| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

〜独白〜黒衣の除霊師……ゴミ置き場

作者:wood12
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

神ヤスリ



 狭く、異臭の漂う個室に野郎共の話し声が反響してくる。

 ただの話し声じゃない。俺を含めて、全員の声に剣呑な色が混じってやがる……


「…………おいおい、冗談じゃねぇぞ。何でよりによって俺がお前等なんかと、こんな事しなきゃならねぇんだ?」

「何言ってやがる横島。お前の普段の行動の悪さが、ここに来て露呈した……それだけの話じゃねぇか!!」

「お前に、人のことを責める資格があんのかよ?田嶋ぁ!こんな事になったのは、一重にお前の所為なんじゃねぇか!?こんな狭くて、湿気の込もるとこに居たんじゃ俺のアフロが台無しだぜ」

「ああっ!?テメェ、自分の行動棚に上げる気か?アフロ!元はと言えば、お前が始めたことだろうによぉ!!」

「グダグダ、うっせぇんだ!!お前等!人の前で責任のなすり付け合いしてんじゃねぇ!」

「んだと、偉そうに!」

「そうだ!それに、前じゃなくてお前の “横” だ!」


 …………そうだったな。こいつら、俺の “両サイド” に居んだよな。
 
 ………………余計、迷惑だわ!!いや、そうじゃねぇ!


「位置関係なんか、どうでもいい!!今は3人で、やるべきことがあんだろ!」
「「………………」」


 返事はしないが、反発もしない。現状の理解は出来てるらしい……


「もう1回、腹の底から声を出せ!誰かに聴こえるかもしれねぇ!「せーの」で行くぞ!」
「「………………」」


 相変わらず、返事はねぇ。もっと言えば、顔も見えねぇ…………でも、信じるしかしねぇ。


「せーの!!」


 立ち込める異臭を我慢して、息を吸い込む。十分に溜まったら、今度は腹の底に力を込める……一縷の望みを託して!
 

 
 
「「「誰か紙下さーーーい!!!」」」




 ………………人の来る気配はない。
 

 全身全霊……魂すら込めたと言っても過言じゃない大声は、狭いトイレの室内に虚しく反響しただけで何の変化ももたらさなかった。


「おいっ、横島!これ、さっきから何回やってんだよ!?何の変化もねぇじゃねぇか!!」
「そうだ!そうだ!もう、30分はこんなことしてんだぞ!!」
「うるせぇ!俺に当たんな!!じゃあ、どうしろってんだよ!?」


 糞っ!う◯こ臭ぇの我慢して、息吸い込んでんのに成果なしかよ!!

 糞ったれ!!揃いも揃って、全員の個室に紙がねぇってこんな奇跡(災難)あり得るか!?
 

「畜生!何だって、こんな改装中のトイレなんか入っちまったんだ!?誰も来やしねぇ!!」
「そりゃあ、田嶋……お前の我慢が足りなかったからだろ?もっと、遠くに普通のトイレもあったのに」
 
「じゃあ、アフロ!何で、お前も一緒に居んだよ?」
「そりゃ、お前と同じタイミングで “もよおした” んだよ。結ばれてんのかな?」
「キモいわっ!!いや、臭せぇ!!!」

「でも、昨日みんなで焼肉のバイキングに行ったじゃん。そん時に2人で生肉なんか喰っちまったから、こうなった気がするぜ……」
「そりゃ、お前がガッつくから、俺も急いで喰わざる得なかったんだよ。そうじゃなきゃ、ちゃんと焼いたのに……やっぱ、お前のせいだ!」
「…………バイキングなのに、取り合ってどうすんだよ?」


 いくら食ったって、料金一緒なんだから譲り合えや。

 ……ただ、フックのアホさに呆れはしたけど、焼肉は普通に羨ましいと思った…………俺なんか、古い菓子パンだったし。

 
「そういや、横島……」
「なんだよ?アフロ」
 
「何で、お前までここに?」
「そりゃ、急に来て我慢出来なかったからだよ」
 
「じゃあ、俺達と同じように当たったんだな。何食ったんだよ?」
「菓子パンだよ……」


 とても古い……

 そしたら、今度は左隣に居たフック(ちなみに渡辺は、一つ空けた右隣)が声を上げる。


「はんっ!どうせ賞味期限切れたのを、勿体ないとか言って喰ったんだろ?」
「うっせ!」
「図星だな♪」


 図星じゃねぇよ。 “賞味期限” じゃねぇ! “消費期限” 切れだ!!

