| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

〜独白〜黒衣の除霊師……ゴミ置き場

作者:wood12
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

転居

 
前書き
横島と小鳩と破局バージョンのボツネタ 

 
 夕方の教室。全員が帰り支度を始めているが、今日はいつもと違い閑散とした雰囲気はなく、どちらかと言うと活気があったかもしれない。


「ふふふっ!文化祭まで、あと1週間。今から楽しみね♪」
「張り切ってるな……」


 そんな中、俺達もそんな例に漏れずお互い帰り支度をしていた。その最中、隣でウキウキしながら呟く愛子に俺は相槌を打った。

 俺はともかく、こいつが帰り支度する必要なんて皆無なんだが、まぁ……気分の問題だろう。本体()を背負えるようにロープで固定してる。
 この後は、萩原達と途中まで一緒に帰るんだな………そして、別れた後に回れ右してここに戻って来る。

 まぁ……気分の問題だろう(2回目)。


「当たり前でしょ!成功するか否かは、私に掛かってるんだから責任重大よ!」
「そうか……」


 責任重大……確かにそうなんだが、こいつの場合は特に心配してない。体内空間は、愛子の自由自在なんだ。本当に大変なのは、愛子に合わせるステルスの方な気がした。


「しっかし、まさか俺の出した意見が通るたぁな……」
「何よっ、面白いじゃない!私の亜空間を利用したオバケ屋敷なんて、全く思い浮かばなかったわ」


 1週間後の文化祭……俺達のクラスは、『オバケ屋敷』を出す事になった。今日の放課後は、クラス全員でそれについてさっきまで話し合っていた訳だ。

 元々は、何をやるか全く決まらなかった。グレープ屋とか、焼きそば屋とか色々……中には、季節外れのカキ氷なんて案も出たが結局どれもイマイチって事でお蔵入り。ちなみに俺は、何となく楽そうな落書き煎餅を推してみたが、全く相手にされなくった(解せん)。

 結局、去年好評だった喫茶店をもう一回やろうかなんて話になったんだが、当然同じ事をやっても詰まらない。そんな話をしてる内に誰かが愛子の作る空間でやれば面白いんじゃないかと言い出した。
 そいつは、多分夏休みの海企画で愛子の中に入った生徒だったんだろう。そいつが言うと、同じように参加してた連中がどんどん賛同して停滞してた会議も一気に盛り上がった。

 俺自身もそれは、面白いと思った。オカルトに縁の無い連中なら、単に机や椅子が浮き上がるだけだって珍しく感じる筈だからな。
 だから、俺もその流れに乗り「どうせやるなら、タイガー(ステルス)と協力してオバケ屋敷にでもしたらどうだ?」と提案してみた。

 ステルスの精神感応と愛子の亜空間が組み合わされば、そう大きな力を使わなくても面白い非日常が体験出来るんじゃないか?

 そんな事をフッと思い付いて言ってみただけなんだが、これが他の連中にまで思い切り当たっちまった……こっちは、そこまで強くプッシュする積もりも無かったんだが………


 まぁ、何はともあれ出し物は『オバケ屋敷』になった。

 愛子は張り切るし、ステルスには自分に重要な役割を与えてくれたと感謝されるし、他の連中には珍しく褒められるし(この糞共が……)、そこまでは良かった……
 ただ、そうなると必然的に2人の負担だけが大きくなるので、俺とピートでその2人のサポートをさせられるのも、ある意味必然だった。

 要するに、これで完全にサボる事が出来なくなった訳だ(絶対、落書き煎餅のが楽だった気がする)。そんな、自分の軽弾みな発言に若干後悔したの言うまでも無い。周りに内緒だが……


「とにかく、これで明日から忙しくなるわよ!横島君もサポートよろしくね♪」
「ああ」


 文化祭の用意なら、普通は衣装やら道具と言った備品の調達が主なんだろうが、今回は違う。
 オバケ屋敷と言っても、やるのは愛子の亜空間なんで、教室には看板と簡単な飾り付けくらいで他にする事は殆ど無い。
 ただ、さっき言った非日常の空間を演出するには俺達4人(主に愛子とステルス)の連携が重要になって来るので、それの打ち合わせを放課後にやるわけだ。流石にぶっつけじゃ、色々不安だからな………


「でも、愛子……」
「ん?」


 愛子に水を差すようで少し気が引けたが、これは伝える必要がありそうなんで声を掛ける。


「俺は、明日休むからな。放課後には来るけど」
「休む……?今週は、仕事無いはずでしょ?」


 キョトンとする愛子に、俺は更に続ける。


「仕事じゃねぇよ。この前言ったろ?」
「あっ……」



    ◇◇◇

《翌日》


「横島……お前、引っ込んすんか!?」


 いつものオチャラケ顔を、やや深刻そうに沈ませる奴に俺も淡々と答えた。


「……ああ、貧か。そうだよ。見ての通りだ」


 疫病神………いや、貧乏……福ノ神の貧が部屋から出て来たのは、業者がちょうど俺の部屋の荷物を運び出しを始めたタイミングだったから、ドンピシャって奴だな。

 そう……俺は、今日2年半過ごした、このボロアパートから出て行く。過ごし易いとは言い難かったが、それだけの短くない期間を過ごしたんだ。もっと、感慨深い物になると思ってたんだが、実際にその日を迎えても心は殆ど平坦なままだった。自分の中で、当に折り合いが付いてたんだろう。

