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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第7話 2つの誓い

「……帰ってきたっ!」

 黄昏時を過ぎ、段々と夜の闇が太陽の光を覆い始めるころ、庭で純吾達の帰りを待ち続けていた忍たちは夕闇を背負ってこちらに向かってくる点を見つけた。
 初めは影を背負っていたため姿が見えなかったが、段々とそれが人らしき影を乗せた龍の様な獣であると分かってきた。

「純吾君、アリサちゃんそれに……すずかっ!!」

 庭に降り立った龍の背から降りてくる人影に向かって忍は走り出す。段々と大きくなる人影の中に、最愛の妹の姿を見つけた瞬間、歓喜が自分の内側から爆発したかのように湧きあがるのを感じた。

「あぁ…本当に、本当に無事で良かった」

 少し朦朧とした様子の妹を胸にひしと抱きしめ、その髪に頬を寄せた。今胸の中にある小さな体が温かい、そんな当たり前の事が奇跡のように大切に思えてくる。
 ひとしきりすずかを抱きしめた忍は妹の柔らかい髪の上に置いていた頬をあげ、近くにいたアリサの方へ視線を向けた。

「アリサちゃんも、無事で本当に良かったわ。どこも怪我はない?」

「…っあぁ! え、えぇとはいっ。大丈、夫だと思います」

 ぼんやりとしていたのか、忍の声に酷くびっくりしたような返事が返ってきた。今日いきなりもの凄い恐怖と驚きを感じて呆然自失となっていたためだろう、普段の活発な彼女からしたら、滅多に見られない反応だった。
 本当は不謹慎なのだが、彼女も怪我ひとつなく帰ってきた事への喜びから、ついつい忍は小さく笑ってしまった。

「ふふっ。ごめんなさい、どうしても嬉しくて……
 すずかもアリサちゃんも疲れているだろうから、屋敷の中へ先に入っててもらえるかしら?」

 そう言って後ろに控えていたノエルとファリンに彼女たちを屋敷へと案内させた。
 後に残ったのは、仲魔を帰還させていた純吾だけ。アリサとすずかが屋敷の扉をくぐるまでそれを見つめていた忍は、ゆっくりと純吾へと向き直り、深々と頭を下げた。

「……純吾君。2人を助けてくれて、本当にありがとう。あなたがいなければ、こんなに早く、安全に助け出す事は出来なかったわ」

「……ジュンゴだけじゃない。仲魔と、【ニカイア】のおかげ」

 礼を言われ慣れていないのか、純吾は頬を少しだけ赤くしてニット帽を目深にかぶりなおしながら答えた。
 ぶっきらぼうな言い方だったが、素直な気持ちがはっきりと分かる答え。それを聞いた忍は片手を口元にやりくすりと笑った。

 鋭い目線を目深にかぶったニット帽で隠して悪魔を従え、そして、凄惨な過去を持つ。
 今まで得ていた情報からとても陰険で、暗いような印象を受けていた忍だったが、こんなにも素直で可愛らしい反応をするのかと、いい意味で裏切られたことについ嬉しくなってくる。
 彼に秘密を打ち明けてみようと考えた事を、忍は誇らしく思えてきた。

 目の前で忍が笑い始めた事に驚いたのか、純吾は細い目をくりっと開ける。
 そんな純吾を見ながら、彼に全てを話そうと決心した忍は家に帰ろう、と促すのだった。





「……いやぁ、これは考えてなかったわ」

『……今日夕方未明、海鳴市の第一漁港倉庫が壊滅的な被害を受け、中から多数武器を所持した身元不明の数十人の男性が意識不明の状態で未発見されました。
 男性達は発見後病院に搬送、意識を取り戻したという事ですが、「悪魔がいた」など支離滅裂な事を口走り、武器の入手経路など男たちの背後関係の捜査は難航しています。
 現場の状態などから、担当した医師達は集団幻覚を……』

