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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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三話~なぁにこれぇ?~2月24日修正

意識が覚醒した時、目に入るものは黒一色だった。
……一体ここはどこだ? せめて、辺りを照らせる物は無いだろうか。
蝋燭程の光でもあれば助かるんだが。
しかし何故、神はこんな変な場所に俺を送ったんだろうか。もしかして何か失敗でも仕出かしたか?
そう思い俺は目を開ける。明るく照らされた簡素な部屋が目に入る。
黙って下を向く。下半身が毛布で隠れているのと同時に、子供っぽい小さな手が見える。

「……」

なんだ。ただ単にベッドで寝ていただけか。

一度に予想外なことが起き続けたお陰なのか俺は少し動顚しているらしい。
とりあえず、目を瞑って大きく深呼吸する。
これで、少しは冷静になればいいのだが……。

目を開ける。目に入るのはどこかの部屋。だが、さっきの全て白で出来た頭が可笑しくなりそうな部屋とは違い、色は白以外にもあって壁紙は薄い水色、床は木目、となっている。水色は精神を落ち着けるとも言うし、俺としては好きな部屋だな。
しかし、家具は無い。いや、家具は無いというのは正確ではないが、テーブル、椅子、後は今さっきまで俺が眠っていたベッドしか無い。
タンスやは無いし、まだ、この部屋以外は探索していないが、恐らく生活していく上で最低限の家具しか置かれていないのだと思われる。


他に調べることか変なことは……これしか無いよな。
またもや、意図的に無視していたことに目を向ける。
そして、魔法で水鏡を作り出し、全身を映し出す。

アルビノのように白い肌。サラサラで癖も無く、肩まで届く艶のある紫がかった黒髪。くりくりとして、何だか愛嬌がある目で、その奥がキラキラと微かに光る紫色の目。ぷにぷにと餅のような感触で、少し丸みを帯びた頬。
……身長は120センチくらいで、体は細い。軽く押してもポキリと折れそうな程に、だ。
……総合すれば、今は可愛い顔。将来的にはイケメンになる可能性あり。というもの。

「…………はぁ」

またですか。またなんですか。

「なんで、幼い頃の姿に変える必要があるのかね……」

うんざりとしながらベッドから跳ね起きる。しかも、傷は残ったままで、幼い姿という中々にアンバランスなものになっている。
見た目は喧嘩のけの字も知らないような可愛らしい見た目の少年なのに、脱げば歴戦の戦士もかくや、とばかりに傷だらけで鍛えられた体。

無言でかぶりを振る。すると、どこかから機械的な声が聞こえてくる。

『起きましたかマスター』
「誰だ?」
『ここです。っあ、そこじゃないです。こっちですって』
機械的な声の人物は声で、位置を示してくる。
そして、これは何だったか……。この機械音声の誰かから友好的な感じがするから、特に警戒をする必要はないと思うが。

歯と歯の間に食べ物が挟まって取れない時のようなもどかしさが俺に襲い掛かる。

転生前にリリカルなのはを多少見たことはあるが、さすがに35年も経つとほとんど覚えていない。ああ、気持ち悪い。思い出せそうで思い出せないのは本当に嫌だ。

いち早くこのもどかしさを解消するために、この声の居場所を探す。
ようやく、机の上に置いてあるのを椅子を踏み台にして見つけた。
機械的な声の正体は、紫色のビー玉だった。
……ああ! そっか。思い出した。デバイスだ。
疑問が解消すると同時に他の情報も芋蔓的にいくつか思い出した。

デバイス。それは魔導士が魔法を簡単に使うための機械であり、カード型や杖型など他にも多彩な形のデバイスがあるが、普段は目の前にあるこのデバイスのようにビー玉くらいの大きさになっているものが多いという。また、デバイスにはインテリジェントデバイスとストレージデバイスの二種類があり、所持者の動きに合わせて勝手に補助をしてくれるAI搭載付きのデバイスがインテリジェントデバイス。所持者の動きに合わせて補助などはしてくれない代わりに、インテリジェントデバイスに比べて処理が速いことから、魔導士の実力によって左右されるストレージデバイスの二つ。


確か、こんな感じのものだったろうか。
デバイスらしき物をあらためて確認すると細い鎖に紫色のビー玉のような物が通されている。まあ、腕とか指に着けるよりはましだろうか。
そして、このデバイスはほぼ確実に神が用意したものと考えていいだろう。
この部屋の生活感の無さや、この周囲から全く人の気配がしないことから、この部屋は俺のために用意された。そう考えればこの部屋にあるデバイスもあるのは不自然ということになり、自動的にこれも神が用意した物ってことになる。
イルマが神に俺用のデバイスも用意しろと言っていたから間違いない。

「んで、お前が噂のデバイスなのか?」
ほぼ、確信しているが一応確認のために聞いてみる。
『はい。ですが、まだマスター認証をしていないので早くしましょう』
マスター認証? そんなものあっただろうか。
「……そのまま使うことは出来ないのか?」
『……』
「……?」

『わ、私はマスターのデバイスでは……な、ないのでしょうか? いえ! 別に私はいいのです! どうせ私は神に生み出されたマスター専用に作られたデバイス……。ただそれだけのことですから。……うぅ』

