『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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日記(ドリアン・グレイ編)
部屋に残された1枚の肖像画……それに向かって、文珠を2個投げる。
『分』『離』…………
文珠から放たれる淡い光によって肖像画から人影が現れ、そして膝を付く……
「はぁ……はぁ………」
見るからに疲れてそうな彼女だが、外傷ややつれた様子は見られない。精神的な負担がデカかったんだろう。
そうして、彼女がある程度落ち着いたのを見計らってから、俺も腰を落として声を掛けた。
「『暮井緑』先生ですね?」
「せ、先生……?」
俺の呼び掛けに、彼女はゆっくりと顔を上げた。
長い髪を無造作に纏めた、細身の女性。意志の強そうな瞳が、俺たちをじっと見つめている。画家志望らしい神経質で鋭い印象の顔立ちで美人と言っても良かったが、頰は少しこけ、全体的にキリッとした雰囲気をまとっていた。
そんな彼女へ、俺は更に問い掛ける。
「………あなたは、光明高校の美術教諭でしょう?」
「…………確かに私は『暮井緑』で、あの高校に行くことは決まってたけど……まだ、一日も仕事はしてないわ」
…………相変わらず蹲ったままの彼女だが、嘘を言ってる感じじゃない。だとすると、先月の赴任当初からあのドッペルゲンガーだったわけか。
ここは、都内にあるごく一般的なアパートの一室。家主は、そこに居る暮井緑…… “本物” の暮井先生が住んでる部屋だ。
夕方、事務所の近くの工場街で暮井先生のドッペルゲンガーと……正確には、奴の使役した人形達とやりあった俺達は、その後雪之丞達と合流して、ここまで来た。
今、この部屋に居るのは俺、雪之丞、氷雅さん、カオスの爺さんにマリア。そして、家主である暮井先生だ。
来た理由は勿論奴を追ってだけど、予想通りと言うか、何と言うか…………奴は、ここへは戻ってなかった。
さっきまで、慎重に部屋中を調べ回っていたんだが、奴に繋がるような物は何も出て来なかった。例の絵の具が張り付いた紙が少し出て来たくらいか。
ちなみに『ドリアン・グレイの絵の具』については、ここに来る最中に雪之丞達から聞いていた。
もっと、早くその情報を掴んでたら、対応も変わって来たんだが……それは、言っても仕方ねぇか。
「だ、出してくれてありがとう。あんた達は、一体……?」
「除霊師です。こんな “なり” ですがね……」
ここに来て、ようやく顔を上げる彼女にそう答える。こんななりと言ったのは、夕方の攻防のままここへ直行したんで、俺は学ランのままだったからだ。
まぁ、あの “黒衣スタイル” が除霊師に見えるかどうかは、この際考えない……
「じょ、除霊師……?GSってこと?」
「まだ、見習いですけどね。立てますか?」
「ええ……」
そう答えながら、彼女はゆっくりと立ち上がる。ふらつく様なら支えようと思ったが、その必要も無いらしい。
「1ヶ月間、そのまま中に居たんですか?」
「時間なんて、解らないわ……ずっと、中から出られなかったし」
「そうですか」
あのドッペルゲンガーが、ウチの学校に来てから約一月……その間、目の前の彼女は1回も学校へは来てないって言うんだから、やっぱり一月の間絵として封じ込められてたって事だろう。
それでも、特に衰弱した様子が見られないと言う事は絵の中には流れる時間は、現実とは違って独特な物になるらしい。
彼女がそうに答えると、今度はそれまで黙っていた雪之丞が口を開く。
「なぁ、暮井さん…俺達は、あんたの偽物を追ってんだ。あんた、何か知らないか?」
「そんなの__」
◇◇◇
結論から言うと、彼女は奴の足取りを追えるような情報は何も知らなかった。
基本的に1ヶ月間、彼女はこの部屋の片隅に放置されていた上に、キャンパスの上に布を被せられていたので殆ど眠った状態と変わらなかったと言う。
ただ、それとは別に面白い話も聞けた。
「迷ってた……?」
「ええ。あいつは、私を始末する事に迷ってる感じだったわ……」
雪之丞の信じられないと言った問い掛けに、彼女も同じような面持ちで答える。多分、彼女自身にも意外だったんだろう。
彼女の話によると、一月程前……要するに彼女が自画像を描いた直後の話だな。絵の中に封じ込められた彼女は、始めは戸惑い、そして自分を出すよう奴に向かって激昂した。
まぁ、彼女の立場からすりゃ当然なんだが、奴の方だってそんな要求聞き入れる筈もない。最後には、秘密を守る為に燃やされそうにもなったらしい。
だが、ここからの展開が意外で進退窮まった彼女は、今度は怒りを飲み込んでライターを近付ける奴に止めるよう懇願した。すると、奴は急に辛そうな顔をしてライターを引っ込めると、そのままキャンパスに布を掛けたそうだ。
「そうして、初めて布が取られて今に至るわけか?」
「そういう事……本当に、何がなんだか………」
「奴は、あんたの分身なんだろ?何で、迷ったかあんたには解らないのか?」
「それが、解れば苦労しないわよ!大体、分身とか言っても似てるのは顔だけで、私と全然感じが違ったわ!」
(自分で描いたわりに、他人事のようですわね………)
(全くです……)
…………と、そんなツッコミはさて置き……顔が同じでも、全然感じが違うのは、絵から初めて出て来た時から思ってた。
あのドッペルゲンガーは、少し浮世離れしつつも真面目で大人しい感じだったが、今目の前でカリカリ来てる本物の方はどちらかと言うと、気が強くてイケイケな印象だ。
あの絵の具……分身を作り出すとは言っても、内面まで似せられないのか?
