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フルメタル・パニック!On your mark

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第六話 後悔の先に

 
前書き
なんとか続きを書けました。
読んでくれると嬉しいです。 

 
 やらかした。
 ヤバイ。
 ヤバいヤバイ。
 ヤバイヤバイヤバイ。
 本当にヤバイ。マジでヤバイ。
 どうしよう?どうすればいい?どうしたらいい?
 全てが上手くいっていた。
 何もかも上手くいくと思っていた。
 だが、肝心なところでやらかした。やらかしてしまった。やらかしてしまったのだ。
 それもどうしようもないやらかし。
 マオ社長は呆れて何も言わずに電話を切った。
 そりゃそうだ。こんな初歩の初歩、普通なら起こり得ないミスをしでかしたのだ。幻滅されて当然だ。
 しかも…あんなに親身になって協力してくれたのにその期待を裏切ってしまった。不甲斐ない…本当に不甲斐ない。弁明の余地なし、情状酌量の余地なしだ。こんなのもうどうしようもない。

 足元が崩れ落ちる。
 視界が反転する。
 世界が割れる。
 ──────そんな気がした。
 …。
 ……。
 ………。
 …………。
 ………。
 ……。
 …。
 いや、そんな訳ないか。
 急に思考がクリアになった。
 不安と絶望をぐちゃぐちゃにして煮詰つめる。それをシェイクしたらどろどろに合わさって何かになる。それを遠心分離機に放り投げたらでまた別々の感情が生まれてこれを幾度となく繰り返す。
 ……何を言ってるか分からないだろ?大丈夫、俺も分かってない。これはあくまで蟹瀬の脳内で起きている『逃避行劇場』であり、自身の防衛本能が己を正当化しようと必死になって模索した結果なのだ。視界は歪み、心はへし折れ、その肉体は崩れ落ちる。最早、その身は屍も同然の状態だ。
 だが、それでも生存している。
 尚も生き長らえている。
 息をしている。
 まだ、その身は朽ちていない。
 心の灯火はとうに消えた。
 もう火が灯ることはないかもしれない。
 それでも蟹瀬は『まだ』生きていた。
 目は虚ろ、視線は宙を向いている。
 何かを探している訳でも何かを見ている訳でもない。ただ、目を開いているだけ。
 口は半開き、声は出ない。
 時折、聴こえるのは呻き声。
 何か言いたげも見えるが言葉にできない感情に口を塞ぐ。
 後悔の念で胸がはち切れそうだ。
 頭の中がいっぱいになって急に軽くなる。
 それを何度も繰り返しては項垂れる。
 なんの解決にもなっていない。
 ただ、出口のない迷路に永遠と彷徨い続ける感覚だ。そこに答えはない。あるのは永遠と繰り返される堂々巡り…。途中で答えのようなものを見つけ出した気がするが蓋を開ければそれは自分を励ます為の言い訳ばかり。
 結局のところ何一つ変わらない。
 そんな自分が嫌になる。
 いつもいつも身勝手で自己中で身の程知らず、今回ばかりは嫌というほど自覚させられる。
 反省点、改善点が無限に浮かび上がるが打開策だけは一向に思い付かない。
 え、ここから入れる保険があるんですか?
 あるわけないだろぶっ殺すぞ。
 そんな保険があるなら全財産をはたいて速攻で加入するよ。あっでも俺、無一文だったワハハ。
 一人劇場は永遠と続いていく。
 果てしなく続く無限の回廊。
 負のループで廻ループ。
 1+1はミソスープ。0に何を掛けても0になる。残飯にキャビアをのけっても残飯に変わりはない。つまり無意味、何の意味もない。
 今こうやって項垂れていても何も変わりはしなと分かっているのに何もしない。ただ、己の愚かさが不甲斐なさが胸を締め付ける。だが、今も心臓の鼓動は続いている。どれだけ絶望しても死を迎えることはない。
 あぁ、結局のところどうすれば良かったのだろう?
 改めて考える。いつ間違えたのか、いつ過ちを犯したのか、いつ……いや、考えても無駄か。
 虚ろな瞳が壁に張り付けていたカレンダーを見据える。
 赤ペンで二重丸で記された日にち。
 M9とOmarの模擬戦の日だ。
「まだ───────ある」
 猶予はまだ残っている。
 時間はまだ残っている。
 気力はまだ残っている。
「まだ───────まだ、」
 足が動く。
 手が動く。
 体が動く。
「─────────終わってない」
 燃え尽きは灯火に炎が燈る。
 後の祭りかもしれない。間に合わないかもしれない。無駄かもしれない。意味が無いのかもしれない。でも、それでもここまでやってきた事は無意味ではなかった。
 祭りの続きが始まる。
