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リリカルってなんですか?

作者:SSA
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無印編
  第十一話 後


 所変わって、場所は高町家のリビング。そこは、家族の憩いの場であるにも関わらず、奇妙な空気が渦巻いていた。
 僕の正面には、高町さんのお父さんとお母さん、お兄さん、お姉さんが神妙な顔をして座っている。対して、僕の隣にはなのはちゃんとユーノくん。もっとも、ユーノくんはフェレットなので人数には数えられない。
 傍から見れば、子供に説教する家族のようにも見えないこともない。そのぐらい、なぜかぴりぴりした空気だ。

 なぜ、こんなことに? と思う。

 最初は、翠屋へ向かって、なのはちゃんのお母さんに接触を持った。なのはちゃんについて大事な話があります、と切り出して。そうしたら、奥からなのはちゃんのお父さんが出てきて、彼女の家に向かうことになった。さらに、なのはちゃんの家には彼女のお兄さんとお姉さんがいて、これで見事、高町家が全員集合したことになるのだ。

 さて、しかしながら、こうしていつまでも睨めっこしている場合ではない。誰かが切り出さなければ、話が進まない。だから、僕は全員に注目が集まる中、最初の一言を切り出した。

「まずは、お忙しい中、お時間を取っていただきありがとうございました。これから話すことは、きっと信じられないことかもしれません。驚くこともあるかもしれません。それでも、事実なんです」

 そこでいったん区切り、僕は彼らの反応を見た。驚くことに誰一人揺らいでいなかった。普通の家族なら、子供が何を言っているんだ、と胡散臭いと疑うような視線を向けられてもおかしくないのに、彼らは揺らぐことなく僕に続きを促していた。

 そういうことなら、と僕は安心して昨夜からの流れを余すところなく話した。

 ユーノくんのこと。ジュエルシードのこと。ジュエルシードの暴走体のこと。それらに対抗する手段として魔法があること。現段階で、この近くに魔法を使うためのエネルギー源である魔力を持つ人間は、僕となのはちゃんしかいないこと。しかし、僕は魔法を使うためのデバイスであるレイジングハートを使えず、なのはちゃんしか使えないこと。先ほど、話し合い、僕たちは、ジュエルシードを積極的に集める方針を採ったこと。

 本当はこれらを話すと言った際にユーノくんと一悶着あった。しかし、この世界では、僕たちの年齢は子供であり、保護者の親の許可を貰う必要があるとなんとか説き伏せ、了解を貰ったのだ。いくらなんでも僕たちの年齢では、当事者だけでは決められないだろう。

 僕は、それらを一つ一つを丁寧に話していった。彼らは話の間に口を挟まなかったけど、何かを言いたそうにしていた。
 いや、分かる。僕だって、もしも娘と同い年の男の子から魔法だのなんだの告げられれば、それは妄想に近い類にしか思わないだろう。だからこそ、口を挟まずに聞いてくれた彼らには感謝するしかなかった。

「―――僕からは以上です」

 ぺこりと感謝の意も込めて頭を下げる。
 僕が語り終えた後の高町家の反応は微妙なものだった。僕の説明は確かに詳細なものであり、妄想と切って捨てるには具体的過ぎるのだろう。しかも、その内容になのはちゃんも関わっているとなると、さらに判断は難しくなる。
 さて、ここでもう一押しと思い、僕の膝の上に立っていたユーノくんに続きを促した。

「ご紹介に預かりました、ユーノ・スクライアです。お宅の娘さんを巻き込んでしまって申し訳ありません」

 ペコリと頭を下げるユーノくん。だが、高町家の面々は、フェレットが頭を下げるという芸よりももっと度肝を抜かれたようであったようだ。

「……フェレットが喋った」

 呆然とした様子でなのはちゃんのお姉さんが呟くように言う。当たり前だ。この世界では、動物が人語を喋ることはまずない。百聞は一見にしかずというが、これで少しでも魔法を信じてくれればいいのだが。
 そんな僕の思いを汲み取ってか、ユーノくんはさらに説明を続ける。

「ショウが言ったことはすべて事実です。お願いします、なのはさんの力を僕たちに貸してください」

 ぺこりとまた頭を下げるユーノくん。こんな状況でなければ、フェレットという小動物が頭を下げるというのは非常に愛らしい姿ではあるのだが。

 さて、と僕は高町家の面々の様子を探ってみる。
 正面に座ったなのはちゃんのお父さんは腕を組んで考え事をしているようにも思える。おそらく、先ほどまでの状況を整理しているのだろう。周りの家族はまるで家長の判断を待つように沈黙を保っていた。

