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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第174話

黄泉川愛穂が決意を決めた頃。

「で、何でこんな事をしたのか、先生に話してみなさい。」

その人物である麻生恭介は職員室で長身の女教師から思いっきり説教を受けていた。
より厳密に言うならば、説教を受けているのは麻生だけではない。
彼より一歩前で、青髪ピアス、土御門元春、上条当麻が一緒に三人並んでうな垂れている。
麻生のすぐ隣では、何であたしがこんな所に呼び出されているんだというムカムカ顔の吹寄制理も立っていた。
乱雑に置かれたスチール製の事務机がたくさん並んでいる職員室は、お昼休みという事もあってか教師の数も多い。
弁当を食べたりテストの採点をしたり電気で動く木馬に乗って体重を落したりとやっている事も様々だ。
そんな中、親船素甘という女教師は弁当も食べずテストの採点もせず電気で動く木馬に乗って体重をコントロールしたりもせず、安っぽい回転椅子に腰掛け、ベージュのストッキングに包まれた足を組んで、針金みたいに硬そうな片手でかき上げつつ、おそらく高価なブランド商品であろう逆三角形の眼鏡越しにジロリと鋭い眼光を、前に立って並んでいる上条達へ浴びせている。

「もう一度尋ねるわね。
 この学び舎で好き勝手に大乱闘し、コブシを武器にアツいソウルをぶつけちゃった理由を私に説明しなさい。」

沈黙が生まれた。
職員室の壁際に置かれたテレビから『イタリアのサッカーリーグでは度重なるデモ行進や抗議活動の結果、試合会場の安全性を保てなくなったとして、今期の試合を中止する事を決定した』とかいうニュースが流れている。

「説明できないの?」

このブランド品で身を固めた不機嫌数学女教師は、上条の学校の中でも特に『しつけ』に厳しい人物という事で有名だった。
上条達とは受け持つクラスが違うため、今まではあまり接点がなかったのだが、今日に限って彼女に掴まってしまった。
ちなみに上条達のクラスの担任は月詠小萌だが、いくら彼女でも昼休み中の教室の様子までは把握しきれない。
なので、ケンカ中にたまたま居合わせた親船素甘が上条達を取り押さえ、職員室まで連行してきたという訳だ。
そんなこんなで、素甘の前でうな垂れている三馬鹿の一人、上条当麻はゆっくりと唇の開ける。

「だって・・・」

意を決し、キッ!、と正面を強く見据えると、

「だって!
 俺と青髪ピアスで『バニーガールは赤と黒のどちらが最強か』を論じていたのに、そこに土御門が横から『バニーと言ったら白ウサギに決まってんだろボケが』とか訳の分からない事を口走るから!!」

ガタガタン!という大きな音と共に椅子ごと後ろへひっくり返った。
上条の大音量もさる事ながら、逆三角形の教育者メガネをかけた女教師には少々刺激の強すぎる意見だったらしい。
数学教師・親船素甘は三馬鹿から眼を離し、その背後に立っていた麻生と制理に目を向ける。

「ま、まさか、あなた達もそんなくだらない議論に参加して?」

「あたしはこの馬鹿どもを黙らせようとしただけです!!
 何であたしまで引っ張られなくちゃならないんですか!?」

こめかみから血管を浮かばせて制理は叫び返す。
とはいうものの、親船が上条達のクラスに踏み込んだ時、制理は土御門にヘッドロックをかけつつ青髪ピアスを蹴り倒し、上条当麻に硬いおでこを叩きつけている所だったのだ。

「どちらかと言うと、俺は喧嘩を止めようとしたんだけどな。」

三馬鹿と一緒の扱いを受け、少し不機嫌になりながらも呟く。
実際、麻生は彼らの喧嘩を他のクラスメイトより近くで見ていた。
騒ぎが大きくなり、制理の為を思いと気まぐれでケンカを止めようと、中心となって暴れている制理の肩に手を置いた時、親船が教室に入ってきて、麻生も同じように暴れていると思われ教室にまで連行された。
何度説明しようが、言い訳と捉えられてしまい今に至る。
やっぱり、面倒な事に関わるべきではなかった、と激しく後悔した。

「にゃー。
 ひんにゅー白ウサギばんざーい。」

その言葉に黙っていなかったのは青髪ピアスだ。

「こっ、この野郎は何でもペタペタにしやがって!!
 っつかお前はバニーさんには興味なくて、とにかくロリなら何でもええんやろうが!!」

「それが真実なんだにゃー、青髪ピアス。
 この偉大なるロリの前には、バニーガールだの新体操だのレオタードだのスクール水着だの、そういった小さな小さな衣服の属性など消し飛ばされてしまうんだぜい。
 つまり結論を言うとだな、ロリは何を着せても似合うのだからバニーガールだってロリが最強という事だにゃーっ!!」

