『月と太陽と星』騎士時代編
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騎士時代編(劇場版ルート)1
前書き
ナイレン隊が駐屯先に任命されたのは、シゾンタニア。
帝都から約3日ほど離れた辺境の街だった。そこには様々な問題があった。
増える魔物、街を離れる人々、濃度高いエアル、遺跡調査。
果たして赴任先で待ち受けている事件とは…。
【テイルズ オブ ヴェスペリア ~ The First Strike ~】
『月と太陽と星』騎士時代編(劇場版√)
*劇場版とは若干、異なります。(オリジナルが入ります)
〈 人と魔物の大きな戦いが集結してから月日が流れ
人々は根源たる力、エアルを使い繁栄を築き上げようとしていた。
エアルが結晶化した物は魔核となり、
魔導器を動かす源として使われていた。
様々な種類の魔核が魔導器を通し、
繁栄と生活に必要な物を我々に与え続けてきた。
魔力と魔物…。
人知を超えた力が支配する世で、我々は常に選択を迫れれている。
何を守り、何を捨て、どう生きるべきか…。〉
エステリーゼは、緑の魔核を使い、部屋の明かりをつける。
本を読むことが好きな彼女は、今夜も読みふけている。
2
今宵、ユーリとフレンにとって運命の初陣が幕を開ける。
森の中には魔物が潜み、渓谷の中を走っている者たちがいる。
ユーリはヒスカと。
フレンはシャスティルと。
それぞれ別れて、迅速かつ的確に魔導器の罠を仕掛けていく。
次々と湧いてくる魔物に追われながらの作業に、4人は大変そうだ。
「ちょっと!急ぎ過ぎ!」
「もたもたすんなよっ」
「ユーリ、こっちこっち」
ヒスカが鞄からまた罠の一つを出して設置する。
「よし。次」
そうして走り出す。
「何個、設置するんだ」
「あたしらは3つよ」
また罠を仕掛け、すぐに走り出す。
魔物の群れがすぐ其処まで迫っている。
頭上を覆う鬱蒼とした木々が月光を遮り、森の中は濃い闇と、
獣ともつかぬ魔物の唸り声に支配されていた。
渓谷の底を吹き抜ける夜風は、切り立った岩肌をなでて、まるで誰かの悲鳴のような音を立てている。
「ちっ、次から次へと……! ヒスカ、そっちは任せたぜ!」
ユーリは、背後から迫る魔物の鋭い爪を紙一重でかわし、愛剣を振るう。
隣を走るヒスカは、荒い息を吐きながらも、魔導器のパーツを抱えて必死に食らいついていく。
二人の足元は覚束ないが、止まれば即、闇に飲み込まれる。
ユーリの瞳には、恐怖を塗りつぶすような鋭い闘志が宿っていた。
一方、別ルートを行くフレンの表情は、騎士らしい硬さを崩さない。フレンとシャスティル組。
「シャスティル先輩、あと少しです。僕が引きつける、その隙に罠の設置を!」
フレンの剣が魔物の突進を重々しく受け止める。
衝撃が腕を痺れさせるが、彼は一歩も引かない。
シャスティルの指先は、焦りと冷気で震えそうになるのを必死に堪え、
複雑な魔導器の回路を調整していく。
二人の間に流れるのは、言葉を超えた、任務を完遂せんとする強い使命感だった。
飛び散る火花、焦げた土の匂い、そして肌に刺さるような魔核の脈動。
シャスティルが罠を仕掛け、フレンが彼女を護るように剣を持ち迎撃する。
罠が仕掛け終わった。
「行くよ、フレン」
「はい!」
2人は駆け出す。
「遅れないでよ」
「他のチームは大丈夫でしょうか」
若き4人の背中には、まだあどけなさが残る。
しかし、この死線を超えた先にある光景が、彼らを「守る者」へと変えていく。
闇を切り裂き、魔導器の罠が放つ淡い光が渓谷に灯るまで――彼らの長い夜はまだ終わらない。
そして私は。
隊長とランバートの傍らに控え、私は高みから戦況を俯瞰していた。
眼下で弾ける罠の光は、まるで地上に降りた星々の瞬きだ。
一際大きく火花が散るたび、闇に紛れていた仲間の背中が、一瞬だけ鋭く浮かび上がる。
夜風が頬を撫でていくが、指先は驚くほど熱い。
隣に立つ二人の静かな呼吸を感じながら、私は視線を走らせ、戦場の綻びを探す。
視線を走らせ、綻びを探す。誰の悲鳴も上げさせない。
窮地に陥ったチームへ、最短距離で飛び込む準備はできている。
あとは、その瞬間を射抜くだけだ。
戦場という盤面をひっくり返すための『最後の一手』として、
私はただ、その時が来るのをじっと凝視していた。
すると耳に2人の声が聞こえてきた。
ユーリの独断専行にヒスカは手を焼いているようだ。
「ちょっと!作戦通りに動いてよ!先行し過ぎ!!」
「ちんたら、やってられるかっての!」
ユーリとヒスカの後ろには、すぐそこまで魔物が迫ってきている。
それを私は視力のいい目で捉える。
「ん。ユーリたちの方、苦戦しそうね」
「よし。ヒロミ、行け」
「イエッサー!」
自慢の野生の勘が働き、ナイレン隊長のGOサインが出た。
私は俊足を使い、全速力でユーリとヒスカの方へと駆け出す。
「追いつかれる!」
「行けっ!」
「任せた!」
「へっ」
ユーリが不敵な笑みを深く刻んだ直後、地底から突き上げるような衝撃が走った。
彼の足元を起点に、乾いた大地が悲鳴を上げて一気に爆ぜ、
巨大な亀裂が幾筋もの稲妻となって周囲を切り裂いていく。
巻き上がった土煙は荒れ狂う嵐のように視界を塗り潰し、朦々と立ち込めた。
凄まじい轟音と、鼻を突く砂塵の匂い。
「ぅ、うわっ!」
足元の石畳が悲鳴を上げ、亀裂から噴き出した土煙が視界を奪う。
ユーリは本能的な恐怖に従い、全身のバネを弾かせて後方へ跳んだ。
直後、彼がさっきまで立っていた場所が、内側から爆発したかのように弾け飛ぶ。
轟音と共に、地底の闇を切り裂いて姿を現したのは、
鈍い銀光を放つ巨大な鋏だった。
岩をも容易く粉砕するその一撃を間一髪で回避したユーリの頬を、凄まじい衝撃波がかすめていく。
「――っ、あぶな……!」
着地と同時に顔を上げると、
そこには崩落した瓦礫の山を文字通り「踏み潰して」現れた、巨大な蟹の魔物がいた。
湿った土と錆びた鉄の臭いが混ざり合った異臭が鼻を突く。
甲殻は年月の重みを感じさせるほどに分厚く、びっしりと苔や鉱石がこびりついている。
蠢く無数の脚が地面を掻くたびに、周囲の地面がさらに崩れ、逃げ場を塞いでいく。
魔物の頭部にある、感情の見えない濡れた複眼がゆっくりと回転し、
獲物――ユーリを完全に射程圏内に捉えた。
「こんなのまでいるたぁ聞いて、ねえ!」
石礫を剣で往なす。
そこへ私が割り込み、一瞬の隙を突いて、あの硬質な甲羅の継ぎ目へ鋭い突きを繰り出す。
「ユーリ、そこどいて!――はぁぁっ!瞬天牙!!」