 やがて、なのはちゃんのお父さんが腕を解き、手を組んで僕を真正面から見てくる。

「君が言いたいことは分かった。魔法があるというのも事実なのだろう」

 おや、思っていた以上にさっさりと認めてくれた。もう少し、説得しなければならないと思っていたのだが。もしかしたら、なのはちゃんに目の前で変身までしてもらわなければならないと思っていたのに。

「正直に言うと、俺は子供が危険なことに首を突っ込むのは反対だ」

「お父さんっ!?」

 なのはちゃんがお父さんの言い方に驚いたような声を上げる。だが、子供に危険なことには首を突っ込んでもらいたくないと思うのは、親としては当然のことだと思う。たとえ、それが他人の子供であっても、だ。ましてや、魔法など得体の知れないものになればなおさら。

「だが、魔法というものはなのはや君でなければならないのだろう?」

「ええ、そう聞いています」

 ユーノくん曰く、近辺に魔力を持った人間というのは僕となのはちゃんだけなのだ。もし、大人の人が魔力を持っているならば、その人に託しただろう。もっとも、その人の人柄にもよるだろうが。

「本当に俺たちにも魔力がないか試してくれないかい?」

 それは、親としての最後の悪あがきなのだろうか。いや、万が一の可能性にかけているのだろう。
 もっとも、先日のユーノくんの呼びかけに答えていない段階で、彼らに魔力がないことは明白なのだが。だが、自分の娘が首を突っ込むともなれば、それでも諦めきれないのが親心なのだろう。

 だから、僕は、ユーノくんにそっと目配せをした。つまり、試してみようということだ。
 彼は、僕の意を汲んだようにコクリと頷くと目を瞑って意識を集中させていた。

 ―――聞こえますか。ユーノ・スクライアです。―――

 僕の頭の中に聞こえるユーノくんの声。相変わらず、鼓膜を震わせることなく声が聞こえるというのは変な感覚がするものだ。

「どうですか? 何か聞こえましたか?」

 高町家の面々が顔を見合わせるが、誰もが首を横に振る。やはり、誰にも聞こえなかったらしい。

「なのはには聞こえたのか?」

 なのはちゃんの顔を覗き込むように彼女のお父さんが、なのはちゃんに尋ね、彼女はそれにコクリと頷いた。
 その反応を見て、ふぅとため息をつくなのはちゃんのお父さん。

「ユーノくんだったかな? そのジュエルシードの暴走体とやらを封印するのは魔法じゃないと無理なのかい?」

「はい、あれは魔法の産物です。最終的に、封印するには魔法が必要となります」

「でも、封印する前の段階だったら物理攻撃は効くはずだよね」

 え? という表情をする高町家の面々とユーノくん。
 公園での質問で僕は既に確認していた。すなわち、ジュエルシードの暴走体について物理攻撃が効くかどうか。あの時は、ここまでのことは考えていなかった。僕たちの手に負えなくなったら警察でも何にでも駆け込んで銃等でなんとかできないか、と考えていた程度だったのだから。
 まさか、こんなところで役に立つとは。

「う、うん。最終的に封印はできないかもしれないけど、効くか効かないかって言われると……」

「つまり、物理攻撃である程度弱らせて、最後に魔法で封印なんてこともできるんだよね?」

 か、可能か不可能かで言えば、可能かもしれない、とユーノくんは自信なさげに呟くように言う。

 もしかしたら、ユーノくんも確信を持てていないのかもしれない。ジュエルシードの暴走体という存在に対峙するのは初めてだろうし。もっとも、僕の考えで言えば、昨夜の暴走体はコンクリートに穴を開けたり、物質に干渉できていた。つまり、実体が存在するということである。
 つまり、幽霊のような存在ではないため、物理攻撃も効くものと考えられる。

「だったら、俺たちも手伝えるかもしれない」

 え? という声を上げるユーノくんとなのはちゃん。僕は、とらいあんぐるハート3の知識から大体そうじゃないかと疑っていたからあまり驚きはなかった。
 そんな彼女たちを余所になのはちゃんのお父さんは言葉を続ける。

「自分で言うのもなんだが、俺たちは中々に強いと思う」

 コクリと頷くなのはちゃんのお兄さんとお姉さん。
 とらいあんぐるハート3の世界と酷似しているならもしかしたら、と思っていたが、そのもしかしたらが良い方向に当たってくれていたようだった。
 彼らから発せられるどこか剣呑した雰囲気。素人である僕が感じられるほどに触れれば切れるという感じの雰囲気だった。