「テメェ!!
 やっぱりバニーガールの話じゃなくなってんじゃねぇか!!」

腕まくりをして第二ラウンドを開始する三馬鹿を見て、逆三角眼鏡で堅いスーツの女教師・親船素甘は椅子ごと後ろにひっくり返ったまま懐から取り出したホイッスルを吹く。
ピピーッ!!という甲高い号令と共に、職員室の奥から生徒指導のゴリラ教師、災誤センセイがのしのしと接近してきた。




結局、麻生達は放課後に体育館裏の草むしりをしろと命じられた。
日当たりの悪いジメジメとした空間なのに、雑草は妙に元気に育ちまくっていた。
一面の緑色は、その膨大な量を見ただけで作業をする気が失せるし、普段誰も通らないような場所だがら綺麗にしても意味ないんじゃね?という空気で辺り一帯が満たされてしまっている。
だが、それにも増して上条当麻のやる気をゴリゴリと削っているのは。

「つっ、土御門と青髪ピアスめ・・・雲隠れしやがったな。」

現場に立っているのは、草むしりを命令された四人の内、上条と制理と麻生の三人だ。

「何で俺まで・・・」

「一人だけ逃げようたってそうはいかないわよ。」

その隣では麻生は重いため息を吐き、制理が麻生の腕をがっちりとホールドしている。
麻生も土御門と青髪ピアスと同様にボイコットしようとしたのだが、それを読んでいた制理に阻止された。
逃げないようにがっちりと腕をホールドされ、体育館裏まで連れて来られた。

「なぁ、恭介。
 お前の能力で雑草を全部抜いてくれないか?」

(テラ)』の能力を使えば、一面に生えている雑草を抜く事ができる。
しかし、麻生は面倒くさそうな顔をして、頭をかきながら。

「何でそんな事に能力を使わないといけないんだよ。
 どうせ、完全下校時刻には帰すだろうから、適当に抜いていたらいいだろ。」

そう言って、制理にホールドを外してもらい、しゃがみ込んで足元の雑草を一本一本抜いていく。
上条は麻生が能力を使わないのを見て、渋々と雑草抜きを始める。
制理も不満を言いつつも、効率的に雑草を刈り取っていく。
始めて五分ぐらいで飽きてきた上条は、少し離れた所で屈み込んで作業している制理に話しかけた。

「そういえば、吹寄さ。」

「何よ?」

制理も制理で退屈していたのか、あっさり会話に乗ってくる。
上条は手を動かしながら、

「一〇月の中間テストが中止になったって話があったじゃん。
 にも拘わらず吹寄さんたら休み時間も一人で勉強に励みまくってるみたいだったけど、あれは一体?」

「中間テストがないって事は、二学期の成績は期末テストで一発で判断されるって事でしょ。
 テスト範囲も二倍以上に膨れ上がるでしょうし、むしろそっちの方が気が抜けないじゃない。」

「・・・・・」

「ちなみにノートは見せないわよ。」

中間テストがなくなったぜイエーイ!、と有頂天になっていた上条に、制理は淡々とした調子でとどめを刺していく。
思わぬダメージを受けた上条はいじけ虫モードになり、

「ふ、ふん。
 学校の勉強だけが全てじゃないやい。」

「まるであたしが勉強しかできないみたいな言い方ね。」

「他に何かできんの?」

できるわよ!!、と制理は腹の底から大声で叫ぶ。

「こう見えてもフォークボールが投げられるわ。
 野球とか特に興味はないけど!!」

「それってフォークボール健康法で培ったのモノだろ。」

二人より少し奥で雑草抜きをしていた麻生が言う。
まさにその通りだったので、制理は眼を見開く。

「何で知っているのよ!?」

「結構前にそれを紹介する番組を見てな。
 お前なら買うだろうな、って思って。」

その予想が見事的中して、恥ずかしい制理は少しだけ顔を赤くする。

「んでも、そんな事を言われてもボールがないだろ。」

呆れたように上条は言ったが、制理はスカートのポケットから握り拳大のボールを取り出すと、

「備えあれば憂いなしッ!!」

「いや、ボールの表面に『一日一〇〇回ニギニギするとα波が促進される健康ボール』とかって書いているぞ。」

「それもさっきの健康法でさらに相乗効果、とか書かれて買ったんだろうな。」

二人の発言に制理は気にしていない。
彼女はかなりやる気がまんまんらしく、片足でザシザシと地面をならしている。
ボールに対してキャッチャーミットがないのだが、上条は軍手を何重にもはめて厚々にすると、いかにも仕方がない感じである程度距離を取ってから屈み込み、制理のボールを受けるべく見よう見まねでキャッチャーぽく構えてみる。
ちなみに麻生はそれらに全く興味がなく、邪魔にならないように端に移動して黙々と雑草を抜いている。
案外、彼が一番真面目に罰則に取り組んでいた。

