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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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百十 反旗

それはもはや人の立ち入る領域の限界を超えていた。

二尾の人柱力・二位ユギト。
三尾の人柱力・やぐら。
四尾の人柱力・老紫。
五尾の人柱力・ハン。
六尾の人柱力・ウタカタ。
七尾の人柱力・フウ。

尾獣化した彼らを前に、我愛羅は思わず唾を呑み込んだ。
同じ人柱力であるが故にこの戦場へ駆り出されたのだが、敵とは言えど同じ境遇にあったであろう相手と戦うのは心苦しい。
人柱力になった者は基本的に敬遠されるか忌避されるかのどちらかの人生を一度は歩んでいるからだ。

けれどこれは波風ナルを守る為の戦争だ。
我愛羅の想い人である彼女を危険に晒すわけにはいかない。

だが。

「なんでおまえがこんな戦場に居る!?なんで出てきた!?」


守る対象である波風ナルが自分と同じ戦場に降り立った事実に、普段物静かな我愛羅は珍しく声を荒立てた。
尾獣化した六人を相手に危なかったところを、突如飛び込んできたナルによって助けられたのである。
それ自体はありがたいが、守る相手から逆に守られた不甲斐なさから我愛羅は苛立ちをおさえられなかった。

波風ナルは自来也と大蛇丸のもとで待機していたはずだ。
それがどうしてこの場にいるのか。


「いやえっと…説明すっとだな…」

しどろもどろになるナルの代わりに、本部の奈良シカクがフォローに入った。
山中一族の力を借りて、脳裏で情報を現場に指示しているシカクは、ナルをこの戦場へ送ることになった経緯を説明する。

白ゼツの変化により各戦場が混乱に陥っている今、何故か悪意を見極められるナルが影分身を使って各戦場へ赴き、敵の変化を見分けることとなった。

が、人柱力が尾獣化したとあれば、話は別だ。
人柱力は人柱力でないと対処できない。
故に泣く泣く、彼女を我愛羅のもとへ向かわせたのである。


「でも出来るだけ影分身達には他の戦場へ行ってもらったってばよ」
「それはいいが…チャクラは大丈夫なのか?」

我愛羅の問いに、ナルは得意げに胸を張った。

「オレのチャクラ量知ってるだろ?大丈夫だってばよ!」


そう自信満々に言ってはいるが、この戦場の成り行き次第では他の影分身にチャクラが回せず、最悪の事態になりかねない。
なるべく自分が彼女のフォローに回ろうと心に決めた我愛羅は、ナルの隣に降り立った。
一尾である守鶴が内側から揶揄うように我愛羅へ話しかける。


《大事な女を守る騎士になるってかぁ!?》
「いやおまえは盾だろう。期待してる」

だが逆に、我愛羅から真顔でそう頼まれ、守鶴は虚を突かれて押し黙った。


以前一尾である自分が抜かれそうになった時から、我愛羅は守鶴と仲良くなろうと尽力した。
それはあの時、我愛羅と守鶴の間を取り持ったナルトの影響もあるのだが、その時の出来事を我愛羅は憶えていなかった。
我愛羅にしてやられた一尾の代わりに、ナルの内側にいる九尾が守鶴を揶揄う。


《クソ真面目な主にゃお前の揶揄いも意味ねぇわな》
《うっせぇぞ九喇嘛!てめぇこそ天然な主に振り回されてるくせに》
《なんだと…ッ》

腹の内側でお互い喧嘩している一尾と九尾に、我愛羅とナルは顔を見合わせ、苦笑する。
そして直後、ふたりは顔を険しくして、自分達と同じ人柱力達を向き合った。

仲の良い主達と仲の悪い尾獣達のタッグがここに誕生した。














「なんだこのデカブツは!?はっきり言ってむちゃ強ぇーじゃねーかよバカヤローコノヤロー!」

一方、八尾の人柱力であるキラービーは戦場を闊歩する外道魔像と対峙していた。

一尾と九尾の人柱力である我愛羅とナルが、尾獣化した人柱力達を取り押さえるのならば、他の強大な敵を相手にする為、戦力を分断したのである。
八本もの腕がある八尾ならば、外道魔像の侵攻を止められるという考え故だった。

だが、外道魔像の猛攻は蛸足では食い止められない。それに、外道魔像の上にいる敵ふたりの動きも気にかかる。
警戒するキラービーと攻防しながら、仮面の男は隣で佇むナルトへ声を掛けた。

「本当におまえが向こうへ行かなくていいのか?」
「ああ」


ナルトからの承諾を得て、仮面の男が外道魔像から飛び立つのをキラービーは目撃する。
その進む先を逸早く察した八尾の牛鬼が慌ててキラービーへ注意した。


《マズイぞ…!今の仮面の奴、一尾と九尾のもとへ向かってる…!》
「…ッ、俺を無視して尾獣化した奴らに加担するとか、簡単にさせねぇぞバカヤローコノヤロー!」

無理があるラップを口ずさみながら、キラービーが仮面の男へ八尾の腕を伸ばす。
が、その蛸足は仮面の男へ届く間際にあっさりと斬り落とされた。

「悪いが…」


蛸足がゴトン、と音と土煙を立てて、その場へ堕ちる。
その煙の向こう側、外道魔像に残ったナルトは冷徹に、キラービーの邪魔をした。


「君達は此処で足止めさせてもらう」



本当はナルのことが気掛かりだが、自分が人柱力達の戦場へ向かえば、二尾から七尾までの新生暁も戦いにくいだろうし、ナルトを前にしたナルの精神を乱すわけにはいかない。
故に仮面の男に向こうの戦場を任せたナルトは、自分と唯一繋がりのない人柱力と対峙する。

