『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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対峙(ドリアン・グレイ編)
「絵の具の回収?」
向かいのソファーに座る爺さんの言葉を、俺はTVを見ながら徐ろに返す。どうやら、厄珍の親父が持って来た話らしいが、俺は奴が少し不機嫌そうなのも気になった。
「そうじゃ。若い女に鼻の下を伸ばしとったら、普通の絵の具と間違えてオカルトアイテムを売ってしまったそうじゃ。「放っとけば、大変な事になると」大騒ぎしとる。本当にしょうもない奴じゃ」
「何で警察に頼まないんだ?その方が、早ぇだろうに」
そう言うと、爺さんは一瞬だけ俺をジロリと睨んだが、やがて嘆息しながら喋りだした。
「そうか、武威……お主は、あの男を良く知らないんじゃったな………あやつは、普段からアコギな真似をしとるからのぉ〜、おいそれと警察になんて駆け込めんのじゃ」
「叩けば、埃だらけって訳か……」
何だか親近感を覚えるぜ。笑えねぇけど………
「で……警察が駄目だから、俺達の所に来たと………?」
「いや、それを美神令子達に頼んで、儂等はついでじゃよ」
「はっ!?ついで?」
「そうついでじゃ。人手は多いに越した事はないそうじゃ。見つけてくれたら、今度来た時商品を3割引きにしてくれるらしいぞ。やるか?」
「やるかっ!!」
巫山戯んなよ!道理で不機嫌だと思った。
値引き率も低いし、そもそも奴の店なんて行った事ねぇわ!!
…………それに、姐さんが絡んでるとなりゃ、鴉だって動かねぇ……今回は、完全にパスだな。
だけど……………
「……その絵の具だけど、そんなに危険な代物なのか?」
爺さんの吐き捨てる様に言った一言で、やる気は殆ど失せたが、気になったんで一応聞いてみた。
すると、爺さんも気を取り直したように語り出す。
「『ドリアン・グレイの絵の具』と言う名前でのぉ、オカルトアイテム法でも使用が禁止されとる。製作者は、画家のバジル・フォードと言う昔の人物__」
「成り立ちはいいよ。長くなりそうだし……」
説明口調になった爺さんから危険信号を感じた俺は、速攻で手を上げて奴を制す。TVからは目を離した俺だったが、長話に付き合う気はない。年寄りってのは、大抵そういうのが好きだからな………
「…………ったく鴉の小僧と言い、お主と言い仕方ない奴等じゃのぉ(ブツブツ)……………簡単に言うと、あの絵の具で描かれた者は、本物と入れ替わってしまうんじゃ」
「入れ替わる?」
「うむ…描かれた絵の方が本物として立ち振る舞い、本物は絵として紙に封じ込められてしまう」
「上等じゃねぇか……」
拉致監禁やりたい放題か……確かに、とんでもねぇ代物だぜ。
それに……何だ?昨日、鴉が言っていた事も妙に気になりだした。
偶然なのか…………?
◇◇◇
「どうも……暮井先生」
「っ………!」
夕日の降り注ぐ、人の見えない工場街の一画。そこで、私達は対峙していた…………いえ、対峙させられたのね。彼等の手によって……
いつから……彼は、いつから私の追跡に気付いていたのかしら?
はっきり言って、今そんな事は全く重要じゃない。でも、考えずにはいられず、つい口に出してしまった。
「……いつから、気付いてたの?」
すると、彼は平坦な表情のまま淡々と口にする。
「勿論、学校の近くから。始めは、偶然かと思いましたが……ここまで来れば確定ですよね 」
確定………尾行の事を言ってるのね。それに学校の近くと言ったら、ほぼ始めからって事でしょ?
