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『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師

作者:wood12
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潜入(魔族の依頼編)

 …………車を降りてから、どれくらい歩いただろうか。

 林道はさらに荒れ果て、道幅も狭くなり、ほとんど獣道と呼べるレベルになっていた。木々の密度が濃くなるにつれ、昼間だというのに周囲はますます薄暗さを増していく。空気は湿気を帯び、胸の奥にまとわりつくような重さまで感じ始めている。

 ここまでの道中、特に異変はなかったが、俺にはその静けさが逆に不気味だった。

 そんな中、前を歩く雪之丞が足を止めて手を軽く上げた。


「……待て」


 奴が急に足を止めたのは、森が一段と深くなった辺りだった。


「……ここだ」


 そう言葉にする雪之丞の示した先を見ると、ここから数十メートル先にわずかだが道が開けた場所があった。
 そこも、完全に草と蔓に埋もれた細い獣道が続いていたが、道の両脇には明らかに人工的に作られたと思われる朽ちた木の杭が二本、腐りかけて倒れかかっていた。
 そして、その奥からは崩れかけた屋根や壁の一部が、木々の隙間から辛うじて見えた。察するにあの杭は、門の役割でも果たしいたのかもしれない。


 廃村——

 ここが、ワルキューレから聞いていた場所に間違いないだろう。


「……完全に自然に還ってやがるな。でも、中は様子が違う」


 その言葉に氷雅さんも眉を寄せ、声を潜める。


「ええ……霊脈の乱れが強くなってます……明らかに人工的な歪みですわ」
「いつの間にか、匂いも変わってるな……腐ったような、淀んだ臭いがする」


 ……匂いが変わったか。

 奴がそう言うなら、多分そうなんだろうが、あいにく虚吸の面(マスク)越しだと良く分からない。かと言って、軽々しく外す事が出来ないのが何とももどかし(・・・・)かった。

 ただ、4人の内の2人が異常を訴えるんだから、おかしいのは確かだろう。それを確認する為に俺も瘴気検知時計を取り出すと、髑髏面の縁がほんのわずかに銀色から薄紫色に変わり始めていた。


「……反応ありだ。ここから、もっと強くなるかもな」
「へっ!ちゃんと、そこに居るようで安心したぜ♪」
「よく、嬉しそうに出来ますわね……」
「………………」←無骸


 全くだよ。まぁ、今に始まった事でもねぇが……


「さて……何かありそうなのはわかったが、どうするか?4人で馬鹿正直にツッコむ訳には行かねぇが……」
「上から確認してみます」


 そう雪之丞の伝えるやいなや、氷雅さんはこなれた様子で手近にあった一番高い木にすいすい(・・・・)とよじ登って行く。その軽やかな動作は、本人の重さを感じさせず、さながら軽業師とい__


「猿みてぇだな……」
「身も蓋もねぇ事を言うな」
「………………」

《念話》

“聞こえてますわよ!”
「「「………………」」」



    ◇◇◇

《念話》

“何か見えるか?”
“密集した木と、廃屋の屋根がちらほら……”

“他には?”
“何も見えませんわ。もっと、上に行きます”


 杉の木の中ほどで小型の望遠鏡を覗いていた氷雅さんだったが、思念でそう発すると更に上へ登る。
 言葉にするのは簡単だが、これは至難の技だ。おそらく熟練の軽業師でもここまでは出来ない。上へ行けば、行くだけ体が重力に引っ張られるからだ。彼女がそれを可能にしてるのは、一重に霊気で身体能力をブーストしている結果だ。
 そんな感じで、瞬く間にテッペン付近……おそらく、24〜25メートルくらいの所で姿勢を安定させると、再び望遠鏡を取り出す。


“何となく、村の全体像が把握出来ましたわ。広さは大体400〜500メートル四方かと。殆ど木々に覆われてますわね”
“じゃあ、結局見えんのは廃屋だけってことか?”

“いいえ。中央に古い神社のような建物があります。ただ…その周辺だけ、黒い靄が掛かってるように見えますわ”
“黒い靄……瘴気か?”