 しかも、うっすらカビが…………何で、あんなもん喰ったんだ?俺……

 いや……これは、ジジィが悪い!あの薬、全然効かねぇじゃねぇか!

何が、「これを掛ければ、カビの生えた食材でも普通に喰えるようになる優れものじゃ!」だ!自信満々に言いやがったから信用したのに…………ん、待てよ。よく考えたらパンじゃくて、ジジィの薬のせいで腹壊した?


 糞が……!!帰ったら、絶てぇジジィ殺す!

 ここんところ、まともな事しか言わなかったから、ついつい気を許しちゃったけど、やっぱりあんな奴信用しちゃ駄目だった!!!


「所で、今何時だ?」
「3時18分だ」


 フックの言葉に、答えるアフロ……やべぇと思って、俺も反応する。


「おいおい、もうすぐHRに入っちまうじゃねぇか」
「それなら、誰か気づくかな?」


 俺の声にアフロは、楽観的な反応するけど事態はそんな簡単じゃない。
 
 
「いや、無理だ。ここは、俺達の教室と逆方向……」


 最悪だな……移動教室(科学)だったのが仇になった。

 
「冗談じゃねぇぞ!このまま放課後なったら、誰もここに来ねぇじゃねぇか!!」


 真横で、いちいち大騒ぎしないで欲しいんだが、フックの言うことも、あながち間違ってなくて始末が悪い。

 ここは、別棟の外れにある3階。ただでさえ閑散としてんのに、放課後になったら来る人間なんか限られて来る。

 ウチの学校に科学部なんかねぇし、この辺に他の部が使ってる教室もない。宿直がたまに見回りに来るかも知んねぇけど、それって何時だ?今から何時間後だ?

 仮に見つけて貰ったとして、それまでの数時間こんな下半身露出した間抜けな状態で放置(まだ洋式で良かった……)されるなんて、地獄以外何者でもねぇんだけど…………
 
 いっそ、文殊で事務所に連絡とるか?
 
 マリアなら、数十分で紙持って……いや、いくら何でも恥ずかしいわ!!

 大騒ぎになって、次の日から学校来るどころじゃ無くなるぞ。なんとか、切り抜ける手段考えねぇと……

 
 そんなこんなで頭を捻ってる俺だが、隣のフックの騒ぎが治まらない。

 喚くだけじゃなくて、「ガンガン」壁まで叩き出した。


「誰でも、いいから助けてくれぇ〜〜〜!!!」
「うるせぇな!!考えに集中出来ねぇだろ!」 
 
「ああっ!?静かにしてたら、誰も気付かねぇだろ!!馬鹿か!!?」
「んだと!?糞メガネ!」


 そう言って俺の方にある壁を叩き出したんで、俺も同じように叩き返す!
 

「俺は眼鏡じゃねぇ!眼鏡のオマケだろ!!?」
「テメェ!都合の良い時だけ、フックかよ!!」
「おいおい……こんなとこで無駄に体力使うなよ。長丁場になりそうなんだから」


 こんな時に妙な冷静心を発揮してくれる、アフロの言葉が何か悲しい。

 糞っ……こんな時だけクールになりやがって!俺等が無駄にヒートアップしてるからか?
 

「「嫌じゃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」


 お互い無駄に怒鳴り散らして、壊れんばかりに壁を打ちつづける。

 もはや、やってることに理由なんかない。己の内から溢れる焦燥感。それに、押し潰されそうになってる心を守る為の逃避行動…………要は八つ当たりだ。
 
 それを止める者も居ない、この空間。互いの体力が尽きるまで続くと思われた、この不毛な大騒ぎだが、唐突に終止符を迎えることになる。


 現れると思わなかった、第三者……いや、4人目だから第四者によって。


「皆さん、エラい騒ぎしとりますのぉ……」


 この聞き覚えのある、野太い広島弁……この声は!?


「「「ステルス(タイガー)!!」」」
「ワッシは、影のうっすい虎じゃないんジャい!!」

「何でもいい!」
「良く来てくれた!!」
「タイガーーー!!!!」


 助かった……地獄に女神とは、このことか!?