 屋敷入った忍を出迎えたのは、緊急速報と題打たれたニュース、それも事件の原因にもの凄く心当たりのあるものだった。

 忍たちは今、月村の屋敷のリビングに集まっていた。大きなテレビと、家族全員が座ってもなお余りあるほどの大きなテーブルが特徴的なそこに、入口付近で忍と純吾達が、先に入っていたすずかにアリサは机に座り、メイド姉妹二人はその後ろに控えていた。

 忍の前でメイド2人もその意見に納得したのか首を何度も縦に振っている。アリサとすずかはあの時の恐怖を思い出したのか表情をこわばらせ、テレビ画面にくぎ付けになっていようだ。

 思わずその場にしゃがみ込み独り、うなってしまう。そして忍は“原因”たちに若干恨みを込めた視線を送るのだが、

「あら! 私たちの事、トップニュースじゃない。ジュンゴほらあれ、すごい事になってるわよ~」

「ん…。皆、すごい頑張った」

「……いやあなた達、もっと他に言う事があるでしょう?」

 人が頭抱えて悩んでいるのに呑気な事言ってる目の前の主従に、忍は思わずツッコミを入れてしまう。
 すずかたちが怪我もなく助かったのは確かに喜ばしいが、ここまで大事にして助け出してくるなんて全く考えてなかった。またいらぬ心配事が増えるんじゃないか、嫌でもそう考えてしまうのだ。

 そんな忍の言葉に納得いったか、純吾は「あぁ」と何かに気がついた顔をし、リリムの方を向き、話しかける。

「リリム、お疲れ様」

「あっ、そういやまだ言ってなかったわね、さっすが忍!
 えっと、ジュンゴもお疲れ様♪ それとはい、みんなはもう戻ってるけど、やりたりないからまた暴れさせてくれって」

「いや事件の後始末とかあるでしょう! …って、ちょっと今見てはいけないやり取りを見ちゃった様な気がするんだけど」

 全く自分の気持ちが伝わっていなかった彼らに思わず激しい口調になってしまうが、ふと信じられないやり取りを彼らがした事で気勢がそがれ、嫌な汗が額をつたっていく。

「え? あぁ大丈夫よ、あそこにいた奴ら全員にイイ夢見させてあげてるから、さっきニュースになってた事以上は出てこないわよ」

「それなら安心できるのかな……?
 っていやいやそれより、あなたに携帯渡すってまずいでしょう。それがあるからあなた達がジュンゴ君に従ってるんでしょ?」

 自分が契約した悪魔に、携帯を渡す。
 つまるところ人間側の唯一のアドバンテージを相手に渡すという事に他ならない。相手に自分の命を差し出す行為を、よりにもよって一番命を脅かす可能性があるだろう悪魔に渡すなんて、到底忍達には理解できなかった。

「ジュンゴとリリムは仲魔で仲間。だから大丈夫」

 けどそんな疑問に小首をかしげて答える純吾。若干サイズの大きいニット帽の下から何を言っているんだという表情をのぞかせるというおまけつきだ。

「そーよ、私たちの愛の絆はタルタロスの深淵より深いんだから!!」


「タルタルソース?」「そんな勘違いも可愛いっ!」目の前で漫才を始めるリリムと純吾。
その光景に「ハ、ハハ…」というかすれた笑いを洩らし、額に手をあてうんざりしたように忍は呟いた。

「あぁ、この子たちに、常識ってものを求めたのが間違いだったわ……」



「あの、忍さん…。その人たちって結局誰なんですか?」

一向に話の進まない3人にしびれを切らしたか、おずおずとだが前に出てくるアリサ。
やり取りの間の抜けっぷりに、目の前の彼らに敵意はないと考えたのも彼女の後を推した。