“ええ。おそらくは……木々その物が、周りより明らかに黒ずんでます”
“なるほど……了解した”


 雪之丞は、その一言で念話を切り上げると、横で待機していた俺と無骸ヘ振り返る。


「聞いてたろ?」
「ああ。明らかに神社が怪しいな」
「………………」


 氷雅さんは霊脈の乱れを指摘していたが、おそらくそれも神社が中心なんじゃないか?

 そして、そこに居座るのが魔族《ガルザ》か……

 そう思ってると、今度は速攻で上から降りて来た氷雅さんが口を開く。


「どうされます?これ以上は、中に入ってみないとわかりませんわよ」
「まぁ、入るしかねぇだろ。この程度の情報じゃ、流石にあの女も納得しねぇだろうからな」

「………依頼人は、女性の方なのですね」
「おっと……んで、誰に入って貰うか?冰織(アンタ)には行って貰うとして、無骸は待機だな」
「………!?」


 ガシャンッ!


「……何だ?そのリアクション…その(格好)で行けると思ったのか?」
「ガシャンガシャン、煩ぇんだよ」


 道中、お前の音が気になり過ぎて周りに集中出来なかったんだからな。


「………!!?」


 ガ、ガシャン!


「それは、パントマイムですの……?」


 お前も随分と感情表現が豊かになったな………それは、ともかく……


「まぁ、無骸は仕方ないとして、武威(お前)もここで待機だな」
(お前)が行くのか?」

「他に居ないだろ?探索は、冰織に任せるさ。俺は、付いて行くだけ。だが、一緒なら万が一の時に転移(逃げ)られる。冰織も、それで良いですか?」
「ええ、それで行きましょう」
「わかった。何かあったら、すぐ戻れよ」
「………………」←無骸




    ◇◇◇


「ここが良いでしょう」
「はい……」


 彼女の指差した場所に俺は無条件で同意する。彼女に任せると言った以上、口を挟む余地なんてなかった。


 さっきのやり取りで潜入を担当する事になった俺達は、氷雅さんの示した廃村の外周、草と蔓が特に密集した崩れた竹垣の残骸から、慎重に中へ滑り込んだ。
 内部は予想以上に暗く、湿った土と腐葉土の臭いが濃い。足を一歩進めるたびに草が膝まで沈み、廃屋の壁に体を寄せて音を殺し、時には枝から枝へ飛び移りながら奥へ進む。

 彼女の邪魔にならないよう付いて行くだけだが、心臓の音が自分でもうるさく感じるほど緊張が張りつめていた。
 場慣れなら、かなりしたつもりだが、こういった敵地への侵入は初めてな気がする。それが、俺の精神をじわじわと圧迫しているのだろう。


 そんな感じで、村に入ってから数分……距離にして、数十メートル程進んだ所で異変が起きた。


《念話》

“待って!”


 前を進む氷雅さんが、突然思念と同時に左手で俺を制す。

 何か見えたのか?俺は息を殺して、物陰から彼女の視線の先を見た。


 自分達から10数メートル離れた先……崩れた廃屋の屋根の上に、黒い影 がいた。

 人型に近いが、背中や腕から鋭い棘が生え、皮膚は硬質の甲殻のようなもので覆われている。
 そいつが、低くうずくまるような姿勢で、周囲をじっと見張っていた。真っ赤な両眼をドス黒くギラつかせながら……

 棘兵……とでも呼べばいいのか?

 そして、1体じゃない。

 隣の廃屋の壁の隙間、木の太い枝の上、草むらの奥……少なくとも5、6体 は視界に入る位置に、静かに待機しているのがわかった。


“魔族……ですわね?”
“少なくとも、妖怪の類ではないでしょうね”


 当然だが、彼女の放つ念には緊張が籠もっていた。

 連中の放つ、あの禍々しい気……明らかに魔界出身の生物達と酷似してやがる。


 ………やれやれだな。

 俺は、思わず息もらしそうになる。

 この瘴気に満ちた領域なら何かしら居ると踏んでたが、あれは完全に待ち伏せの形だ。もし正面から普通に入っていたら、即座に反応して襲い掛かって来た……いや__


“一体、何体居るんでしょうね?”
“さぁ……でも、あの態勢であの数はあり得ない”


 少なくとも数十体……多ければ百を越えるか?


 ………魔族の拠点……別に舐めてたわけじゃないが、やはり一筋縄ではいかないらしい。

 
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