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ソードアート・オンライン 夢の軌跡

作者:Neight
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大人だけの時間




 温泉に三十分近く浸かってから、部屋に戻って談笑した。その後は豪華(ごうか)な夕食を食べた。季節に合った鍋料理で、満足のいく味だった。
「美味しかったなあ」
 僕がなんとなく声に出してみると、その直後に散歩にいっていた玲音が帰ってきた。
「あれ? 親父たちは?」
「大人だけで部屋の露天風呂に入ってくるから、二人で待ってろ、って言って少し前に出ていったよ」
「そうか。なら俺らは部屋でゆっくりしているか」
「それならトランプでもして待ってようよ。あ、でも父さんたちが何を話してるのかが少し気になるね」
 トランプを片手に持って言った。
「気になるのは少しではないだろう」
「そうだね」
 僕は苦笑いをしたが、続けて提案した。
「やるのはスピードでいいかな?」
「まあ、妥当だな」
「負けないからね」
「俺だって負ける気などないな」
 スピードのための用意をしつつも、僕と玲音は言葉という矛を交えている。段々と周囲の空気が張りつめていく。
 そしてついに用意が終わり、玲音が(おごそ)かに口を開いた。
「いざ尋常に」
「「勝負」」
 戦いが始まった。


   ◇◇◇


 ──ぴしゃん。
「はー。綺麗な景色よねえ」
「そうだな」
 ここは露天風呂。雪の積もった森が一面に広がっている。
「本当に落ち着くね」
「そうですね」
 悠人と美香は寄り添って微笑んだ。
「やっぱり少し肌寒い感じがあるわねえ」
「まあ雪が降っていないが今は十二月の夜だ。いくら温泉とはいっても冷え込むし、湯冷めして体調を崩す危険もあるから、注意しておけよ」
「大丈夫よ。心配性ねー」
「でも温泉に漬かっている間は温かいですし、私は好きですよ。この月明かりの雪景色」
「凄く幻想的だよね。こんなにいい景色を見られるんだったら、少しの寒さくらい我慢しちゃうけどなあ」
 悠人は美香の肩を優しく抱いた。
「いつまで経っても、二人はラブラブだな」
「あら、兄さんだって義姉さんと仲がいいままじゃないですか」
「そんなことはないさ」
「むっ、なによ。その発言は心外ね」
 そう言って、シェラザードは健太の背中に抱きついた。
「……離れてくれないか」
「あ、照れてる? 照れてるの?」
「いいから離れろ」
「ほら。やっぱり兄さんと義姉さんだってラブラブなままじゃないですか」
 悠人はこの一連のやり取りに苦笑いを溢しつつ、止めに入った。
「シェラさん。健太さんが困ってますよ。美香も(あお)らない」
「えー。いいじゃない。もう少しくらい」
「駄目です。美香もいいね」
「わかってますよ。ちょっと兄さんをからかっただけですから」
 ようやくシェラザードが離れたところで、健太はそんな発言をした美香を一(にら)みした。その後悠人に感謝の言葉を言った。
「すまん。助かった」
「いえ、別に大丈夫ですよ」
 そこにシェラザードが、そっと悠人に声を掛けた。
「ねえ、悠人君。ほんの少しでいいから抱き着かせてくれない? ね?」
「たから駄目ですって」
「お願い」
 本気の声色で頼まれて、悠人は困ってしまった。
「ええと……」
「…………」
「……ああもう、わかりましたから。せめて僕らのいないところでやってください」
 悠人は無言のプレッシャーに根負けして、自分に被害が来ないように健太を犠牲(ぎせい)にした。
「ちょっ……」
「え? あー、そういうことね! わかったわかった。それじゃあ二人っきりになるまで我慢するわ」
 悠人の不穏な言葉に健太は声を上げたが、更に大きなシェラザードの声に掻き消されてしまった。
「そうしてください」
「悠人さん! なんてことを言うんだ!」
「兄さんもたまには義姉さんにサービスしてあげたらどうですか? このままだと愛想を尽かされちゃいますよ」
「むっ」
 健太はようやく声を上げたものの、美香に(さと)されて二の句が継げなかった。
「はあ。やっと収まった。疲れを癒しに来た筈なのに、余計に疲れちゃったような気がするなあ。これからは気を付けてくださいね」
「ごめんね。ありがと」
「すまなかった」
 シェラザードは明るく謝ったが、健太は不満そうに謝った。納得がいかなかったのだろう。
 そんな疲労を見せる悠人に、美香は優しく声を掛けた。
