『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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転生?
店は、活気に満ちていた。
元々、10人程度しか入らないイタリアンの小さな店だがそこに居る客の全てが、笑顔になって楽しんでいるように見える。
「いらっしゃいませーっ!」
店内に響き渡る、朗らかで明るい声。
その原因………と言うか理由は、明らかにその声の主。カウンターの中で、テキパキと働く彼女にあるんだろう。
1人で店を切り盛りして、それでいて全く疲れを感じさせない彼女の笑顔が……その姿勢から来るエネルギーが周りに全て行き渡って客を元気にしてくれる。
そうでなくても男に関しては、もっと単純だ。
仕事が出来て、気配り上手で愛想もいい。おまけに美人と来れば、例え飯や酒が不味くても満足しちまう。
俺は、そんな風に感じていた。
「完全に彼女の店になっちまったな……」
「俺は、息抜き程度の積りで提案したんだがな………」
「………???」
「 …………“ある日、突然” みたいな事にはならねぇか?」
「多分、大丈夫と思うが……これは、それを確認する為の “実験” だろ?」
「…………??」
「ああ。そういや、無骸……」
「あんたは、初めてお目に掛かるんだな……」
「……………!?」
無言でも、キョドってるのが良く分かるぞ……
◆◆◆
《2週間前》
「女になりたいの!本当は、女として生まれたかったのぉっ!!」
…………おいおい、何がどうした?
「……………唐突っすね」
「……………何ですか?いきなり」
ここは、ダイニング・バー『girl』
そして、カウンターの先に居るのはこの店のマスター『鎌田清九郎』さん。たった1人でこの店を切り盛りする普通に凄い人なんだが、オカマだ。
元霊的格闘道場『白龍会』所属の霊能者でそれなりに腕も立って決して悪い人じゃないんだが、この人はオカマだ(大事なんで2回言った)。残念ながら……
雪之丞と久々に飯を食いに来て鎌田さんと3人で駄弁ってた最中、彼がさっき言ったようにいきなり叫びだした。それが、今の状況………
どんな話の流れでこうなったのかは、良く覚えてない。
「ごめんなさい……急に言われても、戸惑うだけよね?でも、小さい時からずっと思ってた事で、たまに堪らずに声に出しちゃうのよ!!」
「それは……」
「俺達しか居ないから、いいですけど………」
戸惑うと言うより、ドン引きしてんだけどな…………他に客が居たらどうすんだよ?
「割と他の人にも言っちゃってるの……今みたいにお客の少ない時に………」
「「……………………」」
…………それで、皆リピートしてくれんだから良い人ばかりなのか?それとも、結構な数に逃げられてるのか?
考えても分からないが、正直分かりたくもない……
「本当、駄目よね……願ってもどうにもならない事って、何度も言い聞かせてるのに」
「………やっぱ、そう思ってたんすね」
「ええ……女として、生きたかったわ。何で心は女なのに体は男なのって、何度思った事か………」
「……手術とかして、何とかしようとは思わなかったんすか?清九郎さん」
「 “バケモノ” にしかなれないわ……」
「ははは………」
彼の返答に雪之丞の乾いた笑いが店内に響く。その辺は、割と冷静か………
まぁ、確かにこの人はいい人なんだが、身長が180半ばまである上に広い肩幅の筋骨隆々とした厳つい男だからな。眉毛もぶっといし(関係ねぇか)……これじゃ、手術した所で周りは引くだけだ。
カオスの爺さんなら原形が解らないくらい整形してくれそうだが、どんな結果になるか解らねぇ。
クリーチャーにでもなっちまったら責任負えねぇし……これも言わねぇほうが無難だな。
だが…………
「………なら、試しになってみますか?鎌田さん」
俺は、彼に向かってゆっくりと呟いていた。
本来、こんな事を軽々しく言い出すべきじゃないのかもしれない。だけど、この人はある程度俺達の事情には通じてるし、信用も出来る。
そして、何より “女性への憧れ” を語る彼の顔から溢れる、その想いが本物に見えた。
それらが重なり、自然と俺の口を開かせていたわけだ。
「えっ……」
「試すって………文珠でか?」
「それしか無いだろ?」
「大丈夫なのか?そんな事して」
「効果は自分の体で試してる。多少疲れるが、この人の体力なら問題ない」
「…………試したのか?」
以前、仕事で女子校に行った時に必要かもと思って試したんだよ。
※『分身体』参照
「何回か……」
「何故、俺の前でしなかった?」
出来るか!んな事……
「腹抱えて、大笑いしたいのか?」
「当たり前だろ」
この野郎……!!
「あ、あの……」
「あっと、失礼。あなたも聞いてると思いますが、私の作り出す文珠には様々な効果があります。それを使えば体の女体化も__」
ガシッ!!
