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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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萌芽時代エピローグ

 異なる二種の鎧に忍び装束を纏った者達が、火花を鳴らしてぶつかり合う。
 打ち合わされる刀の剣戟に、時折戦場を彩る赤い色彩。
 高速で組み合わされる無数の印の数々と、それによって生み出される忍術の数々。
 双方の実力は正しく拮抗していた……しかし。

 不意に、その拮抗状態を切り崩す様に法螺貝の重々しい響きが戦場に響き渡る。
 法螺貝の音を耳にし、それまで剣戟を交わしていた忍び達の内の一方が、その場から散開する。
 取り残された者達が不審に思う間もなく、地響きと共に大地が大きく唸りを上げながら隆起した。

 土中より生えて来た無数の樹木の根がその場から逃げ遅れた者達の足に絡み付き、次々と拘束していく。
 運良く逃れられた者達も目の前の人知を越えた光景に、思わず目を奪われる。

 ――そんな彼らの耳に、凛然とした宣言が届いた。

「我が名は千手一族が頭領、千手柱間!! 聞け、他の戦場は全て千手が制圧した! 故にこれ以上の戦いは無用である!」

 無数の木々が放たれた方角へと皆が目を向けると、鎧を纏った黒髪の人物の姿がある。

 木々に拘束された者も何とか逃げられた者達も、直ぐさまその人物に思い当たって、一斉に息を飲んだ。

「忍び唯一の、木遁使い……!」
「あれが、最強の忍びと呼ばれる千手柱間……!」

 その場にいる者達全員の視線を集めながら、千手柱間は朗々と宣言した。

「降参するか、直ちに怪我人や死者を連れて立ち去れ! 素直に去ると言うのであれば、こちらとしても追うつもりはない!! ――が!」

 それまで厳格な表情を崩さなかった柱間は、鮮やかに微笑んで手にしている日本刀を一度振るう。
 刀の鈍い銀の輝きが残像となって人々の目に焼き付いた。

「――最も、それでは気が済まぬという輩もおろう! だとすれば早々に出て来い! この千手柱間自ら、相手をしようではないか!」

 柱間の叫びに呼応する様に、木遁によって発生した大樹が大きくうねる。
 背後に千手の一族の精鋭達を従え、その足下では無数の木々が柱間の意に従って蠢動する。
 
「――……さあ、どうする? 我々としてもこれ以上の争いは本意ではないが」

 千手柱間はそう言うと、不敵に微笑んでみせた。



 新しい頭領に率いられた千手一族は、戦乱の世で最強の一族として名を馳せていく。
 そして、その一族を率いる千手柱間。
 木遁と言う圧倒的な攻防一体の忍術に、洗練された体術とサムライにも勝る太刀捌き。
 敵も味方も最強の忍びと柱間を讃え、次第に誰もが一目を過ざるを得ない忍びとしてその名を轟かせていく。

 ――戦国の世に、新たな風が吹き抜けようとしていた。 
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