「ん…。ジュンゴは、鳥居純吾。」

「で、私はその仲魔の鬼女リリムよ。お嬢ちゃん、こんごともよろしくね♪ 」

「あ、はい。よろしく…って、それもあるけど違うわよ! あなたたちは、どうしてすずかの家にいるのって聞いてるの!!」

 ペースにのまれかけていたのを強引に振り払うアリサ。ふんす、と息も荒げに彼らに迫ろうとする。

 何の違和感もなくこの場にいる純吾達だが、アリサは彼らを知らない。
 見ず知らずの人が自分を助けてくれるのに力を貸してくれた。それも、人としては考えられないような超常の力によって。若干怖いが、正体を知りたがらないはずがない。

「あ~、彼の事なら私から話すわ」

 直接聞き出そうと近づいていくアリサと2人の間に忍が割り込む。
 いい意味でも悪い意味でも常識の斜め上を行く彼らと会話をするのは、少し短気なアリサには荷が重だろうと思っての事だ。

 忍はこれまでの事を話した。
 彼が森に倒れていた事、それを治療し今まで屋敷にて過ごしてもらっていた事、そして、携帯を用いて悪魔――彼の言う仲魔を召喚することができると言う事。
 それを聞いたアリサは、信じられないというように目を大きく開ける。本人でも意識していないのか、かすれたような小さな声が口から漏れる。

「そんな…、信じられない」

「私たちだってそうだったわ。でも」

 そう言ってリリムの方へ視線を向ける。つられて後を追ったアリサの顔に、若干恐怖の色が浮かんだ。
 今は純吾を抱き寄せて頬擦りしている何ともいえない間の抜けっぷりを見せるリリムだが、あの倉庫を壊滅に追いやった一人だ。今は味方だと言う事が分かるが、改めて意識するとどうしてもあの時の事が思い起こされる。

「わ、分かりました…。確かに、あれを見せられたら信じるしかないですね……」

「えぇ、それじゃあ説明は終わって……純吾君」

 なんとかだが納得をした様子のアリサへ満足げに頷くと、忍は純吾の方を向き、自分の疑問を彼にぶつける。

「ねぇジュンゴ君、【悪魔召喚アプリ】の事は聞いたけど、あの動画は何だったの? 前見させてもらったときは、そんなものなかったはずよ?」

―――ちゃんと説明してもらうわよ?
目を細め、絶対に説明してもらうまで逃さないという勢いで見つめる。
忍にとって純吾はブラックボックスの塊だ。今回も正体不明の力で助けられた。
自分たちの身を守るために、その力について把握したいのは当然のことだ。

「…あれは、アプリじゃない。死に顔サイト【ニカイア】」

機敏に忍の雰囲気を悟ったか、純吾はまっすぐ視線を返し答える。

「友達や家族、知り合いが死ぬ時の様子を教えてくれる。いつ、来るのかは分からない」

「じゃあ、私たちを助けてくれたのも……」

「ん…、この動画のおかげ」

その答えに、顔を歪めて身をよじるアリサ。自分が死ぬ運命にあったかもしれないと言われ、死への嫌悪感と、それが実現するかもしれなかったという思いから、封印しかけていた恐怖で再び勝手に体が震える。

「じゃあ、あなた私の命の恩人ってことになるのね? あ、ありがとう、本当に助かったわ」

 だがそれでも、彼に向って頭を下げた。
 悪魔を呼び出す事ができると聞いた時、はじめは恐怖を覚えたが、見ず知らずの自分を助けるために命を張ってくれた。その事が、彼への恐怖を拭い去らせた。

「ジュンゴだけじゃない。リリムも」

「え…? そ、そうね。えっとリリム、さん? 本当に、ありがとうございました」

「はい、どういたしまして。お嬢ちゃんみたいなかわい~子が無事でよかったわ♪」

 言葉はそっけないが、普段から細い眼がかすかに笑みを浮かべたようになり、口元をほころばせながら返す純吾に、倉庫の時のような邪念を全く感じさせない笑顔のリリム。
 純粋に命が助かったことを喜んでいる表情。その表情を見て、アリサの中から若干だが事件や、そして悪魔に対する恐怖が薄まっていった。





アリサちゃんと純吾君の話が終わったと思ったら、お姉ちゃんが2人に話しかけに行った。

「じゃあ、アリサちゃんも納得をしたという事で、本題に入らせてもらってもいいかしら?」

…もう、さっきの事で話は終わりじゃなかったの?

