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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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一話~プロローグ~  2月21日修正

 
前書き
初めまして、黒部愁矢(くろべしゅうや)と申します。
基本更新は少なめですが頑張っていこうと思います。 

 
 「長かった………」
俺の手元には小さな鍵があり、今は淡く藍色の光に包まれている。
俺が今いる場所は故郷の森の近く。
周囲一面草しかなく、地平線上に立ちはだかる障害物は一つも見つからない。あるとすれば俺が乗っているモアイ像みたいにでかい岩くらいで、少なくとも自分以外の人なんか見当たらない。

元々、ここには一つの村があった。
人口はお世辞にも多いとは言えず、この世界の盛んな街の発展レベルと比べれば、雲泥の差なのは目にも明らかなほどだった。
それでも、そこに住む人々は心が広く、優しい人々が多く、ここにいると安心した。



そんな、俺の生まれ故郷だった。
だが、今となってはただの野原。何も残っていない。
昔、とは言っても魔王がこの世界を侵略する過程であらゆる場所に魔王の側近が魔物の大群を率いて攻めた。その攻める様を俺も一度、街の防衛のために真正面から見た事があったのだが、

最早、波。

そう表現することしか出来ない程の圧倒的な物量で攻めてきた。
その時の俺はまだ未熟でただ、遠距離から魔法を使うことしか生き残る術は無かった。
多くの冒険者が対抗した波は俺の故郷のこの場所にも攻めてきた。
ここには、人口が少ない故にまともに戦える住民は父さんと母さんだけだった。
そんな場所に冒険者が多くいる街でさえ苦戦を強いられた戦いに父さんと、母さんだけで挑んで勝てる道理は……ない。

まあ、急いで帰った姉さんの話によると、魔物は一匹残らず倒されいくつもの山が形成され、
その中でも一際高い山の上に父さんと母さんが二人一緒に倒れ、力尽きていたらしい。



つまり、住民は全滅したが、魔物の手からは守ったということだ。

我が両親ながら、改めて規格外だと思う。
数百……いや、数千もの大群に二人だけで挑んで勝つのだから色々とおかしい。


まあ、そんな昔のことはおいといて、この鍵に魔力を込め続けて、ようやく満タンになったわけだが、これからどうするんだったか……?

右手に握っている仄かな藍色の光を放つ小さな鍵をぼんやりと見ながら思う。

これを俺に預けるようになったのはイルマが妙に前線に出始めた頃だったろうか。


この鍵を俺に託してくれた転生前からの親友曰く、これに元の世界に帰るための機能は付けといたから後は膨大な魔力だけだぜ! だとか言っていたかな? 俺の記憶が確かだと十年くらい毎日魔力を籠め続ければ完成するとか聞いたんだけど。
つまり、あの頃俺たちは9歳だったから、あいつは十九歳には帰る予定だったのだろうか。毎日生き生きと俺の数倍はある魔力を流し込んでいたから間違いない。俺の魔力量でも、中堅冒険者以上の量はあるのにその数倍を籠めていたのだから、それほど元の世界に帰るのが楽しみだったはずだ。


……だが。


「皮肉なもんだ」
そう言って俺は自嘲する。いつもはここで誰かが笑いながら自分を卑下するなと言ってくる所だ。
元の世界に必ず帰ろうと五人で誓ったのに、今生きているのは俺一人。
全く。あの中で最も脆弱で、醜い俺だけが生き残るってのはどんなふざけた状況だろうか。
二十年前、世界は魔王を倒して平和になったが、俺の世界はあの時全てを奪われた。



初めて、田舎から街へと繰り出した時に助けた、俺より外見上少し年上の少女。
何時の間にか勇者として召換されて精神が不安定だったにも拘らず、何時も俺のことを気にかけてくれて……


そして、俺を庇って死んでいった。



尊大な態度で常に俺たちに少しのイライラを届けてくれた少年。
実際は言動が一致しないだけで本当は心優しい少年で、いつもその治らない態度に悩んでいて……


そして、皆を守るために自身を生贄に、竜王を道連れにした。



前の世界で唯一生き残った親友。
勇者としてふざけた身体能力を付けて召換されていて、ただただ無気力に魔王討伐へと向かっていった。
俺達に会って昔のようにつるんで、一緒に魔王を倒しにいって……


そして、絶対零度で氷付けになりながらも魔王の側近の心臓を素手で握りつぶし、心臓の鼓動を止めた。



共に死んで転生し、子供の頃から一緒に頑張ってきた親友。
魔力さえ籠めれば何でも作れるチートな能力を持っている上に、俺らの中でずば抜けた魔力量を持っていて…


そして、死ぬ間際の魔王の悪あがきに巻き込まれ、呪い殺された。



呪いによって足元から徐々に消滅していきながらもあいつは笑っていた。
「テオだけでも、地球に帰ってくれ」と。

ふざけるな。

お前らはそこで死んでよかったのかよ。

何で俺を庇って死んだんだよ。 そんな守られる価値のある存在じゃねえよ。

何で自分の身を生贄にまでして倒すんだよ。 まだ他に方法があったはずだろ。

何で無理してまで倒しにいくんだよ。 皆で力を合わせれば全員生き残って勝てたかもしれないだろ。

何で皆笑って死んで行くんだよ。 お前ら皆で地球に帰るって約束したじゃねえかよ。






何で俺だけを残して行くんだよ。寂しいだろ。






「…………あん?」
霞む視界の端の違和感に気づき右を見ると、そこには藍色の扉が空中に佇んでいる。
手元の鍵を見るとガタガタと生き物のように中で暴れ回っている。
やがて手の拘束から外れると、扉の鍵穴に吸い込まれるように一直線に飛び込んで行き、カチリと鍵が開けられる音が耳に届いた。

瞬間、勢いよく扉が開け放たれると同時に、その扉を中心に強烈な引力が発生する。
それに俺はただただ、されるがままに吸い込まれてゆき……

「まあいいさ。……お前らの分まで生きてやるよ。………千年だろうが一万年だろうが、な」

ぽつりと呟いた。

あいつらが幸せに輪廻を回ることが出来るように祈って俺は生き続けよう。

せめてあいつらの最後の願いだけは叶えられるように。
 
 

 
後書き
これは、私が「小説家になろう」で書いていて現在更新が止まっている主人公が物語を終えた後の事を書いています。だから、その小説内でも書かれていないことを平気でして、よく分からない状態になるということになってしまうことがないように、出来るだけ分かるように書きます。
ですが、意図的に隠す場合(むしろその方が多い)があるので、疑問に感じたことはコメントしても答えを避けるかもしれません(笑) 
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