「しかし、危険ですっ!」

 だが、そんな雰囲気の中でもユーノくんは反対していた。
 ユーノくんは彼らの強さを知らないからだろう。もっとも、僕も彼らが強いということは分かるが、果たしてジュエルシードの暴走体に対抗できるほど強いかどうかは分からない。
 なにせ相手はコンクリートに穴を開け、アスファルトを砕くほどの力を持っているのだ。果たして生身の人間がそれに対抗できるのか? 僕には分からない。

「それは、なのはも変わらない。魔法が使えれば無敵というわけではないだろう? 魔法というのは対抗できる力かもしれないが、危険がゼロというわけではない」

 違うかい? という視線を向けられて、ユーノくんは項垂れるしかなかった。
 確かに、昨夜のことを見ていると魔法を使えても危険なこともあるのかもしれない。昨日は幸いなことに知能があまり高くなかったからプロテクションという魔法一つで何とかなった感があったが、ユーノくんの話では生命体に取り付くこともあるらしい。
 その際に知識というのはどうなるのだろうか。少なくとも昨夜の暴走体よりも賢くなることは間違いないだろう。ならば、この先、なのはちゃんの危険性も増す可能性は高い。
 つまり、なのはちゃんのお父さんが言っていることはただしいのだ。

「でもっ!」

 それでも、魔法を使えない人には……という思いがユーノくんにはあるのかもしれない。
 生憎、僕には魔力があっても魔法が使えないから、ユーノくんが思っていることは分からない。魔法というものがどこまでの可能性を持っていているのか想像できないからだ。
 それに対して、なのはちゃんのお兄さんやお姉さんに関しては、強いということは分かるからユーノくんのみたいに彼らを強く否定できない。

「ユーノくん、とりあえず、一度―――」

 着いてきてもらうよ、と続けようとしたところで、突然、脳裏に電流のようなものが走った感覚がした。
 それは、なのはちゃんも同様のようで頭を押さえていたが、同時にある方向を見つめていた。

「これは……ジュエルシードっ!?」

 ユーノくんが叫ぶ。
 しかし、なんという出来すぎたタイミングなのだろう。

 高町家の面々には一度、着いてきてもらったらどうだろう? という提案をしようと思った矢先の出来事だった。都合がいいといえば、都合がいいのかもしれないが。あまりに出来すぎたタイミングは僕に不安を呼び込む。
 だが、そんなことは考えていられない。なぜなら、これがジュエルシードの暴走した証だというのならば、今まさに昨夜のような思念体が街のどこかにいるということなのだから。
 はっきりいって、話し合っている場合ではない。あんなものが、日中に街中で暴れでもしたら、どれだけの被害が出るか分からない。
 だから、僕は先ほど提案しようと思っていたことをその場でぶちまけた。

「ジュエルシードが暴走したようです。正直、時間がありません。だから、とりあえず見に行きませんか?」

 こうして、僕たちは準備をした恭也さんと美由希さん―――名前で呼ぶように言われた―――と共に反応がある場所へ急いだ。



  ◇  ◇  ◇



「すごい……」

 僕の感嘆の呟きがその場のすべてを示していた。

 ジュエルシードの反応を追ってやってきた場所は、海鳴市にある神社の一つだった。
 恭也さんたちに背負われて―――その方が明らかに早い―――やってきた神社の鳥居をくぐると、その先に広がる開けた場所、その奥に神社。その開けた場所には、倒れた女性と四つ目の異形な形をした大きな犬のような怪物が存在していた。
 ユーノくん曰く、あれが、生命体に取り付いたジュエルシードらしい。生命体を取り込んでいるだけに思念体よりも手ごわくなっているらしい。確かに、見た目からしてかなり恐怖感は感じられる。
 ちなみに、僕たちが到着した直後にユーノくんが昨夜と同じ結界を張り、女の人はこの空間からいなくなった。

 この空間にいるのは高町家の面々と僕とユーノくんだけだ。

「いくよ、レイジングハート」

 一歩前に出るなのはちゃん。情けないことだが、僕には何もできない。魔力があろうとその扱い方をまだ知らない僕は足手まといにしかならない。だから、僕はなのはちゃんに頑張って、と後ろから声をかけることしかできなかったのだが、その一歩前に出たなのはちゃんを制する手が恭也さんから出た。