 鼓動の高鳴りは身体を震わせる。
 足を一歩前にすると心もそれに応えるように前進する。
 まだ、まだ終わっていない。
 諦めるには早すぎる。やり直しがきかなくてもまだ方法はある。諦めなければ先へと進めるんだ。
 例え、それが無駄になろうと無意味で無価値だったとしても行動しなければ何も始まらないんだ。
「まだ、まだ、まだ…」
 閉ざしていた«心の»扉を開いた──────────その先は右ストレートが待ち受けていた。
「グホッ!?」
 その一撃は的確にみぞおちに命中し、地面に崩れ落ちる。吐きそう…だが、この二日間は食事をしてないから吐くものもないのが救いだった。
 なんとか上を向いて、右ストレートの主を見上げるとそこにはマオが鬼の形相でこちらを見下ろしていた。
「ま、マオ…社長……?」
 痛みで呂律が回らない。
 痛みで思考が回らない。
 痛みで──────ローキック。
「アガッ」
 立ち上がろうとしていたところに鈍く、深い痛みが襲ってくる。再び地面で蚤虫のように這いずり回る。これは効く、効き過ぎる。
「ま、マオ社…チョウ!?」
 胸ぐらを掴まれて強制的に立たされ──────強烈な平手打ちがおみまいされた。
 鋭くも重い一撃に再び崩れ落ちそうになるがそれをそうはさせまいと胸ぐらを引き寄せて更なる追い討ちをかけるマオ社長。
 右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左………数え切れない往復ビンタのコンボ。
 息はある。意識はある。生きている。
 だが、その姿は半殺し状態でいつ息絶えてもおかしくない状況だった。
「は、はわわわわっ」
 いつから見ていたのかLは俺を見て声を上げる。
 止めようにも止められない、どうすればいい?そんな表情だった。
 壁に立てかけてあった鏡に俺の姿が映る。
 それは無惨な……と思ったら意外と大丈夫そうだった。痛みはあるが外的損傷は少ない印象だ。
 もしかして、もしかしてだが…。
「気は済んだ?」
 それは思いもよらない言葉だった。
 俺をフルボッコにした張本人からの言葉とは思えないほど。
「え、あ、はい…?」
 訳も変わらず咄嗟に声が出た。
 そういえばどん底の気分からは抜け出せた気がする。全身の痛みは半端ではないが…。
「それなら良しっ」
 マオ社長の声に怒りは感じられなかった。
 もしかして、もしかしてだが、本当に───────と思ったら本気のゲンコツが脳天を振り落とされた。
「ほ、星が見えた…スター」
 視界に浮かび上がる星々が綺麗だな。
 あ、流れ星°・*:.。.☆。お星様にお願いしなきゃ。
「何を馬鹿なこと言ってんのよ。もう何発か必要かしら?」
 はぁ、とため息を付きながら拳を振り下ろそうとするその姿に苛立ちは感じられない。哀しみも憐れみでもない。そこにはいつもと変わらないマオ社長が立っていたのだ。
「い、いりませんモーニングスター」
 そして俺は強制的に立たされている。
 というかマオ社長の支えがないと立ってられない。
「ホントにー?」
 意地悪な表情、とても楽しそうな様子に俺は恐怖する。
「YESYESYES」
 と言いながら俺の首は縦ではなく、左右に大きく揺れていた。
「……ならシャッキとしなさいっ!」
 そう言って放たれたのは強烈なデコピンだった。
 痛い痛い痛い。声にならない痛みで涙が出てきた。
「スッキリした?」
 それはさっきまで俺をボコボコにしてきた人の言葉とは到底思えなかった。
 それはこっちの台詞だ─────────と咄嗟に言おうとしたが口を閉ざした。
 どの口が言うんだ。
 今回の事は俺が全部悪い。マオ社長にボコボコにされても文句は言えない。だからここは黙ってボコボコにされ続けても仕方ないのだ。
「………」
 マオの視線が痛い。
 何か見透かされているようだ。
 俺は目を逸らして黙り込む。
「何か言うことはあるかしら?」
 言葉が心臓に突き刺さった気がした。
 とても…とても鋭利な言葉だった。
「すみません」
 それしか言えない情けない自分が嫌だ。
 全てを水の泡にして謝罪することしかできない自分が嫌いだ。
 でも、今の俺には弁解する余地も釈明する資格もない。だから誠心誠意で謝罪するしかない……筈なのに俺は、マオ社長の目を見ることはできない。
 やっと立ち直れたと思ったのに本人を前にすると足がすくんでしまう。本当に情けなかった。
「俺は、」
 その先の言葉は何も無かった。
 何かを言おうとしたが出てなかった。
 それ以上は何も言えなかったのだ。
 なんて臆病で情けない男なんだ俺は…。
 どうしようない自分に嫌気がさす。
 そんな姿を見てマオ社長は。

