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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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『砂漠の嵐』

 謹慎を始めて早くも一週間。やることも無かったので出されていたIS学園の課題も全てやり終えてしまいましたし、今は完全に手持ち無沙汰です。
 両親もクロエも忙しいらしくて会いに来てくれたのは初日だけ。まあ忙しいのは私のせいなので文句は言えませんけど。
 寂しいですねー……
 そういえば父さんは結局どうしたんだろう? あの後何にも音沙汰が無いけど……うーん。

 ベッドの上でうつ伏せになりながら足をパタパタしてみたり、枕相手に抱きついてみたりなんてしてても気は晴れませんし……
 手元にあった本、暗記するほど読んだ『世界の最新IS』のページを捲る。去年までの段階で公開されている第2世代ISを纏めた本で、一種の図鑑みたいなもの。機体の情報が可能な限り全て載っているため、一つのISの紹介ページが最低でも10ページ以上という読み応えのある本です。

 暗記しちゃいましたけど今現在この部屋には情報封鎖っていうことでPCも電話もありませんから本を読むしかないんですよね。

「つまらないなあ」

 挿絵だけパパッと全部見て本を閉じる。そしてまた無意識に左手を首元に持っていってる。最近この行動が多くなった気がします。やっぱり落ち着かないものですね。
 その時、久しぶりにドアがノックされる音が部屋に響いた。

「はい、どちら様でしょう」

「アイシャ・カストです。入りますよ」

「母さん……?」

 何だろう。母さんは基本公私混同しないタイプだからこういう謹慎の時は絶対来ないと思ってたのに。
 そんなことを思っているとドアが開いて局員服の母さんが入ってきた。うん、やっぱり。ということは私の処分が決まったんでしょうか?
 処分とか考えてしまって頭痛くなってきました……

「カルラ・カスト少尉。ついてきなさい」

「は、はい」

 うう、牢屋とかは嫌だなあ。いくら覚悟していたといってもそういうのは嫌です。というより好きな人なんていないと思う。
 そのまま母さんはエレベーターホールに歩いていくとエレベーターが来るのを待つ。待っているのは……工房直通エレベーター?

 ジャクソン社は安全や警備体制の関係でISの工房は全て地下にある。そしてそこに行くためにはこの開発局と居住エリアという最も人の多い15階からの直通エレベーターでしか降りることが出来ない。当然ここに入るまでには一階で警備員の身体チェック、高度なセキュリティ、社員章での人物チェック、指紋、声紋、耳紋などなど様々なものをクリアせねばここまであがってくることが出来ない。
 そして工房に降りるには、各局長クラスの人以上の承認が必要で、承認を行う場所も決まっている。そこには常に警備員が4名いる状態で、仮に誰かに脅されてなんていうのも出来ないようになっている。

 エレベーターが来て乗り込むと、母さんは地下15階を押す。15階って確か……

「IS開発工房?」

「発言は許可していません」

「は、はい!」

 き、厳しいなあ。
 IS開発工房は次世代のISを開発している、いわばジャクソン社の心臓部。私が『デザート・ホーク・カスタム』を受領したのもここでした。
 エレベーターが到着し、降りるとそこにはまたも認証システムと監視カメラによるチェック、更には男女2人の警備員さんにボディチェックを行われてようやく工房内に入れます。

「局長。お疲れ様です」

「ええ、お疲れ様」

 母さんを見かけた局員の方達があちこちから声を掛けてきて、母さんもそれに軽く返していく。そのまま着いていくと、着いたのは一番奥にある『次世代IS開発室』と書かれた巨大な扉だ。
 名前の通り、次世代のISの開発を行う部署で、今現在は『完全』な第3世代ISを作っているはず。

 扉が音を立てて開くと、母さんが中に入っていくので私も続いて中に入る。
 何故か中は真っ暗で……私の背後からの他の部屋の光しかないから全然見渡せない。その時背後の扉が閉まった。

「え?」

 突然のことに私は思わず声を上げてしまう。
 すると辺りからいきなりライトが部屋の中央を照らし出した。急に目の前が明るくなったことで私の目は一瞬何も見えなくなり、思わず右腕で眼を隠す。

