『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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欠点(ドリアン・グレイ編)
アパートの一室に響き渡る少女型オートマータの声。思った以上に長く続いたマリアの朗読も、いよいよ佳境を迎えようとしていた。
正直、日記の一月分なんて直ぐに終わるとタカを括ってたんだが、とんでもねぇな……既に初日を読み始めてから、1時間を回ってやがる。
ただ、さっきも言ったように情緒的かつユーモアたっぷりの文章は物語みたいで、全く退屈はしなかった。寧ろ、次の日は何があったんだろうって、期待する始末だったぜ。
要は、それだけ彼女の生み出す世界に嵌ってたわけだが、それも “俺の事” が出てくると流石に現実に引き戻された。
先週の授業の最後、俺は偶然彼女の手に触れた。そして、彼女に対して違和感を持った……と言っても、それほど大したもんじゃない。
触った感じがマリアに似ていた。ただ、それだけだ。
マリアは、カオスの爺さんが作った自動人形。その体を構成するは、ミサイルでも傷付ける事の出来ない失われた太古の技術で作られた超合金だが、見た目は勿論少し触ったくらいでも人と変わらない。そして、その体には作り物とは言え魂も宿ってる。
ただ、ここまで人と似た条件が揃ったとしても、触るとやっぱり違和感が残る。それが、人と人形の “壁” と言う奴なんだろう。
それを、彼女からも感じたんだ。違和感の程度とすりゃ、マリアよりも小さかった。だから、もしマリアに触れた経験が無かったら俺は、彼女に疑いを抱く事はなかったろう。違和感は感じたかもしれないが、深く考えることも無かったと思う。
事実、俺はそれまで全く疑がってなんかいなかったし、本当に偶然の産物だったんだ。
だが、俺にとっては単なる偶然でも彼女にとっては、生存に関わる一大事だった。人でない事がバレるのは、彼女の消滅そのものに繋がるからだ。
日記には、その辺の不安や葛藤が何行にも渡って綴られていた。それこそ、普段の倍以上……
そして、気は進まないけど最悪の場合は俺を絵に閉じ込める事も辞さない。そんな悲壮な覚悟が記された所で日記は終わっていた。
「彼女の言っていた “始末” とは、絵に封じ込める事だったんてすわね」
「出来れば、殺さずに済ませたかったのかもしれませんね」
氷雅さんの呟きに空かさず、同意する。
彼女を良く捉え過ぎとか言われそうだが、今までの流れに加えて、マリアの朗読を聞いた後だと、どうしてもそんな風に思っちまう。
「 “この儚くも、美しい世界を失いたくない” ……か。ふんっ………まるで、悲劇のヒロインだぜ」
そう言いながら、ガシガシ頭を掻く雪之丞だったが…………吐き捨てる様な言い方したって解るぞ……お前、明らかにテンション下がったな。
正直な所「俺も罪悪感で一杯だよ」と奴に言ってやりたかったが、流石に本物の居る前なんで飲み込んだ。
「だけど、全然解んねぇな。奴の行き先……お前達は、どうだ?」
「いや、全く………」
「とにかく、色んな物に興味を示してましたわね」
「お主の学校の桜が咲くのを、楽しみにはしとったがな……」
「流石に、来年まで待てねぇよ……」
………と言うか、わざわざ戻って来ねぇだろ。桜なんて、他に何本もあんだし……
あの日記は、とにかく情報量は多い。そのお陰で、彼女の人となりは良くわかったんだが、興味の対象……主に自然な風景だったんだが、それがとにかく広い。道端に生えてる野花から、まだ見ぬ海外の山や海まで千差万別だ。
何か、一つに集約してるものがあれば、そこから想像しやすかったんだが、あれじゃどうにもならねぇ…………
「暮井さん。あんたは、どうだ?あの日記から何か解ったか?」
「…………全然。私と考えが “まるで” 違うって、再認識出来ただけよ……」
暮井先生も雪之丞の質問に、お手上げとばかりに手を上げる。
参ったな。他に手掛かりになりそうなもんはねぇし、完全に八方塞がりか……?
そんな、全員の中に重い空気が流れ掛ける中、暮井先生が更に溜息混じりに呟く。
「本当……何かレトロな感じに惹かれたけど、とんだ絵の具買っちゃったわ」
「確かにそうじゃな。今回、お主は完全に被害者じゃ。所で、お主……画家を目指しておるのか?向こうの部屋には、展覧会のチラシも沢山あったが………」
そんな彼女へ投げかけた爺さんの一言は、多少唐突な質問ではあったが、そこまで的外れでもなく場の流れに即した物……だから、俺達は特に気にも止めなかったんだが、彼女は違った。
「そうよっ!!でも、展覧会に悉く落選したわ!!!だから、教師なんて “腐れ仕事” する羽目になったのよ!!悪い!!?」
何だ、いきなり……!?急にスイッチでも入ったのか??
(腐れ仕事って……(氷雅))
(俺の前で言うか………)
他に就職先は無かったのかよ……?