 今なら、この(見てねぇけど)2メートル越えのムッサイ大男でも、美女と勘違いして抱きしめられるぞ!
 

「先生に、見て来いと言われたんジャあ……3人共全く戻って来ないから。そうしたら、このトイレから大声が聴こえて来たんジャあ」


 さっきより、ダミ声っぽい声で答えるステルス。この野郎、鼻摘んでやがるな。まぁ、この際どうでもいい。


「何でもいいけど、助かった!全員、紙が無くて動けねぇんだよ」
「そ、そりゃあ災難ですのぉ……」

「そういう訳なんだタイガー、その辺に紙無い?」
「ん〜〜……」


 フックの声で、その辺を漁りだすステルス。戸棚なんかを開けてる音が聴こえる。


「ちょっと、ここには無いですのぉ……」
「改装中だからな。備品は、全部取っ払ったんだろ。悪いけど、別のトイレか__」


 俺が、そう言いかけた時だった……
 
 
「おっ…………!!」


 えっ……!?な、何その声?


「おおぉぉぉ〜〜〜!!」


 ガチャッ!!


「お、おい?」


 俺の隣に……!?


 ブピ――――――自主規制中――――――!!!


「おいおいおいっ!?何して……臭っ…………!!」
「やっぱり、昼のパンの耳が悪かったんジャーーー!!」
「いや、知らねぇよ!!」


 そういや、今日はピートが居ねぇから、昼にパンのミミ齧ってたんだっけ。

 小笠原さんもGS免許取れたんだから、こいつにもっと金払って…………いや、ちょっと待て……!助かったと思ったのに、この状況って…………


「お〜い、タイガー!お前のとこに__」
「紙が無いんジャーーー!!!?」
「「「馬鹿野郎っ!!!!」」」 


 オメェ、本当に何し来たんだよ!!?



    ◇



 

「何何何何っ!!?折角助かったと思ったのに、また振り出し!?」
「何してんだよ!タイガー!!お前、さっきまで普通だったよな?何いきなり、こっち側来てんの!?」


 フックとアフロ……両サイドから、突っ込まれるステルス。
 
 
「が、我慢し切れなかったんジャぁ…………皆さんの臭いを嗅いでしまったら、急に気分悪うなって……」
「「「余計なお世話だ!!」」」

 
 なんっっっっっの役にも立ちゃしねぇーーーー!!!


「どうすんだよ?馬鹿が3人から、4人に増えただけじゃねぇか!(フック)」
「一応、自覚あんだな……(俺)」
「俺は、お前等の仲間になった覚えはねぇぞ(アフロ)」
「あああぁぁぁーーーーっ!!(ステルス)」


 ブ――――――自主規制中――――――!!!


「「「……………………」」」


 争ってる時じゃねぇな…………


「……冷静になろう。4人集まりゃ、何とかって言うだろ(俺)」
「 “三人集まりゃ文殊の知恵” だろ?(アフロ)」
「3人で何にもならなかったのに、4人になって何か変わるか?(フック)」
「ああ――――自主規制中――――――!!(ステルス)」


 ――――――――自主規制中――――――――


「…………せめて、同時に流すくらいの気使ってくんねぇ?(俺)」
「腹がああぁぁぁぉーーー!!(ステルス)」
「「「……………………」」」 


 ――――――――自主規制中――――――――
 

 …………まぁ、お陰で喧嘩せずに済むな。ゲンナリするから……


「アフロ、今何時だ?(俺)」
「3時46分……(アフロ)」
「HRの最中だな(フック)」
「少し楽になってきたんジャぁ…………」
「「「……………………」」」

 
 …………突っ込むなよ、お前等……突っ込んだら共倒れだからな。


「先生探しに来ねぇな……(フック)」
「多分、フケたと思われたんだろ?(俺)」
「お前等の行いの悪さが仇になったな(アフロ)」
 
「お前の頭だって、校則違反だろうが!(フック)」
「うるせぇ!俺以上に目立たなくなった癖に!(アフロ)」
「ああっ!?(フック)」
「おい……いい加__(俺)」
「ああぁ〜〜〜っ!!また、来たんジャ〜〜!!(ステルス)」


   ――――――――自主規制中――――――――


「「「……………………」」」

「す、すまん……つい、カッとなった(フック)」
「いや……俺こそ、突っかかって悪かったよ(アフロ)」


 困難に直面して団結するか…………キタねぇな!!絶対嫌だ!
 