「カルラ・カスト少尉」

 母さんの声が聞こえる。
 次第に私の目が光に慣れてきた。ゆっくりと腕を下げると、私の目の前にあるものをようやく眼が捉える。

「これが今日から貴方の……」

 それは……そこにあるのは……

「新しい相棒……」

 綺麗な砂色に光る鎧……

「オーストラリア第3世代正式採用型IS……」

 いつも身に着けていた私の……

「『デザート・ストーム』よ」

 相棒がいました……

「『デザート・ストーム』……」

 母さんが私の前からどいて前に出るように促してくれる。私はそのままそのIS『デザート・ストーム』にフラフラと近づくと、そっと鎧の部分に手を触れる。
 見た目はほとんど『デザート・ホーク・カスタム』だったころと変わらない。でも、何か決定的に違う。そんな感覚がする。
 ううん、分かる。
 あれ、そう言えば今……

「母さ……局長。正式採用型ってことはもしかして……」

「流石に気づくわよね。そう。これには私達が総力を結集した第3世代兵器『ストーム・アイ』が搭載されているわ」

「『ストーム・アイ』?」

 第3世代兵器ってことは何かついてる? でも見た目にはほとんど変化ないんですよね。
 私が疑問の声を上げると母さんは投影型ディスプレイを開いて映像を映し出して説明を始める。

「空間圧歪曲兵器、通称『ストーム・アイ』は名前の通り空間に圧力をかけることでその空間を捻じ曲げることが出来る兵装よ。似たようなものにドイツのAICや中国の『龍咆』があるけど、あれを足して2で割ったものと考えてもいい感じかしら」

「あの二つを?」

 なるほど。ラウラさんの『シュバルツェア・レーゲン』は内部のPICを改良したものですし、見た目に変化が無いのも頷けます。
 しかし『甲龍』と足して2で割った感じって……うーん、イマイチ感覚が掴めませんね。

「『ストーム・アイ』はPICを改良して、自分の周囲の空間を捻じ曲げることが出来る。つまり……」

 自身の周辺の空気圧の強制変更……空間干渉。ということは……

「相手の攻撃の回避?」

「流石代表候補生。使いこなすことが出来れば弾丸、レーザー兵器の攻撃を空気圧……まあ簡単に言えば空気の密度を変えることで空気の層を展開してそれらを逸らすことが出来る防御型兵器よ」

 そのままディスプレイに映し出されるのは、論理とCGで作られた『デザート・ストーム』への弾丸が全て逸らされる映像。確かにこれがそのまま流用できれば遠距離攻撃は一切当たることの無い鉄壁の兵装……

「自分の周囲にエネルギーフィールドを展開させるだけだからドイツのAICみたいに集中力はそこまで必要じゃないし、イギリスのBT兵器みたいに自分が止まる必要は無い。より兵器として完成度の高いものとして使用することが出来る……予定よ」

「予定……ですか」

 母さんがディスプレイの映像を変えて、今度は弱点と思われる映像を映し出してくれます。

「そ、零距離では空気密度なんて関係ないからね。突撃とか体当たりとか、後はあまりやる人がいるとは思えないけど零距離射撃にも効果を発揮しない。それと巨大な質量兵器にも効果が極めて薄いわ。まあ空気を捻じ曲げてるだけだから弾丸は出来ても砲弾やレールガンの弾丸は今の段階ではまだ無理ね。あと自身の射撃の際も発動させたままで範囲内から撃つとその効果を受けてしまうから、正確な射撃には一度システムを切る必要があるっていうのも弱点」

 うわあ……一夏さんや箒さん相手だとあんまり意味無いかも……

「それってかなり弱点多いですよね?」

「まあ正直言うと……ね。反面質量の無いエネルギー系列、ビーム系列の射撃武装には無敵に近い防御能力を持っているわ。ま、これからの時代はそっち系が主力になるって見通しのもと開発されたものだから多少の弱点はご愛嬌ってことよ。それに実験段階の物もあるわ。そっちは確実じゃないから言わないでおくけどね」

 確かに、セシリアさんの使っていたイギリスの『ブルー・ティアーズ』はほとんどの兵装がエネルギー兵器だったし、『銀の福音』も全てエネルギー兵器でしたね。まあ福音のほうは零距離で爆発させてたりしましたけど……
 母さんは苦笑いしながらディスプレイを閉じるとこちらに向き直って言う。

「ま、性能は実戦で試した方が早いでしょう。それにまだ発表はしてないし、あと3年はする予定も無い」

「え?」

「だからこそ貴方にこの機体を託すの。3年間」

「え、ええ!?」

 え、っとそれって……IS学園に勝手に持っていけってことですか!? しかも未発表にするって……
 どうして……

「ま、一週間の謹慎は貴方へのケジメもあるけどどっちかって言うとこっちの調整の意味合いの方が大きかったのよね。貴方のもって帰ってきたデータも何とか役に立てることが出来た。これもあの人のお陰かしら」

