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銀河英雄伝説~その海賊は銀河を駆け抜ける

作者:azuraiiru
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第三話 アムリッツア星域の会戦

帝国暦 487年 9月 28日    ローエングラム艦隊旗艦  ブリュンヒルト  ジークフリート・キルヒアイス



「大丈夫でしょうか、ラインハルト様」
「海賊の事か?」
「はい」
ラインハルト様が私の問いかけにちょっと考えるそぶりを見せた。

「ま、大丈夫だろう。奴からの連絡は約束通り私に来ている。それによれば反乱軍は確かに補給の維持に悪戦苦闘しているようだ。扶養家族が多すぎるのだな」
そう言うとラインハルト様は人の悪い笑顔を見せた。アンネローゼ様には絶対見せない笑顔だ。

「問題は輸送船団の位置ですが」
「そうだな、上手くやって欲しいものだ。ま、こちらでも反乱軍の様子は探っている。心配はないだろう」
楽観的なラインハルト様だが私は安心できずにいる。果たして上手く行くのか、あの海賊は信用できるのか……。

ラインハルト様は辺境星域に焦土作戦を行う事で反乱軍の補給を破綻させようとした。それを受けてケスラー中将が辺境星域で食料を徴発しようとしたが辺境星域には十日分の食料以外は見当たらなかった。既に辺境の住民たちによって食料は何処かへ隠されていた……。

辺境星域の住民に食料を隠すように指示を出したのはあの辺りを縄張りとして活動する海賊組織、黒姫一家だった。彼らは反乱軍が大挙攻勢をかけてくること、それに対応するためにラインハルト様が焦土作戦を実施するであろうことを予測していたのだ。

その頭領であるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン、黒姫と異名のある彼がケスラー提督を通してラインハルト様に提案してきた。反乱軍撃退のために協力すると……。協力の内容は反乱軍の補給状況の報告、それと補給破綻の引金となる輸送船団の情報、出航日時、位置、航路ライン……。

“何故協力するのか”
そう問いかけたラインハルト様にヴァレンシュタインは答えた。
“辺境を守りたいだけです。食料を全て奪われては住民は飢えてしまう。あと十日程で反乱軍が来る、住民の持っている食料を奪わないで欲しい”

“どうやって反乱軍の信用を得る?”
“クラインゲルト、バルトバッフェル、ミュンツァー、リューデリッツに食料を持って行きます。そして同じ事を言いますよ、辺境を守りたいだけだと……”
沈黙するラインハルト様に更にヴァレンシュタインは言い募った。

“辺境全体で見れば僅かです、作戦の齟齬にはならないでしょう。そして反乱軍としては半信半疑かもしれませんが無下には出来ない。今後の事を考えれば海賊組織が味方に付いたのは大きい。利用しようと考えるはずです”
“なるほど。……そちらの要求する報酬は”

“戦いが終わり閣下が勝利を得た後、我々の働きを評価してください。それによって報酬を決めましょう”
意外な申し出だった。報酬を事前に決めない、自分達の上げた功によって決めろとは……。ラインハルト様が笑い出した。

“報酬が無いと言う可能性も有るな”
“功が無ければそうなります。報酬が欲しければ誰もが認める功を上げれば良い、そうでは有りませんか”
ラインハルト様の笑いが更に大きくなった。そしてヴァレンシュタインの提案は受け入れられた……。

焦土作戦を実施すれば辺境住民に大きな苦しみを与えるだろう。それを思えばヴァレンシュタインの提案は極めて望ましい。しかし彼を信じて良いのだろうか……、どうにも不安が募る。今のところ順調ではあるが輸送船団の情報が誤っていたら……、いや罠だったら……。

輸送船団を叩くのは私の役目だ。私の艦隊は待ち受けていた反乱軍に叩かれ、反攻を開始した味方は補給を済ませた反乱軍によって叩き潰されるだろう。何処まであの海賊を信じて良いのか……。

「元帥閣下」
抑揚のない声が聞こえた。参謀長、オーベルシュタイン大佐がラインハルト様に近づいて来た。どうにも好きになれない……。容姿の問題ではない、彼の思考が好きになれないのだ。今回の焦土作戦も彼が考えたものだ。もしごく普通に引き摺り込んで叩く作戦だったらヴァレンシュタインが絡んだだろうか……。