キラービーと交戦した鬼鮫を助ける際、主人抜きで深層世界でナルトと会話した八尾の牛鬼だけが複雑な心境で、外道魔像に佇む敵を見上げていた。














「まったく…守られる対象が飛び出していくなんて…どーゆー教育してるのかしら自来也?」
「あやつはじっと大人しくしてるタマじゃないからのう」
「…なんで嬉しそうなのよ」

グチグチと嫌味を言うものの、戦場へ飛び出して行った弟子の行動をむしろ嬉しそうにする自来也に、大蛇丸は溜息をつく。
急ぎ、ナルがいる人柱力達の戦場へ向かおうとする三忍のうちのふたりは、目の前に立ちはだかる壁に眉を顰めた。


「やれやれ…これだけ多いと蛇の餌にしばらく困らなさそうね」
「やめておけ。おまえの蛇の腹を壊してしまうのがオチじゃい」
「…それもそうね」


白ゼツの大軍。
波のように押し寄せる白い壁を前に、自来也と大蛇丸はそれぞれ身構える。

対して、三忍のふたりを前にしても白ゼツは焦燥感も警戒も微塵もしていなかった。
何故ならもはや勝利は目前だからだ。

気に食わないが、うずまきナルトが此方側にいる限り、勝機は此方にある。
負ける気がしない。

有利な戦況に口許が緩むのを隠さないまま、白ゼツは自来也と大蛇丸に襲い掛かった。










「くそ…このままでは、」

各々の戦場での戦況の報告を受け、奈良シカクは頭を抱える。
ナルが影分身で白ゼツの変化を見破っているとは言え、圧倒的に数が足らない。
だが人柱力達を相手にしているナルにこれ以上影分身の数を増やしてもらうには気が引ける。

彼女頼みになるのは申し訳ないが、現状、ナルの力が必要不可欠だ。
彼女にこれ以上無理強いするわけにはいかない。

けれど現時点ではやはり依然として白ゼツの変化により現場は混乱する一方。
仲間同士で殺し合いが始まりそうな緊迫した状況が続き、忍び達の精神も擦り減っている。

苦悩していたシカクのもとに、再び絶望の知らせが届く。
尾獣化した人柱力達との戦闘で思った以上にナルの体力やチャクラが削られたようで、各地の戦場で影分身が次々と消えているという。
ナル自身は気づいていないが、やはり想像以上に尾獣化した人柱力達との戦闘は過酷らしい。

このことをナルに知らせれば、自分の身の安全を全く配慮せず、己を酷使してしまうだろう。
それで倒れられたら身も蓋もない。
ナルの力頼みではいけない。

他になにか、不利なこの現状を打破する決定打が必要だ。
だが、どうやって。


この絶望的な戦局を打開してくれる何かを、奈良シカクは心の底から欲していた。
















「────頃合いか」














白ゼツの変化に振り回される戦場。
忍び連合軍には絶望でしかないこの場に、ぽつり、と静かな声が、まるで清涼な泉に滴下した雫のように、落とされた。





「呪え」

















戦場を見渡せる岩場。

吹きすさぶ風に髪を靡かせ、崖の上で待機していた彼は合図を受け、ニッ、と口角を吊り上げる。

前以て託されていた巻物を解き、その中に収容されていたクナイを取り出した。
切っ先についた血を舐めとる。

途端、白黒の骸骨の文様で覆われた状態で手早く地面に血で円陣を描くと、彼は自分が敬愛する邪神様がいる戦場へお辞儀するかのように会釈する。



「呪え──────飛段」
「邪神様の仰せのままに」



そのままそのクナイを使って、心臓を貫く。
ナルトの命令に従い、かつての暁メンバーのひとりである飛段は、戦場にひしめく対象を呪った。




────【呪術・死司憑血】発動。






自分と仲の良い忍びが殺意を持って襲い掛かってくる。
仲間だと思っていた相手が笑顔でクナイを刺してくる。

悪夢のような恐怖と緊迫感に迫られる絶望。
そんな不利な戦況が突如として一変した。

急に様子がおかしくなった仲間のひとりが悶えたかと思えば、ぼろぼろと化けの皮が剝がれ、真の姿である白ゼツが現れる。
或いは、正体を現した白ゼツの大軍がいきなり苦しみ始める。

わけもわからず助かった忍び達が呆然とする中、ひとりだけ戦局を握っている彼は外道魔像の上から混乱する戦場を冷静に俯瞰していた。


「距離も時間も関係ない」


奈良シカクが喉から手が出るほど欲しがった決定打。
その致命的な一撃を与えた影の功労者は、忍び連合軍へ有利になるよう働きかけながら、刻一刻と変化する戦況を僅かにでも見逃さんと、その蒼い双眸を光らせていた。


「呪いの怖ろしさ、その身を以って思い知れ」


飛段曰くの邪神様こと、うずまきナルトはようやく反旗を翻す。
彼のたった一言で、絶望的な戦場に希望の波紋が生じる。


それはゆっくりとだが確実に、広がっていく。
まるでたった一滴の雫が波紋を生み、やがて戦場全てを呑み込んでゆくかのように。
 
 

 
後書き
お待たせしました!!!!!


最後がほんとうに前々から書きたかった…
でももっとカッコよく書きたかったなあ~力不足…

ちなみに何故呪えたのか等といった理由は次回にて…
次回もよろしくお願いします!! 
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