私の叫びと同時に、切っ先が青白い閃光を纏って甲羅を貫いた。
「ヒロミ!」
ユーリが驚き混じりの声を上げる。手応えは十分。
魔物が苦悶の声を上げ、その巨体が大きく揺らいで怯んだ。
今のうちに畳みかけるべきだが、戦場に安息はない。
「ユーリ!ヒロミ!こっち終わったわ!」
離れた位置で罠を仕掛け終えたヒスカが声を上げる。
私とユーリはアイコンタクト一つで意思を通わせ、瞬時にヒスカの方へと地を蹴った。
だが、その瞬間――。
心臓を冷たい指でなぞられたような、形容しがたい嫌な予感が背筋を駆け抜けた。
「ヒスカ!私はシャスの方に行くわ!」
「わかったわ、ここは任せて!」
(……まずい、嫌な風が吹いてる)
私は反射的にスキル『瞬転』を発動させる。
視界が引き延ばされるような加速の中。
フレンとシャスティルが戦う最前線へと、私は全速力で駆け抜けた。
彼女が最後の罠を設置し終えたその瞬間、森の空気が一変した。
湿った土の匂いに混じり、獣特有の鼻を突く猛烈な臭気が漂い始める。
「シャス!フレン!たくさんいる!気を付けて!!」
私の叫びに、二人の身体が強張る。
私は反射的にシャスティルの前に割って入り、隣に並ぶフレンと視線を交わした。
言葉はなくとも、死線を越えてきた信頼が「護れ」と告げている。
――カサリ。
背後の茂みで小枝の折れる乾いた音が響いた。
「っ、しまっ……!」
フレンが気配に反応し横を向くが、牙を剥いた影の方が速い。
「させない……っ! はあぁぁっ! 風凛斬!!!」
私は瞬時に踏み込み、溜めていた魔力を一気に解放する。
不可視の衝撃波が唸りを上げて空間を削り、飛びかかってきた犬型の魔物たちを正面から叩き潰した。
「きゃいん!」という悲鳴が重なり、肉の塊となって森の奥へと吹き飛んでいく。
フレンも何匹か斬り伏せていた。
「今よ!!」
衝撃波の余韻で舞い上がった木の葉が落ちる前に、私は叫んだ。
「ちょっと!何でぇ!? 」
シャスティルは半べそをかきながらも、フレンに背中を押されるようにして走り出す。
彼女はフレンと共に駆け出す。
私は右手に残る痺れるような魔力の感触を振り払い、二人の背を追う。
「作戦失敗!?」
「いえ、このまま引き付けましょう」
「そろそろ頃合いかな」
「え?」
私は走りながら予感する。隊長、そろそろ仕掛けの時よね。急がなければ。
「ああ、完璧なタイミングだ。ヒロミ、おまえの予感、一度だって外れたことはないからな…!」
荒い呼吸を突き抜けて、オレは右手に握った『起動鍵』を天に掲げた。
その瞬間、足元の地面が震え、地底に眠らせた魔力が一気に沸点に達する。
「全二十四基、連鎖起動(チェイン・オン)――ッ!!」
ドン、と空気を圧する重低音。
直後、オレたちが駆け抜けてきた軌跡をなぞるように、
一本、また一本と、極彩色の蒼い光柱が夜の帳を貫いていく。
それはまるで、地上の星が天に帰っていくような、恐ろしいほどに美しい光景だった。
見上げれば、頭上には巨大な幾何学模様の術式魔方陣。
回転を上げるたびに高周波のうなりを上げ、降り注ぐ光の粒子が周囲の魔素を強引に書き換えていく。
「準備はいいか。この光の檻からは、神速の獲物といえど指一本逃がしはしねえ」
加速する鼓動。逆巻く魔力。
オレは不敵に口角を上げた。
「さあ、ここからはオレたちの時間だ。反撃の狼煙を上げようぜぃ!」
一方、ヒスカとユーリは。
「まだ他のチームが戻ってないのに、なんであたしたちだけこんな……!」
ヒスカが悲鳴に近い声を上げ、背後の岩壁にじりじりと後ずさる。
「うっせぇな! 予定通り進んでんだろ。想定の範囲内だよ、こんなもん!」
ユーリは吐き捨てるように言い返したが、剣を握る掌には嫌な汗が滲んでいた。
「なぁんですってぇ!? この状況のどこが予定通りなのよ、この大嘘つき!」
そう言い合っている間にも、魔物の群れは包囲網を狭め、二人をじわじわと追い詰めていく。
暗がりから光る無数の眼。
獲物の肉を裂くのを待ちきれないと言わんばかりの、耳障りな咆哮と獣臭が洞窟を満たした。
一、二……いや、十や二十ではない。闇の奥から湧き出すそれは、まさに「津波」だった。
「あ、はは……。ちょっと、怖いかも……」
乾いた笑いを漏らすヒスカの頬を、一際大きな咆哮による風圧が叩く。
「すっげえ数だな。おい、ヒスカ。腰抜かして座り込むんじゃねぇぞ」
ユーリは観光鋭く目を見据え、剣を構え直す。
「ええっ、無理、絶対無理だってば……!」
いよいよか、って時。
いよいよか、と喉の奥が熱くなる。
立ち込める土煙と魔物の咆哮に巻かれながら、私はフレンとシャスティルと共に戦場を駆けた。
心臓の鼓動が耳の奥でうるさい。なんとか、間に合った。
「ふええっ……な、なにこれ……!」
目の前を埋め尽くす異形の群れに、シャスティルが息を呑み、その場にすくみ上がる。
「後ろへ! 怯むな、剣を握れ!」
フレンの鋭い檄が飛ぶ。
私は震える双子の前に割って入り、最後の防衛線として剣を正眼に構えた。
だが、視界を埋め尽くす影、影、影。
数えきれないほどの魔物の眼光が、赤い燐光となってこちらを射抜いている。
(この数…一人じゃ支えきれない。押し潰される!)
「――応援に出る! 二人を頼んだわよ!」
私は地を蹴った。最前線では、ようやく揃った「あの二人」が背中を預け合っていた。
「遅ぇーな、置いていくぞ」
「ふん、君の無茶に合わせる身にもなってほしいものだね」
軽口を叩き合いながらも、二人の剣筋は完璧に噛み合っている。
「ちょっと、仲良くしてくださいよ二人とも!」
叫びながら私もその輪に飛び込み、俊足を生かして魔物の喉元を切り伏せる。
注意をこちらに引きつけるための牽制を繰り返す。
一秒が永遠に感じる。
視界の端で、魔法の予兆が、あるいは何かの発動条件が満たされるのを、祈るような心地で待つ。
(早く、早く……発動して……!!)
その時、大気を震わせるような衝撃波と共に、懐かしい声が戦場に響き渡った。
「な、何だ!? どうなってやがる……」
「おいおい、派手にやってるじゃねえか」
重なり合う足音、武器がぶつかる音。
「シャスティル! 全員揃った!!」
振り返る必要はなかった。
背中に感じるのは、もう絶望ではなく、頼もしすぎる仲間の熱気だった。
するとシャスティルが「ヒスカ!」と呼んで合図をする。
「ユルギス!3人を戻して!」
「ユーリ!フレン!ヒロミ!戻れ!!」
ユーリとフレンはお互い背中合わせで大きく息をしている。
私も戻り始める。…もう詠唱が始まってる!!