……なぁにこれぇ?
何この無駄に感情が籠められたデバイス。
っていうかその女子高生みたいな声でそんな風に涙ぐんだ雰囲気出さないでくれよ。
どうしていいか困ってしまうだろう。

「あーはいはい。泣くなよ。罪悪感が湧くだろ?」
『すみません。……それに泣いてません。私はデバイスなので泣くはずがありません』
「まあそれはいいから、マスター認証をするよ」
『は、はい! それではやりましょう!!』

感情の上下が激しい子なのだろうか。今はとても嬉しそうに明滅を繰り返している。

「さて、と。まずはどうするのかな?」
『はい! まずは私の名前を愛称も含め、決めて下さい』


「名前かあ……。どうしようか」
『あの。……で、出来れば可愛い名前にして下さいね?』

それなら……俺の特徴を表した感じの名前でいいか。

「ルーナティック・スピリット。愛称はルナ。でいいか?」
『……駄目ですよ! イカレタ精霊って、全く可愛くないじゃないですか! 確かに愛称はいいかもしれませんが……、何か他にありませんか? いえ。他の名前でお願いします』
「えー。俺の特徴をきっちりと捉えた名前だと思ったんだけどなあ」
『そ、それなら……ってひっかかりませんよ! マスターはどう見ても人間なんですから精霊なわけがないでしょう! 愛称はそのままで正式名を考え直してください』

純度百パーセントの人間というわけではないのだが、面倒くさいから訂正しなくていいか。

どうしようか。ルーナティックが駄目で、愛称のルナは外せないとなると必然的に名前は“ルナ”。つまり月を意味するような名前を入れなければならないわけだが。

「この家にパソコンって無いかな? ちょっと調べたいんだけど」
『必要最低限の物しか置いていないと神から聞いてますから無いと思います。ある程度は私も同じような事が出来ますから代わりに調べましょうか?』
「便利だね。それじゃ英語でlunaの言い換えかその背景を調べてくれないか?」
『all right.』

何故今英語で言ったのだろうか。

『……検索完了しました。lunaは月の女神の事を意味しており、ルナ、もしくはセレーネと言うそうです』
「よし、なら名前はセレーネで決定」
『セレーネ……はい! 名前認証完了しました! なんか神聖な感じがして格好良いです!』

安直だけど気に入ってくれたようで何よりだ。それにしても可愛い名前を所望していたような気がするけど、それは言っちゃ駄目なんだろうね。

『……』
「……次は?」
『あ、えーと……マスター。これから末永くよろしくお願いします?』
「違うでしょ」

なんだよそのプロポーズを了承した彼女みたいな反応は。

『いたっ。チョップしないで下さいよぉ。うぅ……あ、そういえば私が置いてあった場所の下に神からの手紙がありましたよ』
「ふーん。よっと……これか?」

もう一度椅子に乗って机の上を見ると一枚の手紙がある。しかも触った感じから、少なくとも紙のような見た目をしていて質感は鉄のそれにあたる。何て性質が悪い。

「えーと……何て書いてあるんだ?」

『はあい。こんにちはテオ・ウィステリア、いえ、ここは地球だから門音邦介の方が合っているわね。まあそれはともかく、無事に世界転移は成功したかしら? あなたの親友4人たっての希望で主人公と同じ年齢に変えたけれど体に異常は無い? 左手と心臓に違和感は無いか少し心配だけど、まあ状況の説明を続けるわね。まず、あなたは今5歳で親無しよ。親がいたけれど交通事故で死んでしまって以来この一軒家で一人暮らしをしている、という設定をあなたが他の人に話しても違和感を感じさせないように世界に細工をしておいたから安心してね。後、あなたがいくら合計51歳。いえ、今は56歳だとしても、あなたの所の神に聞いた所、20年間修行しかしてなかったらしいじゃない? そんなことばかりしてると脳筋で戦いしか出来ない駄目人間になるわよ? ……と、いうわけで! あなたを一年後に私立聖祥大学付属小学校に入学することにしてるわ。頑張ってね。とりあえず、後一年あるから色々この世界の事を見てきたらどうかしら? ああ。言い忘れておいたけどお金は教育費、電気代、水道代等々の生活費を除いて、月に十万仕送りをしておくから金銭面に関しては安泰よ。まあ、自分で稼げるようになったら仕送りは止めるから一時的な餓死対策とでも思っておいて。それでは、改めて『『『『『良い転生生活を!!』』』』』って、ああ!? あなた達! 勝手に手紙に思念を送ってこないでよ!』

それなりに長文が書かれてある手紙を丁寧に机に置いて、深く、長い溜め息を吐く。

『あ、あの……何が書かれてあったんですか? 随分と疲れた顔をしてますが……』
「ああ、まあ気にすんな。少し気分転換に町を見てくるよ」
『はい、私も持って行きますか?』
「いや、大丈夫。一応迷った時の為に目印は置いておくから。大体夜9時頃までには帰ってくるさ」

そう言ってテオは玄関のドアを開けて初の外出に行った。

「あいつら、死んでも死んでなくても何も変わってないんじゃね?」という呟きは誰にも聞かれることは無かったそうだ。
 
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