「なのは、下がっていろ。少しの間、ここは俺たちに任せてくれ」

 それはつまり、彼らの強さが、あいつに通用するか確かめるということなのだろう。

「そんなっ……」

 なぜか驚いているなのはちゃんだが、彼らはこのために来たのだ。だから、僕も後ろから肩に手を置いて、なのはちゃんを下がらせて、一言、頑張ってください、と告げた。

 それからは怒涛の展開だ。

 恭也さんと美由希さんが持っていた小太刀を二本構えたと思ったら、暴走体に突撃、近接戦闘を繰り広げ始めた。
 生憎ながら、素人である僕では、一体なにが起きているか分からない。せいぜい、小太刀を振るいながら、暴走体の爪や牙などの攻撃を避けていることぐらいしか分からない。

 そして、冒頭の感嘆の声に繋がる。

「確かにすごい……でも、このままじゃダメだ」

 僕の呟きを聞いていたのか、僕の肩に乗ったままのユーノくんが深刻そうな声で言う。

「え? ダメなの?」

 僕の目には、恭也さんや美由希さんが押しているようにしか見えない。
 現に、暴走体は、円を描くようにある一定の範囲から動いていない。それは、恭也さんや美由希さんが上手いこと死角をとって小太刀を振るい、暴走体はそれを追いかけるからだ。
 時折、消えたとしか思えないほど高速で動いているような気がする。うっすらと覚えている内容だと、彼らの剣術の中には、高速移動に近い技があったはずだから、おそらくそれだろう。
 どちらにしても、ダメージが一方的に蓄積されているのは暴走体で、恭也さんたちは傷一つ負っていない。まさに恭也さんと美由希さんのワンサイドゲームと言っても過言ではないような展開なのだが、ユーノくんからみると拙いらしい。

「うん、あの暴走体、確かに恭也さんたちの攻撃で、傷を受けてるけど……すぐに回復している」

 確かによくよく見てみると暴走体は刀で斬られているにも関わらず、血が流れておらず、傷口というものが存在していないように見える。つまり、斬った直後に回復しているということだろうか。

 暴走体は傷を負わないが、逆に恭也さんたちに傷を与えることはできない。恭也さんたちは、傷を受けないが、傷を与えられない。なるほど、暴走体を手玉にとってはいるが、倒す術がない以上、千日手に近い。

「やっぱり魔力ダメージがないとジュエルシードは封印できない」

 そんなユーノくんの呟きが聞こえたのか、恭也さんが一気に勝負に出た。鞘から抜いていた二本の小太刀を鞘に一度戻し、直後、白銀の光が煌いたかと思うと、小太刀を納めた恭也さんを仕留めるチャンスとでも思って襲い掛かってきていた暴走体を一気に五メートルほど吹っ飛ばした。
 もう、何がなんだか分からなかった。とりあえず、気づいたら暴走体が吹っ飛んでいた。

 よほどの威力だったのだろう。今まで傷が瞬時に回復していた暴走体が血を流しながら地面に伏している。

 これは……チャンスか?

 そう思っていたのだが、それも一瞬だった。伏していた暴走体が、すぐさま起き上がり、瞬時に血を流していた傷を回復。グルルルルと唸った直後、前足に力を入れているのが伺えた。
 まさか、飛び込んでくるため? と恭也さんたちも思ったのだろう。小太刀を構える。だが、それはある意味的外れな対抗だった。暴走体が考えていたのは、飛び掛るなんてことではなかった。

 バサッ、と何かが広がるような音が響く。

 暴走体の背中から蝙蝠のような翼が生えて、翼を広げたときの音だった。

「どういうこと!?」

「恭也さんたちに適わないとみて進化したんだ。取り付いた生命体の願いが強くなりたい、なら、恭也さんという強敵が現れたから、それに対抗したんだ」

 なんてことだろう。恭也さんたちが魔法を使えずとも戦えることが裏目に出てしまった。

「なのはちゃんっ!!」

 このままだと、恭也さんたちが上空から襲われると思い、なのはちゃんの参戦を願ったのだが、僕が声をかけずともなのはちゃんはそのつもりだったらしい。既に昨夜、見た聖祥大付属小の制服によく似た衣服に身を包み、左手に赤い宝石がついた杖を持っていた。