「絢爛たる光よ。感化を和らぐ壁となれ」
ヒスカが詠唱を終える。そしてトリガーを引こうとしている…!
黄緑色の術式が作動し、私と2人は瞬時に双子の元へと飛び込む。
あ。やばっ。2人を抱えた際に、彼らの顔に、おっぱいが当たってる。
けど、ごめん!動かないで。術式から出ちゃうから!さらにグッと寄せる。
「フォースフィールド!!!」
ヒスカの防御壁が最後の一片まで組み上がった瞬間、隊長の指先が引き金を引いた。
「――起動」
その呟きと共に。
森の腐葉土の下に隠されていた数千の術式が共鳴し、地を割るような重低音が響く。
次の瞬間、夜の森を白昼に変えるほどの光の奔流が吹き上がった。
樹木を縫い、空を覆う巨大な魔法陣。
それは優美な紋様を描きながら、範囲内に存在する「負の生命」を分子レベルで分解していく。
断末魔すら置き去りにする圧倒的な浄化の光が収まったあと、
そこには静まり返った美しい森と、舞い散る光の粒子だけが残されていた。
(……すっご)
そしてヒスカの防御壁も解除。私はふぅと一息つく。
「…終わった?」
「みたいだな」
2人の台詞に、私はユーリとフレンに声をかける。
「フレン、ユーリ、大丈夫?」
私のその一言が、魔法の解呪よりも強烈な一撃となったらしい。
「「っ!!」」
二人は弾かれたように飛びのくと、
あろうことか互いの肩をぶつけ合うほどの勢いで私から距離を取った。
その顔は、先ほどまでの死闘では見せなかったほど真っ赤に染まっている。
(……あ、耳まで赤い。可愛い)
ヒスカとシャスティルが、獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべて二人の顔を覗き込んだ。
「このドスケベ」
「このむっつり」
「「んなっ…! そ、れは…っ!」」
普段の冷静さはどこへやら、二人揃って酸素の足りない魚のように口をパクパクさせている。
その様子に、固唾を呑んで見守っていた他のメンバーからも、緊張の糸が切れたような溜息が漏れた。
「仕方ないわよ。緊急時なんだから」
立ち上る土煙と、戦いの余韻が残る静寂の中、私は泥を払って溜息を吐いた。
視界の端では、ユーリが剣を鞘に戻しながら肩をすくめ、
フレンが真剣な面持ちで周囲の被害状況を確認している。
その時、頭上の高台から、野太く快活な声が降ってきた。
「ユーリ!フレン!初仕事にしちゃあ上出来だぁ!」
見上げれば、そこには仁王立ちでニカッと笑う隊長の姿。
その豪快な笑い声は、先ほどまでの緊迫感を一気に吹き飛ばしていく。
にひ、と子供のように悪戯っぽく笑い、隊長はすこぶるご機嫌な様子だ。
「……ったく、こっちは命がけだったっての」
「そうだぞユーリ、隊長のお言葉だ。素直に受け取っておこう」
呆れるユーリと、生真面目に頷くフレン。
こうして、対照的な二人の初陣は、騒がしくも鮮やかな成功で幕を閉じたのだった。
3
時は遡り。
エステリーゼ様の慰問が終わった後、
私たちナイレン隊はシゾンタニア駐在を任命された。
エアル異常噴出の調査とそれに伴う魔物撃退の任務をこなすためである。
隊長を始め皆(ユーリとフレン以外)は一足先にシゾンタニアに旅立った。
帝都から約、3日程離れた距離にある街である。
ユーリとフレンはナイレン隊長から出された課題があるので出発が遅れた。
因みに私も病で倒れて3日空けたので、その分の課題を言い渡されてた。
ナイレン隊長から下された課題――
それは、新人騎士にとって避けては通れない「座学」と「実技鍛錬」のセットメニュー。
病み上がりの体に鞭打つ私を待っていたのは、
事実上の「居残り組」という名の、若き騎士二人との濃厚な時間だった。
私は得意の座学を早々に片付け、心地よい疲れを求めて鍛錬場へと足を運ぶ。
しかし、そこに広がる板張りの床に立っていたのは、金髪の騎士、フレンだけだった。
「…あれ? フレンだけ? ユーリは?」
きょろきょろと辺りを見渡すが、あの不敵な笑みを浮かべた黒髪の相棒は見当たらない。
「あいつは元から勉強嫌いだからな。
今頃、頭を抱えて苦戦しているんじゃないか?僕は知らないよ」
フレンは手にした剣を一度も振るうことなく、淡々と言い放つ。
その声には、幼馴染ゆえの呆れと、どこか突き放すような冷たさが混じっていた。
「フレン、相変わらず冷たいわね。どれ、私がユーリを見てあげましょうかね」
溜息混じりに私が踵を返そうとした、その時。
「がしっ」と、力強い、けれど熱を帯びた大きな手が私の肩を掴んだ。
(えっ……?)
不意の接触に、心臓が跳ねる。
振り返ると、そこにはいつもの優等生な微笑みを消し、
射抜くような鋭い視線を向けるフレンがいた。
「優しさと甘やかすのは、違うんじゃないかな。ヒロミ」
「うっ。一理あるけどさ……」
正論だ。ぐうの音も出ない。
けれど、彼の瞳の奥にあるのは、純粋な正論だけではないような気がして、私はたじろぐ。
「それに君も、まだ鍛錬の課題が残っているんだろう?
