『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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人格交代
これは……深夜のコンビニの風景なんだろうか?
もしかしたら昼間かもしれないし、はたまた別の時間かもしれないが、はっきり言って時間はどうでも良かった。
俺が深夜と思ったのは、店内には雑誌を立ち読みをしている1人の客しか姿が見えなかったからだ。
そいつは、眼鏡を掛けたひょろ長い体が特徴の若い男。白のポロシャツにベージュのスラックス……ラフな出で立ちなのは、今日はオフだからなのかもしれないし、もしかしたら学生なのかもしれない。
そんな奴に忍び寄る1つの影……
ズルズルズルッ! ズルズルズルズルッ!!
突如響き渡る不気味な音に気付く男。男が振り向くと、そこには赤毛の出っ歯が特徴のコンビニ店員が、奴に向かって迫って来ていた。
立ち読みを注意するとか、そんな雰囲気じゃない。出っ歯は、右手に箸。左手にカップ麺を携えて無表情で麺を啜りながら、歩み寄って来る。
何か不気味で、表現し難い威圧感があるが、それ以上に物凄くシュールだ……
ただ、客の男はそう思わなかったらしい。出っ歯の無言の圧力にビビったのか、怯えた表情をすると持ってた雑誌を乱暴に棚に戻し、慌てて逆方向に逃げようとする。
ズルズルズルッ! ズルズルズルズルッ!!
男は逃げようとしたのだ……だが、逃げれなかった。反対側からは、金髪のそこそこイケメン店員が出っ歯と同じようにラーメンを啜りながら、待ち構えたように迫って来たからだ。
「あ……ああっ………」
ズルズルズルッ! ズルズルズルズルッ!!
思わぬ挟み撃ちに男は、為すすべも無く追い詰められる。
そして………
“エターナル・コック♪ 豚バラ♪♪”
“美味い!!”
……………このCM、2パターンあったんだな。
何つうか……意味不明シチュエーション(追い詰められた男は、3人で豚バラを食う)と言う意味じゃ、こっち似たようなもんだけど………何か地味だな……
※前回参照
事務所のTVを見ながら、そう思った。
「あの出っ歯……」
「出っ歯がどうかしたか?」
隣のソファーで呟く雪之丞に、なんともなしに答える。時刻は、既に21時過ぎ。要は、いつも通りの駄弁りタイム中だ。
「あの “歯” ……実は、差し歯らしい」
「どうでもいいわ………」
どんな噂だよ?
……だけど、見てる奴の印象に残る戦略としては、ある意味有効なのかも………
「そりゃあ、そうと……」
「あん?」
今度は何だよ?
何が “そりゃあ、そう” なんだか皆目見当も付かねぇが、取り敢えず聞いてみる。
「ピートは、最近どんな感じだ?あれから、二月くらい経つけど」
ああ……その話か。
そう……ピートと俺は、夏休みに海でやり合った。原因は………まぁ、俺が要らん事したから。
※『卒業記念旅行編』参照
軽い冗談のつもりだったんだが、本人にとってはシャレにならなかったらしい。
「学校では、いつも通りだよ。毎日話してるのに、相変わらず俺と気付きもしない」
「学校では?」
「ス…タイガーと特訓してるんだよ。人気のない所でな」
「そっちか……そういや、焼肉屋でタイガーも巻き込んでたな」
「でも、タイガーもまんざら嫌でもないみたいだ。互いに良い刺激になってんじゃないか?」
「なんだよ、詰まらねぇな……あの時の剣幕なら、以前のタイガーみたいに、ここに来るのを楽しみにしてたんだがな」
「シロや冰織だって来るだろ」
マリアとだって偶にはやるし、仕事の合間には無骸とだってやり合ってる。その上、妙神山に行けば武神様が相手をして下さる。十分過ぎるぞ……
「ば〜か、相手は多いに越した事はねぇだろ」
「…………そりゃ、残念だったな。なら、成果を楽しみにしとけ」
「おいおい…随分他人事だな。連中は、お前ぶっ倒す為に修行してんだぞ。鴉さんよぉ」
「そういや、そうだな……」
確かにそうなんだが、学校では連中と普通に喋るから感覚がおかしくなる。まぁ、それはともかく……
ピートの弱点は、対等な修業相手が居ない事による。実践力不足。その相手をステルスが務めるとなりゃあ……あいつ、化けるぞ。
ステルスにしたってそうだ。1人で瞑想するよりも、誰かと実戦形式でやり合えば自分をコントロールするコツが掴めるかもしれない。
「へっ!まぁ、いい……精々、楽しみにしとくか♪」
「殴り込みは、止めような」
いや、マジで………
◇◇◇
「はあぁぁぁ〜〜〜っ!!」
「グゥアアアァァ〜〜ッ!!」
ドガァッ! バギィッ! グォッ!!
町外れの夜空に木魂する2人の雄叫び。互いに手足が激しくぶつかり合い、その度に尋常じゃない空気の振動が巻き起こる。
……………本当に、なんて圧力だ!
あのガタイで、あの俊敏な動き……例えるなら、スーパーベビー級のボクサーが、ミドル級並みのスピードを持っている………そんな感じか?
実際、ピートの目の前に居る相手は、それすら生温く感じる存在なのだけれど……とにかく、一撃一撃が速くて重い。本当に人間なのかと、疑いたくなって来る。
「グゥオオォォッッ!」
「くっ……」
そんな激戦の最中彼の振る左の爪が、僕のこめかみを掠る……多分、軽く流血してるだろう。ただ、その滴る感覚が血液の物なのか、それとも既に流れ続けている汗の物なのか、この瀬戸際の状況ではまるで判別は出来なかった。
ただ、重要なのはそんな事じゃない……
さっきの彼の攻撃を躱した時に、僕は後ろに仰け反るような体勢になってしまった。乱戦の途中に体を動けないように硬直させてしまったのだ。
それは、一瞬……いや、半瞬にも満たないごく短い時間だったが、彼相手にそれは致命的な隙以外何ものでもなかった。
「グァアアッ!」
振った左腕を引っ込めると同時に迫りくる右腕。それの到達地点は、僕の体の中心部分。今から体勢を立て直すのは既に不可能だ……!