 
「は、話に戻るぞ。アフロが言ったように、この時間じゃ外部からの助けは期待出来ないってわけだ(俺)」
「だな……このまま行けば、普通に放課後だしな(アフロ)」
「最悪の事態だぜ、(フック)」
「はぁ、はぁ〜〜……なして、ワッシまでこんな目に…………」


 …………明日、ピートが来たら頭でも齧ってやれ。ここから、出れたらの話だけど……


「なら、やる事は一つだ。助けを求めるのは止めて、自分達でこの状況を打開することを考えよう(俺)」 
「ああ、それでいい。いや、それしかねぇ(アフロ)」
「と言っても、どうするよ?俺達、ここから動けねぇんだぞ……(フック)」
「ワッシも頑張るんジャあ!!(ステルス)」


 何をだよ……?いや、やめよう…………


「取り敢えず持ってるもん、全部出してみようぜ。何が使えるか解らん(俺)」

 
 っても、学ラン科学室に脱いで来ちゃったし殆ど物なんて持ってないんだけどな。俺の場合…………でも、学ラン置きっぱなしなのに、誰も探しに来ないなんて……涙が出そう。
 
 
「持ってるもん……鞄は、教室だしなぁ…………(フック)」
「俺の頭にも、ケツを拭けそうなもんはないな。こんなことなら、ティッシュでも入れときゃ良かったぜ(アフロ)」
「「何処に仕舞ってんだよ……!?(俺、フック)」」


 何それ!?頭から “ズボッ” とか言って、財布が出て来たら怖すぎなんだけど……


「ス…タイガーも何かないか?全部出してみろよ(俺)」


 ――――――自主規制中―――――――


「んなもん、要らねぇよ!!寧ろ、ちゃんと仕舞っとけ!(俺)」 
「止まらないんジャぁ〜〜〜〜!!!(ステルス)」


 あぁっ!もう、こいつさっきから何回出すの!?ってか、普段から何回分けて流してんだよ?


「もう、いっそタイガーの幻覚で、何とかならねぇか?(フック)」
「全員にモザイク掛けるとか?(アフロ)」
「何の解決にもならねぇよ!(俺)」
「全部ピートさんの所為ジャ〜〜!!」
 

 結局、そんなこんなで “しょーもねぇ” やり取りを10数分続けたけど、使えそうなもんは何も無かった。

 時刻は既に4時を回ったろう。何となく室内が暗くなってきた。他の奴等も騒ぎ疲れたのか、殆ど喋らなくなった(ついでに言うと、ステルスの “アレ” も止まった)。ここに来て、完全に手詰まりってやつだ。

 
 畜生……神…ここに “紙” は居ないのか…………?


 このまま、来るか解らない宿直を待ち続けるしかないのか?それで、もし来なかったら、そのまま一夜明かして明日誰か来るのを期待するとか?

 ……アホくさ!

 んなことするなら、普通にマリア呼んだほうがマシだろ……?夜まで待てば、そんなに目立たねぇかもしんねぇし…………


 どうする……?出来ることなんて何も無さそうだし、このまま時間が過ぎるようなら、暗くなるのを見計らってマリアを__


「良いもん見つけたぞ!」
「「「!?」」」


 唐突に響き渡るアフロの声に、全員の意識が集中する。

 
「床に落ちてた!」
 

 良いもの!?この状況で良いものって言ったら、紙の切れ端か何かか!?

 トイレの床に落ちてる物でケツ拭くなんて、普段ならごめん願いてぇけど、この際そんなこと言ってらんねぇよな!!


「紙ヤスリ!!業者が多分落としたんだ!」
「「「……………………」」」


(((馬鹿野郎ぉ!!!そんなもんで擦ったらケツの皮が血だらけになるわ!!)))


「ちゃんと4枚あるぞ!」


 ………………と、普通なら言いたい!
 

 でも、この状況……ス◯ッティに匹敵するもんなんじゃね?超欲しい!!
 