僕もだ。一人でやるより、共にやる方が効率がいい」
フレンの指先に、わずかに力がこもる。それは私を行かせまいとする、無言の拘束。
「……わかったわよ。
ただ今日の鍛錬が終わって、まだユーリが困ってたら教えるくらい、いいでしょ?」
私が折れると、フレンはふっと表情を緩めた。
けれど、その後に続いた呟きは、どこか低く、独占的な響きを帯びていて。
「君は本当に、放っておけない性格なんだな。(それがユーリ相手だと、猛烈にムカつくんだが)」
「死んでも治らないわよ、きっと。……で、納得してくれない?」
私は彼の心のさざ波に気づかぬまま、小首をかしげて尋ねる。
フレンは深く、重いため息をつき、ようやく私の肩から手を離した。
「……はぁ。わかったよ。ただし、これからの時間は僕との鍛錬に集中してもらうよ。
(この時間だけは、あいつには絶対に譲らないからね)」
「もちろん。光栄だわ。手加減しないでよね、フレン」
夕暮れ時の鍛錬場。
西日が差し込む中、私は目の前の騎士が向ける、
あまりに真っすぐで、少しだけ執着の混じった視線の意味を、まだ知らない。
フレンと一緒に鍛練を始める。素振り、技の復習、そしてフレンとの模擬戦。
フレンと剣の相手ができることは滅多に無い。彼は強い。私でも勝てるかどうか。
模擬戦では刃先を潰した、安全な剣を使う。それでも重いから怪我には気を付けないと。
フレンが技を放てば、私はひらりと躱し、俊足でフレンの背後を取り急所に当てようとする。
が、彼はそれ寸で気づき私の剣を往なす。反転して私の急所に仕掛けてくる。
私はそれを避けてフレンに足払いをかけようとするも失敗。彼は刃を翻して攻めてくる。
それを寸でで一回転の空中で避けて私は彼の胸へと鋭い突きを繰り出すが、また剣で防がれた。
しかしフレンはそこを先読みしていた。私が着地する場所へ足払いを掛けたのだった。
「う、わっ!わわわっ!?」
バランスを崩した体は、重力に逆らえず後ろへと倒れ込む。
冷たい風を切る感覚に背筋が凍りついたその時、強引なほど力強い力で引き寄せられた。
背中に触れる彼の胸板の厚み、そして肩口から香る、落ち着いた“あの花”の香り。
「……っ、はぁ。捕まえた。僕が後ろにいることを忘れたのか?」
呆れたような、でもどこか愛おしげな吐息が首筋にかかり、
叩きつけられそうになった恐怖とは別の、熱い震えが全身を駆け抜けた。
「今日は僕の勝ちだね^^」
「ううう。悔しいぃ~っ」
「いつもヒロミに勝ちを譲る僕じゃないよ」
「フレン、やっぱり強いなぁ」
「ヒロミだって。速さじゃ誰にも敵わないよ」
「む。今度は勝つ。リベンジよ」
「はは。待ってるよ^^」
私はフレンから離れ、模擬戦用の潰した剣を、鍛練場の壁にしまう。
フレンも同じように片付ける。
「さてと。私はユーリの様子を見に行ってくるよ。フレンはどうするの?」
「食堂で待ってる。一緒に夕飯食べないか」
「いいよ。一緒に食べよ。じゃあちょっと行ってくるね^^」
たたた、と講義室の方へと駆けていく。
私が駆けて行った後、フレンが呟いたのを私は知らない。
背後で遠ざかる足音を聞きながら、フレンはふっと視線を落とした。
握りしめた拳には、無意識に力がこもっている。
「……ユーリには負けない」
それは剣の腕のことか、それとも、もっと別の…。
彼自身もまだ答えを出せずにいるが、胸の奥にある熱い塊だけは無視できなかった。
座学を行う講義室でひとりユーリは魔術書を開いては頭を抱えていた。
自分は動くほうが性に合ってる。鍛錬の課題はあっという間に終わらせた。
「あー。あああ。分かるかっ!こんなんっ」
机をゲシッと蹴るが痛いのは自分の足で。ユーリはくっそ!と呻く。
その時、講義室のドアがガラッと開いた。誰だよと視線を向ければ。
「ヒロミ?」
「やほ。ユーリ。困ってるかと思って教えに来たよ」
「え。マジで!?助かるぜ…!」
神は見捨てていなかった…!そんな眼差しでユーリが私を見てきた。
「私はもう座学終わったからね。ユーリ、分からないとこ、どこ?ヒントくらい出すよ」
蹲っていたユーリは席に座り直し、頭をガシガシとかく。
私はユーリの真後ろに来て、ひょいっと覗き込む。
「最後の2問。なんなんだよこれ…」
「どれどれ。ああ、これね。応用問題だもんね。ユーリにはちょっと難しいか…」
ユーリの肩に片手を置いて、もう片手で魔術書のページの文字を指で追う。
私が例えば…とページの公式とは違う例題を作って説明してやる。
「基本のベースから復習して、これがこうなって…と。
だから、こうなるの。…ユーリ?」
「あ、ああ…なんとなく掴めてきたような…?
(ヒロミの胸が背中に当たってる!香りも…)」
「そう?じゃあ、試しに私の例題、解いてみて」
ユーリが、むー…と考え、試しに解いていく。惜しい。基本はあってるんだけど。
「うん。基本はあってるよ。もう少し捻ればいける。えーと、じゃあ、こうして…」
「っ!(今、むにって!むにゅって感触がっ!)」
「ユーリ??」
「い、いや…何でもない。続けてくれ」
「で、こうすれば…。ね?こうなるの」
「なる程な。じゃあ、この公式だと…基本はこう、だから…えー…こう、か?」
「あってるよ!やるじゃん、ユーリ!」
ユーリはもともと地頭がいい。
ただ、納得がいかないまま先に進むのが苦手なだけなのだ。だからこそ、
絡まった糸を一本ずつ解きほぐすように根気よく説明を重ねれば必ず正解に辿り着く。
目の前の霧が晴れたような顔をした彼に、私が「やったね!」と軽く肩を叩くと。
ユーリは少しだけ面食らったあと、照れ隠しに鼻の下を指でこすって「へへっ」とはにかんだ。
「サンキュな、ヒロミ。何とかなりそうだぜ。(ご褒美にいい感触だったぜ♪)」
「これくらい、いいよ。早く仕上げて、隊の皆に追いつかなきゃね」
「おう。あと1問、頑張ってみるわ」
「じゃあ私は先にご飯食べに行ってくるね」
私は講義室を出る。フレンが待ってるから急がなきゃね。
私は知らなかった。
私が去った後、ユーリは私の胸の感触と香りを思い出してニヤニヤしていたのを。
「柔け~。思ったよりデカイんだなー。っと、いかんいかん。早く解かねえと」
「フレーン。待たせて、ごめんね。さ、食べよ。席取っといてくれて、ありがと」
「いいよ」
「あーお腹すいたー。明日から、やっと3人で追いつけそうね」
フレンと一緒にトレーを持ち席について、いただきます、と食べ始める。
「ユーリ、かなり苦戦してたみたいね。地頭はいいんだから、もっと捏ね繰り回せばいいのに」
「ユーリの勉強嫌いは今に始まった事じゃない。ヒロミ、あまりユーリを甘やかすなよ」
「はいはい。でも後輩くんが苦戦してるとこ見るとね~。どうしても…ね」
「君の性格は知ってるけど…。(…ん?) ヒロミ、ちゃんと食べるんだ」
「うぐっ!か、勘弁してフレン。これだけはっ!セロリは…うぅ」
なんとなく避けてたけど、フレンに気付かれた。厳しい眼差しだ。
お残しは許しませんって?苦いんだもん…うえええん。
「泣き落としてもダメ。食べるんだ」
「わ、私の手では食べられません!無理、ホントに無理なの!」
「言ったね。言質取ったから」
「…へ?」
するとフレンは自分のフォークを使い、
私の残したセロリを刺し、私の口元に持ってくる。
「さ。君の手が無理なら、僕の手で食べさせる。これで解決だろ?」
「……っつ!!」
鬼だ。鬼がここにいる…!!フレンは退かない。う、うぅ…。
「さあ。ほら」
「んむっ!?ふぐぅ…!に、苦い~~っ!」
無理矢理、含ませられた。
フォークの感触と、セロリの青臭い香りが鼻を通り。
私は仕方なく噛み締める。
飲み込むことも出来るが、フレンは絶対に許さないだろう。
また刺して、私に含ましてくる。ううう!なんの拷問よこれええ!!
結局、セロリが無くなるまで、それは続いた。
「ぜぇぜぇ……。フレンの鬼、悪魔、騎士道精神のかけらもない!」
喉の奥に残るセロリの青臭さに涙目になりながら抗議すると、
彼は涼しい顔で、銀色のフォークをカチャリとトレーに置いた。
「なんとでも言え。偏食を正すのも、君を守る僕の役目だ」
相変わらずの正論。
けれど、その指先が不意に私の唇に伸び、端に残っていた繊維を拭った。
その何気ない、あまりに自然な仕草に鼓動が跳ねる。
ふと、トレーに置かれたフォークが目に留まった。
「あ……」
(か、間接キス…!?)
