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とある英雄の逆行世界

作者:大城晃
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幼年期編
第4章
  学園都市の日常

 学園都市に来ても基本的に二人の生活に変化はなかった。放課後は外での生活と同じように二人で会い、土日はどちらかの部屋に泊まる。

 ひとつ違いがあるとすれば美琴が当麻の学校の勉強を見てあげていることだろうか。当麻は今年小学3年生、お世辞にも成績優秀とは言えない当麻を見かねて美琴が勉強を見てやることになったのである。

 まだ小学生であることも相まって当麻も飲み込みが早く小学校3年生レベルの問題は最初の2カ月で終わってしまったため、今ではより上のレベルの問題を当麻は解けるようになっていた。

 少なくとも美琴の見立てでは小学校を卒業するまでには中学卒業レベルの問題くらいまでは終わるだろうなと思っている。

 こんなふうに言うと毎日勉強漬けのように感じるかもしれないが、そんなことはない。

 勉強は1日2時間、これが当麻と美琴の間での約束事である。

 当麻としては美琴と過ごすのに勉強だけではもったいないということらしい。美琴としては当麻と一緒に居られればなんでもいいので当麻が宿題なんかをさぼろうとしない限りは何も言わないようにしている。


 ちなみにいま二人が暮らしているのは美鈴の旧友が寮母をやっている寮だ。1人1部屋タイプの寮で当麻と美琴はお隣さん同士である。

 男女分けなくていいのかというツッコミに関しては美鈴の『わたしの娘とその許嫁』という魔法の呪文で封殺されているので問題ない。

 ちなみにこの寮では寮食も出るが、生徒の部屋には小学生くらいの子が作業しやすいように高さを調節したキッチンがそれぞれの部屋に備え付けられており料理は自由にできるようになっている。


 美琴は基本毎日、食事(お昼は弁当、もちろん手作りである)を自分で作り当麻と一緒に食べている。

 寮食を食べるよりも安く済み、なおかつ寮食よりもうまいということで当麻からは大絶賛である。こうして当麻は美琴に胃袋までもゲットされたのだった。

 ちなみに買い物に慣れるのは少しだけ苦労した。超能力者(LEVEL5)として前の世界で過ごした美琴は金銭感覚が若干(語弊あり)ずれていたため庶民並の金銭感覚に戻すまで結構時間がかかったのである。

 また当麻と美琴はそれぞれ親からの仕送りもあるのだが、できるだけそれには手をつけないと(美琴が)決めたので学園都市からの奨学金だけでやりくりしている。

 それに伴いスーパーでできるだけ安い物を買うように習慣づいていっている。

 さすがに特売の争いの中に飛び込むには体格的に無理があるため普通に回るだけではあるのだが。
 
 余談だが当麻と美琴が一緒に買い物をする風景をみた人々から学園都市最年少夫婦の称号をいただいている。理由は上記の通りである。もっともこの称号について本人達は知らないのだが。




 いま学園都市における美琴は『異能力者(レベル2)』である。

 AIM拡散力場の完全制御を行える美琴ならどんなレベルでも(1~5まで6はもちろん不可能である)再現可能だが現状を鑑みるとこれぐらいの能力のほうが応用が利いていいから、という理由でこの能力レベルにとどめている。

 もっとも使わざるを得なくなった時には前の世界で行使できた力をしのぐレベルの超能力者(レベル5)として能力を使うことをいとわない覚悟ではいる。


「まぁ、普通に生活する分には必要なさそうだけど」


 美琴はそう小さく呟きながら、授業を聞き流す。

 いまは午前10時ごろ。

 小学生となった美琴は学校で小学1年生の授業を受けていた。美琴からすると限りなく暇である、なので思考に割く時間が増えるのはいたし方ないことなのだろう。


「それに、この体なら今の年齢でも不良が束になってきても怖くはないしね」


 手を開いたり閉じたりしながら、そう言うと美琴は今の自分に起きている変化についてまとめ始めた。


(一つめ、能力を使うことなく高校生5~6人程度なら勝てるぐらいの身体能力。

 二つめ、最大電圧、電流の上昇。測ってないから正確にはわからないけど前の100倍以上にまで上限が跳ね上がってて、それに伴って私自身がもってる最大電力の量も跳ね上がってる。

 三つめ、良く分からないけれど“魔術”や“吸血鬼”、“教会”についての知識をかなり深くまで知ってる。まぁこれは役に立つか微妙なところね)


 美琴に起きている変化は基本的にプラスの働く物ばかりだ。美琴が一番困ったのは身体能力の向上を普通の人間並みに見えるように抑えることだ、周りから注目されるようなことは少ない方がいい。

 ちなみに当麻には身体能力のこと、美琴が本当はLEVEL5相当の力を持つことは話してはある。

 身体能力は学園都市に行く前に当麻に見せたし、能力のほうも学園都市に入る前に一度だけ見せる機会があったので見せている。

 美琴が当麻に隠し事をしたくなかったのだ。もっとも当麻は理解できているのか怪しいところだが。


(ま、これと今の状況がわたしの死後と引き換えにして得たものか…)


 美琴は今の状況に満足している。だけどこうも思うのだ、自分にこんな価値があるのか、と。


(考えてもしょうがないか。…自分に今できることをしっかりとやる、それだけよね)