「出来るのっ!?本当っ!!本当なのっ!それはっ!!!」
「…………まず、放して下さい」
肩がミシミシと軋んだぞ。すげぇ力だ……ってか、顔が近い!鼻息が届きそうだ………!!
「あっ、ごめんなさい………」
「いえ……で、話は戻りますがこれなら確かに女体化は出来ます。私も数時間、女の体で過ごしましたが何の問題も無かった。ただ、それ以上の時間は何が起こるか解らない」
「解らない……?」
「ええ、本当に何が起こるか解らないし、何が起きても責任を取れる保証がありません。最悪、死んでしまう事も……」
「……………………」
「だから、この提案はあなたに手を差し伸べると言うより、文珠の効用を確認する為の…………」
「………… “実験” って事?」
文珠の効用については雪之丞、爺さん、武神様も含めて色々検証してる。
ただ、それでも解らない事は未だに多い………
「その通りです。試せる機会があるなら、色々試したい………もし、これでご不快に思われてるなら拒否して下さい。私も軽々しく提案した事を謝罪しましょう」
「……………………」
やや勢いで、こんな話になっちまったが、流石に「死ぬかもしれない」と言われて彼も神妙な顔で黙り込んだ。
だけど、顔を上げると……
「………………やるわっ!女になれるんなら、なんだってするわっ!!」
「…………解りました。武威もそれでいいか?」
「いいよ……清九郎さんが良いってんなら」
彼の強い眼力と雪之丞の了承を見た俺は、ポケットから2個の文珠を取り出すと、彼へ手渡した。
「『女』と『男』……」
まじまじと渡された文珠を眺める彼に俺は説明する。
「『女』で文字通り女体化します。それを発動させた瞬間に強い倦怠感を覚えるでしょうが、あなたなら問題無いと思います。対して『男』は戻るよ__」
「要らないっ!!」
そう言って突き返して来た。『男』の文珠だけ………
「…………成りっぱなしになってしまいますよ」
「望む所だわ!」
「いや、それだと………解りました」
まぁ、いいか。戻すのは、俺主導でも出来る。
「それで!これをどうすればいいの!?」
「やる事自体は、簡単です。それを握って念じて下さい「女になれ」と……」
「えっ……それだけ?」
「いいえ」
俺の返答に、やや拍子抜けしたような表情をする鎌田さんへ更に続ける。
「ただ、念じるだけでは駄目です。イメージして下さい。あなたの思う “理想の女性像” を」
「理想の女性……?」
「そう…出来ることなら、絵に描けるくらいハッキリとしたイメージがいい。霊能とは “想いの力” です。それが強ければ、強いほど結果になる」
……と、偉そうに語ったが完全に爺さんの受け売りなんだがな。ただ、目の前の彼にはピンポイントで響いたらしい。
目の色が変わった。これなら、行けるかもしれない……
「わかったわ……」
「では、私達が離れたら始めて下さい……おい」
「ああ」
そう言うと、雪之丞も促してカウンターから数メートル程離れる。
「では、鎌田さん。覚悟が決まったら念じて下さい」
「ええ……」
そうして真剣な顔で文珠を見つめていた彼だったが、その覚悟は数秒で決まったらしい。
そして……
「ふっ……!」
目を瞑って文珠を握り締めると、その数秒後に溢れ出る眩い霊気の粒子が彼を包み込んだ。
「くっ………」
全身から力が抜けたんだろう。一瞬立暗みでもしたように体が崩れかけるがそれでも、カウンターに手を付いて持ち堪える。
ただ、そんな事をしている間にも光に包まれた体のシルエットは、徐々に変化して行った。
そして、10数秒後に光がおさまり………
「はぁ……はぁ………」
…………大分、縮んだな。
両手でカウンターに手を付いて、何とか踏ん張っている彼………いや、彼女を見た第一印象はそれだった。
俺がした時は10センチ程度だったが、この人は20センチ以上縮んだんじゃないか?
線もかなり細くなった。女性としては標準なんだろうが、元がガッシリしてただけに余計そう感じる。
「おぅおぅ、こりゃぁ………」
「別人だな……」
……と言うか、服以外原形がねぇ。
女性的な丸みを帯びたふっくらとした体。色素の薄い透き通るような茶髪(前と色が違う)。茶色い眼(これも違う)。大人びて、柔らかな印象を受ける整った顔立ち…………何故、こうなった??
俺も、ここまでの変化はしなかったぞ……本人の精神が影響してるのか?