「本題…ですか?」

「そう、本題。私たち、月村家の人間にとってね。アリサちゃん、すずかがどうして一緒にさらわれたか、何か言われなかった?」

 その言葉に体が勝手に怯え、震える。
 どうして、その話にならずに終わると思ったのに。どうして、その話をしようとするの? それも、アリサちゃんに、純吾君の前でなんて。それを、それを話してしまったら私たち……

「……はい。けど、あんなこと到底信じられません! すずかに、あんなこと言って」

「そう、私たちの事について聞いてしまったのね……」

顔を手で覆い、ため息をはくお姉ちゃん。それからふぅって息を吐いて、また2人と向き合った。

「アリサちゃん、すずかの心配をしてくれてありがとう。けど、何を聞かされたかは知らないけど、私たちに秘密があるのは本当。だから、聞いてほしいの、私たち“夜の一族”の事を」

 そう前置きして、お姉ちゃんは話し出した。
 “夜の一族”とは、五感や筋力、頭脳、異常な回復能力など、人よりも数段優れた力を発揮する種族。しかしその代償に、人の血から鉄分を摂取しなければいけない事。
 そして、その優れた能力から、命を狙われる事が数多くあった、ということ。現に、月村の当主である忍は実際にそれを経験したことすらあると。

「じゃあ、今回あいつらが言っていた研究っていうのは……」

「ええ、人間とは違う、私たちの体を調べるつもりだったのね」

 それが当然だといわんばかりに答えるお姉ちゃん。
 もう、我慢できない……!!

 気が付いたら、私は目の前のテーブルを思い切り叩き立ち上がっていた。皆がこっちを向いているのを感じるけど、そんなのもうどうだっていい!

「…もう、もうやめてよお姉ちゃん! 一族の事は秘密にしないといけないっていったのは、お姉ちゃんじゃない! それが、私たちにもそれにかかわった人たちにも、どれだけ危険か、教えてくれたのはお姉ちゃんじゃない!? 
それに…」

 言葉が詰まる。喉の奥から嗚咽が、目の奥から涙がこみ上げてくる。

「それに…、知られたら普通の生活ができない、って言ってたじゃない。私、普通に暮らしたかったのに…アリサちゃんや、なのはちゃんと、普通に暮らしたかっただけなのに!!
 私たちが普通と違う、化け物だって知られちゃった。もぅ…、もう戻れないよ!!」

 それだけ言うと、体中から力が抜けて立っていられなかった。自分の体がまるで糸の切れた人形みたいに、自分の意思とは関係なく床に膝から崩れ落ちるのが感覚として分かった。

…もうおしまい、アリサちゃんに全て知られちゃった。これから、どれだけ言い訳しても変わらない。
 わたしたちの関係は、もう、変わらない。人間と、普通でない化け物という関係は。

 そう思うと、涙がさっきよりも出てくる。拭いても拭いても、全然止まらない。
 涙をぬぐいつつ手で顔を隠した。誰も見たくない、このまま、独りになってしまいたい。

「…すずか」

 ふと、純吾君の声が聞こえてくる。いつの間にか近くにきたみたいで、眉を下げ、悲しそうな顔をして私を覗き込むように視線を向けてくる。

 やめて、あなたに何が分かるの? そんな同情はやめて…


「すずか、本当の化け物は、喜んで人を殺していくんだよ?」


 けど、彼の口から出てきたその言葉に、そんな考えは吹き飛んだ。

 顔をあげ、改めて彼の顔をはっきりと見る。
 純吾君は私に同情や、憐みの視線を向けてきたんじゃなかった。自分が見た事に対して、そこで自分が感じた悲しみを思い出し、こらえていたために悲しみの表情を向けてきたんだって、その顔を見て分かった。