思考が真っ白に染まる。
「どうかしたかヒロミ? まだ口の中に残っているのか」
覗き込んでくるフレンの瞳は、どこまでも澄んでいる。顔に血が上るのがわかる。
セロリの苦味なんて一瞬で吹き飛んで、
今はただ、唇に残る感触に、じわじわと身体中に広がっていく。
「ち、違う…。か…」
「か?」
「間接…キス、しちゃった…」
「っ!(///)」
私が言えば。フレンも今、気づいたのか瞬時に顔を真っ赤にさせた。
「ふ、不可抗力だっ!(///)」
「そ、そうよね。あはは。気にしないでフレン」
「……。(///)」
お互い、ごちそうさまをして別れる。
フレン別れる時も耳まで真っ赤だった。結構、照れ屋さん?
4
翌朝。食堂で朝食を食べてから、出発することになった。
私は内緒で厨房を借りて、3人分のお昼ご飯を作っていた。2人とも食べてくれるかなあ。
それから、厨房で下処理して切っておいた野菜類を、専用のケースに荷物に入れる。
日持ちするチーズや味噌とかも持ってきた。湖がなくてもいいように水筒も何個か用意して。
「よしよし。シゾンタニアまで3日間よろしくね。晴天に恵まれて良かった」
馬に荷物を積んで固定する。
サンドイッチケースもぎゅうぎゅうに詰めてあるから大丈夫。
私に頭を摺り寄せてきたので、よしよしと撫でてやる。大事なパートナーだ。
すると、カポカポと足音が二匹分聞こえてきたので振り返った。
「あ。おはよう、2人とも。準備はOKみたいね。3日間の旅だけどよろしくね」
「おう」
「よろしく」
2人はもう乗っている。私もよいしょっと乗って。うわー目線が高い。
「じゃ。フレン、ユーリ、行こうか。出発!」
私がいの一番にかっぽかっぽと飛ばす。
すると後ろからフレンとユーリもついてくる。
綺麗な青空に目を細める。
しばらく飛ばして、もうすぐお昼の時間になるが、もう少し距離を稼いでおきたいが。
馬が潰れてはシャレにならないので、この先にある湖で休息を取ることにする。
「2人ともー。少し先で休憩ね。お馬さんの吸水タイム」
「わかった」
「へーい」
湖が見えてきた。そこで私たちは馬から降りる。私は馬を撫でる。
「よーしよし。よく頑張ったね。しっかり休息してってね」
馬は湖の水を飲み始める。
フレンやユーリも、それぞれ上手く馬とコミュニケーション取れているみたい。
良かった。すると2人のお腹が、ぐぅと鳴るのが聞こえた。あら可愛い。
「ユーリ、フレン、お昼にしようよ。私もお腹空いちゃった」
「いいけど。食料は貴重だ。あまりたくさんは食べられないよ」
「安心して。備蓄用の食料じゃなくて、こっち」
「えっ?」
私はお馬さんから、括ってあるサンドイッチケースを下ろす。
けっこう大きいし重量がある。う、作り過ぎたかな。まあ2人ならぺろりでしょ。
「厨房借りて作ったんだ。サンドイッチ、3人で食べよ^^」
「ヒロミの手作りか。ぜひ頂くよ^^」
「マジで!?食う食う!^^」
あんなに仲悪そうだった2人が意気投合して、私のサンドイッチケースを見てくる。
よっこらせっと草場の地面に座って、私はサンドイッチケースを開く。具は色々だ。
「フレンとユーリは何が好きかなー?好きなの取って」
はい、とケースを目の前に座った2人に差し出す。中を見て2人は眼を見開いた。
「すっげ…!選り取り見取りじゃねーか」
「これはすごいね。早起きして作ってくれたんじゃないか?」
「えへへ。まぁそうなんだけど。でも2人とも男子でしょ。少しでもたくさん食べなきゃね」
私がそう言えば、2人とも「ありがとう」「サンキュ」と礼を言ってくれた。嬉しい。
「さ、早く食べよ。私はツナマヨがいいなぁ」
モフッと1個、掴んで「頂きます」と言ってかぶりつく。ん~美味ぁ~。
「あ。ユーリはやっぱフルーツサンドか。イチゴとキウイが入ってるよ」
「おー美味ぇ~。おまえ、料理、上手いんだな」
フルーツサンドを頬張って、もぐもぐしてるユーリ、なんか可愛い。
「いつも自炊してたから。フレンは…あ。意外。
辛子を塗ったハムチキンサンドか。辛いの好きなの?」
「うん。というか肉が好きなんだ。これ本当に美味しいよ。
まさかサンドイッチが食べられるとは思わなかった^^」
え。それこそ意外。フレンが肉食系だったとは。
フレンはお上品に食べるのね。具材を食み出さずに食べるとはやりますな。
予想通り、2人はあっという間にぺろりとサンドイッチを平らげた。
す、すごいわね。あれでも6~7人前はあったわよ?
「ごっそーさん。美味かったぜ、ヒロミ」
「ごちそうまでした。美味しかったよヒロミ」
「おそまつさまでした^^」
いやあ。ここまで食べ尽くしてくれると、いっそ清々しいわ。
水筒で喉を潤し、私はサンドイッチケースを馬に括りつける。
馬もヒヒンと鳴いた。うん、準備は良いみたいね。
「じゃあ今夜は第二吸水ポイントで夜営しましょ」
「ああ。わかった」
「っし。行くか」
私たちは、また馬に跨り、パカラパカラッと軽快に馬を走らせる。
しばし走らせて。やがて夕方になると。
空には何やら魔物の群れが飛んで行った。やはり帝都の外は危険なのね。
やがて辺りが暗くなり始め、遠目ながら第二吸水ポイントの湖が見えてきた。
「見えてきたわ。さ、今夜はここで夜営しましょ」
「ふぅ。結構、進んだね」
「水もちょい減ったな。汲むか」
私たちは馬から降りて水を汲むと、馬にも水を飲ませる。…って。
「こらこら。2人とも。何、別で焚火を用意しようとしてるの。薪の無駄遣いよ」
「むっ。オレがフレンと一緒の釜の飯を食う?冗談だろ」
「それはこちらの台詞だ」
はぁー。私の初恋は前途多難だわ。こんな仲が悪かったっけ?
確か私が倒れた時は息ぴったりだったじゃない。2人とも私を気遣ってくれたのに。
「そも。お昼で既に一緒に食べてるでしょ。今更じゃない。じゃあ、こうしよう。
私が御飯係。…私の作ったの食べたくないのなら、それでもいいけど?^^」
うふ。と笑顔で圧をかければ。
すると2人はすぐに掌をくるりと翻して首をブンブンと横に振る。
「いや。滅相もない」
「ヒロミが作ったのなら食べるよ」
「よろしい^^」
私は圧を抑えてニッコリと笑う。そうしてさっさと焚火を作って調理を開始する。
2人には、あれこれお願いと雑用を指示する。馬から括りつけた荷物を持ってきてくれた。
ユーリとフレンは黙って従ってくれる。何、私の言うことなら聞くの?変なの。
2人が黙って従っているのも、私に嫌われたくないから、
ポイント稼ぎだと、つゆ知らずにいる私だった。
用意していた下処理してあるの野菜ケースを取り、干し肉と一緒に煮込み、味噌を溶かす。
私はこれでも様々な香辛料を持ち歩いている。その中で豚汁に合う香辛料を少し足す。
…うん。いい感じ。これなら2人とも食べてくれるかしら?