「じゃ御坂さん、49ページから読んでください」


「はい」


 教師の声に反応して、美琴は思考を中断する。どうやら自分が当てられたようなので、めんどくさいなと思いながらも当てられた部分を読むのだった。

 もしかすると美琴が一番困っているのは授業時間が最高に退屈だ。この一言に尽きるかもしれない。




「おーい、みこと」


「あ、おかえり当麻」


 放課後、当麻と美琴の待ち合わせ場所はもっぱら学校の図書室だ。もちろんと言うべきか他の人間はいたためしがない。


「いや、お帰りはおかしくねーか?」


「いいのいいの、気分なんだから」

 
「そんなもんか…まぁ、みことの顔見ると帰ってきたって感じはするけどさ」


「じゃ、いいじゃない」


 そんなやり取りをした後、二人は図書室を出て学校を後にする。



 二人はまずは学校からそんなに離れていない寮に向かった。とりあえず荷物を置くためである。

 寮はほとんどアパートの様な造りでもちろんキッチンもある、アパートと違うところがあるとすれば基本的に家具がすべて小学生に合わせて高さが低く設計されていることだろう。
 
 ちなみに土日なんかはどちらかの部屋で一緒に寝るのが出会ったころからの通例だ。

 平日は当麻が寝る前まではずっと美琴の部屋にいるので実質いっしょに暮らしているのとかわらないのだが、二人にその自覚はない。


「みこと、買い物いくぞ~」


「はいはい、アンタは少し落ち着きなさい。お店は逃げないから」


「でも遅くなると、みことといる時間がへるだろ?」


「…アンタってホント無自覚な旗男よね」


「いや、なんでおれはため息をつかれたんでせうか??」


 美琴は部屋に入ってきた当麻のそんなセリフにため息を吐く。

 美琴から言わせると『世界が違ってもアイツはアイツだ』というところだろうか?

 具体的に言うと当麻は学園都市に来て数カ月しか経っていないこの時点でフラグ(未遂含む)を(美琴が知る限りで)10近く立てたのだ。美琴としてはため息もつきたくなるだろう。ともあれ今は夕飯の買い物である。美琴は頭に疑問符を浮かべる鈍感少年になんでもないと返すと財布を持った。


「当麻、いこっ!」


「おう!」





「ね、アンタは今日は何が食べたい?」


「ん、からあげがいいかな」


「からあげかぁ、とりあえず千切りキャベツを添えて…あとはほうれん草の胡麻和えにお味噌汁にご飯ってとこかな?」


 当麻のリクエストを聞き美琴は献立を考えると、買わないといけないものを頭の中でリストアップしていく。

 余談だが美琴の質問に当麻がなんでもいいなど答えようものなら美琴のお仕置きが行われる。

 美琴は当麻が言うのは(美琴の料理は)何でもおいしいという意味だというのはわかってるのだが、作る当人とすると何でもいいは一番困るのでこうしているのだ。


「さて、さっさと済ませちゃいましょうか」


「りょーかいです。みことセンセー」


「だからそれはやめなさいって」


 美琴は当麻の自分への呼称に苦笑しながらそう返した。

 当麻は美琴のことをたまにみことセンセーと呼ぶ。

 これは当麻に勉強を教えるときの美琴があまりにもらしかったので当麻が茶化して呼び出したのだ。もっとも美琴に効果はなかったが。

 だが何故かそれ以降この呼び方が定着してたまに当麻の口から出るのだ。


(ま、わたしとしては普通に『美琴』って呼んでくれると嬉しんだけど)


 美琴にとって当麻に…世界で一番大切な人に呼ばれる名前は特別だ。どうせならいつでも呼んでほしいと思っている。


(そりゃ、何もないのに名前を呼び合ってたら違和感バリバリだろうけど…。

 美琴センセーって呼んでくれるのもアイツなりなにわたしを信頼してくれてるってのもわかるけどさ…。

 それでも普通に名前を呼んでほしいって思うんだからわがままよね、わたしも)


「だって、みことの説明はさ、学校の先生のなんかよりよっぽどわかりやすいんだぜ?」


「そりゃね、当麻のだけのための特別授業だもん。学校の先生がするみんなに教えるための授業とは違うわよ」


「いやそれを差し引いても分かりやすいって、いつもありがとな、みこと」


「ど、どういたしまして」


 当麻の素直な礼に美琴の頬に朱がさす。

 やっぱり当麻の素直な言葉にはいつまで経っても慣れない、そう思う美琴だった。

 …もっとも目の前でニヤニヤしている当麻は少しムカつくが。


「と、とにかく買い物よ!行くわよ当麻!!」


「はいはい、お姫様」


 そんなやり取りを時ながら二人は買い物を続けるのであった。





 買い物から帰ってくると、美琴の部屋の冷蔵庫に食材を入れ、当麻と美琴はお互いに今日あったことを報告しあう。

 そして1時間ほど勉強し、美琴は夕食の準備、最近は当麻も料理を手伝うようになった(夕食時のみだが)。

 夕食後は他愛もない話をし、お風呂に入り、10時頃に就寝(当麻は部屋に帰る)。



 たまに(あっても月に2回とかのレベルである)友達と遊んだりもするので毎日ではないがこれが二人の日常である。

 これに変化が訪れるのは次の年の春の話となるのだが二人はそんなこと知る由もないのだった。
 
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