「ヴァレンシュタインより通信が入りました。反乱軍はイゼルローン要塞より大規模な輸送船団を前線に送るようです。どうやら反攻する時が来たようですな」
そう言うとオーベルシュタイン大佐は手に持っていた紙を差し出した。ラインハルト様が受け取りそれを読む。白い頬が紅潮した。

「海賊め、約束を守ったようだな。……キルヒアイス、お前に与えた兵力の全てを上げてこれを叩け。細部の運用はお前の裁量に任せる」
「かしこまりました」
ラインハルト様が私にメモを渡した。確かに、輸送船団の情報が書いてある。

「キルヒアイス、情報、組織、物資、いずれも好きなだけ使って良いぞ」
「はっ」
一礼してラインハルト様から離れる。出撃だ、私を待っているのは輸送船団か、それとも敵か……。油断は出来ない……。



帝国暦 487年 10月 8日    キルヒアイス艦隊旗艦  バルバロッサ  ジークフリート・キルヒアイス



まだ見つからないのか、そう思った時だった。
「閣下、もうすぐ索敵部隊が輸送船団を発見するはずです」
「……そうですね」
ベルゲングリューン大佐の声に同意した。

もしかすると大佐も焦っているのかもしれない。それで落ち着こうと声に出したのかも……。確かにもうすぐだ、あの情報が嘘でなければもうすぐ索敵部隊が輸送船団を発見するだろう。

艦隊はここまで特に反乱軍に出会う事もなく進出した。今の所、あの海賊が裏切った形跡はない。裏切っていたなら反乱軍と出会っていてもおかしくないのだ。後は輸送船団を発見し撃破すれば勝利は確定したも同然……。落ち着こう、焦る必要は無い。焦らずに待てば良い……。

「司令官閣下、索敵部隊から連絡が入りました。輸送船団を発見とのことです」
オペレータの声に艦橋の彼方此方から歓声が上がった。ベルゲングリューン大佐も嬉しそうにしている。嘘ではなかった、あの海賊は約束を守ったのだ。そう思うと急に可笑しくなった。一体自分は何をそんなに心配していたのか。

「直ちに攻撃……」
「お待ちください、索敵部隊から攻撃の必要なしと……」
攻撃命令を出そうとした私にオペレータが戸惑った様な声を出した。攻撃の必要なし? どういう事だ? ベルゲングリューン、ビューローの二人も困惑している。“何が有った”、“どういうことだ”と話し合っている。

「別な通信が入っています」
「別な通信?」
私が聞き返すとオペレータが頷いた。
「スクリーンに映します、宜しいですか」
「頼む」

スクリーンに男性が映った。ヴァレンシュタイン? 何故彼が? 困惑していると彼が話しかけてきた。
『久しぶりですね、キルヒアイス提督』
「そうですね、久しぶりです」
『輸送船団ですが、攻撃の必要は有りません。我々が拿捕しました』

拿捕……。なるほど彼らの方が輸送船団には近い、情報さえ聞き出せば輸送船団に近づくのは難しくないだろう。まして反乱軍は彼らを味方だと思っているのだから。ベルゲングリューン大佐が私をチラッと見た。

「御苦労だった。では我々に輸送船団を引き渡してもらおう」
大佐の言葉にヴァレンシュタインは笑みを浮かべた。
『残念ですがそれは出来ません』
「何、それはどういうことだ。約束を破ると言うのか、海賊」

ベルゲングリューン大佐が厳しい声を出した。しかしヴァレンシュタインはクスクス笑い出した。
『約束は守りましたよ、ベルゲングリューン大佐。ちゃんと輸送船団の情報をそちらに教えたはずです。だから貴方達がここに居る、違いますか?』

思わずベルゲングリューン、ビューローの二人と顔を見合わせた。二人とも唖然としている。確かに約束は情報の通報だった、輸送船団の引き渡しではない……。

『輸送船団の情報はきちんと連絡しました。その後は早い者勝ちです。そして残念ですがそちらが来るのが少し遅かった。我々の方が先に着いて輸送船団を拿捕した。そう言う事です』
「し、しかし拿捕した物資の隠匿は許されんぞ」

ビューロー大佐が声を絞り出すように言うと今度は声を出してヴァレンシュタインが笑った。笑うな! お前が笑うと嫌な予感がする。
『軍の規則ではそうでしょうね。しかし先程ベルゲングリューン大佐も言いましたが私達は海賊なのです』
「!」