「ったく、どいつもこいつも、見る目が無いったらありゃしないっ!私の絵の何が悪いってのよっっ!!!大体_____________(専門的な愚痴の羅列)____________________」
◇◇◇
《10分後》
「_____________(専門的な愚痴の羅列)______________!!」
おいおい……いつまで続ける気だよ?爺さんの何気ない質問にここまでキレるか?
(地団駄踏んでますわ……)
(相当、溜まってたみたいですね………)
(姐さんみたいだ……)
(血圧・脈拍・心拍数・共に上昇中・クールダウンを推奨します)
そんな感じで、爺さんの一言からキレ出した暮井先生の止まる気配は無かったが、それを止めたのもまた爺さんだった。
「…………ふぅ……困った娘じゃのぉ…そんなのは、簡単じゃ」
「はぁっ!?」
「隣の部屋には、お主の描いた風景画があった……まるで “ハリボテ” じゃな。見ていて、何も感じなかった。それとも、お主の詰まらない気持ちでも表現したかったのか?」
……いきなり、突っ込んだな!?どうした爺さん?
案の定、それを聞いた暮井先生は愚痴った勢いのまま、目を剥いて爺さんに噛み付いた。
「何ですって!!素人の爺さんに何が解るのよ!!?」
「お主こそ、解ってるおるのか?絵を見るのは、大半が素人じゃ。儂は、素人を感動させるのがプロの仕事じゃと思うとったが、娘よ……お主は、違うのか?」
「っ………………!!?」
(雰囲気が変わりましたわね……)
(今は、呆けてない人格が出てるのか?)
(かもな。さっきの世紀末ナレーションしてた奴の言葉とは思えん……)
(ノー・Dr.カオス・解離性同一性障害・患っていません・斑認知症・通称まだ_)
「全部、聴こえとるわっ!!お主等、もっと小さい声で喋らんかっ!!!」
「「「「……………………」」」」
いやいや、結構小さいと声で喋ってたのに地獄耳かよ……
「…………ったく。ごほんっ……部屋に風景画は、 “2種類” あった。片方は、お主……そして、もう片方はおそらく偽物が描いた物じゃろうな」
「……それが、何だって言うのよ?」
「始めは、どちらがどちらか判らんかった。じゃが、日記を読んだ今なら判る。感受性豊かな心で描かれた方が、偽物。無味無臭なのが、お主じゃ」
「…………!?」
………かなり辛辣な事言われたのに、言い返さないな。もっと、ヒステリックに騒ぐと思ったのに………
悔しそうに口を結んじゃいるが……思うことでもあるのか?
「あやつの描いた絵からは、ぱっと見ただけで描いた者の感動が伝わって来た。あの日記と同じ様に希望と喜びに満ち溢れとったわ」
「……………………」
「対してお主のは、視覚で得た情報をそのまま描写する技術には、長けておると感じた。じゃが、それだけじゃ。風景を正確に描写するだけなら、写真で事足りる。しかし、大勢の人は情報として不完全である筈の絵の方に心を奪われる。何故だか、解るか?」
「そ、それは………」
「画家の卵である筈のお主なら解っておろう……皆、絵を見てるんじゃない。絵を通して、描いた者の心の世界を見ているのじゃ。その者の想い、訴え、それに連なる様々な感情……それらが豊かであるほど、人の心は揺さぶられる。それを踏まえた上で、もう一度問おう。お主は、どんな想いを込めて絵を描いたんじゃ?見る者に、何を訴えたかったのじゃ?」
「………………………………」
「お主の吐き捨てた “見る目の無い連中” ……そんな連中に、お主は一体何を見て欲しかったのじゃ?」
「………………………………」
「………………お主は、結果が出ない事への焦りから、知らぬ間に小手先の技術だけを追い求めてしまったんじゃないか?」
「ぅ………………」
「それと……」
まだ、何かあるのか?暮井先生、既に限界な気がすんだが……
「可哀想じゃが、それはあの肖像画についても言える」
「…………どういう事?」
「お主も、自分で言うとったじゃろ?「私と全然感じが違った」と……今のお主は、自分の内面すら満足に描写出来ておらん。だから、顔だけ似た別人が生まれてしまったのじゃ」
「「「「!?」」」」
…………そうか。
だから爺さん、わざわざ暮井先生の絵の事を……
「ただ、そのお陰で心優しい人格が出て来たから、お主は助かった。そこは、結果オーライじゃな」
「………………」
そこは、不幸中の幸いだった訳か……皮肉だな。
「…………まぁ、くどくど説教臭くなってしまったが、本気で画家を目指すなら、今回の件を切っ掛けにして自分と良く向き合う事じゃ。お主の絵を描く理由を思い出せば、自ずと答えが出るかも知れん……すまなかったのぉ、年寄りは話が長いもんでな………」
「………………」
そんな感じで話終えた爺さんだったが、暮井先生の方は黙り込んだままだった。じっと、何かを考え込むように……
爺さんの言葉に、感じる物があったんだろうか?
「おい、鴉……」
「あん?」
「結局、偽物何処行ったんだろうな?」
「それが、解かりゃ苦労しねぇよ……」
「結局、振り出しですわね」
「日記・もう一度・読み返しましょう」
…………何か上手く纏まりそうな空気になったんだが、根幹の問題は全く解決してないんだよな。
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