〜独白〜黒衣の除霊師……ゴミ置き場
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眼鏡を掛けた近畿剛一
冬の澄みきった朝、息を吐くと白く霧が立ち昇る。俺は通学路を歩いている。すでに冬休みは終わり、久しぶりの学校だ。
校門が近づくにつれて、周りの人間の姿が目に入る。友人と再会した生徒の笑い声や、久しぶりの会話が耳に響き、また以前の日常に戻ってきたことを実感させられる。
校舎の前に立って、ふと目を上げた。薄曇りの空の下、冷たい風が頬をかすめる。そして、目に入る久しぶりの教室。
普段は面倒くせぇとしか思っていなかった、あの狭い空間も今は懐かしく感じられるから不思議だ。
「じゃあ、またね」
「はい!」
そんな感慨を抱きながら校舎まで来ると、俺は一緒に登校してきた小鳩ちゃんに別れを告げて教室への階段を上がって行った。
◇
「明けましておめでとう」
教室に入ると気心の知れた、いつもの面々と新年の挨拶する。
「明けましておめでとうございます」
「おめでとうございますジャー」
「明けましておめでとう」
俺の挨拶に同じように返してくるピート、ステルス、愛子。
普通なら、こいつらとは学校が始まる前に会っても良かったんだが、休み中はテロリストに仕立て上げられた上に、その誤情報を真に受けたお姫様に拉致られたりとバタバタし過ぎて会えなかった。
「新聞読みましたよ、横島さん」
そんな風に思ってると、挨拶そこそこにピートがその件について話し掛けて来た。
「…………ああ、驚いたか……?」
「驚いたなんてもんじゃないんジャー……一体どうしたら、そげなことに…………?」
「国から勲章も受けたんでしょ?青春じゃない♪」
俺が答えるとピートの代わりにステルスや愛子が口々に答える。
その一件とは勿論、ザンス王室テロ事件のことだ。俺達はその件で国王暗殺なんて、とんでもない濡れ衣を着せられた。
小竜姫様がオカルトGメンの上層部に働き掛けてくれたお陰で、騒動中も俺達は指名手配されることはなかった。
そして、事件が終わった後も『伊達除霊事務所』の名前が主に流れただけ(この辺は雪之丞が取材を全部拒否したせいもある)で顔写真や詳細は殆ど出なかった。
たがらあんな大騒ぎの直後にも関わらず普通に登校出来てるけど、知り合いからすりゃ驚いたなんてもんじゃないだろうな…………現にこいつ等のリアクションがそれを物語ってる。
「雪之丞の名前(悪評?)が、犯人には好都合だったんだろうな……」
何度も言いたくはないが、雪之丞に前科があるのは業界内でも有名な話だ(ついでに言えば、それに “のこのこ” 付いていってる俺も余りよく思われちゃいないだろう)。
それでいて、強力な能力者であるとの事実も奴(犯人)にとっては追い風だったわけだ……
「だけど、ザンスの人達も良く信じてくれましたね……逆に捕まるとは思わなかったんですか?」
「ま……まぁ、他に行き場もなかったしな…………駄目だった時のことなんて考えてる余裕もなかったんだ」
…………本当はあそこ(大使館)に行ったのは俺達の意志じゃなくて、あの世間知らずのお姫様が暴走したからなんだけど、それを話すのはザンスとの契約違反になるんで、ピートの当然とも言える問いを適当に濁す。
少し……いや、かなり無理があるが高い報酬貰ってる以上これで通すしかない。
「勲章を貰うなんて凄いんジャー……また、2人に差をつけられてしまったんジャー」
「雪之丞はともかく、俺はあいつをサポートしただけで、俺とお前に差なんかねぇよ」
俺とこの大男が初めて会った頃、俺は能力者ですらなかった……予想外に能力に目覚めて、妙神山の年月ブーストを掛けて数年間修行したお陰で、霊能者として何とか形になってきただけで、こいつのキャリアに追い付いたなんて全く思ってない。
もっと言えば、こいつは自分を過小評価してるだけで別に弱くはない。それどころか強力な部類に入る能力者だ。
強力かつ、広範囲に渡る精神感応(幻覚能力)。それを支える高い霊能力、人間離れした身体能力。
師匠の補佐が必要とは言え、稀有の存在であることは疑うべくもない。
………………能力の特性上、ひたすら地味ではあるが……
そんなこんなで、親しい連中には騒がれつつも穏やかに俺の新年初登校の時間は過ぎて行く……と思った。
◇
「横島」
「ん?」
今日は休み明けの1日目(始業日)と言うことで、授業は無く簡単な連絡事項のみ。
それも何事もなく終わり、後は帰るだけの時になった時に予想外な奴が話し掛けてきた。
「新聞出てたな」
「そうだな……」
出てたのは殆ど雪之丞で、俺は端に少し写ったくらいなんだけどな……
「大変な目にあったな……新聞読んだ時は本当に驚いたぜ」
「そうか……」
クラス全員、俺がGSアシスタントしてるのを知ってるが、伊達除霊事務所に移ったことを知ってるのはピート達以外は数人しかいない(だから、新聞に伊達除霊事務所と出てても俺とは気づいてない)。
こいつは、その1人……
「お前が大変な時に力になってやれなくて、友人として本当に不甲斐無く思ってるよ」
「仕方ねぇよ、状況が状況だし……」
寧ろ、お前が来て何が出来んだ……?