『軍規など関係ありません。まして我々は協力者であって部下ではない。命令される筋合いも有りません』
「……」
ベルゲングリューン大佐が、ビューロー大佐が苦虫を潰したような表情をしている。多分私も同様だろう。

『それとも私達から拿捕船を強奪しますか? 軍が海賊の功績を奪い取る……。世も末ですね、軍が海賊行為とは』
「……」
ヴァレンシュタインが可笑しそうに笑っている。嫌な奴だ、オーベルシュタイン参謀長よりも嫌な奴だ。その笑い声を聞きたくなかった。

「分かりました。輸送船団はそちらのものです。協力を感謝します」
『御理解頂き有難うございます。御武運を祈りますよ、キルヒアイス提督』
にこやかにヴァレンシュタインが私の武運を祈った。寒気がする……、お前のような悪党になど祈られたくない、早くお前から離れよう……。



帝国暦 487年 10月14日   ローエングラム艦隊旗艦  ブリュンヒルト   ラインハルト・フォン・ローエングラム



各艦隊が反乱軍の残敵を掃討し帰ってきた。ブリュンヒルトの艦橋には艦隊司令官達が集まりつつある。キルヒアイス、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ケンプ、メックリンガー、一人一人手を握りその昇進を約束した。もう少しで皆が揃うだろう。

反乱軍は壊滅的と言って良い程の大敗を喫して敗退した。補給を断たれた後、我が軍の各個撃破により敗退した反乱軍はようやく兵力分散の愚に気付いたのだろう。アムリッツア星域に集結、再反攻の機を窺った。

帝国軍はキルヒアイスを別働隊として反乱軍の後背に回し俺が正面から攻め立てた。他愛もなかった、反乱軍は十分に補給を受けられなかったのだろう。まともに戦ったのは最初だけで後は崩れるように敗退した。キルヒアイスが戦場に到着する前に勝敗は決したのだ。

ヤン・ウェンリーが多少奮戦したがそれだけだ。こちらは殆ど損害もなく反乱軍を撃破した。あれなら最初からイゼルローン要塞に撤退していれば良いものを、反乱軍の総司令官は一体何を考えていたのか……。全く度し難い程に愚かな連中だ。

大勝利だな、当分反乱軍は軍事行動を起こせないだろう。これ程の勝利を得たのだ、宇宙艦隊司令長官は間違いないだろう。残念だな、キルヒアイスがアムリッツアに間に合えば副司令長官に出来るのだが……。あそこまで反乱軍が弱いのなら全軍で正面から攻めるべきだった、失敗だった……。

唯一気に入らないのはあの海賊の事だけだ。小賢しくも輸送船団を強奪するとは……。まあ良い、約束は約束だ。輸送船団は海賊にくれてやる。報酬としてはそれで十分だろう。最後の一人、ビッテンフェルトの手を握る。戦い振りを褒め昇進を約束すると嬉しそうな表情をした。やはり勝利は良い。

オペレータがヴァレンシュタインの来訪を告げたのはその直後だった。皆あの海賊が何をしたかは知っている。不機嫌そうな表情になった。面白い、此処に通してやろう。自分がどれほど俺達を怒らせたか、よーく教えてやろう。当然だが報酬など無しだ、海賊めが、思い知らせてやる。



帝国暦 487年 10月14日   ローエングラム艦隊旗艦  ブリュンヒルト   カルステン・キア



何か居心地良くないな、この艦。俺達が普段乗っている巡航艦と違ってデカいしそれに皆嫌な目付で俺と親っさんを見ている。もしかするとこのまま帰れないとかあるのかな。海賊って評判悪いもんな、黒姫一家は悪さはしてないけど犯罪組織って思っている人もいるし……。心配なんだけど親っさんは全然感じていないみたいだ、大丈夫かな? 大丈夫、だよな……。

「元帥閣下、この度の大勝利、おめでとうございます」
「……」
なんだよ、こいつ。親っさんがおめでとうって言ってるのに碌に返事もしないなんて。海賊社会じゃ挨拶のできない奴は相手にされないぜ。顔が良いだけのロクデナシだな。

「反乱軍は手強かったのでしょうか?」
「他愛もないものであった。何のためにアムリッツアに集結したのか」
益々嫌いになった。傲慢そうに笑いやがって。おまけに親っさんを見下したような目をしてる。