「さーどーぞー制理。」

上条のため息まじりの棒読みの声が出た。

「ようし上条。
 時速一五〇キロの剛速球を見て腰を抜かすんじゃないわよ!!」

「フォークで一五〇キロ!?
 そのハッタリに腰を抜かしそうだよ!!」

「あいつの頭の中ではそうなっているんだろうな。」

うろたえる上条。
皮肉を言う麻生。
制理の方は多少ノッてきたのか、白級を握り締め、ゆったりと身体を動かして振りかぶる。
力の『溜め』の段階だが、ここで上条は思わず声を張り上げた。

「すっ、すとっ、ストーップ吹寄!!」

「何よ!!」

投球フォームを途中で遮られ、制理はふらふらしながら叫ぶ。
しかし上条はストレートに発言する事がためらわれたため、核心を除いて告げた。

「スカート!!」

その言葉に制理は眉をひそめ、上条の視線の意味を探り、自分の腰の辺りを眺めて、短いスカートのまま振りかぶって膝を上げたため大きくめくれあがったソレと、その中身というか可愛らしい柄の下着を発見した瞬間、制理の剛速球が飛んだ。
タイミングを誤った上条のどてっ腹にゴム製の柔らかいボールが直撃し、ズパーン!!、というハードな音が炸裂する。
のたうち回って悶絶する上条は、ぶるぶると震えながらもこう言った。

「な、何がフォークだ。
 思い切り真っ直ぐ飛んできたじゃねーか。」

「今のはナシッ!!」

自分の下着を見られたかもしれない、と思った制理は麻生を様子を窺う。
その麻生は興味が完全に無くなったらしく、適当に雑草を抜いている。
それを見てホッ、と安堵の息をつく。
もし見られたのなら恥ずかしさのあまり、ここから逃げ出している。
気を取り直して、制理は投球フォームに入るが、上条にスカートの事を指摘された直後だからか、片足の動かし方が若干抑え気味になっている。
そのせいか身体のバランスがややふらふらしていたものの、制理の放った一球には恐ろしい力が加わっていた。
軍手を何重にも重ねた上条の手の中で、ドパァン!!、というとんでもない音が聞こえる。
硬式とは違うオモチャのボールのくせに、上条の掌にビリビリと痛みが走る。

「今の・・・落ちたか?」

「落ちたわよ!!
 貴様は一体どこを見ているの。
 ちゃんとバッター手前でカクッと落ちてたのが分からなかったの!?」

「ええー?
 なんか普通に投げているようにしか見えなかったぞ。」

「かっ、上条は!!
 バッターの視線から見えなから分からないのよ!!
 実際にバットを振ってみればフォークボールのキレっぷりを味わえるはずなんだから!!」

「ほう。
 言ったな、吹寄。」

上条はニヤリと笑うと、念のために用意しておいた数本のホウキとチリトリセットから、五〇センチ程度の長さの、プラスチックの柄がついた小型ホウキを掴み取り、

「その言葉、この俺に対する挑戦と受け取った。」

何となく野球のバットっぽく両手で握ると、手首のスナップだけでホウキを動かし、まるでタイミングを計るように小刻みにホウキの先端を回す。
一方の、制理は制理で、上条から軽く投げられたボールを受け取ると、口元に不敵な笑みを浮かべる。

「このメジャー吹寄の勝負球を打ち返そうとは、なかなか面白い事を言うサルね。」

「かっとばしますよー」

「ならば見せてあげるわ。
 本物のフォークの落ちっぷりと、敗北の屈辱をォおおお!!」

「場外までズバンとなァあああああああああ!!」

放たれる白球。
風を切る音。
本当にボールが落ちるか確認してからでは、完全に振り遅れる。
上条は吹寄制理の真意と実力を測りかねたまま、勝負に応じるために動き始める。
全身に駆け巡る力と緊張。
上条はタイミングを計り、小さく息を吐き、両足を力を込め、腕の動きに合わして腰を回し、両手で握ったホウキを横方向へ思い切りスイングする。
フォークが来ると思い、少しだけ振る角度を下にするが、放たれた球はストレート一直線で全く落ちなかった。
結果、かすりもせずに空振りに終わる。

「全く落ちてねぇじゃねぇか!!」

「ちゃんと落ちているわよ!!
 ちゃんと見たの!?」

勝手にヒートアップする二人。
雑草抜きに飽きた麻生は、その二人を見て思う。

(こっそり帰るか。)

早速実行するが、帰ろうとするところを制理に見つかり結局この場に縛られるのだった。 
 

 
後書き
なかなか進みませんね。

感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています 
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