「あの人って……」

「ゼヴィアよ。あの人ったら……忙しいくせに貴方のことになると見境無いんだから」

「あ……ははは…変わらないなあ」

 徹夜で作業している父さんの姿が容易に思い浮かべられて思わず苦笑いしてしまいます。
 どうせまた寝てないんだろうな。後で会えたらちゃんとお礼言うんだけど、会えないかなあ。言ったら言ったで調子乗って頑張りすぎそうだからちょっと自重した方がいいかも……
 
「それから貴方の受けた福音に対する命令。あれは本国から出されたものではないわ」

「やっぱり……」

「あら、予想はしてたのね」

「まあ、父さ……ゼヴィア局員の言動から見て大体の予想は」

「正体不明、ルーツも不明だけどその当時本国ではまだ協議中だった。そんな段階で命令を出す馬鹿はいないわ。ま、それでも貴方にはその偽の命令書に踊らされたって言う罪が掛かるわけだけど」

 ですよね。無罪になるとは思っていませんでしたし……あれ? でもこの先3年間託すって……あれ?

「一旦問題を起こした以上、貴方にはこの国にいる限りある程度の制限が設けられる。そんな人に新型を渡すなんて誰も考えないでしょう」

 私の考えを読んだ母さんが先に答えを教えてくれた。
 しかも今現在、私の行動のせいで赤道連合全体のIS開発にストップが掛かってる状態というのはクロエから聞いている。未だにあのパッケージ『ディープ・ブルー』の問題で揉めているところに第3世代の正式採用型なんて発表できるわけが無い。そんなことをすればまた余計な波風を立てる。そんなことしている余裕は今の赤道連合にはどこにもない。
 そこで私に預けることで名目上は第3世代を開発中ということに出来る。いくらIS学園の中から情報が漏れようとそれは学園外からでは確認できない。つまりIS学園の中で起こったことを抗議しようものならそれはその国が条約違反ということになる。
 ラウラさんの場合は公式試合+VTシステム自体が条約違反なので問題にはなりましたが、私が洩らさない限り未確定情報で赤道連合を責める訳には行かない。

 私は意を決して顔を母さんに向けた。

「わかりました」

「悪いわね。無理難題ばっかり言って」

 瞬間、母さんの顔が……開発局長から母親の顔になった。子供に迷惑をかけていて、それを後悔する……それでいて助けられない自分を責めているような、そんな顔。
 そんな母さんに向けて私は作り笑いでも目一杯笑って見せた。

「ううん、これが私の出来る唯一の恩返しだもん。ね、母さん」

「くすっ、そうね。カルラが頑張ってるのを見るのは母さんも嬉しいわ。でも……」

「あ……」

 不意に……抱きしめられた。いきなりすぎてよく分からなかったけど、徐々に母さんの体の温度が伝わってくる。

 暖かい……久しぶりだな、この感覚。

「無茶はしてもいいけど……無理はしないで……ううん。本当はどっちもしないで欲しい」

「母さん」

「あの福音の時だって泣きそうだったんだから……親より先に死ぬなんて親不孝なことは許さないわよ」

 そう言うと母さんは私の身体を離すと軽く拳を作って少しだけ強く私の頭に拳骨を落とす。

「う、うん。ごめんなさい」

「うむ、分かればよろしい」

 私の言葉に満足したのか、母さんは何度か頷いた後、再び開発局長の顔に戻った。それを見て私も慌てて姿勢を正す。こういう時の母さんは私が一番知っている。対応も、内心も。だからこそ私はこの、母さんの仕事の顔に付き合い少尉と言う身分に戻る。それがケジメというものですから。

「では、現時刻を持って『デザート・ストーム』は正式にカルラ・カスト少尉の専用機と認定。以降の扱いは貴方に一任します」

「はい! 『デザート・ストーム』、確かに受領します!」

 私はそう言った後に、母さんに促されて展開されている『デザート・ストーム』に触れる。その瞬間に『デザート・ストーム』は光に包まれ、待機状態に……金色に光る指輪になり私の手に収まった。
 それを鎖に通して再び首に掛ける。一週間、何か私の中から抜け落ちていたものがすっぽりと収まるような感覚……どうやらこのISはもう私の一部になっているみたいだ。

「また、よろしくね」

 私が撫でるように指輪に触ると、それに答えるかのように指輪が一瞬だけ光ったような気がした。

 今度は気のせいじゃないと思うな、うん。 
 

 
後書き
新型投入!これぞ国家よ!

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