「ジュンゴ、こっちの事は分からない。けど、あっちで見たことなら知ってる。
……悪魔は、喜んで人を殺していった。自由になりたいって、自由になって暴れたいって、そのために呼び出した人が邪魔だって、携帯を持っていた人を殺していった。
 ジュンゴは、それを止めれなかった。ジュンゴと、あと少しの周りの人と一緒に生きていくのに、必死だった」

「…………」

 一体純吾君はどれほどの絶望を見てきたのだろう? 彼は、目の前で人が殺されていくのを見たという。その中には、お世話になった人や友達、もしかしたら好きだった人だっていたかもしれない。

 彼の言葉に、私は何も言い返す事が出来ない。出来るはずが無かった、彼は私よりもずっと深い絶望の中で生きていたんだから。
 そう思うと、とてもいたたまれなくなって彼の顔を見る事ができなくなった。それでも純吾君は、私に話しかけてくる。

「けど、すずかは違う。ジュンゴは知ってる」

 その言葉に、もう一度彼の顔を見た。悲しそうな様子はどうしても残っているけど、目に優しい光を湛えて、私を見つめていた。

「すずか、ジュンゴを助けてくれた。だからジュンゴ、今もここにいる」

「け、けど結局純吾君を治療したのはリリムさんで…。それに、どっちにしても私の体は」

 ゆっくりと、純吾君が首を振る。それと一緒に、純吾君の後ろからリリムさんの声が聞こえてきた。

「ジュンゴが言ってるでしょ、人を人たらしめているのはその意思だって。すずちゃんはジュンゴを助けてくれた心優し~女の子、それでいいのよ」

 それに、と続けて

「あなた、人でいたいんでしょ? 自分から遠ざかろうとする意味が分かんないわよ。例えばジュンゴと私、どっちがあなたに近いかなんて言われなくても分かるでしょ?」

 肩をすくめてそう言うリリムさん。
 ……そう、なの?

「私、人として生きて……いいの?」

 小さく呟いた私の声が聞えたのか、ずっと黙っていたアリサちゃんが口を開こうとした。
 けどパンパン、という手を打つ音がそれを止めた。お姉ちゃんが皆の注目が集まったのを確認して満足げに頷く。

「ごめんなさいね、途中ですずかが入ってきちゃったけど、これからが一番大事なの。
 その大事なことって言うのは、誓いを立ててもらう事。
 私たち“夜の一族”の秘密を知った人には、その秘密を守る誓いをしてもらうか、記憶を消してもらわないといけないの。
…アリサちゃん、あなたは、どうする?」

「そんなの、決まってます。誓います、絶対にこの事は誰にも言わないって」

 お姉ちゃんの視線をまっすぐに受け、間髪いれずに答えるアリサちゃん。

「あ、アリサちゃん…。 私と一緒にいたら、今日みたいな事またあるかもしれないんだよ?
私、人とは違うんだよ?」

 その答えに、不安を覚え、聞き返す。いいの、本当に、危ないかもしれないんだよ…?