「わ……私は………」
当たり前だが、声も変わったな。野太い野郎の声から、柔らかくて繊細な女性の声になった。
そう言った後、鎌田さんはカウンターを見つめる。ピカピカに磨かれた底面を鏡代わりにしてるんだろう……
「嘘…………こ………これが……私…………!?」
まだ、疲れが残ってるからかリアクションは大人しかったが、表情は驚愕に満ちていた。
まぁ、これは俺も経験済みだから理解出来る。余り自分を確認してると、変な気分になっちまいそうなんで、自重したが………
「ママに似てる…………」
「本当か………それ?」
ウットリした顔で言いやがって……
何回もんな事言うけど、雪之丞の母親がどんな顔をしてたんだか未だに知らねぇんだよな。取り敢えず美人って事で良いのか?美人じゃねぇと言わねぇし……
「本当に、お綺麗になりましたね。体の方は、問題ありませんか?」
「ええ……疲れは残ってるけど、どこもおかしくはないわ………」
「体をこの短時間で作り変えたんです。負担は、かなりの物になりますからね。明日1日そのまま過ごして、元に戻るのは明後日にしましょうか?」
体の至る所を手で確認する彼女に伝える。
確か、明日は営業が休みだった筈………丸一日空ければ、その日は女性として過ごせるし、体も問題なく戻れ__
バァンッ!!(カウンターを叩く音)
「元に戻るぅっ!!?どうしてえぇっっ!!!??」
「いや、戻らなきゃ店が……」
………元気だな(高い声なんで、耳がキィンと来た……)。もう、復活したのか?
「このまま、やれば良いじゃないっ!!」
「………皆、驚きますよ」
それだけじゃない。
役所の手続きとか身分証を求められた時に、この人どうする気だよ?
「女として生きれるなら、何でもするわっ!!!!」
「いえ、そう言う事じゃなくて……」
「鴉……清九郎さんも、こう言って__」
「その呼び方は止めてぇっ!私は、生まれ変わったの!!これからは、『清九郎』じゃなくて、『清美』って呼んでぇ!!」
「「……………………」」
「…………何かあったら、直ぐに呼んで下さい……き、 “清美” さん………」
……………駄目だこりゃ。少し、早まったか?
◆◆◆
その後、様子見を兼ねてちょくちょく店に顔を出してるが、店は普通に営業している。因みに今日来たのは、3人で仕事の打ち合わせだ。
……話を戻す。
結局使った文珠は、あの時の一つだけ。勿論、今の所彼女の体も “ある日、突然” 的な事にはなっていない。
「客の顔ぶれ……変わってねぇな」
「何か新しい客も増えた気がするよ。大体、野郎だが……」
「………………」
周りを見回しながら呟く雪之丞に、俺も答える。
ちなみに他の客達には、「鎌田さんが長期入院して、親戚の清美さんがピンチヒッターになっている」………そうに通しているらしい。皆が、どこまで信じてるかは知らん。
「体調は、お変わりありませんか?」
「ええ!とても、快適だわ♪」
男の時と変わらずアグレッシブに動く彼女へ作業の合間に聞いてみると、満面の笑顔で返答が返って来る。
嘘をついてる感じじゃない。心なしか、体から発せられる生気が更に強まったようにも感じる。
「クドいようですが、何かあれば直ぐに知らせて下さいね」
「もう、本当鴉君って心配症ねぇ♪」
「……………………」
だから、顔が近い!顔が近いっ!!
だが、以前に比べて顔面の圧が減ったように感じる(しかも、良い匂いまでしやがる)のは、普通に複雑だ。
そう思っていると……
「かま……清美さん?」
急に神妙な顔付きをした彼女が、俺を見ていた。
「本当に毎日が楽しい……充実してるわ。今までも、決して悪い物じゃなかったけど、それ以上よ。あなたには、感謝してもし切れない」
そう言って、深々と頭を下げる。
「……実験とお伝えした筈です」
「それでも、構わない。本当にありがとう………でも……」
何だ……?一瞬、暗い顔を見せたぞ………
「でも……?」
「いえ………何でもないわ!ゆっくりしていってね」
取り繕うように言うと、彼女は作業に戻って行った。
そんな彼女を訝しむように見ていた俺だったが、そこに隣で酒を飲んでいる雪之丞が呟く。こいつも何故だか表情が沈んでいた。
「………兄貴の事を言いたかったんじゃねぇか?」
「兄貴……勘九郎の事を?」
「………………」
「奴も、しん……清美さんと同じ事を考えてた。もし、もっと早くお前に会ってりゃあ、違った生き方が出来たかもしれない………そうに思ったのかもな」
「…………なるほど」
「………………」
「俺の勝手な想像だよ……」
「「……………………」」
不満の一つが解消されりゃ、別の不満も我慢出来た可能性がある……か。
正直、人の一生まで背負う気は無かった。彼女が、喜んでくれたのは良いんだが………複雑だな。
他の客に魅力的な笑顔を振りまく彼女を見ながら、俺はそうに思った。
後書き
挿絵が出せないのがキツい……
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