「よろしい」

 そう言って俺の頭に手を置いた。
 よしよしっと我が子の頭を撫でるように。
「マオ…社長……?」
 突然の出来事に驚きを隠せない。
 Lも何が何やらの様子でこちらを見ていた。
 でも、なんだろうこの感じは…。
 言葉で表すならこの感覚は…懐かしい……?
 優しい手つき、それはまるで母親のようなだった。
「やっとこっちを向いたわね、この大バカ」
 その表情からは怒りも哀しみ憐れみも感じない。
 もう訳が分からない。人を散々、殴って蹴ってビンタしてゲンコツからの最後にデコピンを喰らわせた人が見せる表情ではない。
 だが、分かった。理解できた。納得した。
 この人は俺の事を本気で心配してくれていた。
 それだけは痛いほど、よく解った。
「ご心配をおかけして、本当に…本当に申し訳ありませんでした」
 マオ社長の目をしっかりと見て改めて謝罪する。
 そして決意した。
 残された時間は僅か、一刻の猶予も無い。
 だが、まだ時間はある。間に合わないかもしれないが行動しなければそれそこ無意味だ。まだなんとかなる、なんとかしてみせる。
「まだ、まだ、諦めませんから」
 体温が上がっていく。
 心の奥底で鎮火していた『焔』が揺らめく気がした。
「──────────プッ」
 アハハハハと高らかに笑うマオ社長。
 何か変なことを言っただろうか。決意表明のつもりだったのだが…。
 状況を把握し切れていないLは困惑していた。
 そしてマオ社長は俺を引き寄せてこう言った。
「その意気は良しっ!じゃあ早速、取り掛かるわよ!」
 俺の真意をどう汲み取ったのか分からない。
 だが、俺の無謀な試みはまだ終わっていなかった。
 まだ、なんとかなる筈だ。
 諦めるには早すぎる。
 落ち込むにしては長すぎた。
 諦めない。諦めるもんか。

 そうして二人はOmarの元へと向かう。
 その後ろ姿を見てLは思った。
 私には何もない。私には何もできない。私には何もしてあげられない。
 謎のざわめき、感情という名のプログラムにバグのようなものが生じている。
 この気持ちがこの想いがプログラムで造られたものなら私の心は一体、何で構成されているのだろう?
 電子の海で一人、孤独という名の海原で独り。
 今はただ、二人を見守ることしかできなかった。 
 

 
後書き
読んでくれて本当にありがとうございます。、 
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