「アホか〜っ!ヤスリだとっ!まず、それでお前の頭をヤスれっっ!(フック)」
「馬鹿っ!ヤスリでも、ちゃんと “紙” って付いてんだぞ!!(俺)」
「不安しかないんジャあ…………(ステルス)」


 文句言うんじゃねぇよ!さっきから、ク◯しか出さねえ癖に!!


「んだよ!折角、見つけたのに〜〜……(アフロ)」


 おい馬鹿!拗ねんなって。俺は褒めてんだから!


「アフロ!取り敢えず下から皆に回せ!(俺)」
「お、おうっ……!!(アフロ)」
 

 そうしてアフロを宥めながら、ステルス、俺、最後にフックへ(なんで、こんな奴に……まぁ、いいか)ヤスリが手渡されたが、実物を見て戦慄する……


(ちょっとまてよ……!想像してたより、3倍も目が荒い。しかも両面!!)

 
 こんなんで拭いたら、冗談抜きでケツの皮剥ぎ取られるぞ。


 ゾリゾリゾリゾリッ…………


「……えっ!?何?誰か拭いてる!!?(俺)」


 俺以外の3人の中に強靭な『ケツ毛仙人』でも居る訳!?


 ゾリゾリゾリゾリッ…………


 おおっ!!またっ!?ってか隣!!?


「ふ、フック……お前か!?(俺)」 
「スゲェな……このままやったら、壁に穴空きそうだぞ♪(フック)」
「壁かよ!?こんな時に紛らわしいこと、すんじゃねぇ!!」
「アホかっ!こんなんで拭けるか!!でも、アフロはそれで拭くんだよなぁっ!?」


 ゾリゾリゾリゾリッ…………


「「おおっ!?マジか?(俺、フック)」」 
「すげぇ〜〜、壁に穴空きそう♪(アフロ)」
「だあぁっ!!もぅ、そのボケはいい!!(俺)」


 何だったんだ?このやり取り……?無駄に、疲れただけだろ。


 


 ………………それから、特に会話もなく更に数分……多分、そのくらい経過した。

 全員疲れてるのか、誰も喋ろうとしない。たまに誰かの呼吸音が聴こえて来るくらいだ。


 俺も精神的に物凄く疲れた……もう、諦めてマリアを呼ぼう。

 ただ、問題なのは暗くなるまで待つ必要があること。

 今は、4時半くらいかな?

 あと数週間で夏になるこの時期に、その時間じゃ夕暮れ時とは言えまだまだ明るい。暗くなるのは少なくとも、あと数時間は待たなきゃいけないだろうな。


(寝ちまうか……)


 誰にともなく呟く。こんな状況で……いや、こんな状況だからこそ眠りの世界へ現実逃避するべきかもしれない。そんなことを考え始めた時…………


「朝は、テンション爆上がりしたんだけどな……」


 隣から、ボソッと呟くフックの声が聴こえて来た。


「そういや、そうだったな……」


 その声に今度は、アフロが反応する。小声だったのに、フックから一番遠くの奴まで聴こえたのは他に物音がしないからだ。


「何かあったのか?」


 何となく流れに乗って聞いてみる。別に意味はない。他にすることもないからしただけだ。


「何言ってんだよ、お前も喜んでたろ?(アフロ)」
「喜んでた…………あっ……(俺)」


 そうだった、そうだった…………完全に忘れてたけど、今日の朝は、ちょっとしたサプライズがあったんだよ。

 俺は、足元にたわんでるズボンの尻ポケットから1枚の写真を取り出した。

 

 朝のHR前の時間…………席で小笠原さんの写真(隠し撮り)を見てニヤニヤしてるステルスを偶然見掛けた俺達は、口止め料として3人で1枚ずつ写真を譲って貰ったんだった。

 ………………と言うか、学校持ってくんなよ。気持ちは解るけど……

  

 そう思いながら、写真を見る。

 これは、デスクで電話対応してる時の写真だ。別に変わったことは何も無いんだけど、美人は何をしても絵になるな。

 それに写真なら、人間性までは解らねぇし……

 
「何回見ても、タイガーの師匠って美人だよなぁ……(フック)」
「ああ、この写真は儀式の最中かな?この世に降臨した女神って感じだぜ(アフロ)」
「当たり前じゃ!エミさんは、この世で一番美しいお方なんジャぁ!!(ステルス)」


 ずっと隣でステルスしてたのに、急に元気になったな…………ってか、皆俺と同じように写真で癒され……




 ……………………写真!!?
 