「もし、また大変なことが起きたら、遠慮せず何でも言ってくれ!何せ俺はMr._」
「じゃあな!」
何か面倒臭そうなんで、俺はそのまま鞄を持って廊下へ……
「おいっ!!!!」
…………行こうとすると、すかさず俺の前に周りこむそいつ……あ〜、もう面倒くせぇの確定だ。
「何だよ?必要な時に呼べばいいんだろ?」
カオスのモルモットくらいなら成りそうだな……
「全然、その気ねぇじゃねぇか!!俺はMr.Xだぞ!」
「そうだよ、だから周りに存在を悟られるな」
永遠のMr.Xよ…………誰も知らない……知る必要すらない……
「もっと頼れよ!俺は秘密兵器だぞ!!」
「使わない兵器が一番理想なんだよ」
使わざる得ない、追い詰められた状況にならないにことに越したことはないからな。
「んなこと言って、使う気ねぇだろ!!」
「じゃあ、何が出来んだよ!?」
いいかげん、帰りたいんだけどな……
「それを考えんのが、お前だろ!!?」
「アホかっ!!」
散々食い下がって、他力本願かよ!
「お前が言ったんだぞ!Mr.X!秘密兵器だってな!!って言うか、お前さっきから1回も俺の名前呼ばねぇじゃねぇか!!」
「お前だって1回しか、呼んでないぞ!!」
ひょっとして、こいつ構って欲しいのか…………?気持ち悪ぃな……
「お前だって1回くらい呼べ!」
「誰だっけ?」
「渡辺郡じゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
教室中に木霊する馬鹿の悲鳴…………クラスの半分以上は帰っちまった上に、気にする奴もほぼ居ない……虚しすぎる。
「渡辺君、落ち着いて下さい」
「横島クンも、からかい過ぎよ……」
「って言うか、普通にうっせぇ…………」
宥めるピート、俺に注意する愛子……解せん。しかめ面する、田嶋を掛けたフック。ステルスは……もう、居ねぇか。懸命だな(煙みたいに消えちまった)…………後は何も言わねぇけど、萩原も一応居る。
「悪かったよ渡辺……忘れてたわけじゃないんだ」
単に、忘れたかっただけだ……
「ふっ……いいんだよ、どうせ俺は何の特徴もない面白味のねぇ男さ!何がMr.Xだ……こんな俺を嗤うがいいさ!!!」
いつの間にか、その場に座り込んで床に “の” の字を書くモブ…………これ幸いと帰りたいんだが、流石に空気的に不味いよな?
(どうするんです?彼いじけちゃいましたよ……)
(横島クンが言い出したんだから、責任取りなさいよ)
(今だけだろ)
(フックに同意見!)
……とは、言ったものの何もしないと、また後日同じこと言い出しそうだしフォローしとくか。
「渡辺、そこまで自分を卑下するな……」
屈んで奴の目線に合わせる……面倒くせぇ。
「慰めなんか、いらねぇよ!どうせ俺は特徴のねぇ “のっぺらぼう” さ!!誰も俺に気づかない、覚えられることもない!一生空気のように生きるのさ!!」
うん……マジでそれが一番なんだけど、ステルスと違って、お前の場合しつこいからな。
だから……
「はっきり言おう!渡辺、お前は個性がないんじやない!ただの不細工だ」
「おい……」
ジト目すんなって……別に不細工じゃねぇよ。単に特徴がなくて、覚えられないだけだ……
「だが、それはパーツが “足りない” だけであって……ほら、そこに居る “田嶋” を掛けてみろ!」
「は……!?」
いきなり自分に話が向いて戸惑うフック……構わず続ける。
「今は何も無いのっぺらぼうかもしれないが、田嶋を加えたお前は……………………」
「お、俺は……?」
よし、乗ってきたぞ……緊張しながら俺を見るそいつに、目一杯ためて…………
「……『眼鏡を掛けた近畿剛一』じゃないかぁ!!!」
「なあっ!!!!?」
「「「……………………」」」
その瞬間、奴の体に電撃が走ったような気がした…………俺疲れてんのか?
ちなみに『近畿剛一』とは今をときめく、イケメン人気アイドル俳優。確か俺達と同い年だったはず……当然、この馬鹿に似てる訳がない!!
(横島さん、それはいくらなんでも……)
(本当に責任取れるの?)
(彼の家、鏡無いのかな?)
(……………………)
「…………本当は解ってたんだ、実は自分がイケメンなんじゃないかと……まさか、それが『近畿剛一』レベルまで達していたとは……!!?」
「「「「………………………………」」」」
……よし、復活した。
「と言うわけで、眼鏡寄越せーーー!!!」
「アホかーーーーーー!!!!!」
口車に乗せられて、モブを追いかけるモブ…………元気だな。
「じゃあ、俺は帰るから」
「ちょっと……あのままにして帰っちゃうんですか!?」
「今だけだろ?もう、放っとけ……」
「「「………………」」」
そう言って、残りのメンバーに手を振って教室を後にする。
なんか、1日目から無駄に疲れた気がする…………
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