ケイン神王国召喚
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サレーオ暗殺事件
ユグド歴1909年5月11日、その日、ルヴァニアの皇太子キャロル・アドラム・ド・ルヴァニアはヨルパン地区の東方、サレーオに上陸した。
抗ルヴァニア・オレンジ義勇軍と名乗るグラ・バスカル帝国の圧倒的な技術力を背景とする強力な兵器によってそれまでアルフリー地区のみならず、アルメニ地区の南部、更にはアルメニ地区よりも東方にまでその版図を広げていたルヴァニア王国が敗北した冬戦争以降も、ルヴァニアは肥大化した内需を満たせる市場を欲していた。
しかし、今や惑星ユグドの殆どが植民地としてヨルパン・アルメニ両地区の優等国の領土に組み込まれている。ルヴァニア王国内閣内では武力によって既に他国の植民地となっている地域を自国に組み込む等と案も検討されたが、ただでさえ冬戦争によって支持率が低下している今戦争を始めた場合、敗北どころか泥沼化するだけでも内閣が消えかねない。
そこで、ルヴァニア王国が選択したのはヨルパン地区の中でも国力の低い国々の経済植民地化である。その第一歩として皇太子キャロル・アドラム・ド・ルヴァニアはヨルパン東方開発協定を調印する為このサレーオにやって来た。
ルヴァニアは資金を提供し、鉄道を建設する。サレーオは土地と労働力を提供し、利益を分かち合う。文面は平等であり、条文は柔らかく、そこには侵略の影など微塵も存在しないように見えた。しかし、鉄道はサレーオの首都から内陸へ、さらに鉱山地帯を貫き、最終的にこの港へと収束するよう設計されている。鉄鉱石、希少鉱物、穀物。全てがこの港へ集められ、ルヴァニア本国へと送り出される一方でサレーオには、機械から繊維、日用品まで凡ゆるルヴァニア製の商品が持ち込まれるだろう。
その結果、サレーオの第二次産業は壊滅し、購買力を失った労働者は第三次産業の衰退すらも引き起こしかねない。更にそれによるサレーオの税収減は低利融資として提供された鉄道の建設費の返済にも影響を与えるだろう。サレーオの財政規模を考えれば、いずれ破綻することは明白である。破綻した時、何が起きるか。協定の付属条項には、こう記されている。
1.返済不能の場合、鉄道運営権はルヴァニア王国に移管される。
2.ルヴァニア王国は必要に応じて治安維持のための人員駐留を認める。
無論、その実態を理解していた者は少なくなかった。キャロル・アドラム・ド・ルヴァニアの乗艦とその警護を目的とするルヴァニア王国海軍艦隊による砲艦外交に屈したサレーオ政府の官僚を始め、港湾に整列した儀仗兵を指揮するサレーオ警察のキャリア官僚まで…
キャロル・アドラム・ド・ルヴァニアの御召艦に選出されたルヴァニアの超オ級戦艦、ライオンのタラップがサレーオに降ろされ、測量技師や鉄道官僚、金融家に囲まれながらキャロル・アドラム・ド・ルヴァニアが一歩一歩踏み出していく。
港の端々から無邪気に歓迎する市民に対するポーズとして、キャロル・アドラム・ド・ルヴァニアが片腕を振り上げた時事件は起こった。
サレーオ警察のSPの1人が儀仗用のサーベルを振り上げながら皇太子に迫る。
皇太子の近衛兵達も対応する為皇太子に近付いていく。
しかし、細長いタラップにいる皇太子に近づく為にはその周りを囲む測量技師や鉄道官僚、金融家を超えなければならない。
彼らを押し除け、近衛兵の1人が皇太子の肩に手を掛けると同時にサーベルが振り下ろされる。
暗い影がタラップの上に落ちた。サーベルの刃は、皇太子キャロル・アドラム・ド・ルヴァニアの左肩から鎖骨にかけて深々と食い込んだ。鮮血が白い軍服を一瞬で赤く染め、甲板に飛び散る。
「――っ!」
皇太子の口から短い呻きが漏れたが、すぐに唇を噛み締めて声を殺した。幼い頃から叩き込まれた王族の矜持が、痛みよりも先に自らに「叫ぶな」と命じている。
測量技師の一人が悲鳴を上げ、金融家が後ずさって転倒する。狭いタラップの上で人々がもつれ合い、近衛兵等は必死に前へ押し寄せようとするが、逆に動きを阻害していた。
サレーオ警察のSPは、既に二撃目を振り上げていた。
「ルヴァニアの犬が! この国を売るな!」
叫びながら、二撃目が振り下ろされる。しかし今度は、近衛兵の一人がようやく皇太子の体を後ろへ引き倒した。
サーベルは皇太子の右腕をかすめ、軍服の袖を裂いただけだった。続く男の三撃目も空を切り、勢い余ってバランスを崩す。
ようやくタラップの下からルヴァニア海軍の水兵たちが殺到した。
銃声が響く。SPの胸に二発の弾丸が命中し、男は甲板に崩れ落ちた。サーベルが乾いた音を立てて転がる。
キャロルはタラップの上に半ば倒れ込みながら、左手を自分の肩に押し当てていた。血が指の間から溢れ、滴り落ちる。
「……次官」
掠れた声で、すぐ傍にいたルヴァニア外務省事務次官を呼ぶ。
「はい、殿下!」
皇太子は痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がろうとした。近衛兵が慌てて支える。彼は一瞬、言葉を切り、港に整列したまま硬直しているサレーオの儀仗兵たちを見渡した。彼らの顔には、恐怖と、隠しきれない安堵が混じっている。
「……この一件を、サレーオに、ルヴァニア海軍の治安維持部隊を常駐させる口実にしてくれ」
そう言い残すと、キャロルは再び右手を振り上げ、そしてタラップから落ちた。
後書き
アルフリー地区…アフリカ大陸
ヨルパン地区…ヨーロッパ大陸
アルメニ地区…アメリカ大陸
ケイン神王国…アメリカ合衆国
ルヴァニア王国…イギリス王国
トランスベムニア共和国…トランスヴァール共和国
この世界に出てくる固有名詞のモデルの地名、だいたいこんな感じかも?グラ・バスカル帝国はモデルが分からないからこの世界でもモデル無いんだよな…
サレーオは大津事件をモデルにするつもりだったけどなんかそれとも関係ない感じになったな…
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