 なのはちゃんが暴走体を見据えて、手をかざす。それだけで、せっかく翼を生やした暴走体は、その進化の成果を見せることはできなくなってしまった。

 ――――GRAAAAAAAAAAAAAAA

 地面から生えてきた桃色の帯に締め付けられてしまった暴走体は、その桃色の帯から抜け出そうと雄たけびを上げながら、身を揺するが、よほど強く縛られているのだろう。その場から動くこともできない。翼もその場でばたばたと動くだけで、その四肢を地面から離す事もできないようだった。

 すぅ、となのはちゃんがスナイパーのように杖を構える。

「レイジングハート」

 静かに赤い宝石の名前を告げ、レイジングハートは静かに呼びかけに応えるようにAll rightと返す。

 変化は直後に訪れた。杖の先端が分解され、変形し、杖の先端部より少し下から桃色の翼が三つでてくる。赤い宝石の先端に桃色の球体が現れ、キューンと魔力をチャージしているような感覚に襲われる。

「これは……まさか砲撃魔法!? 僕も使えないのに」

 呆然としたようなユーノくんの声が僕の耳に響く。

 どうやらなのはちゃんが行おうとしている魔法は、砲撃魔法という類の魔法らしい。確かにレイジングハートは銃のような形になっているような気もする。
 ユーノくんすら使えない魔法を使えるなのはちゃんに驚きだ。つまり、それは魔法機器であるレイジングハートを完全になのはちゃんが使いこなし、魔法というものを使いこなしていることを意味している。しかも、教師もなしに。昨夜と今日の短時間で、ユーノくんが驚くほどに魔法というものを理解しているなのはちゃんは、やはりこの分野では天才なのだろう。

 僕とユーノくんが驚嘆でなのはちゃんの魔法を見ていたが、やがてなのはちゃんが集中するように瞑っていた目を開いた。

「貫いてっ!!」

 その叫びの直後、桃色の一条の光が暴走体を貫く。その光に包まれた暴走体の額に浮かんだのはギリシア数字で十六。

「リリカルマジカル……ジュエルシード封印っ!!」

 なのはちゃんの呪文と共に桃色の光は太くなり、一気に魔力の塊を吐き出した。

 ――――GRUUUUUUUUUU

 犬のような暴走体は、断末魔の叫び声を上げながら、桃色の光に分解され、直後に残ったのは、小さな犬と元凶である蒼い宝石―――ジュエルシードだけだった。
 分解されたジュエルシードはまるで吸い込まれるようにレイジングハートに流れていき、赤い宝石の中に身を沈めた。

「えへへ、やったよ、ショウくんっ!」

 嬉しそうに笑いながらぐっ、とガッツポーズをするなのはちゃん。

「うん、さすがだね。やっぱり、なのはちゃんはすごいな」

 僕はそんな彼女に素直に賞賛の声をかけるしかなかった。
 胸のうちに魔力を持っていながら、何もできなかった自分を情けないという思いを少しだけ抱きながら。



  ◇  ◇  ◇



 その後は、解放された犬と気を失っていた飼い主さんを介抱し、飼い主さんが気づいた後に解散になった。
 恭也さんと美由希さんは、魔法というものを目の当たりにして、その威力に驚いていた。しかし、どこか浮かない顔をしていたような気がするのは気のせいだろうか。

 結局、恭也さんたちにはジュエルシード捜索に加わってもらうことにした。
 確かに魔法という側面から見れば、恭也さんたちの協力は必要ないかもしれない。だが、それでも今日のことからも分かるように足止めや牽制にはなるのだ。その間に後ろでなのはちゃんが魔法を準備する。
 ゲームで言えば、恭也さんたちは壁となる戦士で、後方で大きな魔法を準備する魔法使いがなのはちゃんだ。

 さらに彼らがある程度、大人であることも僕たちにとっては有り難い事実だ。日が暮れた後に小学生だけで歩くのは危険だ。補導などのことも考えれば、小学生が夜に出歩くことは好ましくない。ただし、恭也さんか美由希さんがいれば、それは多少なりとも緩和される。
 美由希さんは高校生だが、そもそも僕たちは小学生だ。日が暮れるまで探すにしても八時が限界だろう。ならば、高校生の美由希さんが保護者でも大丈夫だろう。もちろん、恭也さんのほうが大学生という身分から考えれば、歓迎なのだが。

 さて、帰宅した僕には、本日最後の戦いが待っていた。

 つまり、なのはちゃんの家と同じく、僕の両親の説得だ。

 僕は現状、何もできない。だが、この事件のきっかけを作ったのは僕だ。ならば、力がある人が現れたから後はお任せします、というのはあまりに無責任すぎる。だから、せめてジュエルシードを探すことぐらいは、手伝おうと思う。暴走体との戦闘になれば、なのはちゃんたちに頼るしかないのだが。