「フレン、ユーリ、ご飯食べよー」
「へ?豚汁…!?」
「旅で豚汁なんて滅多に食べられないよ。君、いつの間に野菜や味噌を?」
「予め切って持ってきてた。下処理は面倒だからね」
「成程。手間を省くのは合理的だ。いいね。豚汁は大好物なんだ^^」
なんかフレンに褒められた。へぇ大好物なんだ。
2人はもちろん美味しいと言ってくれた。やった!
夕飯を食べ終え、2人は湖で身体を拭くために服を脱ぎだした。
「ちょっ、脱ぐ前に言いなさいよっ!(///)」
「あ。悪ぃ」
「ごめん」
私は慌てて後ろを向く。チラッと見えてしまった。
2人とも体躯、鍛えてるのね。ドキドキと心臓がうるさい。
私も身体拭くためにタオル用意しとこ。荷物を漁りタオルを取り出す。
2人の方を見ないようにしながら、湖でタオルを浸し絞る。
「私、あっちで拭いてくるから。後でね」
2人の返事が聞こえ、私は草葉の物陰で服を脱ぐ。
下着も取り払い、冷たいタオルで体を拭いていく。
(あー。気持ちいい。一日の汗が取れてくわー)
ふんふんと鼻歌を歌って拭いていたら。近くでガサッと音がした。気配も感じる。
この気配、魔物だ…!しまった、剣はユーリとフレンの方に置いてきてしまった。
「…っ!」
マズイ、魔物が私を捕捉した…!襲われる!!
「詠唱破棄!フレイムドライブ!!」
ドガーンッ!
魔核の一瞬の熱が過ぎ去り。3つの大きな火球が魔物に向かって狂いなく命中。
んー。やっぱ詠唱破棄すると、威力が落ちるわね。
まあ下級魔物だったのだろう、吹っ飛んですぐ消えたし。さ、拭く続きを…。
「魔物かっ!!」
「大丈夫かっ!ヒロミ!」
あ。ユーリとフレンが剣を持って駆け付けた。咄嗟に拭いていたタオルで魔導器を隠す。
2人とも下は穿いてるけど上半身は裸。いやーいい胸板っすねぇ。
2人は固まってる。私も一瞬、固まったけど。
「‥‥‥。」
「‥‥‥。」
「‥‥‥。」
って。私も裸だったわ。私はさりげなく後ろを向く。あーあ。バッチリ見られたわ。
いくら初恋の2人でも全裸をじーっと見られるのはいい気がしない。それとこれは別だ。
「……いつまで見てるの。フレン、ユーリ。ぶっ殺すわよ」
私が不機嫌な声と視線で言い、また首元を拭き始めたのを機に。
「うわああっ!(///)」
「うおおっ!」
フレンはユーリの腕を引っ掴み、その場から逃走した。うん。いい反応ですこと。
フレンは目を背けてたけど、ユーリは最後までバッチリ見てた。
あんの野郎。無関心な振りしてドスケベだったとは。
私は溜息を吐き、服を着直す。ラッキースケベにも程があるでしょ。あの2人。
で。私が着替え戻れば。2人して寝床を用意してくれていたのはいいんだけど。
ユーリとフレン、仲が悪かったのに、なぜか布団をくっつけて、私のだけ離れたとこ。
そして2人とも布団の上で正座して待機していた。
怒られると思っているのだろうか。
私が2人の前まで歩み寄り。ぴたりと止まれば。フレンの肩がぎくりと跳ねる。
そして、私が何か言い出す前に。
「ヒロミ、ごめん!僕は許されない事をした!!」
うわぁー見事な土下座だ。てか不可抗力だし?
ユーリを見てみなさいよ。謝る気なんて0よ?
むしろラッキーって思ってるでしょ。まあ今回は事故だし。
そんなに自分を責めなくてもいいと思うけどね。
私はフレンの前に来てしゃがむ。よしよしと頭を撫でる。彼を落ち着かせなきゃ。
「フレン、頭を上げて。今回は事故だったんだし。2人は助けようと駆け付けてくれたんでしょ?」
「で、でも…」
「いいから。早く忘れてくださいな。私はお互い気まずいのは嫌だよ?」
「…ああ。わかった」
よしよし。なでなで。フレンを落ち着かせている間、ユーリの方を見ると。
彼の目線が、なぜか私の脚元…ううん。それより上…って。この期に及んで!
「……白、ねぇ」
「ユーリはいっぺん死んできなさいっ!!」
「ぐはっ!」
ユーリに思いっきりチョップをかました。まったく反省の無い、えっちな青年ですこと。
私は溜息を吐き、布団を2人に近づける。それに慌てたのは2人の方だ。
「なっ、何で布団を近づけんだよ!せっかく離したのに意味ねぇじゃねえか!」
「そうだよっ!君はもう少し危険というものを…!」
「2人とも何言ってんの?魔物が来たらすぐに対処できるようにしなきゃ意味ないじゃない」
「があああっ!ダメだこりゃ。もうオレ知らんからな。おいフレン、おまえそっち側な」
「なっ!?どうして僕が!これじゃあ寝れないじゃないか!!」
「知るか!暴発すんだよ、こっちは!おまえは根性でなんとかしろ」
「ずるいぞユーリ!君だけ楽な道、選ぶのか!」
また喧嘩が始まった。いったい何のことで喧嘩してるんだ。
するとブチリ、とフレンからキレた音が聞こえたような気がした。いや気のせいじゃない。
フレンは自分の布団をユーリから離し、一人分のスペースを作ると。
私の布団をそこに放り込んだ。それにはユーリも私も唖然とした。
「これで解決だ。ユーリ。君だけ楽な道に逃がさないからな」
えーと。つまり、私は2人に挟まれて寝ろ、と?なんて拷問だ。
全裸を見られた次は、2人に挟まれて寝るとか。心臓を壊す気?フレン。
しかしフレンは焚火を消すと、さっさと布団に入って横になってしまう。
「おやすみ、ヒロミ」
え。私にだけ?というか、自己完結しちゃった。…マジか。
するとユーリも布団に入って横になる。ちょうどフレンに背を向ける感じだ。
「おやすみ、ヒロミ」
ちょ、ちょっと。勝手に…もおおおお!この2人は!!
私もやけくそだ。2人に寝る挨拶をすればいいんでしょ。
私は布団の上に乗り上げると、まずは横になってるフレンの耳元に囁く。
「……おやすみ、フレン」
「っ!」
びくっとフレンの肩が跳ねた。さーて次はっと。反対側のユーリにっと。
「……おやすみ、ユーリ」
「っ!」
びくっとユーリの肩が跳ねた。2人して同じ反応。変なの。
さて、寝るか。2人を意識するな。眠気に全力投球しろ。
「ふぁ~あ。うぅん…Zzz」
「……おい。生きてるか」
「なんとか」
「ったく。こいつ、てんでオレらのこと全っ然、気付いてねえぞ」
「はぁ~~~~。ダメだ、脳裏にチラつく…とても寝れないよ」
「ははっ。けっこーでけぇよな。こいつの胸」
「ユーリっ!」
「しーっ。こいつが起きるだろ」
「うぐ。本当に何て日だ今日は」
「おまえが、こういう寝方にしたんだろ。諦めろ」
「…ダメだ。やっぱダメだ。僕はちょっと頭冷やしに行ってくる」
「おー。ついでに抜いてこい」
「ユーリ。君ってヤツは…いいか。彼女に何かしてみろ。殺すからな」
「はいはい。何もしねえって。オレもこいつに嫌われたくねえからな」
「…すぐ戻る」
「…はぁ。オレらのこと、つゆ知らず。ぐ~すか眠りやがって」
「うぅん。むにゅぅ」
「はは。このバカ面を見たら襲う気なんて起きねえわ。可愛いお姫様」
5
何やかんやあって、翌日。
朝、眼を覚ましたら…なんと2人して私を抱き締めて寝ていた。
いったい何があって、どういうこと?心臓がバクバクとうるさい。
「ん…」
「んぅ」
ひっ…!両耳に2人の吐息が!とても耐えられない!!