ここまで来たら、誤魔化すなんて既に不可能。そんな事は、当然解ってる。でも、私はそんな状態で尚も食い下がってしまった。
「……な、何で私がそんな事を…………?」
私がそうに言うと、彼は変わらず感情の読めない平坦な表情……それでいて、油断なく私を見据えながら口を開いた。
「そりゃあ……あなたが “人でない” 事に気付いたからでしょう?私が……!」
「っ………!!!」
………………やっぱり “あの時” に気付かれてたのね……
◆◆◆
きっかけは、本当に些細な出来事だった。
この学校に美術教諭として赴任してから、約一月……始めは、どうなることかと思ってたけど周りは、すんなり私を受け入れた。
大学を卒業したばかりの若い教員として暫くは騒がれた(主に男子生徒に……)けど、最近はそれも収まりつつあった。
誰も、私を “暮井緑” と疑っていない。
そんな実感を抱いて安心仕掛けた頃に、 “それ” は起こった。
…………と言っても、さっき言ったように起こった事は、本当に些細な事……
ある日の午後。彼のクラスの授業をしていた時の事だった。
横島忠夫……彼と顔を合わすのも3回目。
それまでは、彼にも特に怪しまれてはおらず、私も彼に対しての印象は薄かった。
強いて言うなら、赤いバンダナが少し目立ったのと、余り美術の授業に熱心でなかった事。
だけど、美術に興味の無い生徒なんて他にも沢山居るし、特に騒ぐ訳でも問題行動を起こす訳でもない。要するに、何処にでも居る、可もなく不可もない生徒。それだけ認識だった。
それが一変したのは、授業の終わり頃……
この日は、始めに生徒全員にプリントを配布していて、終わり頃に各自提出させていた。
そして、彼がプリントを持って来た時に私は、それを受け取り損ねてしまったのだ。
本当に、ただの偶然だったのだと思う。
私は “たまたま” 受け取り損ねただけだし、彼の動きにも特に作為的な物は無かった。
けれども、撮り損ねたプリントは、当然ひらひらと床へ落ちる。そして、床に落ちれば拾わなくてはならない。
それを見た私は、反射的に床へ手を伸ばし、彼もまた同じ事をした。同じプリントを目掛けて……
先にプリントを手にしたのは、私だった。そこまではいい。問題だったのは、その直後……遅れて手を伸ばして来た彼の手は、丁度私の手の甲に触れるような形で重なりあってしまったのだ。
所謂、予期せぬ接触と言う奴ね。
ベタベタな恋愛ドラマや小説なら、思い掛けない切っ掛けからの大恋愛なんて、お決まりのパターンに直行するんでしょうけど、現実はそんな甘ったるい物ではない。私にとってのそれは、正に平穏からのエマージェンシー・コールだった……
普通なら、手を触れた瞬間反射的に手を離すもの。でも、あいつは違った。私に触れた途端、そのまま硬直したのよ。
時間にすれば、1秒掛かるか、掛からないかのほんの短い時間だった。だけど、間違いなく硬直した。そして、その時に見せたあいつの表情………それが、私の脳裏に完全に焼き付いてしまった。
あいつは、明らかに訝しんでた。私の手に触れた事で……
一瞬、自分の “正体” がバレたのかと焦ったけど、その時は何も起きなかったわ。
あいつは、一言「すみません」と呟くと何事も無かったように席に戻って行った。だから、自分の思い過ごしかと思って、一度は胸を撫で下ろした。
だけど、時間が経つにつれて、その行動が逆に私を不安にさせる事になる。
あいつは、違和感を “感じなかった” んじゃない。感じた違和感を “隠したかった” んじゃないか?………自分の中で、そんな疑心暗鬼がどんどん膨らんで行ったからよ。
あの場で騒いでくれた方が、まだ誤魔化しようがあったと思うわ。
何故、騒がなかったのかしら? 騒ぐと不味いと思ったから? それとも、別に何かを企んでる?
考えても解らないし、解るわけもない……仕方なく、担任の教員から情報を得ようと近づいたら、驚愕の事実を知らされる。
あいつはGS………現代に置ける “退魔師”!!
そんな連中に勘付かれたら、私は終わり……!
あの教員は「まだ、見習い」だとか、「奴は大した事ない」みたいな事を言ってたけど、どうでも良かった。
“見習い” と言うことは、 “師匠” が居る。もし、あいつが私の事を師匠のGSに話したら、今度はそいつが出てくる可能性がある。
それだけは、絶対に避けなくては駄目…………!!
◆◆◆
「それも、当たりみたいですね」
「……!?」
当たり……!?
鎌を掛けられた!?私の表情から自分の見立てが、確信に変わったのね。
ざっ……
「!?」
後ろから聞こえた物音に、首だけで振り返ると直前まで一緒に居た女が立っていた。
持っていたバッグは投げ捨てたのか既に無く、その代わりに手には木刀が収まっていた。
音もなく後ろに回り込むなんて、この女も只者じゃない。ひょっとして、この女があいつの師匠?
……そんな事を考えていると、再びあいつが口を開く。
「何が目的です?」
「え……?」
「あなたは “何者” で、あの学校で “何をしている” のかと聞いているんですよ」
「わ、私は……」
「私は?」
「わ、私は、『暮井緑』っ!ただの美術教諭よ。何も悪い事なんてしてないわっ!」
そう……私は、『暮井緑』
追い詰められた故に出た咄嗟の一言……場にそぐわない事を言ってるのは、解ってる。でも、それ以上でも、それ以下でもない。
本来 “物” である私が自我を持つ “個” として立つには、その名前は、何よりも重要なのっ!
でも、そんな私の無言の叫びなんて、こいつらには届く筈もない。案の定、目の前のあいつは特に表情を変える事もなく答える。
「ふむ……人間じゃないけど、ただの美術教諭で “口封じ” の為に人を尾行した。でも、それも悪い事じゃない………面白い理屈ですね」
「っ……!?」
それは、秘密を守る為に仕方なくよ……!
でも、その言葉を私は飲み込んだ。話の通じる連中じゃないのは、解っているから。
そんな風にしていると、今度は後ろの女が口を開く。
目の前のあいつが平坦な声なら、こっちは氷のように、冷静で冷たい声だった。
「滅多な事は、考えない方が宜しくてよ。ここには、あなた1人……逃げ場なんてありませんわ」
…………逃げる積りなんてないわよ。
「1人……?本当にそう思ってるの?」
「「……………………」」
意を決して呟いた積りだったけど、反応はない………ハッタリだと思ってるのね。
まぁ、いいわ。確かに、 “今” は私1人……そう思うのも仕方ない。
でもねっ……!!
私は、持っていたスケッチブックを一気に開くっ!!
「行けっ!《グレイ・ドール》!!」
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