「そんなの関係無いわよ。それに、うぬぼれないで。
あいつらがまず狙ってきたのは私。すずかはそのオマケ。一緒にいる危険なんて、今さら気にしてらんないわよ」

 どこか怒ったように答えてくれるアリサちゃん。そしてさらに言葉を続ける。

「人と違うから何だっていうのよ、人が他人と違うのは当たり前。一々気にしても仕方ないじゃない。私は、すずかが私とも、他の人とも違うからって気にしたりしないわ」

顔を赤らめ、そっぽを向きながらもそう言ってくれた。全ての言葉に険があるけど、全部私を気遣って言ってくれた事だと、その気遣いが本心だという事が伝わってくる。


さっきまでとは、違う涙がでそうになる。


「……ありがとう、アリサちゃん。じゃあ、ジュンゴ君はどう?」

 今度は純吾君に尋ねるお姉ちゃん。純吾君は困惑したような、不安げな顔のまま、ぽつりぽつり話し始める。

「ジュンゴ、ずっとどうしてここに来ちゃったんだろう、って考えてた。フミも、アイリもここにはいない。ジュンゴの事知っている人、いない。ジュンゴが知っている所も、ない。ジュンゴ、一人ぼっちなんだって思ってた。
 ……だからこれがあっても、意味が無い、どうしようもない、そう思ってた」

 じっと純吾君は携帯を見つめたまま、今までの悩みを打ち明けてくれる。
 さっきと同じ、私には分からない思い。
 誰も自分の事を知らない世界に、誰ひとり理解できない力を携えて生きていかなければけないという事。
 誰も自分を知らない、理解してもらえない、その事が、どれだけ彼を悩ませたんだろうか。
 そう考えていると、「けど」と純吾君は話を続ける。

「これが教えてくれた、ジュンゴはこの世界でも、縁を紡げるって。だから【ニカイア】はすずかが危ないって事、教えてくれた。ジュンゴがそこに行く事ができた」

 そう言って真剣な表情をしてあげた顔を私に向ける。ニット帽に隠れて見えづらいけど、強い意志を宿した瞳が私を見つめている。
 どうしてだろう、頬が熱くなった。

「だから決めた、ジュンゴも約束する。絶対に誰にも言わない。すずかも、シノブも、ノエルもファリンもアリサも、ジュンゴが知り合ったみんなを守りたい。
 もうアイリ達はいない。『世界を頼む』って言葉も分からない。けどせめて、……せめてこの世界でできた縁だけは、ジュンゴは守りたい」


その言葉を聞いた瞬間、アリサちゃんと純吾君に飛び込む。勢いで2人を巻き込んで押し倒すような形になったけど関係ない。そのまま両手で2人を抱きしめた。

「す、すずか?」

「ぐすっ、あ、ありがとう。ありがとう2人とも…」

 アリサちゃんが少し驚いたように言うけど、それ以上言葉が出ない。
さっきよりも、涙があふれてくるからだ。ぽろぽろと出てくるそれが私の頬を伝う。けど、それは冷たくなくて、温かい。

 拒絶されるかと思った、私は人とは違う。危険な事だってあるかも知れない。けど、それを知っても変わらず友達でいてくれる人がいた。
…守ってくれるって言ってくれる人がいた。それが、本当に、本当に嬉しかった。

―――本当に、ありがとう、2人とも。

 そう心の中で言いつつも、後ただは2人にしがみつき、泣声をあげるしかできなかった。





「ふふっ。私たちも守ってくれる、か」

2人がすずかに抱きつかれた所を少し離れて見守る忍。胸中は温かいものに溢れているが、それを素直に表すのは癪なのだろう。口元がキュッとつりあがり、目の前の光景に満足した笑みというより、計算通りとでも言いたそうな顔をしている。

「シノブ、こうなる事分かってたって感じね」

 リリムが純吾に抱きつくすずかに羨ましそうな視線を向けながら忍に聞いた。それに表情を崩さず忍は答える。

「ええ、この事件を通して彼の事を見せてもらって、彼が底抜けに優しいって分かったの。
 だからこの際、すずかにも知ってもらいたかったの。秘密を知っても、それを受け入れてくれる人がいるって事を。私に、恭也がいるみたいにね」