 結果からいうと、両親の説得という戦いには何とか勝利した。僕の粘り勝ちだ。
 条件として、危険なときはすぐに逃げる。必ず携帯で定時連絡する。高町家に挨拶に行く。という三つが付け加えられたが。
 最初は酷く反対されたのだから、ここまでに条件を緩和できたのだから大したものだと自負している。

 ちなみに、魔法に関しては割りとあっさり信じてくれた。原因は、僕だ。小学生で高校生レベルの問題も少し習えば解けるなんて鳶が鷹を生むってレベルじゃないほどの異常さを見せる僕がいるから、魔法なんてもものもあっさり信じてくれた。
 なるほど、と納得してしまう自分が憎い。

 そして、夜、僕はベットに横になりながら、机の上のバスケットの中で寝ているユーノくんに語りかけた。

「ユーノくん、僕に魔法を教えてくれない?」

「え? いいけど、デバイスがないから大変だよ」

「それでも、何か一つに絞れば短い期間でも何とかならないかな?」

「まあ、それならなんとかなるかも……」

 そう、僕は魔法を覚えたかった。
 僕は関係者だ。でも、僕だけが何もできない。恭也さんと美由希さんは身体を張って戦う。なのはちゃんは主力だ。ユーノくんは、結界を張っている。僕だけがなにもしてない。ただの傍観者だ。僕が記録者ならいいかもしれない。でも、僕も当事者だ。ただ、見ているだけというのがとても口惜しかった。

 レイジングハートが使えなかった僕が魔法を覚えるのは大変かもしれない。何もしなくても、ジュエルシードは順調に集まるのかもしれない。それでも、僕の中では何もしないという選択肢はなかった。
 簡単な魔法でもいい。それでも、何かに役立つ魔法を一つでも良いから覚えたかった。もしかしたら、覚えられないかもしれないけど、それでも足掻きもしないというのは間違っているような気がした。

「それじゃ、明日の朝から頼んだよ、ユーノくん」

「うん、デバイスがないからきっちりいくよ」

「望むところだよ」

 僕たちは寝床に入りながら、お互いに笑いあった。


 
 

 
後書き
 恭也の強さが分からなくてアニメ(OVA)を見たが……いや、強すぎる。
 特殊部隊を相手にしても一人でなぎ倒すって……まあ、ある程度強い設定でいきます。

 現時点での魔法のレベルは、ドラゴンボールで言うと
 なのは:孫悟天
 翔太:ビーデル
 ぐらいの差があります。ちょっと例えが古いかも……

 以下、とらいあんぐるハートを知らない人へちょっとした補足

 高町恭也:とらいあんぐるハート3の主人公。黒っぽい服装を好み、趣味も盆栽と若者とはいえない趣味を持つ。
      性格的には冷めた一面を持っているが、なんでも受け入れる広い心を持っている。
      本編の魔法に関しても、割と普通に受け入れている。理由はもう一つあるが、別の機会に。
      高町士郎の実子ではあるが、桃子との間に生まれた子供ではなく、内縁の妻との間に生まれた子供である。
      ゲーム内では、士郎が死んだため、家族のために強くなろうと無理な鍛錬をして膝を壊す。
      本編では士郎が生きているため、膝を壊すことなく御神の剣士をやっている。

 高町美由希:とらいあんぐるハートのヒロイン。見た目の上では文学少女風。
       美由希も桃子と士郎の実子ではなく養子であり、彼らが使う剣術、御神流の本家の生き残りである。
       他の家族はテロの影響で全員死んでいる。(母親は生きているが、今は行方不明)
       恭也を師匠として御神流を継承しようとしている。御神流正当後継者である。
       ゲーム本編との差異はほとんどない。

 御神流:正式名称、永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術

 以下、御神流の技(本編登場分のみ)

 神速:簡単に言うと火事場の馬鹿力を自分の意思で起こす技。身体的、神経系的に能力が上昇する。
    この状態になると周囲がモノクロに見え、高速で動くことができる。
    本編の「人が消えたように……」の部分はこの技の発動中である。

 小太刀二刀御神流 奥技之六 薙旋
 二つの小太刀を使った連撃である。抜刀術の一つで、高速に敵を切りつける。恭也の得意技の一つ。
 本編で暴走体を吹っ飛ばした奥義の一つである。 
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