 そして、さっき貧が驚いたようにこの事は、花戸家にも全く伝えてない。付き合いのあるお隣さんに、一言の無いのは常識的にはあり得ないんだろうが、しない方が良いように思えたからだ。

 余計な気を使わせたく無かったし、俺自身も伝える事に抵抗があった……


「…………何かあったんか?お前、卒業は来年やろ?」
「……ここは、住むのに不便だからな。もっと、新しくて綺麗な部屋に引っ込すんだよ……っても、ここから2駅しか離れてないけどな」


 …………だから、会おうと思えば普通に会える。会おうと思うことは、多分ないだろうけどな……


 今度住むところは、都心郊外にある2LDK、バス・トイレ別のユニットバス付きで、冷暖房完備。探し始めたのは、3週間くらい前で、割とすぐに見つかった。

 風呂無し、冷暖房無し、うっすい壁で寒くて、暑くて、煩い築40年(以上)のボロアパート……そんな、今の住環境に比べたら正に天国で、学生が住むにしても少し不釣り合いだったが、都心から少し離れていたのと築20年に近いと言う事もあって、数万円で借りられた。かなり運が良かったのかもしれない。
 それでも、今までの倍以上の家賃になっちまうから、親父やお袋にこの事を話すと、始めは難色示した。当たり前だが、今の俺は高校生。2人の同意が無きゃ転居は出来ない。でも、足らない分は自分で支払うと言ったら、最終には同意してくれた。



「……………………そうか。達者でな……」


 …………こいつの性格なら、もっと騒ぐかと思ったが意外にも貧はそれきり黙っちまった。
 でも、考えてみればそれも当然だ。こいつの方が俺達の事情には詳しいんだ。

 あれから……GS試験以降、あの娘(小鳩ちゃん)とは話していない。こいつ()とは、そこそこ話すんだが、あの娘とは本当に全く話さなくなった。
 あの時から、関係はギクシャク……と言うか隣に住んでいながら、ほぼ絶縁状態だ。顔すら合わせないんだからな。


 …………本当は……引っ越すのは、卒業してからくらいの気持ちでいた。

 経済的余裕が出来た現状、こんな住み辛い糞部屋直ぐにでもトンズラしたかったんだが、それをすると必然的にあの娘とも疎遠になる。
 出会った当初に盛大に迷惑掛けちまったけど、それでも折角仲良くなれた縁を切るのは、それなりに抵抗があったんだ。

 だから、こんな半端な時期(10月下旬)に出ていくのは、俺自身完全に予想外なんだが仕方ない。居る理由が無くなっちまったんだからな。


「ああ……花戸さん達に宜しくな」


 そう貧に答える。

 敢えて、あの娘の名前は出さなかった。そして、貧もその事に触れなかった。
 お節介焼きのこいつが何も言わない所を見ると “もう、どうにもならない” って事だろう。まぁ、俺自身そう思ったんだから、引っ越しに踏み切ったんだけどな……

 ついでに言えば、今日は平日。わざわざ学校を休んで、今日する事にしたのは、あの娘とブッキングすんのを避ける為だ。休日だと、それも難しくなる。


 そんな感じで、貧と話している内に配達員による荷物のトラックへの積み込みが終わった。
 彼等に促されて、忘れ物がないか部屋を確認する。だが、それは事前に何度も済ませていたんで、パッと一目見るとすぐに戻りを、戸に鍵を掛けた。
 そして、2年半使ったキーを戸に設置してあるポストに放り込む。これで、後は大家が回収しに来る筈だ。


「何や……もう、終わったんか?」
「元から俺しか居ないんで、物は多くないからな」


 数日前から、部屋を整理して持って行く物はダンボールに纏めて置いた。古い物は全て捨てたし、足らないものは今後順次買い足して行く予定だ。
 業者は、それを数往復してトラックまで運んだだけどから、ここまで10分くらいしか掛かってない。
 雪之丞が今の事務所に転がり込んだ時も、荷物なんて手提げバッグ1個分しか無かったし(あれは、流石におかしいか……?)、一人暮らしの引っ越しなんてこんなもんだろ。


 ブロロロロッ……


 そうして、最終確認を終えた業者は一足先にトラックを発進させて出て行った。後は、俺が電車で合流するだけだ。


「じゃあな」


 見送りの積もりなのか、出口まで一緒に来ていた貧にそう言うと、俺はそのまま駅を目指す。
 もう、ここに来ることは2度と無いだろう。ここには良い思い出も、悪い思い出も多過ぎる……


「………………横島」
「ん?」


 歩き出して数歩の所で、貧に呼び止められる。顔だけ向けると、珍しく真剣な顔をした奴が浮かんでいた。そして、続ける……


「………初めておうた時……お前には、散々迷惑掛けられた」
「……………………」

「…………せやけど、お前のお陰で助かった。ワイも、小鳩も、小鳩の母親も……」
「……………………」

「皆、お前に感謝しとるんや!…………最後が、こんな形になってしも……いや、その事だけは忘れないで欲しい!………それだけや」
「…………また、連絡するよ。何かあったら、遠慮なく言ってくれ」


 俺は、手を上げながら貧にそう答えた……






{IMG226859} 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