助かるけど、ものすごくずうずうしく感じる」

 ある程度の希望を叶えてくれるそうなので、俺が思った内容をぶっちゃけて伝えてみた。正直、まさか本当に叶えてくれるとは思っていなかった。なので、叶えてくれた死神にぶつぶつ文句を言われました。一応、世界観は壊さないようにしたよ?

 それに転移があれば、すぐに家に帰れるし、危なくないし、いっぱい世界を見て回れると思った。冒険の過程を楽しみたいなら、転移を使わない様にすればいいだけだし。俺はいろんな所を放浪したいだけでサバイバルをしたいわけじゃないから、野宿する気もさらさらないしね。死神には本気で呆れられたけど。


 そして、なんだかんだで転生した俺は、地球とは関係ない『ミッドチルダ』という次元世界に産まれた。優しい家族に、明るくかわいい双子の妹。あとはただ自分の夢を叶えて、そんで大切な家族と一緒に幸せに生きていけたらそれでよかった。それだけでよかったんだ。


 原作を知らなければ、こんな思いをしなくてよかったのかもしれない。

 でも原作を知らなかったら、俺は間違いなく全てを失ってしまっていただろう。


 俺という存在が、俺の思いが、原作の全てを狂わせることになる。たくさんの人を不幸にしてしまうだろう。下手すれば俺の行動で、最低でも世界の一つが滅んでしまうかもしれない。俺がやろうとしていることが、間違っていると言われるのかもしれない。原作をあまり知らない俺でさえも、わかることなのだから。

 それでも、例えそうなってしまったのだとしても―――


 ……たった1人の少女を救いたいと、幸せな未来を守りたいと思う俺は、歩みを止めることはないのだろうな。



******



「それでは、たまご三・三・七拍子! そーれ」
「たまたまご! たまたまご! たまたまたまたまたまたまたご! ……あれ?」
「たまちゃんがまたちゃんにチェンジなう」
「も、もう一回! 今度はできるもん」
「ならばお兄ちゃんとも勝負だ。どっちがたまご応援団長に相応しいかな?」

 2人でちゃぷちゃぷと温泉に浸かる。卵をぷかぷか浮かべては、それを突いて遊ぶ妹。少しの間温泉でふやけていた俺だったが、暇になったので卵ソングを熱唱していた。現在妹も参加して、卵協奏曲第10番(作詞・作曲俺)で勝負する流れとなった。俺の卵愛が火を吹くぜ!

「「たーまたまたまたまたまたまだっ、……うぎゅぅッ!!!」」

 一緒に舌を噛んでしまって悶絶する双子。さすがは双子。


 その後、周りの人に呆れられながらも、慰めてもらいました。ついでに勝負に夢中になりすぎたことと、痛みの衝撃で卵の存在が Good Luck していたことで、気づけば卵が若干パサっておりました。

 ……あちゃー。

 
 

 
後書き
この度、にじファンより暁様に移転させてもらいました。
作者名が少し変わっております。

改訂版は第1章の話をまとめて書かせてもらっています。シリアスさんの出番が増えたところはありますが、ほのぼのも書いていきます。それでは、これからもよろしくお願いします。 
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