「それは何よりです。我らも協力した甲斐が有ったと言うもの」
「卿が何を協力したのだ、輸送船を強奪しただけではないか」
馬鹿にしたような声が聞こえた、オレンジ色の髪の毛をした奴だ。そして周囲から笑い声が上がった。ローエングラム元帥も笑っている。嫌な奴らだ。

親っさんは少しも表情を変えなかった。周囲の笑い声が収まるといつもの口調で話し始めた。
「ええ、輸送船を強奪しただけです。二度ね」
皆不思議そうな表情をしている。ローエングラム元帥が“二度?”と呟いた。

親っさんがクスクス笑い始めた。あ、俺知らね。どうなっても知らないからね、責任持てない。親っさんを怒らせたよ、あんた達。間違いなく地獄を見る。
「アムリッツアの反乱軍が他愛も無かったのは何故だと思います」
皆ギョッとしてる。ローエングラム元帥が“まさか”なんて言ってる。おまえら気付くの遅いんだよ。

「そう、我々がイゼルローン要塞からアムリッツアに向かって出された輸送船百隻、護衛艦四十隻を拿捕したからですよ」
「馬鹿な」
馬鹿じゃないんだよ、金髪。顔が強張ってるぜ。

「簡単でしたよ、先に拿捕した船団には護衛艦が有りましたからね。それを使って味方の振りをして近付いたんです。他愛もなく拿捕できました」
あーあ、あっちこっちで呻き声が聞こえる。そして親っさんだけが笑ってる。あのね、まだ終わりじゃないからね。まだ続きがあるよ、覚悟しな。耳栓した方が良いと思うよ、ホント。

「難しかったのはその後です。アムリッツアからは補給はまだかと何度も催促が来ましたからね。もう少し待てと言って宥めたんです、皆さんに武勲を立てさせるためにね。それが無ければ連中、逃げていましたよ……。他愛ない敵だったでしょう、私は結構親切な男なんです。そうでしょう、カルステン・キア」
「あ、その、そうです、親っさんは親切な親っさんです」

頼みますよ、親っさん。何で俺に話しを振るんです。それにフルネームで呼ぶなんて。俺は切れてるぞって言ってるようなもんじゃありませんか……。あー、また呻いてるよ。って言うより呻き声が前より大きくなってる。いやそれより金髪、身体が小刻みに震えてるぜ。寒いのかな、寒いんだよな、俺だって寒いもん。副頭領、どうして来てくれなかったんです。俺だけじゃ寒いですよ。

「元帥閣下、黒姫一家の功績、評価していただけませんか。そうでなければ報酬の話が出来ません。今回の戦いにおいて、我々の功は第何位です?」
あ、皆固まった、黙って金髪を見てる。大丈夫かよ、金髪。身体が震えてるし顔面が真っ赤だぜ。素直に親っさんに謝れよ。その方が絶対良いって。

「……武勲、第、一位……」
絞り出す様な声だな。そんなに俺達の功を認めるのが嫌かよ。可愛くねぇな。でもね、親っさんはそんなの関係ないんだよな。ニコニコしながら答えた。怖いよな。後で皆に教えなきゃ。

「有難うございます。では報酬ですが黒姫一家構成員三万人に対して一人頭四万帝国マルクでどうでしょう。合計十二億帝国マルクです。」
彼方此方で呻き声が聞こえたよ。何処からか“十二億!”って悲鳴も聞こえた。何だよ、文句あるのかよ、俺達黒姫一家のモットーはな、“法に触れない範囲で阿漕に稼ぐ”だ。お前らにとっちゃ十二億帝国マルクなんて屁でもねえだろ。大勝ちしたのに文句いうんじゃねぇよ。誰のおかげで勝ったんだ。

「……分かった、十二億だ」
金髪が承諾すると皆が沈黙した。痛いくらい静かだぜ。親っさんが契約書を出して金髪に差し出した。金髪は奪い取る様に契約書を取ると忌々しそうにサインした。そしてフンと言う感じで親っさんに契約書を返す。有難うございます、暴利をむさぼる、暴利をむさぼる……。