そんな事を考えてると、自分では答えが出ないと思ったのか雪之丞が俺達にも話を振ってくる。
「お前達2人は、どう思う?実際に見たんだろ?」
「解る気がする……あいつは自分を守るのに必死だったけど、何処か怯えてるように見えた」
「そうですわね。さっきの話といい、本人は余り荒事は好まない性格のようでしたわ」
「ふ〜ん……彼女が生きてるのは、ドッペルゲンガーの性格に助けられた訳か」
「冗談じゃないわよっ!殺したくないなら、端から閉じ込めないで欲しいわ!!」
「まぁ、その気持ちも解るがな……他に何か言ってなかったか?奴は、あんたに成り代わって何をしようとしたんだ?」
「それは………悪い事をする気は無いって言ってたわ。あくまで、私と成り代わる事が目的だって」
悪い事をする気はないか………
「何も悪い事をしてないとは、俺達の前でも言ってましたね」
「ええ、そう言えばそうでしたわね……」
「本当か?」
「ああ。ただの開き直りかと思ったけど、暮井先生の話を聞くと本当だったのかもしれないな……」
「そんなっ!あんた達、あいつの話を信じるって言うの!?」
「お前の学校に居たんだろ?学校では、どうだったんだよ?」
「普通に授業してた。怪しいとこなんて、何も無かったよ。真面目な先生が来たって、生徒や教師からも好評だったらしい(愛子情報)」
「好評って………!」
まぁ、本人的には複雑かもな……ただ、俺自身偶然あいつの手を触るまでは、他の連中と似たような事考えてた………
あいつ……切羽詰まって無茶やらかしたけど………本当に、ただ教員として過ごしたかっただけなのか?
「なるほどな……危険な奴では無さそうだが、それだけで判断するのもな」
「そうですわ。何にしても奴を追わなければ、ハッキリした事なんて解りません」
「でも、どうやって追うんです?手掛かりになりそうな物が、今の所何も無い」
俺がそうに言うと、2人共黙っちまった。暮井先生が何か思い出してくれないかと、期待してはいるんだが不機嫌そうな顔をするだけで、それも無理そうだった。
そんな時……
「これが、その手掛かりになるかも知れんぞ」
俺達が暮井先生の話を聞いてる間も、別の部屋の捜索をしていた爺さんとマリアがこの部屋に入って来た。
ドア越しで話が聞こえて来たのか、爺さんはドアを開けて早々に口を開くと、右手を差し出す。
右手に持ってるのは……ノート?
学生の授業や会社の事務作業なんかで使うであろう、水色の表紙の何の変哲も無い、一般的なノート。手掛かりって事は、中に何か書かれてたのか?
「何が、書いてあるんだ?」
「まだ、読んどらんが……おそらく日記じゃろう。一月くらい前から、書かれとる。お主に覚えはあるか?」
「ノートを買ったのは私だけど、私は日記なんて書かないわ……」
だとすると、書いたのは奴で間違いなさそうだな。この1ヶ月の奴の行動が解るかもしれない。
しかし、日記か……ドリアン・グレイの絵の具や他のオカルトアイテムの事ばかり考えて、その辺のことには目が行ってなかったぜ。
「ふむ……なら、問題ないな。読んでみよう」
そう言って、始めのページを開く爺さん。
…………ん、何?「読んでみようって」あんたが、音読すんの??
◇◇◇
「…………もういい。止めろ」
「何でじゃ?これからって、とこだったのに……」
「「「………………」」」
3日目で全員聞くのを断念した。
聞いてられんと言った風な雪之丞と、状況をまるで理解出来てないジジイ……
確かに6人でノートを同時になんて読めねぇだろうから、誰かが朗読するのは解るんだが、ジジイの一癖も二癖もある喋り方(しかも無駄にテンションが高い)が気になって、内容がまるで頭に入って来ねぇんだよ………
「「これから」じゃねぇよ。普通に読め!普通にっ!!」
「いや、感情を込めた方が伝わりやすいじゃろ?」
「余計解り辛いわ!!ロボ娘、お前読め」
「イエス・武威」
「「「……………………」」」
……………マリアの朗読するそれは、日記と呼ぶには余りにも情緒的かつユーモアに富んだ文章で、どちらかと言うと詩やエッセイとでも呼んだ方がしっくり来そうな内容だったが、そこには “彼女” の様々な想いが綴られていた。
思わぬ形でこの世に生を受けた事への戸惑いと喜び。毎日、未知の世界に触れる驚きと感動、その素晴らしさ。人としてやっていけるかの不安、暮井先生に対してのの考えも書いてあった。
「まるで懺悔ですわね……」
「ええ、相当負い目を感じてたみたいです」
「………………」
彼女は、自分が本物に成り代わる事は譲れなくても、先生の自由を奪い取ってしまった事へ罪悪感は、彼女自身にかなり重く伸し掛かっていたらしい。
これは俺の憶測だが、もしかしたら彼女は機を見て先生を逃がすつもりだったのかもしれない。
そして、最後には俺の事も………
俺に怪しまれた事は、彼女にとっても相当衝撃だったらしく、普段の倍以上のボリュームがあった。
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