グバァッ!!
………………だから、そのまま後ろに跳んだ。
爪先だけの力なんで、中途半端にしか跳べないけれど、それでも為す術無くやられるよりは良い。そして、この咄嗟の判断は功を奏した。
さっきまで、胴のあった空間を彼の剛腕が空を切る……いや、上着の繊維が僅かに斬り裂かれた。本当に間一髪だった。
「おおっ!」
そうして、何とか危機を乗り切った僕は背中で受け身を取ると、その反動を利用して上に両足を突き出す!
そこには、さっき右腕を振り切った彼の脇腹がある。ドンピシャのタイミングだ。
ドガッ……!
…………当たった。だが、全く効いてない。
タイミングは完璧……少なくとも、当たる直前まではそう確信していた。
でも、実際両足に伝わる感覚はドンピシャのそれとは、程遠い……
外された……!?当たった瞬間、同時に悟る。
周りから見れば、僕の返しは鮮やかに決まった様に見えたかもしれない。でも、当たる瞬間……見ただけじゃ解らないくらい微妙に体を捻って “芯” をズラされてしまった。
………淡々と語ってしまったけれど、こんな “超反応” は誰にでも簡単に出来る事じゃない。
並外れた身体能力と動体視力、そして反射神経を持ち合わせてなければ実践不可能だ。
本当に……とんでもない化け物を修業相手に選んでしまったもんだ。
「グラァッ!」
「ふっ……」
だけど、こんな時に嘆いてなんていられる訳が無い。
僕を振り払うように、強引に体を開く彼の腕を、足を後ろに振るようにして躱し、その勢いのまま今度は両手で地面を掴むと、その力で後ろへ跳ぶ。
1秒後、互いに体勢を立て直した僕達は、数メートル隔てた距離で相対していた。
だが、当然それで終わりじゃない。2人とも動かないのは、自分のタイミングを図っているからだ。
呼吸を整え、気を練り、それらが自分の中で最高潮に達した瞬間、再び動き出す。
…………否、動き出そうとしていた。
「そこまでっ!2人とも、今日はここまでにするワケ」
突然、人気の無い荒地に響き渡るエミさんの声。思わぬ第三者の介入によって出鼻を挫かれてしまった僕等は、我に返ると、それと同時に構えを解いていた。
ただ、そうした事で一気に気が抜けてしまう。抑えつけていた疲労感が、一気に噴き出したとも言うべかもしれない。
それは、さっきまでのやり合いには、それだけの緊張感が伴っていたと言う証左でしかなかった。
……………いや……僕の方は間違い無くそうだけど、彼はどうだかわからない。最後まで、何とか彼の攻撃を凌いで来たけどひょっとしたら、まだ余力があるのかも………?
「もう、そんな時間ですか?エミさん……」
疑問の答えは出そうも無かったけど、考えても仕方の無いことだとも思った。だから、取り敢えずその事は頭の隅に追いやり、護衛の人達と一緒に近づいて来たエミさんに時間について尋ねてみる。
空は、やり合う前から真っ暗闇。試合ってる時は、とにかく無我夢中で、そんな事を気にする余裕なんてある筈もなかった。
そんな、僕をエミさんは少し呆れたような顔をして呟く。
「もう、2時間以上経ってるワケ……ピート、これ以上は明日に響くわ」
「2時間……」
さっき始めたばかりの感覚だったけど、そんなにか……
要するに、それだけ集中してたって事だな。さっきも言ったけど、あのギリギリの緊張感……中々、味わえる物じゃない。間違い無く、修業にはなっていたんだ。
ただ、これじゃ足らない……これくらいじゃ、鴉にはまるで届かない……!!
「……解りました」
だけど、エミさんの答えを聞いた僕は素直にそう返す。
“まだ平気です!” ……本音では、そうに言いたかった。恐らく、彼も平気だろう。
でも、彼女達はそういう訳にも行かない。今日だって、わざわざ仕事の合間を縫って、僕達の為に時間を作ってくれたんだ。神父だって、きっと心配してる。
それに、ここは都会から外れた山中の荒地。騒ぎになるのを考慮して、こんな所まで来てる訳だけど、ここまで移動するだけだって大変なんだ。それなのに、僕の都合だけで我儘は言えない。
だから、僕は逸る自分を冷静に宥める。
(焦っては、駄目だ。一つ一つ丁寧に積み上げるんだ……)
「そういうワケ……」
僕にそう言うと、エミさんは彼の方にも顔を向けて声を上げる。
「だから、タイガー!アンタも帰る支度するワケ!」
「……………………」
……だけど、彼は答えない。この距離で聴こえてない筈は無いと思うけど………
「…………フッ、間違えたわ。今は、『虎烈』だったワケ」
…………あ、そういう事か。
エミさんに言い直されると、ようやく彼は、不敵にニヤリと笑う。
「おうっ!やっと、姐さんも俺様を認知してくれたか♪」
野太い声で陽気にそう答えるのは、赤毛を全身に纏う深紅の虎人……それが、タイガーの精神感応で生み出された新たな人格『虎烈』だ。
後書き
ピートとステルスの修行編……以前の虎編みたいに小出しに続きます。予定は未定。物語完結までに、人格全部出し切らない可能性あり(≧∇≦)b
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