 忍が明るく振る舞える理由、それは恋人の高町恭也の存在である。
 忍も、もともとは人間に対して失望に近い感情を持っていた。どうせ自分は他人と違う、理解してもらえないという暗い感情を。だが、高町恭也は“夜の一族“である自分を受け入れてくれた、今も恋人としてそばにいてくれる。その事が、今の忍を作り上げた。

 だから、忍にとっての恭也のような存在ができないか、忍は考えていた。
そんな所にあらわれた彼。
 彼が動画を自分に見せた時の必死の表情と、真剣な目。その中に、かつて自分のために動いてくれた恭也と同じものを見た。


だから、託してみようと思ったのだ、自分の妹の事を。


「……まぁ、ジュンゴのそういう所が分かったって言うのはいい事ね。ってあれ? キョウヤって、それ、シノブの彼氏」

「ええ、とっても大切な、私の彼氏。」

 ジトっとした目で忍を見やるリリムに対して胸を張る。高町恭也はどこに出したって恥ずかしくない、自慢の彼氏だ。

「えっと、そんな男と一緒の関係…。すずちゃんと、ジュンゴが…
って、ちょっと、ジュンゴは私のものよ!! 誰にだって渡さないんだからね!」

「あら、そんな重い女じゃ彼疲れちゃうわよ? ……それに、自信ないの?」

 からかう様な、挑発するような忍の発言。リリムの心に女としての対抗心が燃え上がらせる。

「むぅ~、そんなんじゃない! ジュンゴに他の女が近づくのが嫌なの!! 
それに、誰が自信ないですって? ぽっとでの女に私が負けるわけないじゃない!」

 そう言って純吾に向かって突進して抱きつくリリム。それに目を白黒させる純吾。どこかぶつけたのか、アリサがいきなり抱きついてきた事に驚きの悲鳴をあげ、すずかがそれに巻き込まれながらも泣きながらも笑う。


「本当に、こんな風にずっと暮らしていけたらいいわね。」

 その光景を見つつ、今度は本当に嬉しそうに笑う忍。
 人も悪魔も、“夜の一族”も関係ない、全てを受け入れてくれる。忍の目の前にはそれはとても温かい、平和な光景が広がっていた。



「えぇ、そうですね。忍お嬢様。」

「あらノエル、ファリン。いたの?」

「酷い! 会話に入れなかったからって、この扱いは無いじゃないですか!?」
 
 

 
後書き
その日の夜

『やほほ~、お久しぶりだね、ジュンゴちゃん。あなたのティコティコ、ティコりんだよ☆
こっちに来てまでのジュンゴちゃんをまとめたんだけど、いいよね、聞いちゃうよね?
…はいほ~い☆ んじゃ…
 まずは名古屋で暴徒にぶっ殺されちゃったね☆ どんくさいシジマのせいでジュンゴちゃんぼっこぼこにされて、ティコリンプンプン、ってなっちゃった。
 それで“あの方”の審査をパスして、こっちの世界にやってきました☆
 そして朗報! なんと、引き続き私ティコリンがナビゲータを務める事になりました!!
と、言う訳で今後ともよろしくね、チュッ☆
 それでこっちの世界に来たわけだけど、治療終わってからずっと喰っちゃ寝生活だったよね。9歳にしてその境地なんて、羨ましいぞ☆
…って、思ってたらすずチーの死に顔動画が送られてきたよね。
 この世界には争いなんてないと思った? 残念! 人間なんていつでもどこでもそんなものだよ☆
 けどけど、仲魔使ってぶっ飛ばしていったよね~。どう、また仲魔を使う事ができるって、どんな感じ?
 まぁ、しのブーもすっごい焦っちゃったけど、結局すずチーも一緒にいたアサリンも助けられたし、良かったんじゃないかな~って。
 その後さ、今度は夜の一族の誓いってのをさせられたよね。
 その誓いも受けて、自分自身にも新しく目標ができて、良かったんじゃない?

 え~と、今日はこんなもんかな?
それでは、ハブ・ア・ナイスた~☆』 
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