私は顔から火が出るくらい赤くして、なんとかユーリとフレンの腕から抜け出す。
はぁはぁ。なんてインパクトの暴力だ。昨日に引き続き、こんなんじゃ私の身が持たない!
私は自分の布団を片付け、さっさと馬に括りつける。
湖で顔を洗うと、湖の辺りに食べられる薬草があった。
これは干し肉と相性がいいものだ。私はナイフを使ってある程度、採取する。
そして戻り、まだ寝ている2人の寝顔をじーっと見つめる。
…こうしてみると、ユーリもフレンも寝顔は可愛いというか、あどけなさが残ってる。
しかし。いつまでも見ている訳にもいかない。さっさと起こさなければ。
まずは、ユーリから。すぐ隣に行って、ゆさゆさと揺する。
「ねー、ユーリ。起きて。朝だよぉ~」
「う、ぅん。…うっ、せぇ…」
「起きないわ。案外、寝汚いわね、ユーリ」
「ねぇねぇねぇ!ユーリったら!おーきーてー!」
「うー…。んだよ…もうちょい、寝かせろ…」
「きゃっ!」
ユーリに捕まって、布団の中に引きずり込まれる。そのまま抱き枕にされた。
「ちょっ!なんっつー力なの。ユーリ!ユーリったら!」
「んぅ。すかー。Zzzz」
だめだ。こりゃ。こうなれば、奥の手。ユーリの両脇に手を持っていき。
「こしょこしょこしょこしょこしょこしょ」
「…ん。んふ、ふは、はははははっ」
可愛い寝顔から大爆笑。ユーリったら笑うとこんな笑顔になるのね。
ユーリは一気に目を覚まし、ガバッと起き上がった。…私を抱きしめたまま。
「おはよう。ユーリ。さっさと放してくれない?」
「…っ!!!なんで、おまえがオレの布団にっ」
「貴方が抱き枕にしたんじゃない。いい加減に放して」
「…あ。悪ぃ。つか、マジでオレが…?」
「寝ぼけるのも大概にして」
スコーンとユーリの額を小突く。そして、お次はフレン。
彼の身体を揺すって呼びかける。
「フレン。起きて。朝よ」
「う、ん…朝?」
「そ。朝だから」
「うん。んー」
ガバッと起きて。ボーッとしてる。もしかして寝ぼけてる?
「フレン?」
「起きてるよ。うん起きてる」
「…ほんとに?」
目の前で手をひらひらさせて。その手をがしりと掴まれた。
あ。既視感。そのまま引きずり込まれるかと思ったけど、違うみたい。
ボーッとして。その手を見ている。…フレン?
「…可愛い手だな (かぷ)」
「っっ!!?」
「おまっ!何やってんだ!!!」
ユーリの怒鳴り声と、フレンの頭にごすっ!と拳骨が。うわ痛そう…。
けどフレンに指を甘噛みされるなんて。ちょっと…この2人、手に負えない…!
殴られた衝撃で、手が解放されたのはいいけど、指先が熱い。
フレンの歯と舌の感触が、もろに伝わって。に、肉食系、恐るべし!
「痛っ!何するんだ、ユーリ!!」
「てめぇがヒロミにセクハラしたからだろ!」
「僕が?あり得ない…っ」
「二人とも大概だけどね!寝ぼけるのもいい加減にして頂戴!」
「お、おう…すまん」
「ご、ごめん…」
朝っぱらから。こんなんじゃあと2日、身が持つのか。
私がピシャリと雷を落とすと2人は反射的に謝ってきた。私は溜息を吐いた。
「とにかく。朝ご飯作るから2人とも、さっさと顔を洗ってきなさい」
「おう」
「わかった」
2人は布団を片付け馬に括りつけると、顔を洗う。
私はその間に焚火を熾して朝食を作る。まったく世話の焼ける2人だ。
「どれ。味見。んー、使うならこれね」
取り出したのは、小さな小瓶に入った「乾燥させたローリエ」か、
あるいは「潰した一粒のニンニク」。
それを放り込むと、単調だった干し肉の匂いが一変する。
立ち上る湯気が、鼻腔をくすぐる食欲をそそる香りに化けた。
もう一度味見。……うん。朝食にしてはいい感じね。
肉の旨味が溶け出したスープに、薬草の爽やかな苦味がアクセントになって、
胃袋が静かに目を覚ますのがわかる。
「ユーリ、フレン。スープ出来たよ」
「お。いい匂いだな」
「え。この香り、干し肉だけじゃ出せないはずじゃあ…」
「フレン正解。食べられる薬草見つけたから取ってきた。
それと香辛料入ってるからね」
「……マジか。ヒロミと一緒に居りゃあ料理に困らねえぞ」
「御飯係だからね。なるべく侘しくないように温かい食事にしたいじゃない」
「ヒロミ…ありがとう」
「いえいえ。さぁ冷めないうちに食べましょ」
御飯が固いパンとか、干し肉を齧るだけなんて健康に悪いわよ。
2人の分をスープをよそってやり、私も自分の分をよそう。3人で頂きますをして食べる。
焚き火の端で少し炙っておいた、石のように固いパン。
それをスープに浸すと、じゅわっと琥珀色の汁を吸い込んで、指先に重みが伝わる。
口に運べば、小麦の香ばしさと肉の塩気が混ざり合って、喉を通るたびに体の芯から温まっていく。
「……ふぅ。これなら今日も、次のポイントまでいけそうね」
そうして3人でご飯を食べ終え、後片付けをして、すぐに出立する。
馬をあまり飛ばし過ぎるのも良くないので、歩きでカポカポと進んでいく。
昼前に丁度、旅人用の水汲み場があったので、そこで水を汲んで休憩。
馬に水を与え、私たちも昼休憩ながら、昼御飯。今回は簡素に済ませて先を急ぐ。
昼間通る中で、樹齢何年だろうと思わせるノッポな木が連なる道を通る。
木々の間から陽の光が眩しい。
さらに進んで、大きな大瀑布が虹を作っている。
そこの崖路の坂を駆け上がり、どんどん進んでいくと平坦な街道に出た。
今は誰も通ってないみたいね。
やがて、また夕刻になり、暗くなる前に街道沿いの地面で馬を下りる。
馬の鞍を外し、馬を休息させてやる。よしよし。なでなで。馬が嬉しそうに鳴いた。
今回は湖や水汲み場がないので、夕飯のスープは何個か水筒に汲んでおいた水を使う。
私が夕食の材料の用意をしている間に、2人が焚火を熾してくれた。ありがたい。
スープは今朝のと同じだが、3人分のパンの上に焼いたチーズを乗せてやる。
「ち、チーズまで…。おまえ、どんだけ用意がいいんだ。水筒とかよ」
「備えあれば憂いなしってね。わはー。いい匂い~^^」
「ヒロミと旅してると、美味しい食事が食べられるのはありがたいな」
「はい。ユーリ、フレン、焼けたよ~」
「ありがとう」「サンキュ」
早速かぶりつく。
びよーんと伸びるチーズと、こんがりとした香ばしさに目を細める。
「ん~。うまっ!うまぁ~っ^^」
もぐもぐと噛み締め、スープで喉を潤す。はぁ、温かい食事って幸せ。