「今、皆写真持ってんのか!!?(俺)」
「ああ、今見てるよ(フック)」
「ポケットに入れっぱなしで良かったぜ。お陰で少し元気になった(アフロ)」
「ワッシはいつも、持ち歩いたりますけぇのぉ♪(ステルス)」


 そんな連中に、俺は大声で伝える!!

 

「これっっ!!紙じゃね!!!?」







    ◇



 時刻は、5時過ぎ……日は完全に傾いてるけど、夜まであそこで待機することに比べりゃ、どうと言うことはない。

 あの後、無事にトイレを抜け出した俺達4人は、今校門を出た辺りに居る。


「一時は、どうなる事かと思ったけど何とかなったな……」


 夕陽を見ながら!!、やれやれと言った感じで呟くフック……


「でも、折角の写真が……」
「来るかどうか解らねぇ助け待ってるよりは、マシだろ……」


 俺は、そう言って残念がるアフロを宥めるが…………


「…………………………………………」


「あっ……いや、タイガー悪かったよ。でも、仕方なかったんだ(フック)」
「そ、そうだな!俺からもスマン……今度、何か奢るよ(アフロ)」
「俺からも何か出すよ!遠慮無く言ってくれ(フック)」
「う……ウッス…………(ステルス)」


 2人が口々にフォローするが、ステルスのネガティブイオンは晴れない……また、死人みたいな面になってやがる…………


「俺からは、これを渡すよ……」


 そう言って、文珠を一つステルスに差し出す。


「そ、そんな気にせんで下さい!」
「いや、そういう訳にも行かねぇって……すまなかった。お前こそ、気にしないで使ってくれよ」


 遠慮するステルスに、半ば強引に手渡す。埋め合わせになるかどうかは、知らないけど多少は…………な。


「……じゃあ、俺達はこっちだから(フック)」
「また、明日な(アフロ)」

「ああ、またな(俺)」
「お疲れした……(ステルス)」


 手を上げてフック達を見送ると、今度はステルスに向き直る。


「じゃあ、俺等も__」
「よ、横島さん……!」

「うん?」
「先に帰ってて、くれませんか?」

「どうし__いや、解った。気を付けてな……」


 だが、俺が言い終わる前に奴は校舎へ全力で駆けて行った。相当ヤバい顔してたな。ケツを抑えながら…………

 そんなあいつを、見送りながら呟く。


「俺は、もう治まったのに……大変だな」





     ◇


  
「ハァハァハァ…………」


 全力でトイレへ飛び込み、ドア(個室でない方)を閉める。

 こんな、時間校舎に誰も居りゃせんだろうが、こんな姿誰にも見せられんわ。


 いやはや……本当に今日は、とんでもない目に遭ってしもうた…………

 エミさんの写真は取られるし、エミさんの写真で………………まぁ、彼等全員 “すまなそう” にしてたから、それは良しとしましょう。

 横島さんには、文珠まで譲って貰えたし……でも、皆さん!勘違いしないで下さい。ワッシは、許しても忘れたりはしないんジャ!


「あんた方がした、エミさんへの愚弄!!ワッシは死ぬまで……いや、あの世まで持って行くんジャあぁ!!」


 そう言って気張った所為……いや、1人になって気が抜けた所為かもしれん…………


 ブシュッッ!!


「グガッ………………!!」


 ケツから脳天まで、駆け抜ける激痛!!それに耐えきれず、ワッシは崩れるように前に倒れ込む。
 

 今まで、気合いと筋肉で止めていた血が一気に出てしもうた…………!!


 履いてるのが学ランで良かった……もっと明るい色の物だったら、自分のケツはとんでもない惨劇を晒す事になっていたろう……

 痛みで意識が遠退きそうになるのを、必死に堪えてエミさんの写真を取り出す。写真の中の彼女は、いつも優しげな笑みをワッシに向けてくれる。

 ワッシは、あんた達とは違う……!!どんなことがあってもエミさんに、あんな無礼働ける訳が無い!

 改めて、写真の彼女へ向けて呟く……


 
「でも…………ワッシって……本当に馬鹿……」


 
 それが、ワッシの最後の台詞となってしもうた…………

  
 
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