「ところで元帥閣下、一つお買い頂きたいものがあるのですが」
親っさんが金髪に話しかけると野郎、露骨に胡散臭そうな顔をした。お前な、親っさんに失礼だろう。話ぐらいちゃんと聞けよ。親っさんを見ろ、おまえらが嫌な顔をしても親っさんは普段通り対応するぜ。人間の格はな、そういうところに出るんだ。

「今回輸送船を拿捕した事で反乱軍の兵士を捕えました……」
「……それを買え、と言うのか」
「はい、今なら勝ち戦の御祝儀価格で一人五万帝国マルクで如何です」
また声が聞こえるよ。“馬鹿な”とか“何を考えている”とか。お前らホント、何にも分かっちゃいねえな。普通どんなに安くたって身代金は十万帝国マルクは下らねえぜ。御祝儀価格ってのは嘘じゃないんだ。

「馬鹿な、相手は人間だぞ、それを買えだと」
金髪が吐き捨てた。顔が歪んでいる。おめえも分かってないな、金髪。親っさんは好意で言ってるんだ。素直に受けろよ。
「申し訳ありません、我々は海賊なんです。帆船時代から海賊に捕まった捕虜は身代金を払うのが習いです」
「……」

「それに売るのは反乱軍の兵士ですよ。帝国人じゃ有りませんから人身売買の法にも触れません」
「……」
そうだぜ、俺達は海賊なんだ。普段はやらないが今回は法に触れない、金になるなら喜んでやるぜ。“法に触れない範囲で阿漕に稼ぐ”だ。あ、親っさんが溜息を吐いてる。交渉失敗か……。残念だよな、相手が馬鹿なんだからしょうがないか……。

「分かりました、残念ですね」
「……どうする気だ、捕虜を殺すのか」
金髪よ、お前帝国元帥だからってふざけんじゃねぇよ。断っていて殺すのかだと? 親っさんだから怒らねえけどな、他の頭領なら殴られてるぞ。お前にゃ関係ないだろう。

「まさか、そんな金にならないことはしません。フェザーンに持って行って反乱軍に売ります。フェザーン商人に十パーセントの仲介料で仲介してもらいますよ。最低でも一人十万帝国マルク、仲介料でフェザーンに一万帝国マルク、ウチが九万帝国マルクですね」
親っさんがまたクスクス笑った。ほら、怒っただろう。もう何でそうやってすぐ怒らせるかな。

「フェザーンだと……」
そんな唖然とするなよ。お前、戦争は出来てもそれ以外は駄目だな。ウチに来いよ、親っさんの下で一年もいればかなり違うぜ。
「ええ、反乱軍と直接交渉するのは拙いですからね。ウチはあくまでフェザーンに売買を頼む形になります」

何だかな、また皆騒いでる。殺さないって言ってるだろ。俺達はな、お前らみたいに敵なら殺すなんて考えねえんだ。敵から儲ける、駄目なら殺すだ。
「レムシャイド伯にはちゃんと話しますよ。元帥閣下に断られたので殺すよりはと思いフェザーンに連れてきたと。レムシャイド伯がどう受け取るか……」

あれ、金髪顔色が悪いぞ。
「一つ間違えるとフェザーン商人が帝国と反乱軍を手玉にとって値を吊り上げるかもしれませんね。まあウチは損さえしなければどうでも構いませんが。楽しみですね」
親っさんが堪えきれないと言った感じで笑い出した。

「買う! 私が彼らを買う。一人五万帝国マルク、御祝儀価格だったな、ヴァレンシュタイン」
おい、大丈夫か。眼が吊り上ってるぞ、金髪。
「はい、五万帝国マルクです」
「私が買う!」

金髪の言葉に親っさんがにこやかに笑みを浮かべた。
「では契約書を」
親っさんが契約書を差し出すと金髪がサインをした。やったね、捕虜は大体六千人、三億帝国マルクの稼ぎだ。

「では私達はこれで失礼します。キア、帰りますよ」
「はい」
「何か御用が有りましたら、お声をかけてください。お会いできるのを楽しみにしております」
「……」

そう言うと親っさんは優雅に一礼して金髪の前を下がった。かっこいいよな、親っさん。それにしてもあいつら、金髪もだけど他の連中も挨拶なしかよ、失礼な。まああいつらと一緒に仕事をする事なんて先ず無いだろうしな、気にするだけ無駄か。それより今日の顛末を皆に教えてやらないと……。何て言ったって今日一日で十五億帝国マルクも稼いだんだから……。



 
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