2人も黙々と食べ進めてる。
よっぽどチーズが美味しいのか、頬が膨らんでる。ぷっ!リスみたい。
2人の頬張って食べてる姿が可愛くて、私はニコニコと食事を食べるのだった。
さて。肝心の寝る時間なのだが。
昨日フレンがキレて、あの川の字にしたんだっけ。面倒だから同じでいいわね。
2人は溜息を吐いてたけど諦めてるみたい。私は布団を持ってきて真ん中に敷く。
私はとっとと布団に入ってユーリとフレンに「おやすみ」と言って寝てしまう。
「こいつもマイペースだよな。オレらの気持ちも知らねぇで」
「さっさと寝てしまえばいい。余計なこと考えるから寝れなくなるんだ」
「うぅん。ふふ…フレン…ユーリ…おいで…おいで…」
「……。」
「……。」
「ふふ、ふふふ…あったかぁい…フレぇン~、ユぅリぃ~」
「こ、今度は寝言か!こんなの眠れない!」
「舌っ足らずで呼ばれる破壊力マジかよ!」
2人は頭を抱えながら布団に潜ったのだった。どんな苦行だよ!と思いながら。
「んっ…眩し…」
翌朝。意識が少しずつ覚醒し始めたフレン。
今回は寝ぼけずに目を覚ませたようである。
しかし胸元からいい香りと温かい感触に違和感を感じて、ふと胸元を見れば。
「すぅ、すぅ…んん、むにゃ」
「っつ!!?」
完全に意識が覚醒した。
「(な、なんで自分の布団にヒロミが!?というか何で僕にしがみ付いて…!?)」
そう。
真ん中で寝ていたはずのヒロミがフレンの布団に潜りこみ、
あまつさえフレンの身体に身を寄せて、いや抱き着いて寝ていた。
これには流石のフレンも度肝を抜き、固まった。いや困った。
これはヒロミを起こした方がいいのか。
しかし気持ち良さそうに寝ている。寝顔が可愛い。癒される…いや駄目だ!
胸に当たってる、むにょんとした感触は考えないようにしないと。暴発する。
ここは心を鬼にしないと。そも恋人前の男女が同じ布団に寝るなど言語道断だ。
「ヒロミ。ヒロミ、朝だよ。起きるんだ」
「う、うぅん…」
フレンはヒロミを肩を揺するが、ヒロミはさらにぎゅっと抱き締めてきた。
むにっと胸の柔らかさが、さらにダイレクトに伝わってくる。
「あと…5分…だけ…(ぎゅう)」
さらに足まで絡ませてきた。スカートの太腿に目が行ってしまう。
やばい。フレンは窮地に陥った。
思いっきし引き剥がしに掛かるが、完全にホールドされている。
ヒロミは無意識だと、こんな馬鹿力になるのか!手に負えない!
「か、勘弁してくれ…っ!おい、ユーリっ!」
「ん、んん…んだよ。うっせぇ…な」
「助けてくれ!ヒロミを引きはがしてくれ…!」
「っ!おいおいおい。今度はヒロミかよっ」
フレンの訴えはユーリの耳に届いた。
ユーリは不機嫌ながらも目を覚ますが、
フレンの必死に引き剥がしに掛かってる姿に完全に目を覚ます。
「オレらも大概だがヒロミもだよな。どれ、よっこらせっと」
ヒロミの腰を持ち、グッと引き剥がしに掛かるが。…離れない。
「すっげ。なんつー馬鹿力だよ。フレン、せーので」
「ああ。せーっの!」
「っし!う、うわっ!」
「ユーリっ!?」
あまりに勢いがよすぎた反動で、ユーリとヒロミがヒロミの布団の方へ引っ繰り返る。
ユーリの上に乗り上げる形ですっ転んだヒロミだが、まだ目を覚まさない。
ヒロミは今度はユーリの首元に腕を回して、くぅくぅ寝ている。
ユーリは唖然とする。
ユーリの胸元にもヒロミの胸の感触と香りがダイレクトに伝わり、一気にブチリと切れる。
「てめぇも人のこと言えねえじゃねーか!」
ユーリは思い切りヒロミの両頬を抓る。そして、びょーんと引っ張る。
「っ、ぅ…ひた、い…う、ぅん…。…ん?ユーリ…?」
「おー起きたか。おはようさん」
「んー。うん。おはよう」
「で、どいて欲しんだが?」
「? …っ!!? ごっ、ごめんなさい!!!」
至近距離で、しかも首に腕も回していることに気付いたヒロミ。
馬乗りになっていたことも相俟って、顔を真っ赤にさせてバッと離れる。
「おまえフレンにも謝っとけよ。オレの前に絡んでたぞ」
「えええええ!?」
「は、ははは…」
フレンは遠い目をした。今朝は今朝で騒動は起こったのであった。
3人で布団を片付け、馬に括りつける。2人が火を熾してくれた。
そして数個ある水筒の水を使い切ってスープを作る。
この先には確か吸水ポイントがあったはずだ。
チーズも使い切るためにパンを焙ってチーズを蕩けさせる。
「はい、出来たよ。次は吸水ポイントに急ぐよ。お馬さん喉が渇いてるみたいだから」
「わかった。ありがとう。頂くよ」
「ああ。サンキュ。頂きます」
3人で朝食を済ませて。片付けてすぐに馬に跨る。もう少しだけ頑張って、と撫でる。
馬も分かっているようで、ぶるると鳴き返す。賢い子だ。
もう一度撫でてから、脚で腹をポンと軽く蹴る。するとパカラパカラッと走り出す。
今日も晴天に恵まれて良かった。朝の空気が美味しい。
1時間走らせて、ようやく見えてきた吸水ポイント。
私たちは馬から降りて、馬に水を飲ませる。すごい勢いで飲んでる。
よっぽと喉が渇いてたのね。ありがとう。頑張ってくれて。
私たちも水筒に水を汲む。奥は小さい滝になっているので、どうせならそっちで汲むことにする。
うん、これならシゾンタニアまで持ちそうね。少しの休息を挟んで、私たちはまた馬を走らせた。
パカラッ、パカラッ。
風が涼しいわね。もうすぐで着きそうな予感がする。
…あ。あっちは崖先になってる。ちょっと寄って行こう。
馬をそっちに走らせて、崖先ギリギリまで寄る。
すると見えたのは。
大きな結界魔導器に護られた、低い崖上に街並みが広がっている。
「…あれがシゾンタニアね」
すると私のすぐ後ろで2人もシゾンタニアを眺めている。
この2日と少し。なかなか濃い旅路であった。
崖先から眺めるのをやめ、私たちは下りの道へと馬を走らせる。
下った先には舗装された道があり、私たちはその先にある橋へと馬を歩かせる。
「やっと着いたね。お疲れ様、フレン、ユーリ」
「ああ。君のお陰で食事に困らない旅路ができたよ。ありがとう」
「いやー色々あったわ。とくにヒロミの…」
「ユーリ。それ以上言ったらその口、縫いつけるからね」
「おー怖っ。へいへい」
3人でシゾンタニアの領内に入る。これから暫くはここでお世話になります。
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