「悠人さん。肩を揉みましょうか?」
「え? あ、うん。頼むよ。ありがとう」
「あっ、いいなー。肩揉んでもらって。……そうだ。健太。私の肩揉んで」
「お前は本当に……はあ」
 健太は何かを言おうとしたが止めた。そして諦めたようにため息を吐いて、大人しくシェラザードの肩を揉み始めた。
 それから二人はしばらく肩を揉んでもらった。悠人は適当なところで美香にお礼を告げて、また寄り添って座った。そしてシェラザードも健太に肩揉みを止める許可を出した。
「やっと終わった」
「んー、気持ちいいわ。これで少しでもお酒があれば最高なんだけど」
「それはちょっと無理じゃないですか? まあ理解はできますけどね」
「義姉さんは本当にお酒が好きですね」
「当たり前よー。お酒は私の活力源なんだから」
 シェラザードはからからと笑った。
「そういえば、食事の前に入った温泉で玲音と翔夜君が、本当の兄弟みたいだったな」
「ええ。そうですね」
「どういうことよ? あの子たちは何をしてたの?」
「私も気になりますね」
 自分たちの子供の話に、二人は大きく興味をそそられた。
「いや。翔夜が玲音君のことを『絶対に追い付きたい目標』だって話したら、玲音君は『そう簡単に越えさせる訳がないし、越えさせるつもりだって全くない』って返してね」
「その後に二人で拳同士をぶつけ合っていたな」
「そうですね」
「それはなんというか……」
「ふふっ。二人とも、とてもたくましくなりましたね」
 シェラザードは少し呆れて、美香は嬉しそうに笑った。反応が真逆である。
「でも、それって兄弟っていってもいいのかしらね?」
「けど、本当に仲はいいぞ」
「それはわかるわよ」
 翔夜と玲音の仲のよさは全員が認めるところだ。
「それと好きな人はいないのかって聞いたけど、二人ともいないって答えたんだよね」
「玲音はともかく、翔夜君も恋愛はまだなのね」
「翔夜君は学校では手加減をして、目立たないようにしているらしい」
「うわ。そんなことまでしてるの!?」
「はい。でも大丈夫ですよ。なんていったって私と悠人さんの子供なんですから」
「そうだね。美香」
「はあ。翔夜君はいいわねー。玲音ももう少し優しければ……」
 全面的に翔夜のことを信頼している二人とは違い、シェラザードは玲音のことが心配そうに首を(ひね)った。
 そんなシェラザードを見て、健太は笑いを(こら)えながら口を開いた。
「玲音は無愛想ではなくて不器用なんだってな、悠人さん」
「はははっ。そうでしたね」
「今度はなんですか?」
「私たちにもわかるように説明しなさいよ」
 再び理解できない話をされて、早く聞きたそうである。
「いや、な。翔夜君は家事とかもできてモテそうなのに、家の玲音は駄目だって話したら、悠人さんが『玲音君は本当は優しいからね。だから無愛想なんかじゃないと思うよ』って言ってくれたんだ」
「そのあとに翔夜も『玲音は無愛想なんかじゃないよ。ただちょっと不器用なだけだよ』なんて言ったんだよ」
「あはははっ! なるほどね。だから〝無愛想ではなくて不器用〟な訳ね」
「でも、私は玲音君にぴったりな言葉だと思いますよ」
 全員が納得したように頷いている。
「俺も本当にそう思うよ」
 その一言が切っ掛けとなり、全員が一斉に声を上げて笑った。
「ふう。たまにはこんな風に、親だけで話してみるのも面白いね」
「そうですね。子供と一緒にいるのも楽しいですけど、年に一、二回くらいはこういうことをしてみてもいいんじゃないでしょうか?」
「それいいわね! じゃあ最低でも夏休みに一回は、この四人だけで集まることにしましょうよ」
「そうだな。たまには子供の話を気兼(きが)ねなくゆっくりとするか」
「僕も賛成なので、決定ですかね」
「はい。決定です」
 不意に出た案だが全員乗り気のようで、夏休みに集まることがとんとん拍子に決まった。
「よし。それじゃあそろそろ俺は上がるが、皆はどうする?」
「私も上がるわよ」
「僕はもう少し入ってようかな」
「じゃあ私も悠人さんと一緒に入っています」
「そうか。あまり長く入りすぎて逆上(のぼ)せるなよ?」
 まだ少し入っていると言った二人に、健太は一応注意をしておいた。
「そこは大丈夫ですよ」
「健太。上がるならさっさと上がるわよ」
「わかっている。それじゃあな」
「はい」
 その返事を聞いて、健太はシェラザードと一緒に脱衣(だつい)所に入っていった。 
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